福田昭のセミコン業界最前線

半導体不足を追い風に、2年連続で過去最大を更新する半導体市場

2021年の世界半導体市場実績(速報値)。市場調査会社IC InsightsとGartner、半導体ベンダーの業界団体WSTS(世界半導体市場統計)の発表データをまとめたもの

昨年(2021年)は25%の高度成長で過去最大を3年振りに更新

 半導体市場の行方は本当に読みづらい。昨年(2021年)の世界半導体市場(金額ベース)は、年初の予測をはるかに超える、25%という極めて高い成長率を達成した。市場規模(金額、速報値)は過去最高だった2018年の実績を大幅に更新し、およそ60兆円~70兆円(5,500億ドル~6,000億ドル)に拡大した。

 本稿では半導体業界を代表する2つの市場調査会社と業界団体の調査結果を参考に、2021年の半導体市場を振り返るとともに今年(2022年)の半導体市場を予測する。

 参考にするデータは市場調査会社IC Insights、市場調査会社Gartner、業界団体WSTS(世界半導体市場統計)の公表数値である。市場調査会社IC Insightsは2022年1月6日(米国時間)に、昨年(2021年)の世界半導体市場が25%成長して6,140億ドルになったとの速報データを公表した。同社のデータによると世界の半導体市場が過去に最大だったのは2018年の5,041億ドル。2021年は2018年を22%上回り、過去最高を更新した。

 市場調査会社Gartnerは、2022年1月14日に半導体ベンダーの売上高ランキングとともに、世界半導体市場の実績(速報)を発表した。2021年の成長率は25.1%、市場規模は5,835億ドルである。成長率は直近の最高だった2017年の21.9%を超え、市場規模は過去最大だった2018年の4,746億ドルを更新した。

 そして業界団体のWSTSとSIA(米国半導体工業会)は2022年2月14日に、2021年の世界半導体市場(速報値)が26.2%成長して5,559億ドルに拡大したと共同で発表した。成長率は直近の最高だった21.6%を超え、市場規模は過去最大だった2018年の4,688億ドルを大きく上回った。

世界半導体市場の金額と成長率の推移(2002年~2021年)。WSTS(世界半導体市場統計)の公表データをまとめたもの。横軸の「2021年(予測)」はWSTSが2021年11月30日(日本時間)に発表した値。その右にある「2021年(実績速報値)」はWSTSが2022年2月14日(米国時間)に発表した値
世界半導体市場の金額推移(2002年~2021年)。市場調査会社Gartnerが発表してきたデータをまとめたもの。2021年は速報値
世界半導体市場の成長率推移(2003年~2021年)。市場調査会社Gartnerが発表してきたデータをまとめたもの。2021年は速報値

地域別では米州、製品別ではアナログが成長率のトップ

 2021年の半導体市場をもう少し詳しく見ていこう。半導体市場は大別すると、「集積回路(IC)」市場と「集積回路以外の半導体(O-S-D:Optoelectronics-Sensor/actuator-Discrete)」市場に分かれる。市場調査会社IC Insightsの公表データによると、集積回路(IC)市場は前年比26.1%増の5,098億ドル、O-S-D市場は同18%増の1,042億ドルである。

 世界の半導体市場(需要額あるいは販売額)は地域別にも分類される。例えば「米州」、「欧州」、「日本」、「中国」、「アジア太平洋ほか」の5つに分ける。業界団体WSTSの公表データによると、2021年にこれらの地域で最も伸び率が高かったのは「米州」で、成長率は27.4%に達した。次いで「欧州」の成長率が27.3%と高い。さらに「中国」が成長率27.1%で続く。「アジア太平洋ほか」の成長率も25.9%とかなり高い。「日本」の成長率は19.8%とやや低かった。地域別の金額ベースでは中国市場が最も大きく、1,925億ドルで世界全体の34.6%を占めた。

