大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

1日修理率95%を維持するNEC PC群馬事業場。法人向けPCサービス「CFS」は前年比83%の成長

群馬県太田市の NECパーソナルコンピュータ群馬事業場

 レノボ・ジャパンおよびNECパーソナルコンピュータは、群馬県太田市のNECパーソナルコンピュータ群馬事業場における1日修理の様子や、ゼロタッチデプロイメントの実現を支援するLenovo CFS(Custom Fulfillment Service)の取り組みなどを、報道関係者に公開した。テレビCMでは、NECパーソナルコンピュータのキャラクターであるラビィッコが登場し、95%のPCを1日で修理が完了することを訴求。これがNECおよびレノボブランドPCの国内における強みの1つになっている。群馬事業場の様子を現地で取材した。

デスクトップPC生産でスタートした拠点

 NECパーソナルコンピュータ群馬事業場は、NECのPC事業の歴史において、重要な役割を果たしてきた拠点だ。

 1984年7月に、群馬日本電気として設立し、PC-9801M2を皮切りに、PC-9800シリーズのデスクトップPCを中心に生産を開始。1996年からは、PC-98NXシリーズを生産するなど、国内で圧倒的なシェアを獲得していたNECパソコン事業の基幹工場としての役割を担っていた。

敷地内にあるNEC PC-8001の40周年を記念した植樹。ちなみにPC-8001は群馬事業場では生産されていない

 2002年7月からは、NECカスタムサポートに社名を変更し、保守サービス拠点に転換。PCの生産は山形県米沢市の米沢事業場に移管。群馬事業場では、NECブランドのPC、周辺機器を対象にした診断、修理サービスを行なうとともに、コールセンター業務も開始した。2011年7月に、レノボグループに入り、現在のNECパーソナルコンピュータ群馬事業場へと変更。2016年6月からはレノボブランドのタブレット、同年7月からはレノボブランドのPCの修理を開始した。

 群馬事業場は、24時間で修理を完了させる1日修理が特徴で、レノボブランドのPCにおいても、2020年3月に95%の1日修理率を達成。現在も、NECブランドおよびレノボブランドともに、この水準を継続しているという。

 なお、2016年以前は、レノボブランドのPCの修理業務は、千葉県の専門業者に外部委託をしていたが、修理状況や部品在庫などの観点において、透明性や見える化の課題があったり、コスト削減への取り組みを促進したりといった狙いから、群馬事業場に統合。NECパーソナルコンピュータが培ってきた修理ノウハウや保守部品管理の仕組みを活用して、修理管理手法を高度化。こうした取り組みによって、かつては80%台だったレノボブランドのPCの1日修理比率を95%にまで高めることができたという。

 群馬事業場で修理を行なっているのは、NECブランドのコンシューマ向けPCと、レノボブランドのコンシューマ向けPCおよびコマーシャル向けPCだ。NECブランドのコマーシャル向けPCはNEC傘下のNECフィールディングが修理を行なっている。また、2021年1月からは、モトローラブランドのスマホの修理も群馬事業場で開始している。

 群馬事業場の敷地面積は8万7,805平方mで、東京ドーム2個分の大きさがある。4階建てのオフィス棟と、修理を行なう3階建ての工場棟、保守部品を保管する部品倉庫で構成している。

 「サービスマザーサイト」が、群馬事業場が目指す姿であり、NECパーソナルコンピュータ 執行役員 サービス事業本部長の小林大地氏は、「修理センター、コールセンター、サポート技術チームなどによる保有技術と人材を生かして、高度なサービスを開発および提供し、CXを推進するのが『サービスマザーサイト』としての群馬事業場の役割である。修理情報や品質情報を、NECパーソナルコンピュータおよびレノボの設計、生産部門へとフィードバックし、改善につなげるといった取り組みも行なっている」とする。

群馬事業場はサービスマザーサイトを目指している
社員がコミュニケーションができるスペースもある
NECパーソナルコンピュータ 執行役員 サービス事業本部長の小林大地氏
NECパーソナルコンピュータのキャラクターであるラビィッコが1日修理率95%を訴求

なぜ1日修理率95%を達成できるのか?

