福田昭のセミコン業界最前線
金属配線不良の兆候を早期に検出する手法をimecなどが開発
(2016/5/2 13:03)
半導体デバイスの信頼性技術に関する世界最大の国際会議「国際信頼性物理シンポジウム(IRPS: International Reliability Physics Symposium)」(IRPS 2016)が4月19日~4月21日に米国カリフォルニア州パサデナで開催された。
20日の午後には、金属配線のエレクトロマイグレーション不良に関するセッションが設けられていた。ここでベルギーのimecとKU Leuvenの共同研究グループが、エレクトロマイグレーションの兆候を早期に非破壊で検出する手法を開発したと発表した(講演番号5B.3)。
エレクトロマイグレーション不良とは、金属配線に電流を流すことで配線中の金属イオンが移動し、配線の抵抗増大や断線などに至る不良である。発見は半導体産業の歴史で見るとかなり早く、1969年にはエレクトロマイグレーションによる金属配線の寿命を計算する方程式「ブラックの方程式(Black’s equation)」が米国Motorola(その後はFreescale Semiconductorを経て現在はNXP Semiconductor)のJ. R. Black氏によって提唱されている。
ブラックの方程式は経験則である。実際のエレクトロマイグレーション不良の特性を良く説明できたことから、現在に至るまでエレクトロマイグレーションの試験方法として利用されてきた。
従来のエレクトロマイグレーション不良試験の弱点
ただし、imecとKU LeuvenはIRPS 2016の講演で、ブラックの方程式を利用した試験方法はいくつかの弱点を抱えていると述べた。最も大きな弱点は2つある。1つは破壊試験であること、もう1つは試験時間が膨大になることだ。
エレクトロマイグレーションによる不良の兆候は、テスト用金属配線の抵抗が増大することで把握する。この抵抗増大は急激で、断線へと一気に進行することが少なくない。言い換えると不良の兆候を発見した段階で、テスト用金属配線は実使用に耐えるものではなくなる。
金属配線の設計では、エレクトロマイグレーションに対する寿命を10年以上に設定する。このような頑丈な配線だと、実用的な期間内に試験を完了させることは容易ではない。先述のように試験は破壊試験であるので、単純に室温で実用上想定した電流密度を配線に与えたのでは、試験時間は10年以上になってしまう。これはあり得ない。そこで通常は加速試験を適用している。電流密度を実使用状態よりもはるかに高くするとともに、温度を上げて破壊(不良発生)に至るまでの時間を短縮する。それでも配線材料によっては、1,000時間といった工業的に許容できる時間内に試験を完了させることは容易でないことがある。
雑音の周波数特性がエレクトロマイグレーションで変化
そこでimecとKU Leuvenの共同研究チームは、試験時間を短くすること、非破壊で試験を実施すること、エレクトロマイグレーションの初期に検出可能であること、といった条件を満たす手法を探索した。そして電流の雑音を測定することが極めて有効であることを見出した。
具体的には、エレクトロマイグレーションをわざと発生させるための高い電流密度をテスト用配線に流す。一定時間が経過した後で、ずっと低い電流密度(エレクトロマイグレーションを起こさない程度に低い電流密度)の電流を流し、配線で発生する雑音の周波数特性を測定する。
imecとKU Leuvenの共同研究チームが特に注目したのは、100Hz以下と低い周波領域で代表的な雑音「f分の1雑音」である。「f分の1雑音」とはその名称の通り、周波数(f)の逆数に比例して大きくなる雑音のことだ。厳密には「fのm乗(mは1前後の値)」分の1に比例しており、必ずしもfの逆数そのものではないのだが、これらの特性を備えた雑音を総称して「f分の1雑音」と定義することが多い。
幅30nmの配線サンプルでわざと不良を起こす
imecとKU Leuvenの共同研究チームは実際にテスト用の配線サンプルを試作し、大電流を流してエレクトロマイグレーションを進行させながら、雑音を測定した。配線材料は基本的には銅(Cu)を使用した。バリアメタルなしの配線やバリアメタルの材料を変えた配線、キャップを付加した配線などをサンプルとした。なお、タングステン(W)配線のサンプルも試作した。
実験では、時間ドメインにおける電流の揺らぎ(変動)を計測した。この電流揺らぎを周波数ドメインに変換し、電力スペクトル密度(PSD:Power Spectral Density)を計算で求めた。また時間ドメインにおける配線の抵抗値も測定した。
時間経過とともに電流の揺らぎが増加
講演では、時間経過とともに抵抗値が変化していく様子をグラフで示した。配線構造は銅(Cu)配線にバリアメタルとしてタンタル窒素タンタル(TaNTa)を採用したもの。バリアメタルの厚みは3nmである。
エレクトロマイグレーションをわざと起こすための電流密度と温度の条件は、電流密度が84MA/平方cm、温度が200℃である。雑音測定に使用した電流の密度は3MA/平方cmとかなり低い。
実験中に抵抗値は常に測定していた。実験を開始してからしばらくは一定の抵抗値を保っていたが、120秒後に抵抗値が急激に上昇し、不良が発生した。
時間ドメインのタイミングを区切り、4秒間の期間で電流がどの程度の量で揺らいでいるかを測定したグラフも示した。タイミングは、実験を開始してから「4秒後」、「66秒後」、「90秒後」、「110秒後」である。「4秒後」では電流はまったく揺らいでおらず、一定である。
しかし、「66秒後」になるとわずかな揺らぎが発生する。そして「90秒後」になると電流がゆっくりと明確に変動していることが見て取れるようになる。不良が発生する直前の「110秒後」に至っては、電流の揺らぎはさらに大きくなり、最大で「90秒後」の2倍前後に達した。
エレクトロマイグレーションの進行を早期に把握
各タイミングの電流揺らぎから求めた雑音(電力スペクトル密度)の周波数特性を求めると、周波数100Hz以下では「f分の1雑音」と同様な傾向をいずれのタイミングでも示した。しかも雑音のエネルギー密度と傾きは、エレクトロマイグレーションが進行するにつれて高くなっていた。ここで重要なのは、抵抗測定ではまったく変化が見られないタイミング「66秒後」でも、初期値に比べると電流には明確な揺らぎが生じていることだ。
そして「fのm乗分の1」の傾きに相当するパラメータ「m」を見ていくと、実験開始直後は「m」がほぼ「1」であるにに対し、「66秒後」はmが1.95と2倍にも増えていた。そしてエレクトロマイグレーションがある程度は進行して不良発生に近づいたと見られる「90秒後」と「110秒後」では、mの値は2.22(110秒後)と2.83(90秒後)で上昇がむしろ止まっていることが分かる。
これらの実験結果から、エレクトロマイグレーションの試験に「f分の1雑音」の測定を付加すると、エレクトロマイグレーションが進行しつつも不良に至る前の状態を検出することに大きく役立つことが実証された。エレクトロマイグレーションの試験に要する時間を大幅に短縮できる(すなわち試験コストを削減できる)、重要な成果だと言えよう。