2021年の世界半導体市場の概況。2022年2月14日にWSTSとSIAが共同で発表したニュースリリースから

 集積回路を製品分野別に見ていこう。業界団体WSTSは製品を「アナログ(アナログとミックスドシグナル)」、「ロジック(ASICとASSP、FPGA)」、「マイクロ(マイクロプロセッサとマイクロコントローラ)」、「メモリ(DRAMとNANDフラッシュメモリなど)」の4つの分野に分けている。2021年に最も成長率が高かったのはアナログ分野で、成長率は33.1%に達した。金額は740億ドルである。次いでメモリ分野の成長率が30.9%と高い。金額は1,538億ドルで半導体全体の27.7%を占める。ロジック分野の成長率も30.8%と高い。金額は1,548億ドルで全体の27.8%を占める。マイクロ分野の成長率は15.1%とかなり低い。金額は802億ドルである。

 また市場調査会社のGartnerは2022年1月14日に発表した売上高ランキングのリリースで、2021年のDRAM市場は前年比40.4%増と大幅に拡大し、925億ドルに達したと述べている。

上方修正を繰り返した2021年の市場予測

 WSTSとSIAは毎月上旬に、世界半導体市場の月別販売額(過去3カ月の移動平均)と前年同月比、前月比の数値を公表している。この公表数値によると、直近で月別の販売額がピークとなったのは2018年10月である。その後は販売額が減少し、2019年4月に底を打つ。その後は横ばいが続き、2020年8月以降は回復基調が鮮明となる。2021年5月には、直近のピークである2018年10月を超える。その後は2021年10月まで、販売額を急激に伸ばしていく。

半導体市場(世界全体)の月別販売額(青色の折れ線グラフ、過去3カ月の移動平均)と前年同月比(赤色の折れ線)の推移。WSTSとSIA(米国半導体工業会)が2022年2月14日に発表したニュースリリースから

 2021年に月ベースの販売額が想定外の伸びを示したことで、市場調査会社と業界団体の市場予測は上方修正を繰り返した。2020年の後半から年末の段階では、2021年の世界半導体市場は前年比5%~10%増と一桁台後半の成長が見込まれていた。それが2021年の春には、成長率が10%台後半に上方修正される。

2021年の半導体市場予測(成長率)の推移。市場調査会社と業界団体による予測値の推移。上方修正を繰り返したことが分かる

 2021年の初夏には、成長率の予測値は20%前後に上昇する。そして同年の秋になると、成長率の予測値は26%前後とさらに上方修正された。

2022年の世界半導体市場は10%成長で3年連続の2桁成長へ

今年の半導体市場は昨年ほどではないものの、反動減(マイナス成長)はなく、確実に成長すると予測する。10%前後の成長が見込まれる。3年連続の二桁成長となる可能性が少なくない。そして過去最大を2年連続で更新する。

2022年の世界半導体市場(金額ベース)予測。WSTS、Gartner、IC Insightsが公表した成長率と金額をまとめたもの

 業界団体WSTSの予測(2021年11月30日発表)は8.8%成長、市場調査会社Gartnerの予測(2021年12月23日発表)は9.4%成長、市場調査会社IC Insightsの予測(2022年1月6日発表)は11%成長である。新しい時点の予測値ほど、高い成長率を見込んでいる。ユーザーを悩ませている半導体不足の状況は、早くても2022年半ばまでは緩和されない(Gartnerの予測に付随したコメントによる)。

 WSTSは2021年11月30日に地域別と製品分野別の予測値を、IC Insightsは2022年2月1日に「集積回路以外の半導体(O-S-D:Optoelectronics-Sensor/actuator-Discrete)」市場の予測値をそれぞれ公表している。その概要を見ていこう。

2022年の日本市場は14年振りに5兆円を突破

 WSTSの地域別(米州、欧州、日本、アジア太平洋ほか(中国を含む))予測によると、2022年は米州が10.3%成長、欧州が7.1%成長、日本が9.3%成長、アジア太平洋ほかが8.4%成長となる。各地域が約20%を超えた昨年に比べると成長率は下がるものの、前年比で5%~10%増とかなりの成長を見込んだ。