 まずは1日修理の様子から見てみよう。

 1日修理とは、延長保証を含む保証期間内のPCの修理を対象に、サービスセンターに到着してから24時間以内に修理を完了し、出荷することを指している。1日修理ができない残り5%のPCは、不具合の再現に時間がかかったり、1度入庫したものの、ユーザーからの申し入れにより、修理がキャンセルされたりといった場合が含まれるという。

 「お客様からは、故障してもすぐに戻してほしい、確実に修理してほしいという声が多い。修理リードタイムの短縮と、修理品質の向上は、PCの保守サポートにおいて重要な取り組みになっている」とする。

 修理対象となるPCは、NECパーソナルコンピュータが提供する「あんしん便」を活用して、直接、群馬事業場に運び込まれるルートと、販売店などに持ち込まれ、そこから群馬事業場に運び込まれるルートがある。

 NECブランドのPCで、修理が必要になった場合には、NECパーソナルコンピュータのコールセンターに問い合わせると、修理依頼を受け付けられ、そこで修理オーダーを作成。

 「あんしん便」により、PCを引き取ってくれる。

 群馬事業場の工場棟1階に運びこまれた修理対象のPCは、受付後、着荷作業を行ない、その後、診断、見積もり連絡、部品手配、部品交換、検査、出荷という工程を経ることになる。

 着荷したPCは、修理依頼があったPCであることを製造番号などから確認。同時に添付品の確認なども行なわれる。開梱作業は、カメラで撮影しており、この録画データは約3カ月保存される。これにより、開梱時に同梱されていた添付品などを、あとから確認することが可能だ。

群馬事業場での1日修理の流れ
修理PCの入出庫口の様子
台車を使って移動させる
修理作業を行なうリペアセンターの入口
修理PCの着荷作業エリアの様子

 開梱や検品などの着荷作業が終わると、故障診断が行なわれる。診断によって、故障箇所を特定すると、保証期間内での無償修理の場合は、そのまま修理が開始されるが、有償修理が必要な場合には、コールセンターを通じて、修理箇所や見積書などをユーザーに通知。回答を受けてから修理を開始する。

 修理エリアは、NEC向けとレノボ向けに分かれている。先に触れたように、レノボブランドのPCは、コンシューマ向けとコマーシャル向けのすべてのPCが修理対象となっているため、作業エリアが広い。また、NEC向けとレノボ向けでは、作業担当者が分かれているのも特徴だ。また、ThinkPadなどの機種ごとに作業エリアを区分している。

PCの修理を行なっているところ

 修理作業は、修理は診断から検査までを1人で行なう「一人完結方式」と、部品交換だけを専任者が行なう「分業方式」を採用。一人完結方式では、複数の修理を同時に進行させることができ、ロスタイムを最小化できるメリットがあり、分業方式では複雑な交換作業を専門化することで、交換時間の短縮と効率化を実現できる。2つの方式を、PCの構造や、故障の状況に応じて使い分けているという。

 ちなみに、これまでに発売してきた70万種類以上の機種が対象になるため、修理する際には、機種ごとに整理されたナレッジを参考にしながら作業を行なうという。

修理エリアの様子
左がレノボPCの修理エリア、右がNEC PCの修理エリア
修理を行なうPCが保管されている
PC修理の作業スペースの様子

 部品を交換し、修理が完了すると、検査を行ない、正しく動作することを確認する。

 修理が完了したPCは、筐体を清掃し、添付品をチェックしてから梱包を行ない、出荷されることになる。ルート便の出荷締め切り時間は、午前11時と午後4時30分の1日2回に設定されており、あんしん便では午後4時30分に回収時間が設定されている。午後4時には、その日の出荷締め切り時間が近づいていることを、スタッフがハンドベルを振って伝えることになる。アナログな方法だが、ベルを鳴らした方が作業者に伝わりやすいという。

