大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
「LAVIE Pro Mobile」が目指したテレワーク特化パソコンのあるべき姿とは?
~NEC PCの河島良輔執行役員にインタビュー
2020年6月16日 11:00
NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)の13.3型ノートPC「LAVIE Pro Mobile」が、テレワーク/在宅ワークに特化したモバイルPCへと進化した。
「ミーティング機能」では、テレワークや在宅ワークに最適化したかたちでマイクやスビーカーを機能させるとともに、キーボード操作時や、サブディスプレイ接続時にも、在宅ワークに配慮した工夫が凝らされている。
NECパーソナルコンピュータの河島良輔執行役員は、「NEC PCは、2015年12月から、自らテレワークを実践してきた。その経験を活かして開発したのが、新たなLAVIE Pro Mobile」と位置づける。テレワーク/在宅ワークに特化したLAVIE Pro Mobileの狙いについて聞いた。
モバイルワーカーのためのLAVIE Pro Mobileはテレワークにも照準を定めていた
――新たに発表したLAVIE Pro Mobileはどんな進化を遂げたPCになりますか。
河島氏(以下、敬称略) 今回のLAVIE Pro Mobileは、テレワークおよび在宅ワークに特化したPCに進化しています。
新型コロナウイルスの感染拡大により、在宅ワークが増えたことで、多くの人が、「テレワーク=在宅ワーク」というように感じているようですが、NEC PCでは、コワーキングスペースやカフェなどでの利用も含めたテレワークの観点から、そこに特化した機能を搭載したPCを開発しています。
そのため、軽量であること、堅牢であることも引き続き追求しています。2019年5月に発売したモデルでは、天板にだけカーボンを使っていましたが、今年(2020年)のモデルでは底面にもカーボンを採用し、堅牢性を高めています。
さらに、CPUの強化やOptaneメモリー・テクノロジーの採用、モダンスタンバイ機能、Windows Helloへの対応など、最新技術を搭載しています。
――昨年(2019年)のLAVIE Pro Mobileは、「モバイルPC」というコンセプトで開発されました。今回の「テレワーク/在宅ワーク特化PC」というメッセージは、コンセプトの変更だと捉えていいですか。
河島 いいえ、LAVIE Pro Mobileの基本コンセプトには変更がありません。モバイルワーカーの使い方を徹底的に追求し、最適なものを提供するのが、LAVIE Pro Mobileの基本コンセプトであり、この姿勢に変更はありません。
もともとNEC PCでは、モバイルワーカーの中心的な使い方を、テレワークに定めていました。NEC PC自身も、2015年12月からテレワークを導入しており、その時点から、対象を特定の部門に限定したりせず、またテレワークを行なう回数を設けたりしない「全社無制限テレワーク」に取り組んできた経緯があり、テレワークのメリットを自ら体感していました。
また、外資系企業の多くは、上司や同僚が海外にいる場合が多く、遠隔地を結んだ会議が日常茶飯事です。もちろん、日本の企業はフェイス・トゥ・フェイスが主体となっており、テレワークが広がるのには時間がかかるとは思っていましたが、いつかはテレワークの時代が来るということを想定したモノづくりをしてきたわけです。
そうしたなか、まったく想定していなかった新型コロナウイルスの感染拡大により、5年先、10年先と思っていたテレワーク/在宅ワークの世界が、数カ月で一気に訪れてしまった。いつかはテレワークをやらなくてはいけないと思っていた企業も、いますぐやらなくてはいけないという状況になったわけです。
将来に向けて目指してきたモバイルPCのスペックや仕様が、いますぐ必要になってきた。今回の新製品は、そのタイミングに向けて、求められるものを提案できたPCだと言えます。
テレワークによって在宅ワーク用PCの需要が拡大
――LAVIE Pro Mobileの新たなメッセージとして、テレワークや在宅ワークへの「最適化」ではなく、「特化」したPCという、強い表現を使っていますね。
河島 自らの経験や多くのユーザーの声を反映しながら、テレワークという環境を、しっかりと見据えて開発した製品であるという意味で、あえて「特化」という言葉を使っています。
当社を含めたすべてのPCメーカーに共通しているのは、このタイミングで発売する新製品は、新型コロナウイルス感染拡大で一気に増加した在宅ワークを想定して開発したPCではありません。
しかし、そのなかでも、NEC PCは、昨年発売したLAVIE Pro MobileをモバイルPCのフラグシップに位置づけ、テレワークや在宅ワークを強く意識したモノづくりをしてきた経験がすでにあります。
残念ながら東京オリンピックは、延期となってしまいましたが、NEC PCは、2019年6月の時点で、2020年7月の東京オリンピック開催時には、2週間連続で、全社員が一斉にテレワークを行なうことを宣言していました。これを見てもわかるように、ほかのPCメーカーと比較しても、テレワークに対する温度差が異なります。
NEC PCの社員は、全員が1年前から、全社一斉テレワークを行なうことを意識しており、それを前提としてビジネスをしてきた。そのなかで開発したPCが、LAVIE Pro Mobileなのです。テレワークを前提とし、在宅ワークを前提としたモノづくりをしたLAVIE Pro Mobileは、テレワークや在宅ワークに「特化」したモバイルPCだと言えます。
――テレワークや在宅ワークに特化したPCは、当面、高い需要が続くとみていますか?
