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IRPSレポート

半導体の発展を支えたIRPSの44年
~多数の不良要因発見の歴史

会期:3月26日~30日(現地時間)

会場:米San Jose McEnery Convention Center



 半導体デバイスの信頼性技術に関する世界最大の国際会議「国際信頼性物理シンポジウム(IRPS:International Reliability Physics Symposium)」の技術講演が始まった。

 今回のIRPSでは、過去最高である250件の講演論文が投稿され、この中から94件の論文が採択された。採択論文に7件の招待講演を加えた合計101件の技術講演が3日間に予定されている。技術講演の初日である3月28日(現地時間)の発表から、ハイライトをお届けする。

 【編集部注】IRPSは学会のため発表時の画像使用に許諾が必要となっております。許諾がおり次第画像を追加いたしますのでご了承ください。

●半導体の信頼性向上にIRPSが大きく貢献

 IRPSは今回が第44回であり、44年の歴史を有する。初日の午前には、「Jewel recovery from past IRPS」と題したちょっと変わった招待講演があった。IRPSでこの44年間に発表された数多くの論文の中から、優れた価値ある論文を選んで披露するというものである。2,430件もの論文を対象に、34件の論文を選び出した。

 34件の論文を眺めると、半導体の信頼性向上にIRPSが大きな役割を果たしてきたことが分かる。IRPSにおいて新しい不良モードが報告されたり、不良を引き起こす新たな要因が発表されたり、不良モードによる寿命を推定するモデルが提案/修正されたり、新しい不良解析手法が開発されたりしてきた。34件の中でも特に興味深かった論文をいくつか紹介しよう。

 例えば'62年の第1回IRPS(注:当時の名称はPhysics of Failure)では、不良解析の基本原理となる論文が発表された。半導体デバイスにストレスを与えたときの挙動を測定することによって、不良発生のメカニズムを探るという手法である。40年以上を経過した現在でも、不良解析にはこの考え方が使われている。

 半導体の製造工程において、作業員が重大な汚染源となることが詳しく報告されたのもIRPSである。'85年のことだ。人体からは皮膚の一部、髪の毛、汗、唾液、粘液が飛び散る。例えば唾液は塩分(塩化カリウム)を含んでおり、腐食の原因となる。半導体製造ラインで作業員がマスクと帽子、防塵衣を着用することは現在では常識となっている。しかし'80年代前半までは、常識ではなかったのである。

 半導体パッケージの組み立て工程では、パッケージのリード端子と半導体チップ(ダイ)のパッドを金属ワイヤー(ボンディングワイヤー)で結ぶ。ここにも不良の発生要因が潜んでいた。金のボンディングワイヤーとアルミニウムのパッドがさまざまな金属間化合物を形成して接続強度を低下させる。この現象は、'70年のIRPSで報告された。

 表面実装型の半導体パッケージは、プリント基板へのはんだ付け工程で摂氏230~240度の高温に曝される。半導体パッケージの樹脂が水分を含んでいると、高温によって水分が水蒸気となって急速に膨張し、半導体パッケージを割ることがある。'95年のIRPSでは、半導体パッケージの樹脂が水分を含むと、引っ張りに対する強度が低下して割れやすくなることが示された。

 化学的に安定な金属とされている金(Au)が不良の原因となることもある。30年ほど前の'75年のIRPSですでに、湿気があると金配線から樹枝状の結晶が成長し、隣接する金配線との間で短絡不良を起こすことが報告されている。

 アルファ線が半導体デバイスのソフトエラーを引き起こすことが初めて報告されたのは、'78年のIRPSである。ソフトエラーとは一過性の不良のことで、通常の不良が発生するとその状態が継続されるのと区別するために名付けられた。ソフトエラーは不良の再現が難しいので、非常に厄介な不良である。

 '91年のIRPSでは、集束イオンビーム(FIB:focused ion beam)が不良解析の強力なツールとなることが示された。FIBを使うと、半導体チップ(ダイ)に孔を開けたり、配線を切断したり、短い配線を形成したりできる。現在では、不良個所を突き止めるには欠かせないツールとなっている。

