福田昭のセミコン業界最前線
金属配線の寿命は、電流密度で決まるとは限らない
(2016/4/25 12:33)
半導体チップが市場に出てから、つまり、PCやサーバー、スマートフォンなどの電子機器に半導体チップが搭載されてから起こる不良に、「エレクトロマイグレーション不良」がある。エレクトロマイグレーションとは、金属配線に電流を流している間に金属原子(厳密には金属イオン)が少しずつ移動する現象を指す。金属原子が移動する量が大きくなると、短絡(ショート)や断線(オープン)、絶縁不良、抵抗増大といった不具合が生じることがある。これがエレクトロマイグレーション不良である。
半導体チップの金属配線は普通、単層ではなく、多層の配線構造をしている。上下の配線層を電気的に繋ぐビア(金属の柱)と上下の配線層を絶縁する層間絶縁膜もエレクトロマイグレーションの影響を受ける。ビアと配線層の間にスリットが入って異常な抵抗増加が発生したり、金属配線の一部が膨れて層間絶縁膜に飛び込むことで絶縁不良が発生したりする。
実際に製品化されている半導体チップ、すなわちプロセッサやSoC(System on a Chip)などでは、エレクトロマイグレーションによって配線層あるいはビアに空隙(「ボイド」と呼ぶ)が発生し、抵抗増大や断線などを引き起こす不良モードが問題になることが多い。従ってボイドの発生メカニズムを解明することや、多層配線構造のどの部分でボイドが発生しやすくなるかを推定することが、半導体の信頼性・品質保証担当の技術者に求められる。
エレクトロマイグレーションについて良く知られているのは、電流密度との関連である。電流密度が高いと、エレクトロマイグレーション(金属原子の移動)は活発になる。そこで多層配線の設計では電流密度の上限を定めることで、例えば10年といった製品寿命を確保する。
電流密度の高い箇所とその寿命を推定
多層配線の実際の構造では、電流が流れる部分の面積(断面積)は一定ではない。また電流が流れる経路は折れ曲がっている。このため、電流が一定でも電流密度は局所的に大きく変化する。電流が集中する箇所はエレクトロマイグレーション不良発生の恐れが少なくない、とも言える。
このため多層配線の信頼性解析では、電流密度の極めて高い箇所に注目し、エレクトロマイグレーション不良の発生候補としてマーキングし、寿命(不良が発生するまでの期間)を推定することが多かった。不良の発生候補箇所の中で、最も寿命が短い箇所が、配線の寿命を決めることになるからだ。
電流密度の高さだけでは正確な予測にならない
しかし半導体ファウンドリ大手のTSMCによると、電流密度の最大値から不良の発生箇所と寿命を推定する手法は、正確さに欠けることがあるという。精度の高い予測には、配線に加わる機械的な応力(ストレス)を考慮する必要があると主張する。配線モデルを使った計算と実験によってその主張を確認した結果を、半導体デバイスの信頼性技術に関する世界最大の国際会議「国際信頼性物理シンポジウム(IRPS: International Reliability Physics Symposium)」で4月20日に発表した(講演番号5B.2)。
配線のモデルには、直線状の配線を均等に3分割し、分割点と配線の両端にビアを設けた構造を仮定した。3つのセグメントに分かれた配線と、4つのビアが存在することになる。電流密度と電流の方向を変化させることで、電流密度の最大地点とストレス(機械的な応力)の最大地点を変える。
電流による張力がボイドを発生させる
配線に加わるストレス(機械的な応力)の原因は内部的なものである。外部からのストレスではない。電流によって金属原子が移動し、配線に張力(引っ張り応力)が加わる。張力と高い電流密度がボイド発生のきっかけとなるとともにボイドを成長させる。TSMCはストレスの発生要因とボイドとの関係をこのように説明していた。
ここで重要なのは、電流密度が局所的に最大になる地点(電流密度の極大点)よりも、張力が最大になる地点(張力の極大点)にボイドが発生する傾向があることだ。電流密度の極大点と張力の極大点は同じになることもあるし、違うこともある。違う時は、電流密度の解析だけではボイドの発生候補となる箇所を見つけられない。
張力の極大地点と電流密度の極大地点で寿命を推定
TSMCは講演で、電流密度と電流方向を変えた6通りの電流モデルについて、張力と電流密度、配線寿命を解析した結果を示した。
その中で3通りのモデルは、電流密度の極大点とストレスの極大点が一致した。ただしいずれも、ストレスを元に推定した寿命が、電流密度を元に推定した寿命よりも短くなった。すなわち、電流密度だけを元に推定した寿命は、実際よりも寿命を長く見積もってしまう可能性がある。
残りの3通りのモデルは、やや複雑である。1つは、ストレスの極大点と電流密度の極大点が異なるものの、推定寿命はほぼ同じだった。つまり、2箇所でボイドが発生する可能性が同程度の確率で存在することになる。
もう1つのモデルではストレスの極大点と電流密度の極大点が異なり、推定寿命はストレスの極大点よりも電流密度の極大点が遙かに短かった。電流密度の極大点から推定した寿命を配線寿命と考えても、問題がない事例だと考えられる。
最後のモデルは、ストレスの極大点と電流密度の極大点が異なり、ストレスの極大点から推定した寿命が電流密度から推定した寿命よりも短くなった。ストレスの極大点で先にボイドが発生して不良に至る可能性が高い。電流密度の解析だけだと、不良の発生箇所と寿命を見誤ることになる。
配線モデルを試作して不良の発生を確認
TSMCは実際に配線モデルを試作し、各電流モデルで抵抗値の変化を測定することでストレスの解析が妥当であることを確認した。配線は2層構造で、上層配線が配線モデルを模擬してエレクトロマイグレーション不良をわざと発生させる領域である。このため、上層配線は配線幅が32nmと狭く、下層配線は配線幅が100nm以上と広い。各セグメントの配線長は10μmずつと均等である。上層配線のセグメントにおける電流密度は1MA/平方cm~6MA/平方cmの範囲に設定した。金属配線の材料は銅(Cu)、層間絶縁膜は低誘電率(low-k)材料である。
多層金属配線のエレクトロマイグレーション不良では、温度によっても寿命が違う。例えば温度が5度上昇すると、エレクトロマイグレーション不良に起因する寿命は、約70%に短くなる(※同じIRPS 2016のIBMによる発表から引用)。エレクトロマイグレーションによる抵抗値の増大はジュール熱の発生量を増やし、温度上昇を招く恐れが高い。こうなると悪循環的に寿命を短くしてしまう。今回のTSMCによる講演では温度上昇を考慮していない。将来は温度上昇についても考慮する必要が出てくる可能性は少なくない。