手前が修理が完了したPC
こちらのPCは交換待ちとなっている
午後4時になると、出荷締め切り時間が近づいていることをこのベルを振って知らせる

2023年度に故障部品特定用診断AIを導入へ

 修理チームにおいては、「効率化・標準化」、「管理手法確立」、「品質意識向上」に取り組んでいるという。

 「効率化・標準化」では、修理PCに対するイメージのインストールを、ネットワークを通じて複数のPCに同時に行なうことでリードタイムを短縮。グローバルで共通のテストツールを使用し、診断作業を標準化するとともに、故障部位の迅速な特定を可能にしているという。また、群馬事業場独自の修理情報ナレッジを構築し、情報やノウハウ、スキルの共有を行なっている。

 「管理手法確立」では、曜日別に色をわけたカンバンを使用することで、いつ着荷し、いつまでに出荷しなくてはいけないのかを、誰もが分かるように見える化する一方、1日修理の対象となるPCの修理状況を「naviシステム」で管理し、作業者や管理者が、修理の進捗を確認できるようにしている。「1件の修理の遅れが、大きな商談に影響することもある。お客様別の対応状況を共有したり、優先する修理の状況を把握したりすることで、1日修理への対応漏れを防ぐことができる」という。

 コマーシャル向けも修理対象になっているレノボブランドのPCの場合、大手企業などからは、まとまった台数で修理するPCが持ち込まれることもあり、同一機種の場合には、専用の修理ラインを構築して対応することもあるという。

 そして、「品質意識向上」では、的確な修理を行なうために、故障状態を再現するための体制を強化。負荷テストツールの活用や、0℃~40℃までの設定ができる恒温槽の活用により、PCへの負荷を高めて状況を再現する取り組みのほか、コールセンターでの顧客の声を集めるNICEの活用、再修理品の要因分析やフィードバックサイクルの確立などに取り組んでいるという。

色分けしたカンバンを利用して状況を見える化する
0~40℃までの設定ができる恒温槽の活用により、PCへの負荷を高めて故障状況を再現する

 そして、1日修理率95%の維持に向けて、群馬事業場では、新たな取り組みにも挑戦する。

 それが、故障部品特定用の診断AIの活用だ。

 電子化した工程管理表をもとに、機種ごとにデータを蓄積し、故障の症状をもとに、どこに原因があるのかを予測し、特定を早めることができるという。

 ユーザーの故障に関する申告情報と、診断者の再現確認結果を組み合わせてAIが分析し、故障部品を確率表示によって特定。経験が少ない作業者でも、ベテランのノウハウが活用できるようになるという。現在、AIの開発を進めており、2023年度からの導入を予定している。

修理エリアにわずか13分で部品を供給

 一方、1日修理の実現に向けては、保守部品のサプライチェーンが重要な役割を果たしている。

 群馬事業場では、工場棟1階に、レノボ向けの修理部品を保管。工場棟に隣接する部品倉庫にNEC向けの修理部品を在庫している。

 レノボ向けの部品は、海外の部品倉庫から群馬事業場に送られる仕組みであり、NEC向けの部品は、国内外のベンダーから直接入庫することになる。NECブランドのPCでは、国内ベンダーからの調達比率が高いという特徴がある。

 保守部品が入庫すると1つずつ検品を行なう。全量を対象にした外観検査に加えて、システムボードなどでは抜き取りでの機能検査を実施する。

 在庫の管理については、パーツ運用チームが、NEC向けも、レノボ向けも一元的に管理。独自の予測計算により、適切な調達計画や在庫管理を行ない、修理作業の流れにあわせて部品を供給することになる。修理エリアへの部品供給は部品要求から13分以内と決められており、これは1台あたりの修理診断が約13分で行なわれることに起因している。

