Hothotレビュー
圧倒的“全画面”感で実用度も十二分!ASUSの折り曲げられるPC「Zenbook 17 Fold OLED」
2022年12月1日 11:00
折り曲げディスプレイを搭載するASUSのノートPC「Zenbook 17 Fold OLED」が12月1日に発売された。2022年初頭に発表され、9月開催のIT・家電の国際展示会「IFA 2022」では実物が披露された製品だ。
一面すべてがディスプレイというエクストリームなデザインで、かつ折り曲げることもできるインパクトしか感じられない本製品だが、その実力はいかほどのものなのか、製品版をお借りできたのでチェックしていきたい。価格もインパクト大の64万9,800円だ。
折り曲げと付属ワイヤレスキーボードで6つのスタイリングを提案
スマートフォン界隈ではディスプレイごと折りたためる端末がすでにいくつか発売されているが、それより画面の大きいノートPCとなると、折り曲げ可能な機種はまだ極めて少ない。今回発売された「Zenbook 17 Fold OLED」は、そんな中で17.3型という大画面で折り曲げを実現した最先端を突っ走るノートPCとなる。
箱から取り出した状態の本体はまさしく1枚の“板”。大きめのモバイルモニターのようにも見えるが、まごうことなきノートPCである。
背面側はメタル素材とレザー風の素材が組み合わされたシックなデザイン。ロゴ付近は見る角度や光の当たり具合によってホログラムのように表情が変化する意匠が施され、リッチな雰囲気をかもし出している。
そんなわけで、まずは一番気になるそのスタイリング(モード)から見ていこう。ポイントとなるのは2in1ならぬ6in1、つまり6つの異なる使い方ができるところだ。
タブレットモード
1つ目は、1枚板状態の「タブレットモード」。17.3型、アスペクト比4:3、2,560×1,920ドットという解像度のタッチ対応ディスプレイなので、そのまま「デカいタブレットPC」として使える。
文字入力はOS標準のタッチキーボードなどを利用することになるが、デスクに平置きして使ってもいいし、背面側にあるスタンドを開いて横置きで立てて使ってもいい(角度は60度固定)。
さらに厚紙素材の付属スタンドと購入時の化粧箱を組み合わせることで、縦置きも可能になる(こちらも角度は固定)。化粧箱を使うというのはなかなか斬新だが、さすがに見た目や占有スペースの点から常用には向かない気がするので、別途タブレット用のスタンドなどを用意したいところではある。
2種類のノートPCモード
2つ目は、折り曲げた状態の「ノートPCモード」。ディスプレイを内側にして折り曲げることで、通常のノートPCのキーボード部分も丸ごとディスプレイになったような未来的なフォルムで扱える。折り曲げ角度は無段階で自在に調整可能だ。
タッチで画面操作ができ、タッチキーボードで文字入力も行なえる。なお、ディスプレイが外側になるようには折り曲げられないので、テントモードのような使い方には対応しない。
名称は同じノートPCモードとされているが、3つ目のスタイルとして折り曲げた状態の本体手前側に、付属のタッチパッド付きBluetoothキーボードを載せて使う形もとれる。キーボード側に仕込まれたマグネットで本体に固定できるようになっており、載せた瞬間に手前側(キーボードに隠れた部分)の画面半分が消灯し、残りの半画面のみが表示される。
このとき、ディスプレイの表示領域は12.5型相当となり、解像度も半分の1,920×1,280ドット(アスペクト比3:2)になる。外観はいたって普通のコンパクトなモバイルノートPCのようで、タスクバー付近だけ少し湾曲しているものの、違和感は全くない。
デスクトップPCモード、拡張モード
次の4つ目と5つ目は、本体と付属のBluetoothキーボードを並べて設置して、組み合わせて使うスタイル。タブレットモード+Bluetoothキーボードの「デスクトップPCモード」と、ノートPCモード+Bluetoothキーボードの「拡張モード」がある。
どちらも画面を直接タッチするというよりは、タッチパッドとハードウェアキーボードをメインにして操作するスタイルだ。折り曲げた状態でさらに手前でキーボードを置くと奥行き方向にスペースをとるので、狭い場所ではどちらかというと前者の「デスクトップPCモード」の方が実用性は高そうではある。
