大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

コロナ禍のパソコン市場でなにが起きているのか? 5つの「緊急事態」が国内市場を直撃

GIGAスクールによって需要が増大しているChromebookは量販店での存在感はまだ低い

 2020年度上期(2020年4~9月)が、まもなく終わろうとしている。2020年度上期は、新型コロナウイルスの感染拡大によって社会は大きく変化し、働き方が変わり、新たな生活様式が浸透した。

 それにともない、テレワーク需要やGIGAスクール需要が拡大し、パソコンの価値が再認識され、国内パソコン市場は、業界関係者の想定を大きく上回る出荷実績を達成した。その点だけを見れば、パソコン業界全体では明るい結果が出ていると言っていい。

 だが、取材を進めると、そのなかで、「緊急事態」とも言える状況が相次いでいることもわかった。それは、「日本のパソコン業界が経験したことがない5つの出来事」と言い換えることができ、今後の業界勢力図にも影響を及ぼすものだと言える。

 コロナ禍の国内パソコン市場で、なにが起きているのだろうか。国内パソコン市場のいまを追ってみた。

すべての業界関係者が予測を外した2020年度上期

 2020年度上期の国内パソコン市場において、最大の「緊急事態」は、パソコン業界のすべての関係者が、誰一人として、予測を当てることができず、計画どおりに物事を進められなかったことだ。しかも、需要予測だけでなく、調達計画や生産計画、在庫予想、販売予想のすべてが外れている。

 あるパソコンメーカー幹部は、「2020年に入ってから、予測や計画はなに1つ当たっていない。自信をなくすほど」と、自虐的に笑って見せる。

 すでに本誌でも伝えたが、IDC Japanが発表した2020年4~6月におけるパソコンの国内出荷台数は、前年同期比0.7%減の396万台となった(史上初、レノボなど外資系パソコンブランドが上位3位までを独占参照)。前年同期比微減という実績は、誰もが予想をしなかった健闘ぶりだ。

 もともと2020年度は、2020年1月のWindows 7のサポート終了に伴う特需の反動で、大幅な出荷減少が見込まれていた。

 業界団体である一般社団法人電子情報技術産業協会は、毎年2月に、通称「黒本」と呼ばれる「AVおよびIT機器の世界需要動向調査」を発行しているが、ここでは、前年比33.4%減の985万台にまで減少すると予測されていたほどだ。

 つまり、市場規模は3分の2にまで減少するというのが、年初での前提だった。

 この予測値がまとめられたのは、2019年後半であり、その時期には、政府のGIGAスクール構想が、まだ固まっていなかったこと、当然のことながら、新型コロナウイルスの感染拡大の影響は想像さえもできない段階であり、これだけ一気にテレワークが浸透することも想定外である。

 だが、業界団体が示したように、もともとは、これだけ大幅な減少が想定され、それが市場動向を見る上での基本姿勢であったものの、そこにGIGAスクール構想が加わり、テレワーク需要が加わったことで、結果は想定を大きく上回るものとなったのだ。

伸びる市場と縮む市場の大きな格差

 ただ、より注目しておかなくてはならないのは、その中身だ。1つは、法人市場および家庭市場の動きが、いずれも想定外であったことだ。

 IDC Japanの4~6月の調査では、法人市場は前年同期比17.0%減の237万台、家庭市場は40.7%増の159万台となった。実は、IDC Japanの調査では、法人市場のなかには、GIGAスクール構想による教育分野向けパソコンの数字が含まれている。

 同社の調査では、それ以上の数値を明らかにしていないために、各社への取材をもとに推測するしかないが、需要が増加した教育向けパソコンを除いた、大手企業や中堅中小企業、官公庁といった法人向けパソコンは、前年実績の3分の2程度にまで落ち込んでいると見られる。

 その一方で家庭向けパソコンは、在宅勤務の増加によるテレワーク需要に支えられて、4割も増加しているのだ。

 業界全体のトレンドは、家庭向けパソコン市場は今後も大きな成長は見込めないというものだった。そうした前提において、法人向けパソコン市場は3割以上も下がり、家庭向けパソコンは4割も増えた。これまでのパソコン業界の歴史を見ても、業界の予想を覆すかたちで、ここまで需要が極端に「振れ」たことはなかったと言える。