NECブランドのPC用の部品倉庫の様子
数多くの部品が在庫されており、13分で修理エリアに供給される

 また、レノボブランドのPCでは、群馬事業場以外にも、東京・羽田に保守部品倉庫を持ち、北海道や九州などの地域に航空便で部品を配送し、リモート修理などに対応。12カ所のFSL(フォワードストッキングロケーション)から、オンサイト修理のための部品供給を4時間以内に行なえる体制を敷いている。NECブランドのPC向けには、群馬事業場から全国の出張修理拠点や、NECフィールディングなどに修理部品を供給することになる。

法人向けPCビジネスの成長を支えるCFS

 群馬事業場におけるもう1つのユニークな取り組みが、Lenovo CFS(カスタムフルフィルメントサービス)である。

 CFSは、レノボグループが世界14カ所に展開しているもので、グローバル拠点と連携し、レノボグループが開発した自動化作業ツールなどを共有して、さまざまな作業を実施する。

 たとえば、一括導入案件においては、企業の要望にあわせて個社のプロファイルやOS情報などを一元管理。タギングをはじめとした個別要件による物理キッティングサービスも提供している。昨今では、クラウドベースのプロビジョニングへの対応のほか、Windows Autopilotを活用し、個別設定を行ない、ネットに接続するだけですぐにPCの利用を開始できるゼロタッチデプロイメントにおいて、CFSを活用するケースが増加しているという。同社によると、キッティングの内容にもよるが、最短で1週間での納品が可能だという。

 また、国内で獲得した商談だけでなく、海外に本社を置く企業がグローバル全体でPCを調達し、それを日本の拠点に配備する際にも、CFSのグローバル連携を生かして、群馬事業場でキッティングを行ない、ユーザー企業の国内拠点に配送するといった例も増えているという。

CFSの日本における取り組み
関係者しか入室できないように管理されたCFSルーム

 群馬事業場のCFSは、2020年12月から試験運用を開始し、2012年2月から本格稼働している。グローバルの拠点の多くは、物流倉庫のなかに設置されているケースが多いが、日本は世界唯一、修理拠点と併設しており、修理保守のノウハウを活用できる点が特徴だ。初期トラブルなどの不具合があれば、修理エリアに持ち込んですぐに修理することができる。また、予備機の確保などを行なうライフサイクルサービスと連動するなど、CFSにおいても、付加価値を生むことができる拠点である点が強みになっている。

 その環境を活かし、マスターOSイメージの作成から、カスタムキッティング、クローニングを一気通貫で対応。VPN接続により、顧客固有の環境に対応したり、サブスクリプションサービスとして提供するDaaS(Device as a Service)への対応も図ったりしている。CFSで提供する各種サービスはメニュー化しており、情報システム部門における作業負担の軽減にも貢献している。ここでは、日本のユーザー企業からの要望を反映して、新たにメニューに追加するといった取り組みも進めているという。

 「単純なキッティングだけでなく、お客様の課題や要望に応じたサービスを展開しているのがCFSの特徴である。レノボ・ジャパンのプロジェクトマネージャーやテクニカルソリューションアーキテクトがサポートすることで、様々な要望に対応でき、安心した環境でCFSを利用できる」としている。

 キッティングの自動化に向けたソフトウェアを内製。キッティング時間を50~80%削減したり、設定ミスの撲滅や、作業エビデンスの自動取得、キッティング品質の向上にも貢献したりといった効果が生まれている。

CFSによるキッティング作業の様子
作業を行なうPCが並んでいる
拡張したスペースにはこれから作業を行なうPCを保管
CFSルームの中に、よりセキュリティレベルを高めた部屋を用意

 2021年度下期にはCFSのフロアを2倍に拡大。通常は4ラインで稼働しているものを最大10ラインにまで拡張できるスペースを確保しており、さらに、そのスペースを利用して、キッティングなどを行なう前のPCをCFSエリア内に保管して、効率的に作業が行なえるようにしている。

