山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
パフォーマンスが最大30%向上した新「Fire HD 8 Plus」を試す
2022年10月28日 06:22
「Fire HD 8 Plus(第12世代)」は、Amazonが販売する8型のメディアタブレットだ。KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonが提供するデジタルコンテンツに最適化されており、通常の「Fire HD 8」よりも潤沢なメモリを搭載、かつワイヤレス充電にも対応することが特徴だ。
7型、8型、10型と3つのラインナップが存在するAmazonのFireタブレットは、今年7月に発売された「Fire 7(第12世代)」をもって、横向き利用を前提としたデザイン変更や、microBからUSB Type-Cへのポートの変更が完了した。そこからわずか2ヶ月で登場した本製品は、これらを継承しつつ、プロセッサの高速化により、パフォーマンスが最大30%向上したとアピールしている。
今回は上位モデルである「Fire HD 8 Plus」について、筆者が購入した実機を用い、従来の第11世代モデルと比較しつつ、変更点や使い勝手をチェックしていく。
従来モデルより2千円アップも海外よりは断然お得?
まずは従来の第10世代との比較から。
Fire HD 8 Plus(第12世代) | Fire HD 8 Plus(第10世代) | |
---|---|---|
発売年月 | 2022年10月 | 2020年6月 |
サイズ(最厚部) | 201.9×137.3×9.6mm | 202×137×9.7mm |
重量 | 342g | 約355g |
CPU | 2.0GHz 6コアプロセッサ | MediaTek MT8168 クアッドコア2GHz×4 |
RAM | 3GB | 3GB |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) |
通信方式 | 802.11a/b/g/n/ac | 802.11a/b/g/n/ac |
内蔵ストレージ | 32GB (ユーザー領域25.2GB) 64GB (ユーザー領域54.5GB) | 32GB (ユーザー領域24.8GB) 64GB (ユーザー領域55.6GB)" |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 13時間 | 12時間 |
スピーカー | ステレオ | ステレオ |
microSDカードスロット | ○(1TBまで) | ○(1TBまで) |
コネクタ | USB-C | USB-C |
ワイヤレス充電 | 対応 | 対応 |
価格(発売時) | 1万3,980円(32GB) 1万5,980円(64GB) | 1万1,980円(32GB) 1万3,980円(64GB) |
この表からも分かるように、CPUが4コアから6コアへと進化していることを除けば、仕様上の違いはほぼ誤差レベルだ。前述のように、USB Type-Cの搭載をはじめとしたリニューアルは従来モデルですでに完了しているので、あくまでもマイナーチェンジという形だ。Fireタブレットとしては潤沢な3GBというメモリ容量も従来と変わっていない。
ただしその「誤差レベルの違い」については、軽量化、薄型化、バッテリ持続時間の延長と、ユーザー側からするとありがたい進化ばかりだ。数値上の差はわずかでしかなく、そのためだけに買い替える必要があるかは微妙なところだが、多くのデバイスはモデルチェンジのたびに厚く重くなる傾向があるだけに、進化の方向性としては歓迎したい。
一方で、最大の課題である高解像度化は今回も見送られ、189ppiという、読書端末としてはローエンドと言っていい解像度のままだ。数年前に高解像度路線が否定され、低価格を追求するようになった頃から、この方針はまったくブレておらず、断固として変えないという意思を感じる。指紋認証や顔認証といった生体認証に対応しないのも同様だ。
価格は従来比で2千円アップして1万3,980円となったが、Amazon.comでの売価(119.99ドル)を1ドル150円レートで計算すると1万7.999円なので、かなり安価に抑えられていることが分かる。将来的に値上げされる可能性はあまりないだろうが、従来のようなセール時の破格の値引きはあまり期待できないかもしれない。
なおこのPlusモデルについては、Qi規格に準拠したワイヤレス充電機能も引き続き搭載しており、専用スタンドも従来と同じものが使える。筐体デザインの完成度は従来モデルの時点で高かったので、敢えてデザインなどに手を加えずにオプションを共通化するという方向性は正しいように思える。
外観はほぼ同一も表示サイズの変更が可能に
パッケージや同梱品は従来と変わっておらず、また本体を実際に手に取ってみても、従来モデルとの大きな違いは感じない。軽量化といってもその差はわずか13gなので、手に持ち比べての判別は難しい。背面にメッシュ状のパターンが追加されたことで、手の脂がつきにくくなったのが目立つくらいだ。
ただししばらく使っていると、電源のオン/オフや音量調整の操作で、どこか違和感があることに気づく。実は本製品は、電源ボタンと音量調整ボタンの位置が従来モデルと入れ替わっており、それゆえ従来モデルに慣れてしまっていると、音量を調整しようとして画面をオフにしてしまうといったミスが起こりやすい。
