大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

なぜパナソニックの充電池が「エネループ」ブランドに統一されたのか?

 パナソニックは、充電式ニッケル水素電池「エネループ」の新製品を、4月25日に発売。それにあわせて、「エネループ」と「充電式エボルタ」の2つの国内向け充電池ブランドを「エネループ」に一本化する。

 エネループを生み出した三洋電機は、2009年にパナソニックに買収され、2011年には完全子会社化。それ以降、パナソニックでは2つの充電池が販売され続けてきた。

 今回の充電池ブランドの一本化によって、乾電池は「エボルタ」、充電池は「エネループ」という棲み分けが行なわれる。なぜ、いまエネループにブランドが統一されたのだろうか。

新たなエネループは両方のスペックを維持した

異例とも言える2つのブランド展開

 エネループは、三洋電機時代から、高い人気を誇るニッケル水素充電池だ。

 2005年11月の発売以来、使って捨てるという乾電池の使い方からの脱却を提案し、何度も繰り返し使うという新たなライフスタイルを打ち出したエネループは、環境に配慮した電池として、あるいは経済性の高い電池としても注目を集めてきた。エネルギー価格が高騰する現在でも、4本充電するのに約1円という経済性の高さは魅力だ。

 また、従来はパワーや容量を訴求するために、赤や黒のカラーを使用し、力強さを前面に打ち出したデザインが主流だった電池に、対極とも言える白と青を使用したデザインを施したことでも話題を集めた。

2013年以降はエネループと充電式エボルタの2つのブランドで展開

 実は、エネループの人気には、このデザイン性の高さや、洗練されたロゴマークが大きく貢献している。実際、2013年4月に国内で販売されるエネループ本体のロゴが「eneloop」から「Panasonic」に変更されたときには、それを残念がるユーザーの声が相次いだほどだ。

 一方で、充電式エボルタは、最初の「エキセル乾電池」の発売から、今年で100年の節目を迎えるパナソニックの乾電池事業の流れを汲むエボルタブランドの充電池として登場。

 2008年に発売して以降、国内市場向けに販売を継続してきた。乾電池を「エボルタ」、充電池を「充電式エボルタ」とし、2つの製品でコンシューマ向け電池事業を展開してきたのだ。

 だが、パナソニックによる三洋電機の買収によって、エネループが加わり、充電池の部分が重複することになった。

 パナソニックと三洋電機の製品が同一分野だった場合、製品統合やブランドの廃止などが進められてきたが、充電池においては、双方を併売することにより市場シェアが拡大し、この分野でトップシェアを維持できると判断。2つの充電池ブランドによる商品展開が行なわれてきた。これは異例と言えるものだった。

 ただ、「エボルタ」をサブブランドと位置づける一方、「エネループ」はその下の階層であるプロダクトネームに位置づけるなど、社内での扱いには差があった。だが、充電池としての国内認知度はエネループの方が高く、ピーク時には80%の認知率があったほどだ。

パナソニックのコンシューマ向け電池事業の方向性

 もうひとつ見逃せない動きが、海外では先行する形で、充電池ブランドをエネループに一本化していた点だ。

 パナソニックの充電池事業は、2014年以降、かねてからエネループが高い評価を得ている欧州市場を中心に、世界約80カ国でエネループブランドによる展開にほぼ一本化。

 しかも、海外販売されているエネループは、三洋電機時代と同様に、電池本体に「eneloop」のロゴが大きく表記されたものが販売されており、従来からの継続性を維持したまま、現在でもブランド訴求活動が行なわれている。

10年目の節目でブランドを一本化

 パナソニック社内では、かなり前から、充電池のブランド統一に向けた議論が行なわれていたという。
その背景には、販売店やエンドユーザーからも、エネループと充電式エボルタの違いが分かりにくいといった声や、どちらを選べばいいか分からないといった声が多く、市場で混乱を招いていたことが挙げられる。

 パナソニックでは、エネループでは繰り返し使用できる回数が多いという観点から「長持ち」を訴求。充電式エボルタは容量が大きいため、1回の充電による使用時間が「長持ち」することを訴求していた。

 だが、その差が販売店やユーザーには、明確には伝わっていなかった。

 さらに、充電池という同じカテゴリの商品でありながらも、それぞれに訴求ポイントが異なるため、充電池そのものの特徴や魅力を伝えることが疎かになり、充電池需要を減少させるというマイナスの状況も招くことになった。これも2つのブランドを持つがゆえの課題だったと言える。

 また、乾電池としてはハイエンド商品として訴求しているエボルタが、充電池ではお手軽モデルに位置づけられており、ブランド戦略において整合性が取れていないという課題も生まれていた。

 一本化するのであれば、充電式エボルタとエネループのどちらかに製品を絞り込むことになる。一部には、充電式エボルタを残すという案もあったようだが、議論の流れはエネループに統合するという方向で進んでいったという。

 エネループの技術進化の歴史や、市場認知度の高さ、数多くの賞を国内外で受賞していることなどが、そうした流れを作ったと言えるだろう。

エネループの歴史
パナソニックの充電池の歴史

 ブランド統一が最終的に決定したのは約1年前だという。

 振り返ってみると、エネループは、2013年3月まで、三洋電機のブランドで国内販売されており、2013年4月から、パナソニックブランドにリニューアルした。今回のブランド統一は、それから10年の節目のタイミングで行なわれたといった点も見逃せない。

第5世代のエネループに進化

 エネループは、2005年に発売以来、単3形では1,900mAh、単4形で750mAhという容量にずっと変化がない。

 「1900mAhという容量は、サイクル回数や自己放電率を始め、電池に要求される用途や性能として、最もバランスがいいものであるものとして設定してきた。そのため容量はずっと変化させてこなかった」という。