 CFSでは、ここにきて、1商談あたり1万台を超える案件を複数獲得しているほか、外資系企業から獲得した商談の1つとして、月間数100台単位のPCをキッティングするDaaS案件にも対応しており、キャパシティの増加が功を奏している。また、金融機関のユーザーなど、情報の取り扱いにセンシティブな顧客からは、隔離した場所で作業を行なってほしいという要望があり、そのための部屋を別途用意。ここでは、作業者を限定し、入室の際にもセキュリティチェックを行なうなど、厳重に管理した上での運用を行ない、厳しい顧客からの要望にも対応している。

 レノボ・ジャパンによると、日本におけるCFSの2022年度の成長率は83%増となっており、作業者の熟練度が高まったこともあり、平均対応台数は約2倍に達している。次に導入する際にもCFSを利用したいというリピート顧客が増加傾向にある点も見逃せない。

 「PCベンダーが、製造から納品までをワンストップ対応している点がCFSの特徴である。たとえば、納期を変更してほしいといった要望にも、販売パートナーなどとの調整をする必要がなく、直接、要望に応えられる柔軟性、迅速性がある」とした。

 最近では、CFSを見学したというケースが増えており、実際に作業現場や作業内容、セキュリティ環境などを確認してからCFSの活用を決定する企業もある。CFSのエリアに入るには3つのセキュリティゲートを通過する必要があるほか、カメラによる24時間の監視を行なっており、こうした作業環境を見て、CFSの活用を決定する例が増加しているという。

CFSの日本における今後の取り組み

 また、大手顧客の中には、他社ブランドのPCを含めてキッティング作業を行なってほしいという声があり、今後はマルチベンダーサポートにも取り組んでいく考えだ。

 さらに、キッティング作業の自動化を含めたさらなる効率化、タブレット案件の拡充、代替機運用の開始のほか、顧客課題へのコンサルティングアプローチをもとにした包括的サービスの提供にも乗り出す考えを示した。

 CFSは、レノボブランドのコマーシャル向けPCの大きな差別化ポイントとして、グローバル全体で進化をしているが、日本の市場環境にあわせた強化も続けられることになる。

モトローラのスマホも全機種を修理

 群馬事業場では、1日修理やCFSのほかにも、いくつかの取り組みがある。

 1つ目は、レノボグループの中で展開しているモトローラブランドのスマホの修理である。

 群馬事業場では2021年1月からモトローラのスマホの一部で修理を開始。2021年9月には、外部委託をしていた修理拠点を閉鎖し、群馬事業場に集約するとともに、すべての機種の修理を開始。さらに、2022年8月からは、5Gや防水防塵機能搭載、FeliCa対応などの付加価値を搭載した最新機種でも修理を行なえるようにしている。

独立したスペースとなっているモトローラの修理エリア

 工場棟2階にモトローラ製品の修理を行なうエリアを独立した形で設置。着荷受付から診断、部品管理、部品交換、検査、梱包出荷までのすべてのオペレーションをワンフロアで完結することができる。修理リードタイムは5営業日となっている。

 特筆できるのが、修理作業において、自社開発したモトローラ専用の修理システムやツールを活用している点だ。

 修理するスマホが着荷すると、まずは、モトローラ専用修理システムに情報を登録。ハードウェアの検査ツールであるLMST(Lenovo Motorola Smart Tool)を利用して、機能検査や使用状況の確認を実施したのちに、データを完全に消去。その上で修理を行なう。防水防塵検査装置や5G測定器による送受信接続テストなども実施している。

 現在は、人手による作業や診断から、自動的に診断するシステムへと変更を進めており、これまでのOSインストール作業は、人手で機種名を選択していたものを、IMEI番号を読み取ることで、自動でOSのインストールを実行する形へと進化。また、修理が完了したものは、出荷時のOSを初期化して返却することが必須となっているため、出荷工程において、作業者2人が目視で初期化していることを確認する作業を刷新。これをカメラでの自動判別に移行した。これらの機能は日本独自に追加したものだという。