この「モデルチェンジ時に電源ボタンと音量ボタンの位置が入れ替わる」現象は、過去のFire HD 8でも起こったことがある。理由は不明だが(おそらくユーザービリティとは無関係に製造元のリファレンスの影響だろう)、電源ボタンが角に近い位置に移動するのは、分かりやすさという意味ではプラスだ。ただしボタンの位置を確認しなくても操作できるほど使い込んでいた従来モデルのユーザーは、慣れるまで苦労するかもしれない。
セットアップの手順は前回紹介したFire 7と特に違いは見られず、ホーム画面以下の構成についても相違はないが、設定画面の配色や細かい言い回しのほか、画面を上から下へとスワイプすると表示される通知領域のデザインは大きく様変わりしている。
これはおそらくFireOSのバージョンの違いによるものと見られる。本稿執筆時点で製品ページには特に記載がないのだが、本製品とFire 7は「FireOS 8」、従来モデルやFire HD 10は「FireOS 7」で、それゆえ差異が生じているというわけだ。
この中でチェックしておきたいのが、設定の「ディスプレイ」に含まれる「表示サイズ」だ。これを調整することで、ホーム画面上のアイコンをはじめとするアイテムのサイズを5段階で変更できるのだが、これにより、画面下のナビゲーションバーの天地をスリム化できる。
Fireタブレットは横向きで使うことを想定したデザインでありながら、画面下部のナビゲーションバーが天地を圧迫しており、アイコン表示が窮屈なことがネックだった。この「表示サイズ」をデフォルトの「2」から「1」へと変更することで、ナビゲーションバーが低くなり、アイコン表示にかなり余裕ができる。
後述する電子書籍のライブラリも、画面内に収まりきらなかった書影が見えるようになり、一覧性が向上するので、ぜひとも変更しておきたい。本稿執筆時点で従来モデルはFireOS 7止まりゆえこの設定は行なえず、仮に今後従来モデルのFireOSがアップデートされなければ、本製品との大きな違いということになるかもしれない。
ベンチマークはどうだろうか。製品ページによると、本製品は従来モデル比で最大30%高速化しているとのことだが、「Google Octane」でのスコアは約17.1%アップ、「GeekBench 5」でのスコアはシングルコアで約22.5%アップ、マルチコアは約70.3%アップと、バラつきはあるものの着実に性能が向上していることが分かる。
dマガジンアプリに対応も低い解像度がネックに
では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。
解像度は189ppiということで従来と変わっておらず、電子書籍を表示するためのデバイスとしてはかなりの低ランクだ。テキストはまだしも、コミックについては見開きだと細かい文字やディティールがつぶれてしまうことも少なくない。ほぼ同じ画面サイズで300ppiのiPad miniと比較すると、その差は歴然だ。
これが動画であれば動きがあるため、解像度の低さはそこまで気にはならないものだが、電子書籍はページをめくる速度を自分でコントロールしつつ、細部までじっくり見るメディアだ。そうした意味で、一定の解像度はどうしても必要であり、スマホなど昨今の高解像度に慣れてしまったユーザーの側からすると、厳しいと感じることは多い。
ところでFireシリーズは、現行モデルから新たに「dマガジン」アプリに対応し、雑誌の閲覧が可能になっている。こちらも併せてチェックしておこう。サンプルには山と溪谷社の「山と溪谷」最新号を使用している。
結論から言うと、こちらはコミックやテキスト以上に、解像度と画面サイズがネックになる。というのも雑誌の場合、本文も一律で画像化されているため、本製品の解像度だと、文字部分が潰れてしまいがちだからだ。グラビアメインの雑誌であればそう気にはならないが、本文をしっかりと読む必要があるタイプの雑誌ならば、本製品にはやや荷が重い。
これが10型/フルHDのFire HD 10であれば、一定の画面サイズがあることから拡大表示する頻度も少なくて済むし、またiPad miniは本製品とほぼ同じ画面サイズながら解像度が高いため、文字が潰れることも少ない。
これはdマガジンに限らず、Kindleで雑誌を読む場合にも言えることだが、そうした用途が中心になるのであれば、8型の本製品は候補から外し、10型クラスの製品を検討したほうがよい。コンパクトな筐体サイズが必須ということであれば、価格帯は上がるが、iPad miniのような高解像度の製品を選んだほうが、満足度は確実に高くなるだろう。
お買い得感は薄れるも有力な競合なし
以上のように、パフォーマンスは向上しているものの、解像度は相変わらずで、従来モデルから無理に買い替える必要性は感じない。海外に比べ相対的に安価とはいえ、同一容量で従来モデルから各2千円アップしていることからも、お買い得感は薄れつつある。Plusのつかない標準モデルも同様だ。
ただし高解像度が必須ではなく、なるべく低予算でこのサイズのタブレットを求めるユーザーにとっては、たとえ従来モデルから2千円値上げされていても、同等価格帯に有力な競合が見当たらないのは事実。また従来モデルはFireOS 8に非対応という状況が今後も続くようであれば、今後のアップデートによる機能差が徐々に広がっていく可能性もある。
個人的には、上位版であるこのFire HD 8 Plusには、ワイヤレス充電などの付加価値よりも、高解像度化を望みたい。10型のFire HD 10はフルHD(1,920×1,080ドット)を実現しているだけになおさらだ。スマホの高解像度化でユーザーの目が慣れてきていることに加え、前述のdマガジンのように解像度によって読みやすさがダイレクトに左右されるアプリをサポートした以上、そうした方向性も改めて検討してほしいところだ。