地域別の成長率推移(2002年~2022年)。2021年は見込み(一部推定)、2022年は予測。WSTSが2021年11月30日および過去に公表した値からまとめたもの。2000年代は「アジア太平洋」地域の伸びが高かった。2010年代は米国地域の成長率が高い。

 WSTSは日本市場だけはドル建て以外に、円建ての数値も公表してきた。同じ2021年11月30日に公表した予測によると、2022年の日本半導体市場(予測値)は前年比10.3%増の5兆2,395億円である。日本の半導体市場(需要)が5兆円を超えるのは2008年(5兆242億円)以来で、14年振りとなる。

日本の半導体市場規模推移(2000年~2022年)。2021年は見込み(一部推定)、2022年は予測。WSTSが2021年11月30日および過去に公表した値からまとめたもの

製品別では特定用途向けロジックとセンサーに高い成長を期待

 同じくWSTSが2021年11月30日に公表した製品別予測によると、「集積回路(IC)」が9%成長となる。内訳はアナログICが8.8%成長、マイクロが6.2%成長、ロジックが11.1%成長、メモリが8.5%成長である。成長率はロジックとアナログ、メモリがやや高く、マイクロがやや低い。

集積回路(IC)の製品分野別成長率推移(2002年~2022年)。2021年は見込み(一部推定)、2022年は予測。WSTSが2021年11月30日および過去に公表した値からまとめたもの

 「集積回路以外の半導体(O-S-D:Optoelectronics-Sensor/actuator-Discrete)」もWSTSは実績と予測を公表してきた。2022年の成長率予測は光半導体(Optoelectronics)が6.4%、センサー(Sensor)が11.3%、ディスクリートが7.2%である。

 市場調査会社のIC Insightsも、O-S-D半導体の市場予測を2022年2月1日に公表している。2022年の成長率は光半導体が13.1%、センサー/アクチュエータが15.3%、ディスクリートが5.3%と予測する。WSTSとIC Insightsともに、センサー関連の半導体需要が大きく伸びると見ている。なお、イメージセンサーは光半導体に含まれるので、注意されたい。

「集積回路以外の半導体(O-S-D:Optoelectronics-Sensor-Discrete)」の製品分野別市場規模と成長率の推移(2019年~2022年)。2022年は予測。IC Insightsが2022年2月1日(米国時間)に発表したニュースリリースから

 2021年の半導体市場を牽引してきたのは第5世代(5G)携帯電話システムと5G対応スマートフォン、ノートPC、データセンター、通信ネットワーク(無線と有線の両方)、機械学習、自動車(従来自動車の電子化と電気自動車)などである。COVID-19の流行は続いたものの、先進国の政府は経済活動の制約を解除し始めた。このため産業用途の半導体も需要が急回復しつつある。

 2022年は5GスマートフォンやノートPCなどの伸びが一段落しそうだ。経済活動を回復させる動きは続く。国際的な人的交流、特に観光目的の渡航制限を解除する動きが活発化するだろう。

 気がかりなのはロシアとウクライナの紛争激化である。半導体産業にとってまず懸念されるのは、ネオン(Ne)ガスの供給不足だろう。エキシマレーザー(ArF(フッ化アルゴン)レーザーとKrF(フッ化クリプトン)レーザー)のバッファガスとしてNeガスが使われる。Neガスの調達先として過去には、ウクライナとロシアにほぼ依存していた。

 Neガスの供給リスクは、2014年のクリミア危機に顕在化した。Neガスが入手困難となり、価格が急騰した。2014年の供給危機を受けてレーザー光源のメーカーは、Neガスの消費量を削減する技術とNeガスを再利用する技術の開発を進めた。2016年には米国の産業用ガスメーカーであるLindeがテキサス州のガス生産プラントでNeガスの増産投資を決めたと発表した。今回の紛争激化がNeガスの供給にどの程度の影響を与えるのかは、まだ不透明だ。