モトローラのスマホはすべての機種を修理できる
OSを初期化したことをカメラで自動判別している

システムボード修理の約8割を内製化

 2つ目は、システムボード(マザーボード)の修理の内製化への取り組みである。

 これは、PCの修理工程において、故障と判断されたシステムボードを修理し、再生するものであり、NECブランドのPCを対象に実施。現在は、約8割を群馬事業場の中で修理しているという。

 2006年まではすべてのシステムボードの修理はODMベンダーで実施していたため、台湾や中国などに送る必要があった。そのため、修理にかかるリードタイムの長期化や輸送コストの増加、品質問題が発生しやすいという課題が生まれていた。

 群馬事業場では、デスクトップPCを生産していた経緯があり、マザーボードの生産も行なっていたという。そこに携わっていた人材を活用し、2007年から社内での修理を開始。当初の内製率は15%に留まっていたが、ODMとの契約内容を見直すとともに、社内修理の体制を強化。徐々に構成比を拡大してきた。

 先に触れたように。現在では約8割を内製化。これにより、修理リードタイムは4分の1に短縮。棚卸資産は4分の1に、修理費用は5分の1に削減。初期不良も大幅に減少して、品質は70%改善したという。

NECブランドのPCに搭載されているシステムボード
システムボードの受入検査ラインの様子

 システムボードの修理工程では、オシロスコープなどを利用して不良部品の特定を行ない、それをもとに部品の交換作業を実施。検査によって症状の復旧を確認することになる。ECO(エンジニアリングチェンジオーダー)が実施されていた場合には、それも反映するという。機能検査が完了後に、倉庫で保管することになる。

 システムボードの修理では、BGA(ボールグリッドアレイ)交換作業が、とくに技術力やノウハウを要する作業となっているが、ここでも、過去に生産拠点であったメリットを生かしている。

 従来のPCでは、QFP(クアッドフラットパッケージ)タイプなど、リードが出ているCPUパッケージが多かったが、現在、利用されているのはBGAタイプであり、システムボードに直付けされている。また、ボール状のハンダが、パッケージの底面に格子状に配列されたパッケージになっており、その交換には専用設備と高い技術が求められている。なかでも、専用設備での位置あわせ作業には高いスキルが必要だった。

 群馬事業場では2022年3月から、新たな設備を導入。画像認識による位置合わせを行ない、ボタンを押すだけでBGA交換ができるようになったという。同社によると、位置合わせ作業は限定した作業者が行ない、平均8分ほどかかっていたが、新設備では、位置あわせの特別なスキルが不要であり、作業時間は約1分に短縮。その結果、交換能力は従来よりも20%向上したという。

新たに導入したBGA交換装置

購入前相談などのコールセンター機能を持つ

 3つ目は、コールセンター業務である。

 NECブランドのPCを対象にしている121コンタクトセンターへの問い合わせのうち、PCおよび周辺機器の購入前相談のほか、PC購入時のユーザー登録の代行を行なうお客様登録センター、個人のPCの買い取り査定を行なうリフレッシュPCセンター、PCの延長保証やメモリの拡張などのアップセルを行なうサービス問い合わせセンター、引き取り修理の窓口となるサービスセンターが、群馬事業場での役割となる。なお、PCの使い方相談や故障診断窓口は他の拠点で対応している。

 引き取り修理を担当するサービスセンターでは、群馬事業場内にある修理センターと連携し、有償修理の見積もりや作業内容の確認などの連絡を行なっている。この業務については、レノボブランドのPCについても群馬事業場内で対応しているという。

 また、チャットによる24時間対応も行なっており、チャットボットを利用した自動応答と、人手による有人対応の両面から実施。1人のオペレータが最大3人まで同時対応しているという。現在、オペレータの在宅勤務を推進しており、コールセンター部門における社員の出社率は半分程度だという。

