大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
NEC PC米沢事業場が挑むSmart Manufacturingとは?生産開始から40年目の改革を追う
2024年3月5日 06:16
NECパーソナルコンピュータ米沢事業場が、1984年にPCの生産を開始してから40周年の節目を迎えている。その米沢事業場が取り組んでいるのが、「Smart Manufacturing」である。現在、第4フェーズでの生産革新を推進中であり、2024年度からは、第5フェーズを本格的にスタートすることになる。米沢事業場におけるPC生産の現場を取材した。
今はカスタマイズモデルを手掛ける米沢事業所
NECパーソナルコンピュータ米沢事業場は、NECブランドのPCの国内生産拠点だ。
1944年(昭和19年)に東北金属工業(トーキン)の疎開工場として操業。1951年に米沢製作所として独立し、1983年にNECが出資して、米沢日本電気を発足。1984年からNECブランドのノートPCの生産を開始した。
2000年にはPCの開発部門を統合し、2002年には、群馬事業場で生産していたデスクトップPCの生産を移管。2011年には、レノボグループとのジョイントベンチャーであるNECパーソナルコンピュータを発足したのに伴い、NECパーソナルコンピュータ米沢事業場に名称を変更した。2015年からは、ThinkPadの一部生産も開始。2019年からはThinkCentreの生産も開始している。米沢事業場における2011年以降の累計生産台数は約1800万台。そのうち、ThinkPadの生産台数は1%にあたる約18万台となっている。
2024年は、疎開工場として操業を開始してから80周年を迎えるとともに、PCの生産開始からは40周年という節目を迎えている。
現在、企業や官公庁、教育分野向けのNECブランドのコマーシャルPCは、すべて米沢事業場が担当しており、約2万通りの多品種生産に対応できるのが特徴だ。受注後2日間という短期間で生産し、首都圏であれば受注から3日後には納品できるようになっている。
また、量販店などで販売されているコンシューマPCは中国での生産が中心だが、Web販売向けのカスタマイズモデルなどは、米沢事業場で生産している。
米沢事業所のこれまでの生産革新
米沢事業場では、4階建ての建屋がメインとなり、1階でデスクトップPC、2階でノートPCを生産し、ノートPCで24ライン、デスクトップPCで6ラインの合計30ラインが稼働している。現在、約400人の社員が勤務しているほか、協力会社から数100人が組立ラインで作業を行なっており、繁忙期には1,000人体制になることもある。3月は、年間で最も生産台数が多い時期であり、多くの人が作業を行なっていた。
NECパーソナルコンピュータ 生産事業部の塩入史貴事業部長は、これまでの生産革新への取り組みを振り返りながら、「2000年からトヨタ生産方式を基軸とした生産革新を進める一方、2004年からはRFIDを活用することで、部品在庫を最適化しながら、必要なときに、必要な部品を持ってきて、組み立てを行なえるようにしており、スピードをロスしないための工夫を進めている。これらの取り組みは、レノボグループ全体のなかでも成果を共有している」と語る。
一方、「生産革新は、2019年以降、第4フェーズに入っており、自動化やデジタル化を推進している。これからは第5フェーズとして、米沢事業場の熟練の作業者の経験をもとにした高品質の組み立て技術を維持しながら、経験値と自動化を組み合わせた仕組みを模索していくことになる。マニュアルとオートメーションによるハイブリッドなスマート工場を目指す」と述べた。
第1フェーズでは、セル生産方式を導入し、BTO生産を開始。2000年以降の第2フェーズでは、トヨタ生産方式を導入しながら、ベルトコンベアを撤廃し、ミックスセル方式の採用やリレー方式生産などによる多品種生産体制を強化。電子かんばん方式を用いて、ジャストインタイムの生産を実現する仕組みへと移行した。また、第3フェーズでは、NEC PCのスマートファクトリーと、トヨタ生産方式の融合を開始。短納期トレーサビリティを実現する仕組みも導入した。
自動化を進める第4フェーズ
第4フェーズでは、部品のピッキングや構内搬送といった組立前工程、梱包、物流という後工程の自動化を推進。「運ぶ、積む、梱包するといった部分は、機種が違っても、作業に大きな違いがないため、これらの工程のプロセスを整理して、自動化に取り組んできた。生産ライン全体での自動化率は20%になっている」という。
AGV(自動搬送車)の積極的な導入に加えて、2021年1月には、梱包済みの完成品を対象にしたパレタイジングロボットを導入。ロボットがレールが移動して、仕向け地や機種が異なる4か所のパレットに積み込むことができる。
「パレタイジングロボットは3段階で開発、導入を行なった。まずは、完成品を持つハンド部分を独自に開発した。これで行けることが分かったため、次にロボット本体を導入し、1つのパレットに積載する形で運用。現在はレールを移動させて複数のパレットに振り分けて積むことができるようにした。首都圏向けをはじめとして、出荷台数が多いエリア向けのパレットの積載に活用しており、少量の仕向け地向けには手作業で積載を行なっている。パレタイジングロボットを導入したことで、今後の需要拡大が見込まれ、生産台数が増加した際にも対応できるようになる」とした。