ちなみにBluetoothキーボードは薄型/軽量ながらもキーピッチは19.05mmとなっており、ストロークも十分にあって快適にタイピングできる。2つのペアリング先を登録して切り替えて使えることから、別のPCやタブレットと共用するのもアリだ。
ただし、英語配列のみとなっており、日本語配列バージョンはラインナップされていない点だけ注意しておきたい。
折りたたむとやや厚め。キーボードは挟んで収納可能
ところで、持ち運ぶときは通常は本体を完全に折りたたんだ状態にするわけだが、ディスプレイの折れ曲がる角度に制限があるためか、中央のヒンジ付近がひらがなの「つ」のような、あるいは紡錘形のようなふくらんだ状態となる。
このときの厚さは実測で約20~34mmとそれなりのボリュームだ。重量も実測で1,528gあるため、可搬性が高いとは言いにくい。
ただ、Bluetoothキーボードを装着した状態でも、キーボードをサンドイッチするように本体を折りたたむことができ、さらにそのまま付属の専用スリーブにも収納しておける。
実測で厚さが約27~34mm、重量が1,838gと、それなりの厚みと重量にはなってしまうが、本体とキーボードを安全に持ち運べるので、外でモバイルワークをこなすのも、自宅用とオフィス用を兼ねるノートPCとして使うのも、楽ではないが許容できる範囲だろう。
最新に近い装備に大画面有機ELディスプレイの贅沢仕様
Zenbook 17 Fold OLEDは1種類のみのラインアップだ。CPUは第12世代Core i7-1250U(最大4.7GHz、10コア/12スレッド、Processor Base Power: 9W)、GPUはCPU内蔵のIris Xe Graphicsを搭載する。
メモリは16GB、ストレージはPCIe 4.0 x4接続の1TB NVMe SSDで、いずれも増設は不可。OSはWindows 11 Homeで、Microsoft Office Home & Business 2021がプリインストールされる。
17.3型のタッチ対応ディスプレイには有機ELを採用しており、先述の通りアスペクト比4:3の2,560×1,920ドット。60Hzの標準的なリフレッシュレートにとどまるが、輝度500cd/平方mでHDRに対応し、DCI-P3比100%の色域をカバーする。
光沢タイプのため環境光の反射が目立つものの、色見本やカラーマッチングシステムで知られるPANTONEに認められた広色域ディスプレイとして、デザイナー視点でもお墨付きの性能を持っていると言える。
インターフェイスはThunderbolt 4×2と、3.5mmヘッドセット端子という最小限の装備。Thunderbolt 4はUSB PDに対応し、DisplayPort Alternate Modeによる最大4K×2の外部映像出力をサポートする。USB Type-A接続の周辺機器を使いたい場合は、付属しているType-C to Type-Aの変換コネクタを利用するか、別途USBハブを用意するとよいだろう。
ネットワーク/無線通信はWi-Fi 6とBluetooth 5.1を搭載。また、Windows Helloの顔認証に対応する491万画素のWebカメラを内蔵する。
ディスプレイサイズの影響で電力消費が大きくなりがちなためだろうか、バッテリは75Whと比較的大容量で、スペックシート上の動作時間は約12時間と余裕がある。充電用に最大65W出力のACアダプタが付属するが、USB PD対応なので市販の充電器やモバイルバッテリも問題なく利用可能だ。
スピーカーはharman/kardon監修の1W出力×4基構成。Dolby Atmosにも対応し、Netflixなどの動画配信サービスでは広がりのあるサウンドが楽しめる。
ただ、筆者が確認した限りでは、スピーカーの開口部の位置関係から、タブレットモードで横置きにしたときにのみ最適なサウンドとなるようだ。縦置きやノートPCモードにすると左チャンネルの音が右奥側から、右チャンネルの音が左手前から聞こえる違和感のある状態になってしまう。
Dolby Atmosなどの空間オーディオの設定をオフにしても変わらなかったので、動画や音楽をしっかり再生したいときは横置きタブレットモードにしたい。
ディスプレイを折り曲げるということで、耐久性も気になるところだ。ASUSによると3万回の折り曲げ試験をクリアしており、さらに筐体としては米国防総省の物資調達基準として知られる「MIL STD-810H」、いわゆるMILスペックに準拠する動作テストもパスしているとのこと。