 もう1つは、ノートパソコンの構成比が上昇したことだ。

 JEITAの国内パソコン出荷統計によると、2019年度(2019年4月~2020年3月)のノートパソコンの構成比は72.9%だった。2014年度以降、ずっと70%台前半から中盤で推移している。2013年度には70%を切っていたほどだ。月別推移を見ても、2020年3月までは70%台で推移していた。

 だが、2020年4~6月のノートパソコンの構成比は82.8%と、これまでに例がないほど高まっている。

JEITAによるノートパソコンの月別構成比

 出荷台数を前年同期比で見ると、ノートパソコンは3.6%増となっているのに対して、デスクトップパソコンは、38.7%減という結果だ。

 ちなみに、前年同期はすでにWindows 7特需や消費税導入前の駆け込み購入がはじまりつつあり、パソコン市場全体で前年同期比35.5%増という高い成長を記録していた。もともとは低迷すると見られていた状況において、今年(2020年)のノートパソコンの出荷台数は、前年の高い実績を上回る結果になったのだ。

 ノートパソコンの増加の背景には、テレワークにおいて、ノートパソコンを選択する動きが顕著だったこと、そしてGIGAスクール構想では、導入対象となるパソコンが2in1となっていることが影響している。

 ここでも、ノートパソコンは3割減という想定をいい意味で裏切り、前年実績を上回る需要となり、デスクトップパソコンは約4割減となっている。ここでも予想外の極端な需要の「振れ」が出ているのだ。

パソコンメーカーのシェアが大きく変動

国内PC市場ブランド別シェア(日本HPの資料より)

 想定外の需要は、日本だけではない。グローバルでも同じことが起こっている。

 IDCの調査によると、2020年4~6月の全世界のパソコン市場は、前年同期比11.2%増の7,230万台と2桁成長を記録。同社では、これが当初の予想を超える需要となっていること、なかでもビジネスや学校での継続性を維持するために、ノートパソコンの需要が高まっていることを示している。

 こうした想定外の状況においては、各社の対応力がそのままシェアに反映されやすい。いわば、調達力、生産力、販売力、そしてなかには政治力といったものが影響して、シェアが変動することになる。

 実際、コロナ禍の国内パソコン市場は、パソコンメーカーのシェアが大きく変動した。これが、2つ目の出来事だ。

 IDC Japanの調査では、Lenovo傘下のレノボ・ジャパン、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)、富士通クライアントコンピューティング(FCCL)を1つのグループとしてカウントしており、この3社で、40.9%と圧倒的なシェアを持っていることがわかる。

 同社が公式に発表しているのはこの数字だけだが、パソコンメーカー各社の取材を通じて、これをブランド別に見てみると、大きな変化が起こっていることがわかる。

 首位は日本HP、2位がレノボ・ジャパン、3位がデル・テクノロジーズとなっているのだ。しかも、首位の日本HPの17.1%と、3位のデル・テクノロジーズの16.2%までの差はわずか0.9%。1%以内に、3つのパソコンブランドがひしめく激戦となっている。

トップシェアを維持した日本HPのPC

 前述した既報の記事で伝えたように、トップ3のなかに富士通やNECといった国内ブランドが入らなかったのは史上初のことだ。そして、この3位までの順位はグローバルでの順位と同じだ。IDCによると、2020年4~6月のグローバルのシェアは、HPの25.0%、Lenovoの24.1%、デル・テクノロジーズの16.6%の順となっている。

 ここから推測されるのは、グローバルでの大規模な出荷実績を持つパソコンメーカーが、その調達力を活かしたビジネスを展開したという点だ。

 IntelのCPUは相変わらず逼迫した状況が続いている。そして、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、今年前半には中国の生産拠点が相次いでロックダウンし、3月以降はその影響がアジアに伝搬し、生産拠点が閉鎖されたり、フル生産ができなかったりという状況が長く続いていた。

 パソコンを構成する部品の調達に支障が生まれるなかで、需要は予想を上回るものとなっている。しかも、家庭向けパソコンの需要が増加し、ノートパソコンの需要が高まるという予想外のモデルミックスも発生している。