河島 緊急事態宣言が発令される直前の2020年3月下旬のアンケートでは、テレワークで働いたことがあるとした企業は14%でした。いまはそこから一気に増加しています。
ただ、注目しておきたいのは、テレワークで利用しているPCの約半分は、個人のコンシューマPCだということなんです。実際、4月以降、量販店ではコンシューマ向けPCの販売が急増しており、前年実績を上回っています。
当社でも、2020年1月のWindows 7のサポート終了に伴う特需の反動で、2020年度は前年比16%減と見ていましたが、実際には前年比25%増になっており、想定とは40ポイントの差があるほど好調です。それぐらい大きな需要の波が来ているわけです。
しかも、当初は、10万円の特別給付金で収まる価格帯のものが求められていましたが、ZoomやTeamsなどを使ったオンライン会議が増え、映像を多用するようになり、一定のスペックが欲しいというニーズが高まった結果、プレミアムモデルが売れるという動きが出ています。
もちろん、こうした動きは、一過性の需要ではないかとの指摘も一部にはあります。しかし、調査によると、テレワークに対する満足度は85%に達している結果が出ています。
片道1時間かかる満員電車での通勤や通学がなくなり、その時間が有効に使え、身体の負担が少ないといったメリットを多くの人が感じています。そして、これからは、テレワークを導入していることが、働く会社を選ぶ時の新たな基準になる可能性もあります。
また、当社でも、新年度のキックオフミーティングをオンラインで実施したのですが、参加した社員からは、大きな会場で行なうよりも、目の前のPCで聞いたほうが、話がよく理解できたという声がありましたし、講演者も大勢を前にして話すのとは違って落ち着いて話ができたという声も出ていました。こうしたテレワークのメリットをうまく活用するといったハイブリッドな働き方もこれからは出てくるでしょう。
こうしたことを考えると、テレワークの需要は、かなり長期的に続くトレンドだと感じています。しかも、今後テレワークを導入するメリットがある業界や企業を俯瞰してみると、新たに1,000万台規模のPC需要が想定されます。
中小企業では、まだまだテレワークの体制が整っていませんから、中小企業のカルチャーが変わり、インフラが整ってくると、PC市場のすそ野が一気に広がる可能性もあります。
さらに、学校のオンライン授業もこれから増加するでしょうから、そこにも新たな需要が生まれる可能性があります。両親が在宅ワーク用にそれぞれにPCを所有したり、子供が学習用に自分のPCを持つといったこともはじまるでしょう。
こうしてみると、コンシューマ向けPCには、しっかりとしたテレワーク対応機能を搭載しないと、今後のニーズには応えられないとも言えます。
働く場所や学ぶ場所を選べる時代が訪れるなかで、コンシューマPCには、テレワークやテレスクールに対応した機能が重要になる。今回のLAVIE Pro Mobileは、そうしたニーズに応えられるモバイルPCの進化への第一歩だと言えます。
テレワーク/在宅ワークに特化したPCとは何か?