それでも全く新しい構造のハードウェアということもあり、通常のノートPCよりもなんとなく丁寧にあつかいたくなってしまう……。
折り曲げ可能な大画面を最大限に活かすユーティリティ
Zenbook 17 Fold OLEDの個性を活かすソフトウェア的な工夫も数多く用意されている。その中でも、大画面かつ柔軟な使い方が可能なZenbook 17 Fold OLEDの特徴を活かす機能がある。それが「ScreenXpert」だ。
通常時は画面端に半透明のアイコン状態で目立たないように常駐しており、クリックするといくつかの機能アイコンが並ぶ「コントロールセンター」が現れる。Zenbook 17 Fold OLEDにおいてこの中で特に有用なのが「モードスイッチャー」機能だろう。
モードスイッチャーのアイコンをクリックするか、この機能の常駐設定を有効にして本体を折り曲げると、そのときの本体の向きに応じて「Landscape Mode」と「Portrait Mode」のウィンドウがポップアップする。このウィンドウに表示される3つのレイアウトパターンから任意のものを選べば、表示中のアプリケーションウィンドウをその通りのレイアウトに一発で整列してくれる。
たとえば1つのウィンドウを全画面表示したり、半画面ずつ均等に並べたり、1つを半画面に表示しつつほかの2つをもう半画面に均等に並べたりできる。
Windows標準のスナップ機能に似ているが、本製品の独特の画面アスペクト比と、タブレットモードやノートPCモードなどそれぞれのスタイルに適したレイアウトに素早く切り替えられる、というのがポイントだ。
加えて、独自ユーティリティの「MyASUS」にも豊富な機能が含まれている。中でも冷却ファンのスピードを3段階から選んで性能と静音性を調整する「ファンモード」や、充電上限を80%に制限してバッテリ寿命を延ばす「バッテリーケアモード」、有機ELディスプレイの劣化を低減するための「ASUS OLED Care」といったあたりはぜひ活用したい。
Webカメラやマイクの画質/音質をAI技術によって最適化する機能もある。内蔵Webカメラで捉えた人物や背景を認識し、背景だけぼかしたり、明るさを自動調整したり、視線や動きに合わせて最適な見栄えにしたりする「Webカメラ効果」や、マイクから入力された音声のうち人の声だけを識別してほかのノイズを低減する「AIノイズキャンセリング」機能で、オンラインミーティングをより円滑にこなせるようになる。
さらに、内蔵Webカメラなどのセンサーを利用し、ユーザーがPCから離れると自動で画面が暗くなってロックし、近づくと自動で画面点灯してくれる「アダプティブロック」機能も便利だ。
顔認証の機能も併用すれば、席を外すとすぐに画面がロックされ、再び席に戻ってPCに近づくと画面が点灯し、同時に顔認証でロックも解除されるから、スムーズに仕事を再開できる。離席時の画面の自動消灯によってバッテリ持ちやハードウェア寿命を延ばせるのもありがたい。
どんなアプリをどんな風に使うとしっくりくるのか
以上の使用スタイルのパターンや機能などを踏まえたうえで、Zenbook 17 Fold OLEDは具体的にどんな使い方ができるか考えてみたい。
まず「タブレットモード」は大画面なので、横置きしたときに動画視聴に向いているのは当然として、4:3という縦がやや長いアスペクト比を活かし、3:2であることが多い写真の編集作業が効率的に行なえる。
縦置きは、付属スタンドと化粧箱を利用するスタイルだといつでもどこでも、というわけにはいかないだろうけれど、ビジネス用途で考えると、高解像度も活かして設計図など細かい資料を現場で確認するようなシーンで本領を発揮しそうだ。
「ノートPCモード」は独特なスタイリングではあるけれど、上半分(正面)と下半分(手前)で2つのアプリケーションを同時に表示して使うのにちょうどいい。1アプリケーションで1,920×1,280ドットの解像度としても不足はないだろう。
それに加えて、意外に利便性が高いのが、縦方向に長いデータを見ていくような用途だ。たとえばWordやExcelなどドキュメントを縦スクロールして閲覧/編集していくとき、縦に長い画面だと効率的ではある。だが、従来の平面のディスプレイを縦置きすると、高さがありすぎてかえって視線移動が多くなり、疲れてしまう場合もあった。