 コロナ禍において、まさに各社の調達力が試された四半期だったと言っていいわけだ。

 実際、IDCのグローバルの集計では、各社によって差は生まれているものの、上位5社の合計は前年同期比12.3%増と市場平均を上回っているのに対して、6位以下のメーカーの合計は6.8%増にとどまっており、大手メーカーが調達力を活かして成長したことがわかる。

 国内パソコン市場のブランド別順位において、グローバルと同じ構成になったのははじめてのことだが、これは今回かぎりの一過性のものではないとの見方が少なくない。今後グローバルトップ3が、日本でも上位を独占し続ける時代が訪れるかもしれない。

GIGAスクール構想がパソコン需要を牽引

 2020年度の国内パソコン市場を俯瞰する上で、重要な要素となるのが、GIGAスクール構想である。これが3つ目の出来事だ。

 GIGAスクール構想では、児童生徒に1人1台のパソコンを整備することになるが、当初は2023年度までに整備をする予定を、政府は前倒しで進めることを決定。9月11日に文部科学省が発表した計画では、2020年度中に自治体全体の99.6%で整備を完了することになるという。まさにパソコン市場にとっては、大きな特需とも言える状況が生まれているが、これも、パソコン業界にとっては、想定外の出来事だ。

 2020年4~6月では、パソコン市場全体の約1割がGIGAスクール構想に関する実績との見方が支配的だが、この構成比は下期にかけて一気に増加することになるのは確かだ。

 試算では、最大で約950万台の需要が上乗せされるとの見方がある。Windows 7特需に沸いた2019年度の国内パソコン市場の出荷実績が1,530万4,000台(MM総研調べ)だったことと比較しても、年間総出荷台数の6割に匹敵する需要が新たに創出される計算だ。

 だが、文部科学省の発表では、2020年8月時点で納品が完了しているのは、1,811自治体のうち、2.0%の37自治体にとどまっており、整備目標から大きく乖離している。

GIGAスクールの納品完了時期
GIGAスクール構想の都道府県別納品完了時期

 パソコン業界からも、製品の調達状況などを考えれば、全自治体の99.6%という整備目標の達成は難しいという声も聞かれる。文部科学省による調査でも、12月までに納品が完了しないとする自治体の割合が全国の過半数以上を占めているのが実態だ。

 ここでの課題は、2020年度内に、教育分野向けにどれだけのパソコンを調達でき、それを納品できるのかが、これからのポイントになる。

GIGAスクールに慎重な姿勢を見せるパソコン業界

 ただ、GIGAスクール構想に対するパソコン業界の対応は、慎重であることも感じられる。ある業界関係者は次のように話す。

 「GIGAスクール構想によるパソコン導入は、長年にわたり、自治体とビジネスをしてきた地元ディーラーが窓口になることが多い。だが、世界規模で想定以上のパソコン需要があること、コロナ禍でサプライチェーンが分断されていたことを考えると、確実にパソコンを供給できるかどうかといった点に不安がある。

 仮に受注をしても、約束の期間内に納品ができないようだと、窓口となったディーラーが責任を負うことになり、場合によっては、今後の取引関係に影響を及ぼすという事態も想定される。地元ディーラーにとっては死活問題につながる可能性すらある。

 そのため、確実に納められる量だけを受注するということになり、見込み受注を背景に、部品や完成品の調達を増やすといったことができない。その点では企業からの受注よりも、慎重にならざるを得ない」。

 たとえば、見込み受注をベースにすれば、部品の調達量や生産量を増やしたり、海外からの振り分け量を増やしたりといったことができるが、確実に納品できることが約束できない分までを受注することは、販売現場の混乱を招くことにつながりかねないというジレンマがある。パソコン業界は、大きな需要を前に、アクセルとブレーキの踏み方に苦慮しているのが実情だ。

GIGAで躍進するChromebook

 一方、GIGAスクール構想による教育市場へのパソコン導入において、大きな変化が起こっている点が見逃せない。それは、Chromebookの躍進である。日本のパソコン市場がはじめて体験する4つ目の出来事である。

