大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
“米沢産ThinkPad”誕生から5周年。日本品質を誇る製造ラインを取材した
2020年3月23日 06:00
NECパーソナルコンピュータ米沢事業場が、レノボ・ジャパンの「ThinkPad」シリーズのCTO(注文仕様)生産を開始してから、ちょうど5年が経過した。
NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)およびレノボ・ジャパンの社長を務めるデビッド・ベネット氏は、「2015年3月18日にThinkPadの米沢生産を開始して以降、お客様から高い評価を得ている。現在、4機種のThinkPadを、米沢でCTO生産しているが、ニーズがあれば生産ラインの拡張や対応機種の拡大も検討したい」と語る。
山形県米沢市のNEC PC米沢事業場を訪れ、ThinkPadの生産ラインのほか、2019年11月にスタートしたThinkCentreの生産ライン、そして、NECブランドのPCの生産ラインを見た。
Thinkpad生産をはじめるまでのNEC PC米沢事業場の軌跡
NEC PC米沢事業場は、1944年に東北金属工業(トーキン)の疎開工場としてスタート。1951年に米沢製作所として独立。その後、NECの資本が入り、1984年からPCの生産を開始。いまでもNECのPC事業を支えする基幹工場に位置づけられている。
1日約8,000台のPCを生産。NECの法人向けPCとWebを通じて販売するPCのすべて、そして店頭向けPCの15%を米沢事業場で生産している。ノートPCで40本、デスクトップPCで20本の生産ラインを持ち、需要の変動にあわせて柔軟に稼働本数を変更できるのが特徴だ。
また、レノボグループのなかでは、米沢事業場で生産したPCを「米沢品質」という言葉で表現されるほど、品質にこだわった取り組みが評価されており、米沢事業場での品質管理の手法を各生産拠点で採用。「Japan Quality Training(JQT)」の名称で、レノボグループの中国の生産拠点を対象にした品質管理のトレーニングも実施している。
その米沢事業場では、NECブランドのPCの生産に加えて、レノボ・ジャパンが日本市場向けに販売しているThinkPadおよびThinkCentreの生産も行なっている。
ThinkPadの米沢生産は、2012年7月に生産を行なう意向を表明。同年12月にはデータ蓄積を目的にしたパイロット生産を開始。2013年3月には一度生産を完了。その後、生産システムの構築や専用部品エリアの設置などを行ない、2015年3月から、2つのThinkPad専用ラインを設置して、ThinkPad X1 CarbonおよびThinkPad X250の本格的な生産を開始した(NEC米沢工場でのThinkPad生産が軌道に参照)。
それ以来、安定した生産品質の維持と国内生産ならではの短納期を実現しながら、米沢事業場での生産を継続。2020年3月18日には、ThinkPadの米沢生産を開始してから、ちょうど5年の節目を迎えた。これまでの累計生産台数は10万台以上に達する。
社内では、5周年にあわせた特別なセレモニーや、5周年記念特別モデルを用意したわけではない。
米沢事業場における生産部門を統括するNECパーソナルコンピュータ 生産事業部長の竹下泰平執行役員は、「ThinkPad専用ラインが、米沢事業場において、特別なものという意識はまったくないほど溶け込んでいる。生産ラインが同化している状況にある」と語る。いまや、米沢事業場の生産品目の1つとして、境目がなくThinkPadの生産が行なわれていることを示して見せる。
ThinkPad専用ラインは、NECブランドのPCよりも1人多い4人体制で構築。その体制で、組み立てや検査、梱包を行なう。ラインは専用だが、作業する従業員はThinkPadだけでなく、NECブランドのPCも組み立てることができるスキルを持っている。
ThinkPadの米沢生産の対象としているのは、日本国内に出荷するモデルで、Webで受けつけたCTOモデルに限定。現在、ThinkPad X1 Carbon、ThinkPad X1 Yoga、ThinkPad X390、ThinkPad T490sの4機種を生産している。
