大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

教育市場で快進撃を見せるデル。その強さの秘密は?

教育市場におけるデルの存在感

 デル・テクノロジーズが、教育市場で存在感を発揮している。GIGAスクール構想によって、小中学校へのパソコンの導入が促進されるなか、デルでは、WindowsおよびChromebookの2つの製品ラインアップを用意。米国における教育分野での実績や、グローバルでの製品供給力を生かして、一気にシェアを高めている。

 とくにGIGAスクール構想においては、50%のシェアを占めているともされるChromebookでの提案を加速していることが特筆される。デルの教育分野における取り組みを追った。

GIGAスクール構想をきっかけに教育市場を強化

 これまでのデル・テクノロジーズの国内パソコンビジネスを俯瞰すると、教育市場は決して得意としていた領域ではなく、とりわけ小中学校分野では、それほど多くの導入実績を持っていたわけではなかった。

 だが、政府が打ち出した児童生徒に1人1台を整備するGIGAスクール構想をきっかけに、教育分野における同社の存在感は一気に増してきた。

 すでに、GIGAスクール関連案件として、姫路市教育委員会で3,100台、有田町教育委員会500台、守山市教育委員会様637台、鴻巣市でも8,509台などの導入が決定しており、さらに大規模な導入案件も進んでいるという。

デルの導入事例

 では、なぜ、ここにきてデルの教育分野における取り組みが加速しているのだろうか。

 取材を進めてみると、いくつかの要因があることがわかった。

需要を的確に捉え着実に納品

 1つは、GIGAスクール構想の需要を的確に捉えていたということだ。

 政府が、GIGAスクール構想の実現に向けて、2019年度補正予算案を閣議決定したのが、2019年12月。それまではパソコン業界全体でも、2020年のパソコン需要に、これがどれほどの影響を及ぼすのかは、どちらかというと懐疑的な見方が多かった。大手パソコンメーカーも、それほど本腰を入れる状況ではなかったのが正直なところだった。

 だが、1台あたり4万5,000円の補助が行なわれるなど、その概要が明らかになるに従い、市場への影響が大きいことがじょじょに理解され、さらに、新型コロナウイルスの影響によって、当初は2023年度までに整備をする予定が、2020年度中の整備へと前倒しされたことで、わずか数カ月の期間のうちに、状況は一変した。

 少なく見積もっても750万台以上の新たな需要が創出され、なかには920万台の需要が見込まれるとの試算も出ていたほどだ。Windows 7のサポート終了に伴い特需があった2019年度の年間出荷台数が1,530万台であり、特需に沸いた1年の半分に匹敵する需要が、2020年度に新たな生まれることになったのだから業界内は大騒ぎになった。

 もともと2020年度は、Windows 7の買い替え特需の反動で需要が低迷すると見られていたことで、国内パソコンメーカー各社は、慎重な生産計画を策定。さらに、継続的なインテルCPUの供給不足や、新型コロナウイルスの影響によるサプライチェーンの分断などもあり、GIGAスクール構想向けのパソコンの供給は遅れがちになっていた。

 しかし、こうした状況のなかで、ロケットスタートを切ったのが、デルであった。

 先に触れたように、数千台単位の導入案件を獲得し、早期に納品するという実績が相次いでいたことからも明らかなように、4月以降、競合各社が品不足に苦しむなか、デルは商談を決め、続々と納入を進めていったのだ。

 とくに、成果をあげたのが、Chromebookにフォーカスした提案を行なったことだ。同社では、GIGAスクール構想向けに、Windows搭載パソコンとして、「Latitude 3190 2-in-1」を用意する一方、Chromebookでは、「Chromebook 3100 2-in-1」と「Chromebook 3100」の2機種を用意。むしろ、Chromebookを主軸とした提案を進めていった。これが、自治体や教育委員会のニーズに合致した。

GIGAスクール向けラインナップ

 先ごろ発表されたMM総研の調査でも明らかなように、国内ノートパソコン市場におけるChromebookの構成比は、2019年実績でわずか1%。別の調査でも、国内教育市場におけるChromebookのシェアは5%程度と低く、Windows搭載パソコンが8割以上を占めている状況だった。それにも関わらず、デルは、Chromebookの安定供給に向けた準備を着々と進めてきたのだ。

 この安定した供給力が、デルの教育分野におけるシェア向上に大きく貢献したのは明らかだ。

 関係者によると、デルの教育分野における市場は、約25%に上昇していると見られ、さらに、Chromebookでは、4月以降、6割以上のシェアを獲得したとも言われている。

 「GIGAスクール構想による需要に対して、Chromebookでは半分ぐらいのシェアを取れる勢いで、製品が供給できる」と自信をみせる。

直販とパートナービジネスの両方を持つ強み

 では、なぜ、デルは、GIGAスクールの旺盛な需要に対応できる体制を敷くことができ、しかも、日本ではこれまで普及していないChromebookにフォーカスし、安定的な製品供給が行なえたのだろうか。