 GIGAスクール構想では、導入するパソコンおよびタブレットの仕様が決められており、Windows機、Chromebook、iPadが導入対象となっている。

 これらの構成比は明らかにはなっていないが、パソコンメーカーやシステムインテグレータなど、教育現場に近いところの声をまとめると、Windows機、Chromebook、iPadの構成比は、ほぼ均等だという。特定市場とは言え、ここまでChromebookが存在感を発揮するのははじめてのことだ。

 Googleによると、Chromebookは全世界で約4,000万台が教育分野で利用されており、米国やニュージーランド、スウェーデン、カナダ、オランダでは、Chromebookが教育分野でもっとも利用されているデバイスになっているという。

 Googleが開設したアプリ開発者向けサイトのChromeOS.devによると、米国における2020年3月~6月のChromebookの販売台数は前年比127%増と、2.3倍にも急拡大しているという。

 これは、それ以外のノートパソコンが40%増であることに比較すると、約3倍の伸びであり、教育分野だけでなく、コロナ禍において、自宅で仕事をするさいのデバイスとしての導入も促進されていることが背景にあるようだ。想定以上の成長に、米国においては、Chromebookの品薄が続いている状況だという。

 Googleでは、日本のGIGAスクール構想における導入に向けて、GIGAスクール構想に対応したGoogle GIGA School Packageを用意しており、1台45,000円の補助に合致する提案が可能であったり、管理性に優れていること、クラウドベースの汎用性を実現し、いつでも、どこでも、どのデバイスからも、安全にアクセスできるといった点を訴求。これが教育現場から受けているという。

 この影響は、家庭向けパソコン市場にも少しずつ表れている。全国の主要量販店の販売データを集計しているBCNによると、2020年8月には、Windowsパソコンが前年同月比15%増であったのに対して、Chromebookは71.3%増と大きな成長を遂げている。学校で導入されているパソコンと、同じ環境を子供にも与えたいという動きが見られている。

 とは言え、この数字を鵜呑みにするわけにはいかない。むしろ、量販店における存在感はまだまだ薄い。BCNのデータによると、2020年8月のノートパソコン市場におけるOS別構成比は、Windowsが79.9%と圧倒的で、次いでMac OSが19.1%を占めている。Chrome OSはわずか1.0%でしかない。

【表1】ノートパソコンの搭載OS別販売台数構成比推移
年月Windows 10macOSChrome OS
19年08月82.5%16.8%0.7%
19年09月83.7%15.8%0.5%
19年10月80.1%17.8%2.1%
19年11月82.2%16.1%1.8%
19年12月84.2%14.0%1.8%
20年01月88.8%10.5%0.8%
20年02月81.7%16.7%1.6%
20年03月81.7%14.4%3.9%
20年04月89.0%9.3%1.6%
20年05月82.3%16.9%0.7%
20年06月76.1%22.8%1.1%
20年07月77.9%21.1%1.0%
20年08月79.9%19.1%1.0%
【表2】ノートパソコンの搭載OS別販売台数前年同月比
年月全体Windows 10macOSChrome OS
20年08月109.9%115.0%136.7%171.3%

 学校へのChromebookの浸透な勢いが増すことで、量販店市場でのシェアを伸ばすことができるのかが、これからの注目点になると言えよう。

GIGAスクール構想への対応差がシェアに影響?

 2020年度において、国内パソコン市場の需要の目玉となるGIGAスクール構想は、パソコンメーカー間のシェア争いにも影響を及ぼすことになりそうだ。

 その影響は、2020年4~6月で、すでに表面化している。

 この期間において、ブランド別上位5社のうち、市場全体でシェアを伸ばしたのは、レノボ・ジャパンとデル・テクノロジーズの2社。一方で、シェアを落としたのは首位の日本HPと、富士通クライアントコンピューティング、NECパーソナルコンピュータの3社だ。

 レノボ・ジャパンは、企業のテレワーク需要を的確に捉え、企業向け需要でもっとも高い成長率を達成したが、GIGAスクール構想向けにも余念のない準備を進めてきたことが功を奏した。

 同社のデビット・ベネット社長の音頭取りで、早い段階からGIGAスクール構想における需要にフォーカスしたモノづくりを推進。NTTコミュニケーションズとともに、44,990円で導入できる「GIGAスクールパック」を、Windowsだけでなく、Chrome OSでも用意。現場の選択肢を広げるといった手も打ってきた。GIGAスクール構想にもっとも適したパソコンを、幅広いラインナップで用意したことがプラスになっている。