ベネット社長は、「この5年間は、想定以上の成果が上がっており、成功だったと思っている。国内生産ならではの品質や納期に安心感があるとの声をいただき、お客様に喜んでもらっている」とする。
さらに、ThinkPadの開発を行なっている神奈川県みなとみらいの大和研究所に対しても、日本の生産拠点から、製品や生産、部品調達などに関するフィードバックを行なうといった動きにもつながっている。「設計から生産、修理(群馬事業場)までを、日本のチームが管理できる体制が確立した点に、モノづくりにおける強みの1つになっている」とする。
先に触れた中国の生産拠点に展開している「JQT」も、ThinkPadの米沢生産をきっかけにスタートしたものであり、日本以外で生産されるThinkPadの品質向上に貢献するといった成果も上がっている(レノボ、「米沢品質」を中国のThinkPad生産拠点にも波及参照)。
ベネット社長は、「これらの成果をもとに、ThinkCentreの生産も開始することができ、さらに、『JAPAN MADE & SUPPORT』という新たなキャンペーンも開始することができた」と語る。
レノボ・ジャパンでは、2019年11月18日から、法人向けデスクトップPCのThinkCentre M720s Small、ThinkCentre M720q Tiny、ThinkCentre M920s Small、ThinkCentre M920q Tinの4製品において、48種類の標準構成モデルの生産を開始。2020年2月からは、カスタマイズモデルの生産も開始している。
竹下執行役員は、「ThinkPadの生産ラインをスタートするさいには、システム構築などにかなり苦労をしたが、その努力と工夫があったからこそ、Think Centreの生産開始時には新たなラインをスムーズに導入できた」とする。
また、ベネット社長は、「ThinkCentreの米沢生産は、カスタマイズ製品だけでなく、標準モデルの生産を開始したという点で、大きな意味を持つ取り組みだと言える。しかも、最短5日間で納品できる点は大きな武器になる」とし、「これによって、研究、開発、生産、物流、サポートまでのすべてを日本で行なうことができる。これを行なえる外資系PCメーカーはレノボ・ジャパンだけになる」と胸を張る。
そして、「JAPAN MADE & SUPPORT」については、「日本のお客様のために、日本のチームが責任を持って、製品を提供するというメッセージであり、約束の印である。このメッセージを打ち出すことで、レノボ・ジャパンが、日本のお客様の要望に応えるために、継続的な投資を行ない、いよいよ日本だけですべてを持つ体制ができあがったことを知ってもらう狙いがある」とする。
もともとはThinkCentreを軸に据えたキャンペーンであったが、同シリーズ以外のレノボ製品のブランドイメージも高まっているという。
現在、米沢生産のレノボ製品のすべてに、「JAPAN MADE & SUPPORT」のシールを貼っている。ThinkPadの国内生産は、今後も維持するほか、「ニーズがあれば生産ラインの拡張や対応機種の拡大も検討したい」(ベネット社長)とする。
ThinkPadやThinkCentreの生産拡張については、まだ具体的な計画があるわけではないが、ベネット社長は、「レノボグループ全体で見ても、日本は重要な市場と捉えている。米沢生産による米沢品質が、日本のお客様に評価されており、ニーズにあわせて拡大する準備を進めている。また、米沢で生産したThinkPadは、生産品質などの観点から、海外でも評価が高く、海外でも販売してほしいとの要望もある。今後、そうしたことも視野に入れながら、これからも投資をしていくことになる」とする。
NEC PCの竹下執行役員も、「現在『活フロア』と呼ぶ活動を開始しており、より効率的にフロアを活かせるようになっている。ThinkPadやThinkCentreをはじめとするレノボ製品の生産拡大は可能である」とする。
5年目の節目を迎えた米沢事業場によるThinkPadの生産。そして、本格的な生産を開始したThinkCentreによって、日本におけるレノボ・ジャパンのシェアは拡大する準備が整ったとも言える。今後、ThinkPadやThinkCentreなどのレノボ製品が、米沢事業場においてどんなかたちで生産拡大が進められるのかが注目される。
米沢事業場における生産の様子
それでは、5年目の節目を迎えた米沢事業場のThinkPadの生産ラインをはじめとして、米沢事業場の取り組みを写真で見てみよう。