デル・テクノロジーズ クライアント・ソリューションズ統括本部ビジネス・ディベロップメント事業部の飯塚祐一氏

 デル・テクノロジーズ クライアント・ソリューションズ統括本部ビジネス・ディベロップメント事業部の飯塚祐一氏は、「直販ビジネスとパートナービジネスの両方を持つデルの強みが活きた」と語る。

 ここ数年、デルはパートナービジネスを強化してきたが、直販モデルの存在は、依然としてデルの強みとなっている。そして、その体制を活かすことで、教育現場からのニーズを、直接聞くことができ、それを販売計画や調達計画に反映することができたという。GIGAスクール構想に関する情報についても、直販部門およびパートナーの双方を通じて入手することで、早い段階から、準備を進めることができたともいえそうだ。

 また、学校現場への直販により、導入や運用の手応えを直接感じることができていた点も見逃せない。とくに、すでに実績があった教育現場へのChromebookの導入成果が、今回のGIGAスクール構想において、Chromebookのニーズが高まると予測し、これを主軸に据えると判断した要因の1つになっている。

 たとえば、デルでは、2016年に、京都市の聖母女学園に500台のChromebookを導入したが、ここでは、情報端末の維持や管理に関する教員の負担をなくし、教育そのものに専念できる環境を実現したり、G Suite for Educationの採用によって、教員が教育アプリを簡単に利用し、それにより授業づくりに集中できたりといった効果を生んでいた点があげられる。

 「こうしたChromebookによる導入成果を実感していたからこそ、GIGAスクール構想における導入提案では、Chromebookが最適だと判断していた」(デル・テクノロジーズ・飯塚氏)という。

 もともと同社では、ソフトバンクとの連携によって、Chromebookの教育市場向けた取り組みをじょじょに広げていたほか、2019年に入ってから、Googleが国内教育市場向けの販売支援体制を強化し始めたことも、GIGAスクール構想において、Chromebookの提案を主軸に置いた理由になっているようだ。

 デルでは、教育市場を「小学校/中学校」、「高校/教職員」、「専門学校/大学」という3つの市場にわけて提案。「高校/教職員」は、Officeの利用が多いことなどを背景にWindowsを中心とした提案を行い、「専門学校/大学」ではVDIやワークステーションによる提案も行なっているが、「小学校/中学校」については、シンプルな利用提案や運用管理性の高さが求められることから、Chromebookの提案に力を注ぐ姿勢を示している。

教育分野から高い評価

 一方で、デルのパソコンそのものが、教育分野からの評価が高いという点も見逃せない。

 デルは、米国の教育市場において長年の実績を持ち、先進7カ国の教育市場においても高いシェアを持っている。そうした実績をもとに、教職員や学生などの声を反映して、教育分野に特化したハードウェアデザインを行なってきた経緯がある。これにより、教育分野に最適化したパソコンをラインアップしているのだ。

 たとえば、堅牢性という観点では、同社の一般的なパソコンに採用しているMIL-STD規格に準拠した堅牢性とは別に、敎育現場での利用を想定したデル独自の5つの堅牢性テストを実施。机の高さである76cmから、コンクリートの上に落下させるテストだけでなく、スチール板に落とす試験も実施。さらに、縁をゴム素材とすることで、落下によるショックを吸収し、保護するといった工夫も行なっている。

堅牢性の特徴

 「2in1では、ディスプレイの両端を掴んで、くるっと回す試験も行なっている。本体側の重量が重たいため、ディスプレイの横側のフレームが強くないと折れてしまう。そこで、教育用パソコンではダブルフレームを採用している。これは他社にはない、デルだけの仕様である。パソコンが文具と同じように使えるレベルまで耐久性を高めており、こうした状況を実現することで、先生と児童生徒が、自由に活用できるようになり、1人1台環境における効果的な活用が進むことになる」と語る。

 さらに、いつでも安心、快適にキーボード入力ができるように、教育向けモデルでは、キーキャップが外れない構造になっていたり、約340mlもの液体がキーボード部分に溢れても、問題がないような防滴構造を採用している。

 もちろん耐久性を追求した結果、コストが高くなってはいけない。「コストとのバランスで堅牢性を担保しているのがデルの特徴である」とする。

 そのほか、背面カメラは、いつでも、どこでも瞬時に撮影できるように位置を工夫。手に覆いかぶさらないように配慮していたり、天板部分に搭載しているアクティビティライトは、ライトの色の変化によって、教員から見て、生徒の状況がわかるような機能であり、これもデルが最初に採用したという。