使いやすさを追求した機能を実装
――ただ、いまの使い方をみると、モバイルPCというよりも、在宅ワーク用PCという用途が中心ですね。
河島 いまの使い方をみると、私たちが想定していた将来の使い方に比べて、在宅ワークに寄りすぎているのは確かです。
また、想定していたよりも、オンライン会議の機能が重要視されています。しかも、オンライン会議では、ZoomやTeamsの広がりによって、映像を利用することが一般化し、かつては音声だけで会議をしていた状況とは異なり、ここにも想定外の動きがあります。
オンライン会議で求められる機能はなにかといったことも追いかけながら、対応する必要もあるでしょう。
しかし、今後は、在宅ワークだけでなく、家でも使いながら、オフィスでも使い、外出先でも使うということが一般化することになります。在宅ワークだけでは求められないような、モビリティやセキュリティに対する厳しい要求が生まれるはずです。
LAVIE Pro Mobileは、在宅ワークだけでなく、その後の幅広いテレワークでの用途を意識した機能や性能を備えたものになっています。
NEC PCは、国内PC市場のリーダーとして、市場シェアを取るだけでなく、新たな市場を開拓し、市場に対して訴えかけることも大切です。今後もそうした役割を果たしていきます。
――テレワーク/在宅ワークに特化したという点でどんな点に力を注いでいますか。
河島 「プロダクティビティ」、「オンラインミーティング」、「セキュリティ」、「ネットワーク」という4つの観点から強化しています。
プロダクティビティという観点では、NEC PC得意の軽量化技術により本体質量で約889gという軽量化を図りながらも、移動時の加圧や落下といったアクシデントを想定して、天板に加えて、底面部分に頑丈で軽量なカーボン素材を採用したり、約24時間というさらなる⾧時間バッテリ駆動を実現したりといったように、堅牢性と軽量化、⾧時間駆動というモバイルPCとして求められる要素を高次元でバランスよく実現しています。
そして、在宅ワークという点にも配慮した進化を遂げています。たとえば、キーボードは、テレワーク/在宅ワークに最適化するスかたちに一新しています。
――キーボードは、どんな進化を遂げていますか。
河島 在宅ワークが増えて、一日中、キーボードを打っているという人も増えたのではないでしょうか。PCの操作の原点は、キーボードです。モバイルワーカーが生産性、使い勝手を評価する場合、その7~8割がキーボードの評価から来ています。
LAVIE Pro Mobileでは、そこにフォーカスし、キーボードの快適さには相当こだわりました。キーピッチは従来の18.5mmから 19mmとし、キーストロークは1.2mmから1.5mmにし、15型ノートPC並みの打ち心地を実現しました。
また、新たにまん中部分がくぼんでいるシリンドリカル形状を採用したことで、指にフィットしやすくしたり、リフトアップヒンジにより、傾斜をつけてタイピングしやすくしたりといった工夫をしています。シリンドリカル形状は、キーボードに定評があるThinkPadも参考にしています。
タッチパッドも10%大型化し操作性を向上させています。従来モデルと同様に、キーボードやタッチパッドはクリック音を静かにした静音タイプとしており、オンライン会議で気になる操作音も低減しています。
さらに、在宅ワークでは、大きなディスプレイを使いたいというニーズがありますが、LAVIE Pro Mobileでは、USB Type-C端子にディスプレイ出力機能(DisplayPort Alt Mode)を持たせていますから、ケーブル1本でサブディスプレイに出力し、同時にPC本体への充電もできます。
それだけでなく、スマートポインターやスナップウィンドウといった視線操作機能によって、使用者の目の動きに合わせて、マウスカーソルやウィンドウを、本体画面とサブディスプレイ間で移動できるようになり、効率的に作業が行なえます。
また、ちょっとした機能なのですが、蓋を閉じていても、前面に光が見える「スマートライト機能」では、バッテリ残量に応じて光の色が変わりますので、すぐに確認できるといった配慮も行なっています。
ノイズ除去機能搭載などオンライン会議の快適さを追求
――オンライン会議やセキュリティ、ネットワークにおける進化ではどんな点がありますか。
河島 従来モデルにも搭載していた「ミーティング機能」は、スピーカーの指向性を自動的に調整することで、複数人で会議に参加するときは広い範囲で聞こえるようにし、1人だけで会議に参加するときには、PC正面だけに音が聞こえやすくするといった使い方ができました。
また、ヤマハとの協業により、同社のAudioEngineを採用し、臨場感がある音を再現することが特徴でした。LAVIE Pro Mobileの発売以降、とても評価が高かった機能の1つです。
新製品では、これらの機能を継続しながら、室内のエアコンの音や、屋外の雑踏などの周囲の雑音を抑えて、相手に音声を聞こえやすくする「ノイズサプレッサー」や、自宅の部屋の大きさや会議室の大きさにあわせて部屋の残響を抑え、話し声を聞き取りやすくする「ルームエコー抑制」などによって、これまで以上にクリアな音声でオンライン会議を行なえるようにしました。