しかし本製品は途中で折れ曲がっているため、画面の高さは一般的なノートPCと変わらないまま、縦長画面で広く閲覧していける。データ編集の効率アップにつながるのではないだろうか。
タブレットモード+Bluetoothキーボードの「デスクトップPCモード」はまさしくデスクトップPCらしい汎用的な使い方ができるものだが、ノートPCモード+Bluetoothキーボードの「拡張モード」は、もしかするとプログラミングに適しているかもしれない。
たとえば画面の上半分でテキストエディターやIDE(開発環境)を使ってコーディングし、下半分にマニュアルや成果物(実行中のアプリケーション)を表示する、みたいな応用は面白そうだ。
「リーダーモード」は、電子書籍を全画面表示すれば、確かに本っぽい雰囲気で読み進められるし、左右2分割して複数のWebページやSNSを同時に閲覧していくのもいい。
あるいは、ちょっとテイストの異なる使い方としては、レースゲームもアリかもしれない。折り曲げ角度をイイ感じに調整して湾曲モニター風に視野を覆うようにすることで、スピード感がちょっぴり増すような気がするのだ。
ビジネス用途には不満のない性能を発揮
性能も確かめておこう。CPUとGPUの構成から、どちらかというとビジネス向けPCの趣が強いのではないかと想像できるが、各種ベンチマークテストの結果からもそうであることが分かる。
CPU性能を測るCinebenchは、第12世代Core i7なりの高いスコアとなった。「PCMark 10 Extended」を見ると動画やゲーミングの分野がやや弱いようだが、ほかの項目は必要十分以上の性能が出ており、写真編集周りも決して低くない。それは「PCMark 10 Applications」や「UL Procyon」の2つのベンチマークテストからも伺える。
内蔵SSDはPCIe 4.0接続ということもあってかなり高速で、ビジネス用途における快適度はなかなかに高そうだ。
念のため「3DMark」と「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」でゲーミング性能も軽くチェックしてみた。結果としては、2,560×1,920ドットの解像度をフルに活かそうとすると厳しい感じだが、フルHDで多少クオリティを落とした設定であれば問題なく楽しめそうだ。
こうした性能を考えると、ウィンドウ表示対応のゲームは「ノートPCモード」であえて画面上半分のみに表示し、攻略サイトなどを画面下半分に表示して遊ぶ、みたいなプレースタイルがバランス的な意味でもちょうどよいのではないだろうか。
なお、高負荷時の冷却ファンのノイズは、「パフォーマンスモード」だとそれなりに大きくなるが、高音成分は多くなく、耳につくものではない。排熱も「ノートPCモード」にした状態のときは画面右上側面から逃げる構造のため、手元が熱くなるようなこともない。
ネガティブ要素はゼロではないが、それを補って余りある新しい個性と楽しさ
大画面が折れ曲がる斬新なZenbook 17 Fold OLED。未来を感じさせる見た目のインパクトは確かに大きいが、ビジネス向けノートPCとして過不足のない性能をもち、それを6パターンの多様なモードで活用できるようにした、実用面にもしっかりフォーカスしたモデルとなっている。
6つのモード以外にも、使い込んでいくうちに、もしかすると未知の応用方法がまだまだたくさんあるのでは……という可能性やわくわくする楽しさを感じさせてくれたりもする。
ただ、細部を見ると気になるところもないわけではない。こうしたフォルダブルタイプの宿命か、折れ曲がる画面中央あたりの表面が波打っていたり(画面をスワイプすると凹凸がよく分かる)、帯電しやすいのか画面にホコリが目立ちやすかったりする。
また、ディスプレイが光沢タイプで光が映り込みがちなだけでなく、「ノートPCモード」だと手前側と天井側の2方向からの光を反射するのでどうしても映り込みを避けにくいといったネガティブ要素もある。
しかしそれでも、実用度が高いノートPCであることは確かだ。この際、価格性能比がどうかという視点で見てはいけないだろう。最先端で、誰もが目を見張るほかにはない個性的なノートPCで仕事したいか、そうでないのか。ビビッと来たのなら本能に従って行動すべきである。