 なお、NECからの受託事業として、家庭用蓄電池のサポートセンターを運用している。

チャットによるサポートの様子

LCMサービスの重要拠点に

 4つ目がライフサイクルマネジメント(LCM)サービスである。

 デバイスの導入から廃棄までのライフサイクル全体を網羅するサービスで、「キッティング」、「修理」、「アセットマネジメント」、「廃棄・データ消去」で構成される。ここでも群馬事業場は重要な役割を果たす。

 「キッティング」では、独自ツールを活用して、PCの各種設定やソフトウェアのインストールなどを実施。業務にすぐに利用できる形で納品することができる。

 CFSで行なっているキッティングとは別のサービスとして用意。専用管理システムに登録すると、バーコード管理する形で、OSやアプリケーションの設定、メモリの増設、ラベル貼付、フィルム貼付、付属品の同梱などの作業が、1台ずつ正しく行なわれていることを管理。作業現場では修理工程で使用されているメンテナンスマニュアルを流用することで、確実な交換作業などが行なえるようにしている。

 企業のロゴや管理ラベルをはじめとして、要望にあわせたラベルを貼付する際には、曲がったりしないように専用の貼付治具を活用。作業者が右利きでも、左利きでも、1つの治具を使用できるように工夫している。

 また、付属品の同梱漏れを防ぐため、付属品が揃っていることを専用トレーで目視確認できるようにしたり、重量測定器による計測で付属品の不足や重複を防いだり、フィルム貼付の際にはエアブローを設置したクリーンルームで作業が行なえるようにしている。

ラベルが正しく貼付されているかどうかを確認する治具
付属品が正しく揃っていることを目視で確認できるトレー

 こうした治具や設備、ノウハウは生産拠点に蓄積されていることが多いが、かつてはPCの生産を行なっていた群馬事業場だからこその取り組みだといってもいいだろう。

 「アセットマネジメント」では、企業で利用しているPCやタブレットなどの資産を管理、運用するもので、故障時の引き取り修理、代替機の保管や発送なども含まれている。たとえば、社員が使用しているPCが壊れた際には、群馬事業場で保管しているPCを出庫。故障したPCの引き取りと交換で代替機を提供。PCが壊れたことによる業務のダウンタイムを最短化する。そして、群馬事業場に持ち込まれたPCは、修理が行なわれた代替機倉庫に保管するという仕組みだ。

 現在、企業向けPCのほか、GIGAスクール向けの教育委員会保有PC、オンライン医療システムPC、レノボブランドの大型ディスプレイ、ネットワーク機器、酪農・畜産向け生体認証デバイスが、アセットマネジメントサービスの対応機種となっており、情報システム部門では資産管理工数の削減や、代替機の保管スペースの削減といったメリットが生まれる。

同梱物などが正しく梱包されていることを重量で計測
クリーンルームを活用してフィルム貼付サービスを行なっている
大型ディスプレイの代替機交換サービスに用意された製品
酪農・畜産向け生体認証デバイスもアセットマネジメントサービスの対応機種

サービス事業の強化を進めるレノボグループ

 このように、NECパーソナルコンピュータ群馬事業場では、さまざまなサービスに関わる体制を敷いており、事業範囲が着実に広がっている。レノボブランドのPCやタブレット、モトローラブランドのスマホの修理に加えて、CFSによる付加価値サービスや、ライフサイクルマネジメントサービスの提供、コールセンターサービスの強化なども進めているところだ。

 とくに、修理部門においては、故障診断の確かさ、修理の確かさ、修理の速さ、修理価格および修理内容の分かりやすさを、今後も継続的に追求していくことになるという。

 レノボグループ全体では、サービス&ソリューション事業の強化を打ち出しており、その点でも、群馬事業場が果たす役割も大きい。

 日本におけるレノボグループの成長戦略を描く上で、「サービスマザーサイト」を掲げる群馬事業場の存在は、ますます注目されることになりそうだ。

サポートとサービスで業界ナンバーワンを目指す