大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
ウチダエスコ、テレワーク特需にも対応可能なPCキッティング拠点を公開
2020年4月14日 11:00
ウチダエスコは、月間2万台のPCのキッティングを行なうことができる「ESCO船橋-BaySite(エスコフナバシ-ベイサイト)」を、2020年3月から本格稼働させている。
ウチダエスコは、教育分野のICT化で長年の実績を持ち、働き方改革にもいち早く取り組んできた内田洋行グループの1社であり、内田洋行グループの学校における「学びの場」、そして、企業における「働く場」に最適なPCの提案に、ESCO船橋-BaySiteを活用することになる。
GIGAスクール構想による1人1台環境の実現、新型コロナウイルスの感染拡大とともに広がるリモートワークに対応したPCの供給には欠かせない拠点とも言えるだろう。このほど、その様子を取材することができた。ESCO船橋-BaySiteをレポートする。
ESCO 船橋-BaySiteとは?
ESCO 船橋-BaySiteは、JR京葉線南船橋駅から徒歩約10分。MFLP(三井不動産ロジスティクスパーク)船橋IIの8階にある。このあたりに土地勘がある人ならば、船橋オートレース場の跡地、あるいはIKEAの隣と言えばわかりやすいかもしれない。
ウチダエスコは、1972年に設立した内田洋行グループの1社で、全国33カ所の営業所およびフィールドサービスステーションを持ち、約600人の社員数を誇る。トータル保守サービス、ネットワーク総合サービス、ソリューションサービス、オフィスシステムサービスの4つのサービスを提供。2019年7月期の売上高は136億円となっている。
ESCO 船橋-BaySiteは、船橋キッティングセンターと浦安リペアセンターの2つの拠点をそれぞれ移転して統合。1,665坪(約5,500平方m)の施設のなかに、キッティングエリア、倉庫エリア、リペアエリア、ライフサイクルエリア、セキュリティエリア、ネットワーク・サーバーエリア、搬入出エリアで構成。従来は月1万台だったキィテッングセンターの処理能力を、月2万台にまで高めている。
運営は、ウチダエスコの100%子会社であるアークが行なっている。アークは、1991年11月に、AppleのPowerBookシリーズの専門メンテナンス会社と創業。1998年にはAppleの全製品のメンテナンス業務を開始。2003年からは主要PCメーカーや周辺機器メーカーにもサービスの範囲を拡大した。現在でもPCメーカーやシステムインテグレータからの受託修理を行なっている。なお、社名のアークは、ARCからきており、「アップルリペアセンター」を語源としている。
キッティングエリアの様子
では、ESCO 船橋-BaySiteの様子を見てみよう。
ESCO 船橋-BaySiteの最大の特徴は、キッティングエリアである。
ここでは、企業や教育機関の要望にあわせて、PC本体を調達するとともに、業務に必要なソフトウェアや周辺機器を用意。それに対して、HDD、メモリといったハードウェアの構成変更や、ドライバ、アプリケーションのインストール、アクティベーション作業のほか、ホスト名やIPアドレスなどの個別のネットワーク設定も行なう。社員ひとりひとりにあわせた個別設定が可能であり、納品されたPCに電源を入れるだけで、新しいPCでも、すぐに業務利用できるようになる。
また、PCを資産管理するシステムへの登録や管理シールの貼付なども行ない、情報システム部門やシステムインテグレータの設置作業、総務部門などの管理作業の軽減を図ることができる。
キッティングの作業は、「作業レーン」と呼ばれる机や棚を活用した場所で行なわれる。4段の棚の場合には、中央の2段は実際に作業を行なう場としてPCを配置。上下の棚には、梱包箱や新たに付属するケーブルやSIMなどの付属品、情報システム部門などが用意した企業ごとの同梱書類も用意される。デスクトップPCの場合には、3段の棚を使用して、上段に本体、中央にディスプレイ、下段に梱包箱や同梱品が置かれて作業が行なわれる場合もある。
1つの作業レーンには、2~3人の作業者がつき、ノートPCであれば上下合計で20台の作業が同時にでき、デスクトップPCであれば10台程度の作業が同時に行なえる。
作業レーンは、40レーンまで設置することができ、旧キッティングセンターの12レーンに比べて、3倍以上の作業スペースを確保。昼間の稼働だけで、2倍となる月2万台の処理能力を持つ。
