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着荷から最短で当日返送可能になったレノボの修理拠点

~PC-9801生産中止から生き残りかけ、一大変貌を遂げたNEC PC群馬事業場のいま

NECパーソナルコンピュータ群馬事業場

 NECとレノボがPC事業の合弁会社を設立して、早7年が経つ。レノボ傘下となることで、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)は、レノボの調達力を活かすなどのメリットを得てきたわけだが、一方で、NECの米沢工場で一部のThinkPad製品を製造するなど、協業はレノボ製品にもメリットをもたらしている。

 同様の事例として現在、NEC PCの保守サポートサービス拠点となる群馬事業場では、NEC PC製品だけでなく、2016年から全レノボ製品の修理も開始している。

 NEC PC製品については、2012年に故障したPCが修理拠点に到着して、24時間以内に修理、出荷する「1日修理(1 Day Repair)」の体制を構築している。このノウハウはレノボ製品の修理にも取り込まれ、現在、ThinkPadなどレノボ製品についても、早いものでは1日修理が可能な体制が構築されつつある。

 今回、群馬事業場で、じっさいに1日でThinkPadが修理される様子を取材してきた。

PC-9801の開発拠点から保守サポート拠点へと転換した群馬事業場

 群馬事業場は、もともとはNECのPC-9801シリーズの開発・生産拠点の1つだった。その後、生産は米沢に集約され、群馬事業場は修理・サポート拠点となった。合弁にともない、2014年からレノボタブレットの修理を開始し、2016年7月からすべてのレノボ製品の修理も請け負うこととなった。

群馬事業場の沿革。もともとはNEC PC-9801シリーズの開発・生産拠点だった

 それまでレノボ修理は外部の企業に委託していた。そのため、達成状況はわかるものの、修理状況や保守パーツの状況などが見えにくいという課題があった。そこで、NEC PCの群馬事業場が持つパフォーマンスをレノボ製品にも活かすほうが良いだろうと、NEC PC側からレノボへと話を持ちかけ、レノボ製品の修理も請け負うこととなった。

 じつは、レノボ製品の修理取り扱いは、合弁後に求められた合理化のなかでの、群馬事業場の生き残りをかけた戦略でもあったのだ。

 レノボ製品の取り扱いにより、同事業場で取り扱う修理量、保守部品量は1.6倍になり、日本全国にあるPC保守部品の3割がここ群馬事業場に存在することとなった。

日本のPC保守部品の約3割がここにある

 群馬事業場では、NEC PC製品とレノボ製品の修理ラインは分かれており、担当者もレノボライン向けに専任者を増員した。加えて、新たな取り組みとして、統合テストツールの開発やNECで培った修理履歴管理システムをレノボ向けにも転用するなどし、生産性やスタッフのスキル向上を図った。

レノボ製品の修理にNEC PCで培ったシステムを転用した

 NEC PC製品については、コンシューマ向けのみを取り扱っており、企業向けはNECフィールディングが保守を担当している。一方、レノボ製品については、コンシューマ向けも企業向けも群馬事業場にて対応している。

 企業ユーザーの場合は、異なるマシンでも対応を均一化する必要があったり、複数のマシンを一括して返却したりと、個人ユーザーとは異なる対応が求められるため、大手顧客に対しては、専用の修理ラインも設置した。

 保守、修理をするなかで得られた知見は、レノボの大和研究所にもフィードバックし、製品品質の改善にも寄与している。また、群馬事業場で開発した修理履歴管理システムは、日本以外のレノボの拠点にも展開させており、同事業場は、保守サービスのマザーサイトとなることを目指すなど大きな意気込みを持っている。

群馬事業場での修理情報はレノボの大和研究所にもフィードバックし製品品質の改善に役立てている
NEC・Lenovoグループでのサービスマザーサイトを目指す

 そして、レノボ製品の取り扱いから約2年が経ち、現在では、修理時間は約半分に短縮され、修理品の着荷から返送までが最短で1日になるケースも増えてきた。また、修理品質(再修理率)も約40%改善された。

修理時間、修理品質を大幅に改善した

 修理量の予測にもとづくリソース割り振りや、変動対応力、スタッフのマルチスキル化、企業ごとの対応の個別化などの課題も残るが、向こう1~2年の内に、NEC PC製品と同等のレベルまで持って行き、レノボ製品でも公式に「1日修理」を掲げたいとする。