 また、デル・テクノロジーズも、Windowsパソコンだけでなく、ChromebookをGIGAスクール向けに用意。とくに、Chromebookの分野で存在感を発揮して見せた。

 これに対して日本HPは、IDC Japanが「GIGAスクール構想向けの出荷がなかったために競合と比較して不調だった」と指摘したように、GIGAスクール市場で遅れを取ったのが、シェア減少の理由となっている。

 HPは、米国の教育市場において高いシェアを獲得。とくにChromebookでは、米教育市場でトップシェアを獲得している。また、テレワーク需要が拡大するなか、欧米市場でChromebookを導入するといったトレンドにも対応してきた。

 しかし、日本ではこれまでChromebookの実績が低かったこともあり、多くの実績を持つ欧米市場に、品薄状態にあるChromebookが優先的に供給され、その結果、日本のGIGAスクール構想への対応が遅れたと見られる。

 富士通クライアントコンピューティングは、Chromebookを製品化していないこと、NECではGIGAスクール構想向けにChromebook は出荷したものの、同構想に対応したWindowsパソコンの出荷が9月以降となったことがマイナスに影響している。

 つまり、これらのパソコンメーカーは、GIGAスクール構想の需要において、Windowsパソコン、あるいはChormebookのいずれかしか、ラインナップできない状態だったとも言え、iPadの市場までを含めると、GIGAスクール需要においては、約3分の1の市場でしか、ビジネスができなかったとも言える。3分の2の市場はビジネスの範囲外としてあきらめざるを得ない状況だったのだ。

 今後、GIGAスクール構想による需要が拡大するなかで、各社のラインナップや供給体制はどうなるのか。これが、パソコンメーカー各社の勢力図に影響を与えるのは必至だ。

NECとレノボの立場が逆転

 そして、最後の1つはNECパーソナルコンピュータを取り巻くはじめての出来事だ。

 IDC Japanをもとにしたブランド別シェアでは、2位にレノボ・ジャパンが入り、NECパーソナルコンピュータは5位となった。
これは、NECレノボ・ジャパングループになって、はじめて、NECのシェアを、レノボが上回ったことになる。

 2011年7月に、NECレノボ・ジャパングループのジョイントベンチャーがスタートした当時は、国内トップのNECのシェアが20%強、レノボのシェアは5%程度だった。その後も、NECがずっとレノボを上回るかたちで推移しており、2020年1~3月まで、その状況は変わらなかった。

 だが、2020年4~6月で、この関係がはじめて逆転したのだ。

 これまで触れてきたように、想定外の出来事が相次ぐなかで、レノボ・ジャパンは、テレワーク需要やGIGAスクール構想による需要をうまく捉えて、シェアを拡大させた。

 また、NECパーソナルコンピュータの米沢事業場では、ThinkPadシリーズに加えて、法人向けデスクトップ「ThinkCentreシリーズ」のCTO生産を開始。サポート拠点である群馬事業場では、レノボブランドパソコンの1日修理率を95%にまで高め、さらにキッティングを行なえることができるエリアを新設しており、レノボ・ジャバンが目指す「JAPAN MADE & SUPPORT」の体制を着実に強化している。レノボ・ジャパンのパソコンの販売を拡大するための体制づくりが着実に進められているのだ。

NECパーソナルコンピュータの米沢事業場ではレノボのPC生産が拡大している

 レノボとNECによるジョイントベンチャーは、これまで明らかにしている契約内容では、2026年6月30日までは、その内容が自動延長されることなっている。

 つまり、2026年6月までは、NECレノボグループを通じて、NECブランドのパソコンが、国内で販売されることが決まっている。だが、その先については未定だ。

 今回はじめて、マジョリティとマイノリティの立場が逆転したことで、長期的視点では、これが6年後の判断にどうつながるのかも気になるところだ。

 2020年度上期の国内パソコン市場において、相次いだ新たな出来事は、これからの「ニユーノーマル」として定着するのか。いずれにしろ、2020年度上期に、市場勢力図が変化しはじめたのは確かである。