 エネループの進化の指標は、サイクル数の増加で示されている。

 2005年の第1世代では1,000回(旧JIS規格)だったサイクル数は、2009年の第2世代では1,500回、2011年の第3世代では1,800回、そして、2013年の第4世代では2,100回に増加させた。

 その後、2015年の進化はサイクル回数は増やさずに、自己放電(残存率)をそれまでの5年間で70%から、10年間で70%に改良しており、ここは第4.5世代と言えるものになっている。

 2016年には、長期放置後の放電時の作動電圧の改善にも取り組んでいる。

 そうした流れからみると、今回の新たなエネループは、第5世代と位置づけられるものになる。
サイクル数は2,100回(新JIS規格では600回)を維持。そして、エネループとしては初めて容量を向上させて、単3形では2,000mAh、単4形では800mAhとした。

 これは、今回のブランド一本化において、充電式エボルタのスペックであった単3形で1,950mAh、単4形では780mAhの容量を超えることが大切だったからだ。

 繰り返し回数を減らすことなく、容量を向上させることで、エネループと充電式エボルタの両方の性能をカバーしたことになる。

 新たなエネループは、第5世代へと進化させ、そこに充電式エボルタの性能を取り込んだ構図になっている。

繰り返し回数を維持して容量を向上

 繰り返し回数を維持しながら、容量を高めるために、エネループの開発チームは、新たな挑戦もしている。

 「エネループには、2,500mAhの大容量モデルのエネループプロがあり、大容量化するだけならば難しくない。だが、容量を高めながら、サイクル数を維持するための工夫を凝らした」という。

 開発チームは、新たな正極を開発。正極活物質と添加剤の適正化により、繰り返し使用時の電解液消費を減少させる一方、負極の材料の適正化により、ガス吸収性を向上。

 さらに、電解液の組成を改良し、電極材料の劣化を抑制した。その結果、乾電池感覚で繰り返し使えるエネループの良さをそのままに、充電式エボルタを凌ぐ容量を実現したのだ。

 開発は2019年からスタート。約3年をかけて、この技術を完成させることができたという。

 新たなエネループは、正極の部分を上から見ると、絶縁リングの部分の色がグレーから白に変わっているという。第5世代エネループは、ここで区別することができる。

 また、欧州市場においては、すでに1年前から、第5世代エネループの販売を開始しているという。この点については、これまでに正式な発表がなかったが、すでに量産の実績があるという裏づけにもなる。

ブランド統一だけでなく、復活したエネループも

 エネループへのブランド一本化に伴い、パナソニックでは製品ラインナップを一新している。

エネループの新ラインナップ

 主力となるスタンダードモデルは、これまでに触れてきたように、従来のエネループと、充電式エボルタを、エネループブランドの1つの製品に置きかえた。

 単3形では2,000mAh、単4形では800mAhの容量とし、繰り返し回数は2,100回を維持。新JIS規格では600回となり、これは従来のエネループと同等となっている。白地に青のPanasonicロゴが入っているのも同じだ。

 ハイエンドモデルのエネループプロは、従来製品の販売を継続。スペックにも変更がなく、単3形で2,500mAh、単4形で930mAhとなっている。

 ただ、環境に配慮した紙(エシカル)パッケージを採用しており、包装材料は45~70%削減しているという。

パッケージも刷新した

 お手軽モデルと位置づけているのがエネループライトである。実は、この製品は、2018年に一度販売を終了しており、今回、5年振りに復活した。

 第5世代に進化したことで、容量は単3形で1,050mAh(従来は1,000mAh)、単4形では680mAh(同650mAh)へと向上。繰り返し回数も1,500回(新JIS規格)となっており、従来の1,200回から増加している。

エネループの進化

 そして、単1形と単2形は、これまではエネループのようなデザインを採用していながらも、エネループの中には含まれていなかった商品だ。

 今回の製品ラインナップの一新にあわせて、エネループブランドに変更。単1形の容量は5,700mAhから6,000mAhへと向上。単2形でも3,000mAhから3,200mAhへと増えた。サイクル回数は新JIS規格で600回を維持している。

 さらに、今回の製品ラインナップの一新にあわせて、樹脂パッケージであったものをエシカルパッケージに変更。充電器とのセットモデルも引き続き用意しており、こちらは再生PETを継続的に使用しながら、製品特徴が分かりやすいパッケージへと変更している。

パナソニックの電池事業は加速するか

 ハイエンド乾電池が「エボルタNEO」、充電池は「エネループ」という形に整理されたことで、充電池のマーケティング戦略にも統一性が出ることになる。

 たとえば、エネループには使用できても、充電式エボルタでは使用できなかった「充電しておけば10年後でも約70%の容量をキープし、乾電池のように使える」、「グリーン電力認証制度を活用し、出荷時の充電に太陽光発電エネルギーを活用して充電している」、「電池の外装は抗菌加工しており、家族間での使用や、多人数が使うオフィスでの使用にも適している」というメッセージは、今後パナソニックの充電池の統一メッセージとして利用できるようになる。

 また、乾電池のエボルタNEOは、一回の使用で「長持ち」を訴求し、充電池のエネループは繰り返して「長持ち」といった、それぞれの特性を捉えながら、価値訴求において共通メッセージを打ち出すこともできる。

 今回のエネループへのブランド一本化は、パナソニックの電池事業全体に弾みをつける上でも、追い風になる判断だと言える。