 少し寂しかったのは、選ばれた34件の論文中、日本人による論文が1件しかなかったことである。日本の半導体ベンダーでは、新しい不良モードを見つけても隠しておく傾向が強い。隠しておく理由の1つは、自社製品の品質が低いとのイメージを顧客に与えかねないと危惧するからである。このことは理解できなくはない。しかし、新しい不良モードについて詳しく調べた結果をきちんと公表し、他社の信頼性技術者と議論する方が、不良メカニズムの理解が進んで対策の質が上がり、半導体デバイスの品質は向上するように思える。

●銅配線のエレクトロマイグレーション不良を調査

 初日の午後は、銅配線のエレクトロマイグレーション不良を調べた報告が相次いだ。Texas Instruments(講演番号2C.1)、TSMC(講演番号2C.2)、IBM(講演番号2C.3)がそれぞれ発表した。

 エレクトロマイグレーションとは、配線中を流れる電子によって配線の金属イオンが時間経過とともに移動し、短絡や抵抗増大、開放などの不良を起こす現象である。エレクトロマイグレーションは電流密度が高く、温度が高いと進行が速まる。大電流を扱う半導体や高温環境下で使用する半導体では、特に注意が必要な不良モードである。

 エレクトロマイグレーションは当然ながら、半導体デバイスの製造当初には起きない。したがって半導体製造工程でのテストでは取り除けない。半導体デバイスが電子機器に組み込まれてから発生する可能性のある不良だ。半導体ベンダーは、エレクトロマイグレーションによる寿命をあらかじめ推定し、最低でも10年間といった、実用上問題のない長さの寿命を確保しておく必要がある。

 銅配線は、CPUやFPGAなどの高性能論理LSIで金属多層配線として普及している。それまで普及していたアルミニウム配線よりも抵抗が低く、しかもエレクトロマイグレーションが発生しにくいことが普及の理由である。しかし半導体製造技術の微細化が進むとともに、銅配線でもエレクトロマイグレーションが大きな問題となってきた。

エレクトロマイグレーション不良を起こした銅配線の断面写真。ボイド(void)と呼ばれる空隙が発生している。Texas Instrumentsの講演(講演番号2C.1)から

 微細化は、配線の断面積が小さくなることを意味する。すなわち電流密度が増大し、エレクトロマイグレーションが起きやすくなる。またエレクトロマイグレーションによって配線中に空孔(ボイド)が発生したとき、同じ大きさのボイドでも配線寸法が小さいと不良となる可能性が高まる。

 銅配線で特に問題となっているのは、多層配線の層間を接続するビア付近のボイドである。ビア自体や、ビアのすぐ側の配線部でボイドが発生する。また下層の配線から上層の配線に電子が移動するときと、上層の配線から下層の配線に電子が移動するときでは、ボイドが発生する様子が異なる。

 Texas Instrumentsは、ビアの製造プロセスとエレクトロマイグレーションの関連を調べた。例えばビアの側壁を覆うバリヤーメタルに薄い部分があると、この部分からボイドが発生して成長する。

 TSMCは、エレクトロマイグレーション不良の初期は、下層の配線から上層の配線に電子が移動するモードが支配的であり、不良の末期には上層の配線から下層の配線に電子が移動するモードが支配的になると報告した。

 IBMは、エレクトロマイグレーションによる寿命を推定するモデルに、新たなパラメータを導入することで推定精度を向上させた。これまではメディアン寿命(t50)と寿命のばらつき(σ)がパラメータとして使われてきた。この2つに、不良を起こす最小のボイドが形成されるまでの時間(X0)を、パラメータとして加えた。銅配線ではσが大きくなる傾向にあり、初期不良が発生するまでの時間がX0によって大きく変化する。このため、X0の導入が有効だという。

□国際信頼性物理シンポジウム(IRPS)のホームページ(英文)
http://www.irps.org/
□関連記事
【3月27日】IRPS:国際信頼性シンポジウム前日レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2006/0327/irps01.htm

(2006年3月29日)

[Reported by 福田昭]

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