「従来のキッティングセンターは夜間も稼働させて最大1万台という水準だった。だが、ESCO 船橋-BaySiteでは、夜間も稼働させれば、最大で月4万台の処理も可能になるだろう。現時点では夜間の稼働予定はないが、それだけの余力を持った施設になる」と、アークの藤岡伸吉社長は語る。
今後、GIGAスクール構想が推進されることによって、教育向けPCのキッティング需要は拡大すると見られるが、それにも対応できる処理能力に自信を見せる。GIGAスクール構想では、PCの納入時期が集中することが想定されており、高い処理能力による「瞬発力」が発揮できる体制は重要だ。
「繁忙期に、リペアエリアのエンジニアがキッティングの応援ができる体制も取っている」とするほか、東京・日野にも、キッティングセンターを持っており、ここでは月間5,000台のキッティングが可能になっている。こうした体制も旺盛な需要に対応することにつながる。
ヘルプデスクや破棄までを行なうライフサイクルエリア
ライフサイクルエリアは、同社が提供する「PCライフサイクルマネジメントサービス」をサポートするエリアだ。同サービスでは、PCの調達、キッティング、搬入、設置、運用、保守のほか、企業内や教育現場に提供するヘルプデスクサービスやPCの廃棄までを含む、PCのライフサイクル全体に関するサポートを提供しているのが特徴だ。
全国規模でエンジニアを配置していることで実現できるオンサイト保守体制、ソフトの操作方法だけでなく、PCが故障したさいの障害の切り分けなども可能なヘルプデスクサービスを提供する「E-BOS(ESCO-Back Office System)センター」、そして、キッティングだけでなく、交換用機材の在庫や資産管理、廃棄までを行なうESCO 船橋-BaySiteのライフサイクルエリアにより、PCのライフサイクル全般をカバーすることができるウチダエスコならでのサービスと言える。
「ESCO 船橋-BaySiteでは、廃棄時には、ストレージのデータ消去作業も行なっている。また、PCが故障した場合には、関東圏であれば、在庫してある代替機を翌日までに届けることができる。1社で約5,000台のPCを対象にしたPCライフサイクルマネジメントサービスの案件もある」(アークの藤岡社長)という。
同社では、新たにライフサイクル全体を対象にしたPCサブスクリプションサービスの提供を開始。これも、ESCO 船橋-BaySiteが下支えすることになる。
顧客専用のセキュリティエリア
ESCO 船橋-BaySiteでは、セキュリティエリアと呼ぶ、顧客専用スペースを設けている。
ほかの企業の作業から隔離し、セキュリティを確保した状態でキッティング作業を行ないたいというニーズに対応したものだ。企業固有の設定や、キッティングに使用するソフトウェアやデータなどが流出しないように配慮しているエリアとしており、このエリアを活用したという企業は少なくないという。
旧キッティングセンターにも、1部屋だけセキュリティエリアが用意されていたが、ESCO 船橋-BaySiteでは、2つの部屋を用意。そのうち1つは、3区画に分割して利用できるようになっているため、最大4区画に分けて作業できる。大量のPCを対象にした案件に対応したり、個別案件が増加した場合にも対応しやすいように、柔軟性を持たせたわけだ。
それぞれの区画の入口には暗証番号によって解除できる鍵が用意されているため、関係者以外は入ることができない。
また、ネットワーク・サーバーエリアは、ファイヤーウォールやネットワーク機器類を設置。セキュリティエリアと連動するかたちで、顧客ごとの専用回線を用意し、一般に使用する回線とは分離したかたちで、キッティング作業などに必要なデータなどを展開できるようにしている。入室が可能な管理者を特定し、それ以外の人は入れないようにしているエリアだ。顔認証により、入退出を厳しく管理している。
年間16,000台修理できるリペアエリア
リペアエリアは、PCやタブレット、ディスプレイなどの周辺機器のほか、3Dプリンタの修理も行なっているエリアだ。あるPCメーカーの修理にも協力しており、その作業のために専用のエリアも別途設けている。同社の高い修理技術が評価されていることがわかる。
修理用の部品は在庫していないため、修理を受けつけてから部品を手配。5~7営業日で顧客のもとに戻すことになる。「修理期間中は、代替機を提供して、業務に支障がないようにする契約も用意している」という。
マルチベンダー向けリペアと、特定のPCメーカーのリペアをあわせて、年間約16,000台の修理が可能だという。
大きく進化を遂げた倉庫エリアと搬入出エリア
倉庫エリアおよび搬入出エリアも、ESCO 船橋-BaySiteになったことで、大きく進化を遂げた部分の1つだ。