マイクを液晶上部に配置したことで、PCの反対側にいる人の声もしっかりと拾うことができるようにしています。相対するかたちで行なう「取材」に活用していただくのもいいのではないでしょうか(笑)。
マイクが下の方にあると、オンライン会議中に、キーボードの音を拾ったり、膝の上に乗せていると、ひきずった音を拾ってしまうということもありますから、そうした点も回避できます。
セキュリティでは、外出先での覗き見を電子的に防止する「LAVIEプライバシーガード」や「LAVIEプライバシーアラート」を搭載。離席時には画面をロックする「スマートロックwith IRカメラ」も備えています。
そして、ネットワークでは、Wi-Fi 6への対応のほか、外出先での高速ネットワークに対応できるLTEへの対応や、2020年10月以降には5G(Sub6)への対応も行なうことができ、ビデオ会議や動画の共有などもスムーズに行なうことができます。
昨年のモデルからテレワークの関連機能を発展
――こうしたテレワークや在宅ワークに特化した機能の搭載において、自らの実践の成果が反映された部分はありますか。
河島 音声や画像をしっかり伝えるための機能をPC1台で実現することにこだわりました。それによって、いつでも、どこでも、オンライン会議に参加することができます。
実際に、社内では、リアルの会議に参加している途中で、外出しなくてはならない場合には、続きは移動しながら、オンラインで会議に参加するといったこともあります。そうした具体的な使い方をもとに、これは使いにくい、これは使いやすいといったことを議論しながら、開発を進めていきました。
スピーカーやマイクの機能にこだわり、そこを進化させたのも実践をもとに反映した成果ですし、新幹線で移動中に作業をしなくてはならないのに、横の席から覗かれるのは困るという場合のために、LAVIEプライバシーガードなどを採用しました。底面にカーボンを採用したのも、持ち歩くときの質感や、所有感を高めたいというモバイルPCとして使った際の要望を反映したものです。
昨年のモデルで、テレワークでの利用を追求し、その経験をもとに、さらに進化を遂げた発展形が今年の新製品というわけです。
“世界最軽量は狙わない”方針を継続
テレワーク特化パソコンのラインナップを拡大
――昨年のLAVIE Pro Mobileでは、それまでの「世界最軽量を狙う」という方針を捨て、「世界最軽量は狙わない」と宣言して話題を集めました。それは今年も同じですか。
河島 その姿勢は変わりません。むしろ、テレワーク/在宅ワーク特化という方針を打ち出したことで、より明確になったと言えます。世界最軽量を目指すことによって、犠牲になっている質感や、削らなくてはならない機能が生まれるわけですが、数10gの違いであれば、世界最軽量よりも、質感や機能を重視したいと考えています。
――今後は、どんなプロモーションを展開していく予定ですか。
河島 今後、「テレワーク特化パソコン」のロゴを使いながら、TVCMや当社サイトで告知するほか、量販店などでも、このメッセージを発信していくことになります。
また、LAVIE Pro Mobileのスタートメニューに「おすすめオンラインツール」というショートカットがあり、そこから、オンライン会議をするにはどんなツールがあるのか、といったことを紹介するサイトにリンクするなど、オンライン会議のためのガイドなども提供していきます。はじめてテレワーク在宅ワークを行なう人にも配慮した訴求や提案を行なっていきます。
量販店を訪れるお客様も、テレワークによる働き方がはじまったことで、急速に進化していています。そうした問い合わせにも対応できるように、量販店を支援する体制も強化します。
――今後、NEC PCの「テレワーク/在宅ワーク特化パソコン」はどう進化しますか。
河島 NEC PCの特徴は幅広いラインナップを取りそろえている点にありますから、LAVIE Pro Mobileだけでなく、そのほかのPCにおいても「テレワーク特化パソコン」という訴求を考えていくつもりです。
たとえば、LAVIE Pro Mobile以外にも、ミーティング機能を搭載して、オンライン会議に適した使い方ができるようにすることで、ユーザーの用途や利用環境、予算などにあわせて選択してもらえるようにします。テレワーク特化パソコンのラインナップ拡大するための最初の一歩がLAVIE Pro Mobileということになります。
今後は、すべてのPCがテレワークに最適であり、テレスクールに最適ということになるでしょう。そのなかで、持ち運ぶことが多い人は軽量モデルを選ぶでしょうし、在宅ワークが多いという人であれば、少し重たくても、画面が大きいというモデルを選択すると思います。とくかくパワーが欲しいとか、ゲームをやるという人は、ゲーミングPCを選択するかもしれませんね。
今後、NEC PCが投入するPCは、すべてがテレワーク特化、在宅ワーク特化を前提としたものになります。そして、これまで見過ごされてきたオンライン会議をやるためには、どんな性能が必要なのか、カメラやスピーカーの位置はどこかがいいのかといったことも検討していくことになります。
これまでとは違うかたちで、PCの進化がはじまったといえ、新たな市場ニーズの変化に、しっかりと対応していきたいと思っています。