 「これらの仕様は、教育分野からのフィードバックによるものであり、米国などの教育現場で鍛えられた結果をもとにしたハードウェアデザインになっている」と自信をみせる。

故障しにくいパソコン

 実際に、教育現場からも高い評価があがっている。

 「一括導入を行なっている教育委員会からは、バッテリの持続時間に対して高い評価をもらっている。同じバッテリ容量でも、他社が2セル構成としているのに対して、デルの教育向けパソコンでは、3セル構成とし、負荷を分散しているため、劣化が少なく、長期間利用していても、バッテリ持続時間を維持できる。また、故障率が低いといった点でも評価をもらっている。教育現場では、故障することで授業が止まってしまうことを最も懸念しているが、そうした課題にも対応できる」とする。

 さらに、Chromebookでの国内オンサイトサービスを実施している数少ないメーカーの1つである点も特徴だ。「Windowsパソコンのオンサイトサービスを提供していても、これと同じ水準のサポートをChromebookで用意しているメーカーは少ない。また、デル宮崎カスタマーセンターにより、当社社員による直接サポート体制も用意している。堅牢性、信頼性、サポート体制という点で、安心して利用してもらえる環境がある」とする。

今後もパソコン整備に向けて積極的に提案

 デル・テクノロジーズでは、今後も、GIGAスクール構想によるパソコンの整備に向けて、積極的な提案を行なっていく姿勢を見せる。

 「デルの教育向けパソコンは、海外における教育分野での実績をもとに製品化したものであり、現場で安心して使ったもらえるパソコンであるという点をさらに訴求していきたい。また、ロケットスタートを切ったことで、すでに導入済みの教育現場からのフィードバックを得ることができている。これを他の自治体や教育委員会の提案に活かすこともできる。GIGAスクールの導入で先行した強みを活かしたい」とする。

デルの提案

 また、デルでは、日本の教育現場の要望を反映した製品強化もしていきいという。

 「日本の教育現場からは、LTEが欲しいという要望を多く聞いている。こうしたニーズにも対応したい」とする。

 さらに、競合他社に比べて、安定的な製品供給が行える体制を敷いていることから、GIGAスクール構想の提案にあわせて、新たな販売パートナーとの連携も広がっているという。こうした販売パートナーとの協業も加速していく考えだ。

 「教育現場でのパソコンの利用は、今回の導入で終わりというわけではなく、5年後には置き換えを行うなど、今後も継続するものになる。一過性ともいえる価格だけで判断するのではなく、堅牢性や信頼性、サポート体制といったことも含めて、継続的に使える環境を提供できるパソコンを選択してほしい」とする。

 一部には、積極的な価格戦略に打って出るパソコンメーカーもあるようだが、他の国では、価格ばかりが先行した結果、継続的なサポートができなくなり、結果として教育現場が困るといった事態が発生した例がある。1台あたり4万5,000円という価格は十分に安いが、それをさらに下回る価格で導入されている例も発生しており、それが過熱すると、日本においても同様のことがおこらないとも限らない。

 デルでは、GIGAスクール構想に最適なパソコンの要件として、「安定したネットワーク環境」、「シンプルなアプリケーション」、「継続可能な運用管理」、「確かな堅牢性と信頼性」、「スタディログデータの利活用」という5点をあげる。

デルが考えるGIGAスクール構想における要件

 「デルは、独自のBeamFlexによって、接続性、高速性、キャパシティ、耐干渉/非干渉性を実現することで、敎育現場にネットワークの安心を届けることができる。また、G Suite for Educationなどの採用により、教材アプリはプラットフォーム・アプリのみというシンプルさを実現でき、教員の授業力を最大限に引き出すことができる。

 さらに、クラウドバイデフォルトの管理ツールの利用によって、先生たちの働き方と、児童生徒のセキュリティとユーザビリティの両方を担保。これまでの海外の実績で裏づけれている堅牢性と信頼性を提供できる。そして、GIGAスクール構想の先を見据えて、将来データの利活用を考えたさいに、デバイス以外のソリューションも提供できることが大切である。デルであれば、将来に向けた提案も可能になる」とする。

 一方、小中学校にChromebookが広がることで、量販店などにおけるChromebookの販売にも注目が集まる。保護者にしてみれば、学校で利用しているパソコンと同じパソコンを家庭でも利用したいと考えるからだ。

 デル・テクノロジーズでは、「Chromebookのコンシューマ市場への展開に関しては、現時点で具体的に話ができない」としながらも、「今後、市場の動向を注視しながら製品ラインナップを展開していきたい」とする。

 GIGAスクール構想において、デルが存在感を発揮するということは、今後、コンシューマ市場においても、シェア拡大の足掛かりを掴むことにつながる。そして、Chromebookにおいて、市場拡大の先導役を果たす可能性もある。

 そうした観点からも、今後のデルの取り組みには注目をしておきたい。教育分野での躍進をきっかけに、デルの日本におけるパソコンビジネスが加速することになりそうだ。