従来は約300坪の倉庫エリアだったものを約550坪に拡張。さらに、3段の保管ラックを導入。最大400パレット分の保管スペースを確保し、ノートPC換算で4万台を保管できるという。
PC本体だけでなく、周辺機器なども保管できることから、企業や教育現場からのニーズにあわせて、それらを組み合わせて迅速に出荷することもできる。
そして、倉庫と連動する搬入出エリアは、8階にあるESCO 船橋-BaySiteまで直接、トラックで乗り入れることが可能であり、しかも、同時に9台の10tトラックが停車可能だ。また、トラックの大きさにあわせて、荷物の搬入、搬出が行ないやすいように、プラットフォームの高さを上下に調整できるドックレベラーも配備されている。水害対策や免震構造、非常用発電などを備えており、災害対策にも余念がない。
「搬入出エリアは、5.5mの天井高があり、床荷重は1.5t/平方となっている。従来の倉庫は、1階が搬入出口であり、2階が倉庫となっていたため、作業が煩雑になっていたが、こうした課題も解決されている」(アークの藤岡社長)という。
そして、ESCO 船橋-BaySiteの稼働とともに、ウチダエスコは、新たに倉庫業免許も取得した。
ウチダエスコの江口英則社長は、「ESCO 船橋-BaySiteに移転したことで、一類倉庫の施設設備基準に適合した仕様となり、倉庫業免許を取得することができた。これにより、安全に保管する環境であることを対外的にも発信できるほか、今後、PCサブスクリプションサービスが加わり、拡大が予想されるPCライフサイクルマネジメントサービスにも柔軟に対応できる拠点となる。さらには、倉庫業としての新たなビジネスにも乗り出すことができる」とする。
セキュリティや安全への取り組みも
一方で、セキュリティや安全性に関する強化も図っている。
ESCO 船橋-BaySite が入るMFLP 船橋IIは、1階にセキュリティゲートがあり、警備員が常駐し、24時間の有人監視をしている。さらに、共有スペースからESCO 船橋-BaySiteのエリアに入るさいにも、ICカードを使用して入室退出者を管理している。
ESCO 船橋-BaySite内では、監視カメラを随所に配置。先にも触れたように、セキュリティエリアやネットワーク・サーバーエリア、リペアエリアに入るさいには、それぞれに個別のセキュリティシステムを設置。エリアごとに入ることができる社員を明確に区分けしている。とくに、管理を厳重にする必要があるエリアには、顔認証システムも導入し、セキュリティレベルを高めている。
また、安全対策としては、キッティングエリアとリペアエリアの入口には、静電気対策として、静電靴とリストストラップチェッカーを配置するほか、靴底に付着したホコリやチリなどが室内に侵入することを抑制するために、除塵粘着シートを設置。エリア内には静電マットを敷いたり、エリア外でも、ロボット掃除機が定期的に掃除を行なうといった対応も行なっている。
最先端の働く環境
MFLP船橋IIは、全国に広がる三井不動産ロジスティクスパークの最新施設であり、これまでの倉庫や物流拠点の概念を覆すとも言える、最先端の働く環境が整備されているのが特徴だ。
施設内には、ラウンジや無人売店、スカイデッキ、携帯電話ブースなどを設置。さらに敷地内には、保育施設やカフェテリア、コンビニエンスストアなどもある。
ラウンジや無人売店、スカイデッキといった設備は、ESCO 船橋-BaySiteが入る最上階の8階にあり、ここにはオフィス機能も集約されている。社員がエレベータや階段を使って移動することなく、これらの施設を利用できるようになっているのも、ESCO 船橋-BaySiteのメリットの1つだ。
そのほか、MFLP船橋IIは、三井不動産ロジスティクスパークとしてははじめて、全館倉庫内への空調設備を実装。倉庫で働く人にも配慮した環境を整え、より快適な空間を実現している。
そして、JR京葉線南船橋駅近くに立地し、駅から徒歩圏内にある「都市型物流施設」である点も大きな特徴だ。
「従来の船橋キッティングセンターは、徒歩で約30分かかり、車でしか移動手段がなかった。また、浦安テクニカルセンターは東京メトロ東西線浦安駅からバスに乗り換えて行く必要があった。だが、ESCO 船橋-BaySiteでは、南船橋駅からわずか徒歩5分で入口に到着し、10分で建屋に到着する。これは雇用面でも大きなメリットがある。ウチダエスコでは、高い品質のITサービスを提供するのは人であり、優れたエンジニアの確保が大切であると考えている。そのためには、働く環境や働きに行きやすい環境が重要になる。ESCO 船橋-BaySiteへの統合、移転は、優秀な人材を獲得するという点でも効果がある」と、ウチダエスコの江口社長は語る。