着荷から出荷までの一連の流れを写真で紹介

 それでは、じっさいの修理の流れを写真で紹介しよう。今回は、レノボ側で事前に用意した不良品を修理しているが、修理担当者には不具合の内容などは伝えられないまま、通常の流れに沿って修理を行なってもらった。結果としては、11時頃から開始した修理は、14時頃には完了し、その日の夕方の出荷に間に合うかたちで修理が完了した。

群馬事業場にはコールセンターもある
着荷した修理品。引き取り修理サービスを利用すると、このような梱包箱に入れられて届く
伝票を読み取り、個別のバーコードシールを発行
バーコードシールを箱に貼り、開梱
今回は正規の箱に入れられていたが、箱がなくても引き取りできる
引き取り時に外見の傷などはユーザーとともに確認されるが、着荷時にも点検を受ける
引き取り時の内容確認表
この表と内容物に相違がないかも点検
各作業ポイントにはカメラが設置、録画されており、万が一作業中に何かを欠品させても後から確認できる
修理に入る前に、より細かいチェックシートで同梱品や傷の有無などを再チェック
次に、修理DBに登録を行なう
今回は1台だが、製品シリーズごとに棚を分けて集め、修理ラインへと運ぶ
修理ライン
ここでも同梱品の伝票と再度付け合わせ
ACアダプタやバッテリのシリアル番号も控える
傷の有無の再チェック
今回の症状は電源が入らないというもの。画面は映らないがビープ音は鳴る。ここで、担当者はマザーボードの異常だろうと推測した
不具合情報のDBも用意されており、製品ごとなどで、各症状に対して問題の原因を調べられる
修理傾向分析のグラフなども見ることができる
保守部品の倉庫に対して、交換用のマザーボードの発注をかける。発注からパーツが届くまでの平均時間は約12分。というのも、だいたい原因の診断にかかる時間が15分で、この間に別のマシンを診断し、パーツが届いたら、もとのマシンの作業を続けられるようにするためだ
修理ラインのリーダーはマシンごとに修理状況を15分単位で把握できる。この情報はユーザーもオンラインで確認できる
ユーザーが報告した症状が再現しないこともある。そういう場合は、恒温槽で温度状況を変化させて確認する
取材中も1台のマシンが恒温槽でチェックにかけられていた
症状が出ない場合に負荷テストも実施する。
CPU、メモリ、ストレージなどに同時に負荷をかける
保守部品倉庫
修理ラインから届いた発注書
棚から指定のパーツを取り出す
ピックアップしたパーツの登録
これを要求があった修理ラインへと運ぶ
修理ラインに交換部品が届いたので、修理作業を開始
順番に裏蓋を開けていく
HDD、光学ドライブ、無線モジュールなどを取り外し
キーボードも取り外し。じつは修理治具には市販品も活用している。ここでは、キーボードに傷をつけないよう外すために、ギターピックを使っている
マザーボードを取り外す
マザーボードを取り外した
これもシリアルを控える
新しいマザーボードと取り替える
逆の手順で元どおりに組み立てる
修理が終わったものも、傷などがついてないか再度確認
起動すると、無事画面が出た。担当者の予想どおり、原因はマザーボードにあった
OSも無事起動
統合テストツールの入ったCD-ROM
統合テストツールの起動画面
画面が出ないという問題は解決されたが、改めてすべての機能に問題がないかをチェックしていく。これはキーボードのチェック画面
映像がきちんと表示されるか、ドット抜けがないかなどもチェック
すべてのUSBポートに周辺機器を接続して、動作チェック
SDカードスロットのチェック
トラックパッドのチェック
オーディオのチェック
ネットワークテスト
すべての機能チェックが終了したら、負荷テストを実施
テストも問題なく終了したら、出荷の棚に載せる
着荷場所に戻ってきた修理品は、再度欠品がないかなどを出荷担当者が検査
丁寧に拭き掃除も行なう
同じ宅配用の箱に入れ、晴れてユーザーのもとに戻っていく。ここまでの工程にかかった時間は約3時間程度だった