パレットに積まれた完成品は、バーコードの自動読み取り装置によって、リスト出力を自動化している。配送の際には、パレット上の製品をビニールで固定するが、その回転台の仕組みと、コードリーダが上下に移動する仕組みを組み合わせて、すべてのPCのハーコードを自動で読み取ることができるという。これはレノボグループのなかでも初めての取り組みとなっており、世界中の生産拠点からも関心が集まっているという。
2020年12月には、ダンボールの自動開梱機を導入。部品が入ったダンボールの上蓋部分を、アームロボットに取り付けたカッターで、自動的に開梱する。これまでは、4人の作業者がカッターを使用して開梱し、部品ケースに移し替えていたが、これを1人で行なえるようになり、作業量は70%も削減したという。
自動開梱機は、最適な位置に刃を入れて、開梱するため、内容物を傷つけることになく、安全に開梱できる。また、稼働時間などのデータを収集しており、それに基づいて最適なタイミングでカッターの刃の交換ができるようになった。
組立後の梱包工程においては、梱包部品キットを作り、それを梱包専用エリアに供給する体制を敷いている。従来の仕組みでは、組立工程の最後に、ダンボールを組み立てたり、添付品を同梱したりといった梱包工程をインライン化していたが、この工程を別工程として切り離し、梱包工程だけをセンター化。部品のピックアップ段階で、添付品などを、それぞれの製品に合わせたキットとして構成。これを梱包専用ラインに供給して、組立が終わった本体と組み合わせることになる。
組み立てラインでは、本体の組み立てに集中することができ、全体の生産台数を増加させることができるメリットがあるという。梱包ラインや出荷ラインの自動化がさらに進めば、これらの作業を時間外に行なうということも可能になると見込んでいる。
ダンボール箱の製函機も導入しており、ノートPC用外箱は、すべて自動で組み立てが行なわれる。外箱自動製函機は米沢事業場と協力会社が内製したもので、低コストでの導入とともに、省スペース化が図られているのが特徴だ。
「外箱の下部分の組み立てを自動化が難しかったが、試行錯誤しながら、ロボットで自動製函できるようにした。1度に20個までの組み立てが可能で、これを作業者が移動させると、再び自動で動き出す。製造業各社から、外箱自動製函機に対する関心が高く、この装置の販売ビジネスにもつなげることができる」という。
組み立てられたダンボール箱は、梱包部品キットとともに、10台分を1つのセットとして、AGVに搭載されて、梱包専用ラインに供給されることになる。梱包部品キットは、それぞれに異なる本体にあわせたものとなっている。
また、第4フェーズの取り組みでは、さまざまなデータの収集にも力を注ぎ、デジタイゼーションを加速している点も特徴だ。たとえば、2018年には生産ラインに設置していたカメラは2台だけだったが、現時点ではすべてのラインに最低8台のカメラを設置。合計で約300台にまで拡大している。作業者の動き方を検知し、画像データを分析して、作業改善につなげているという。
生産に関するデータを一元管理
さらに米沢事業業では、Data Cockpit Centerを2020年から稼働させ、生産に関するデータを一元管理。必要なデータをリアルタイムで遠隔から可視化できるようにしているという。
新たな取り組みが部品の入庫エリアにおけるQRコードの採用だ。
これまでは、受注データをもとに、生産開始の2時間前に入庫するように、サプライヤーに必要な部品を発注。その際に、受注データをもとにしてサプライヤーではRFIDカードに内容を印刷。米沢事業場に納品された時点で、ゲートを通過して入庫する部品を一括で検品し、在庫として登録できるようにしていた。
新たな取り組みでは、天井部に設置したカメラを活用してQRカードを読み取り、一気にカウントできるようにした。
「米沢事業場でRFIDを導入してから約20年が経過している。RFIDカードを印刷する対応プリンタのリプレースや、保守にも課題が生まれてきた。サプライヤーにも専用プリンタを設置しなくてはならないことから、今後の継続性にも課題があり、読み取りゲートの維持にもコストがかかる。
一方でQRコードでは、カメラの導入コストが下がり、読み取り精度もRFIDと同等の品質を維持でき、RFIDを読み取るためのゲートが不要になり、設置の柔軟性が生まれるというメリットもある。現在は試験運用の段階であり、桜が咲くころには実用化する。半年ぐらいは併用しながら、その後、RFID読み取り用ゲートの撤去も考えている」という。
さらに、今後、取り組みを本格化する第5フェーズでは、アセンブリ、テスト、ランニング試験といった組立工程における自動化を目指す。
具体的には、ラインシミュレータによるライン設計を推進。これまでは、実際に試作ラインを構築して、検証を行い、本番導入をいるという仕組みを改善。バーチャル環境でラインを構築し、効果を検証したり、課題を抽出したりといった作業を行なえるようにする。
また、人とロボットの協調生産を進めるために、組立工程に小型アームロボットなどを導入していくことになる。2024年度下期から、本番稼働するラインを1本設置し、2025年度にラインを拡大することになる。
「人の経験値を活かしながら、簡単な作業を自動化し、ロボットが人をサポート。ロボットと人が並んで作業を行なえるようにしたい。組み立てたPCの検査や、ラベル貼付などの作業もロボットで行なえるようにしていく」という。今後、自動化率は45%にまで高めていく計画だ。