実際、従業員の採用も活発化している。現在、キッティングエリアでは約100人が勤務しているが、これを150人体制にまで拡張する予定だという。それに向けて、ESCO 船橋-BaySiteに移転して以降、すでに約10人を正社員として採用しているという。
「派遣社員から契約社員になってもらい、さらに正社員に登用するといったことも行なっている。ESCO 船橋-BaySiteでは、優秀な人材を獲得し、当社が目指すHEZ(ヒューマンエラーゼロ)を目指したい」(アークの藤岡社長)とする。
HEZへの取り組みは、ESCO 船橋-BaySiteにとってもっとも重要な取り組みの1つに位置づけられている。そして、インシデント(エラー)を発生させないためには、人と仕組みの両面から対策を強化する必要がある。
「ESCO 船橋-BaySiteへの移転にあわせて、キッティングの管理体制を独立させ、品質管理部門を新設した。手順書に不備がないことを確認し、現場でエラーが起こらないような仕組みとした。また、入出庫だけを管理する専任スタッフを新たに配置し、管理責任を明確にした。キッティングエリアや倉庫エリア、搬入出エリアが広くなり、製品を置く場所も余裕ができ、管理しやすい環境にもなった。HEZを実現できる環境が整った」と、アークの藤岡社長は自信を見せる。
そして、こうも語る。
「これまで培ってきた信頼によって、お客様のなかには、PCの調達は別でも、キッティングだけはウチダエスコに任せたいという声を数多くいただき、実際にキッティングだけを当社で行なうお客様もいる。だが、エラー1つでお客様の信頼を失うことになる。品質を第一に考え、そのうえで、処理能力の向上を図っていく」。
ESCO 船橋-BaySiteは2020年1月に稼働し、3月から本稼働をしている。この間、ヒューマンエラーによるインシデントは1つも発生していないという。今後、取扱量が増加していくなかでも、HEZを維持していく考えだ。
Windows 7サポート終了特需でもGIGAスクール構想特需向けでもない移転
ESCO 船橋-BaySiteが、2020年3月から本稼働を開始したことを考えると、2020年1月のWindows 7の延長サポート終了の特需にあわせて用意された施設ではないことがわかる。また、GIGAスクール構想が閣議決定されたのが2019年12月。ESCO 船橋-BaySiteへの移転は、それ以前からはじまっていたことを考えると、これに向けて準備が進められていたものでもない。
ウチダエスコの江口社長は、「旧船橋キッティングセンターの建物が、更新時期を迎えており、今後の発展を目指すためには、新たな場所に移転する必要があると考えていたのが理由」と明かす。
いくつかの物件をあたった結果、MFLP船橋IIと契約することができたという。
「この物件に巡り合えたことはとてもラッキーだった。そして、このタイミングで本稼働できたことも大きな意味があった」とする。
GIGAスクール構想によるPC導入が本格化する前に、ESCO 船橋-BaySiteを本稼働させた点は大きなプラス要素だ。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大によって、リモートワークに対応したPCのキッティングも増加して、その点でも、ESCO 船橋-BaySiteは大きな役割を果たしている。
「突如、リモートワークを開始する企業が増えており、在宅勤務用にPCを調達するといった動きが増えた。なかには、300台の在宅勤務用のPCをキッティングしてほしいという案件もあったが、ESCO 船橋-BaySiteによって、その案件にも対応できた」(アーク・藤岡社長)という。
こうした案件はこれからも増えていくことになるだろう。そこでも、ESCO 船橋-BaySiteが大きな役割を果たすことになる。ESCO 船橋-BaySiteは、今後も進化を続けることになるという。
ウチダエスコの江口社長は、「キッティングにおけるクローニング作業を自動化するなど、生産性を高める設備への投資を進めたい」とする。
さらに、トヨタ生産方式の導入によって、生産拠点と同様のカイゼン活動を採用。「整理、整頓、清掃、清潔、躾」という5Sを用いた運営を行なう考えも示す。
「ウチダエスコならではの小回りの良さを活かして、企業や教育分野のニーズに応えることができるキッティングの体制を敷きたい」とする。
ウチダエスコのサービス強化に、ESCO 船橋-BaySiteは重要な役割を果たすことになる。