山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

エントリーモデルながら解像度300dpiと上位に追いついた新「Kindle」。USB Type-Cも新搭載

「Kindle(第11世代)」。実売価格は1万980円から

 「Kindle(第11世代)」は、Amazon.co.jpが販売するE Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末のエントリーモデルだ。解像度が167ppiから300ppiへと一気に向上したほか、筐体の小型化、USB Type-Cへの刷新など、全方位的に改良が施されていることが特徴だ。

 従来の第10世代モデルから3年半を経て発売された本製品は、すでにKindle Paperwhiteでは完了しているUSB Type-Cへの移行が行なわれただけでなく、解像度までKindle Paperwhiteら上位モデルと横並びになるという、一足飛びのアップデートを果たした。それだけに今後の製品選びにおける、上位モデルとの差別化ポイントは気になるところだ。

 今回は、筆者が購入した実機をもとに、従来モデルおよびKindle Paperwhiteとの相違点を中心にチェックする。

高解像度化で上位モデルと同等に。USB Type-Cも搭載

 まずは従来モデルとの比較から。

Kindle(第11世代)Kindle(第10世代)
発売月2022年10月2019年4月
サイズ(幅×奥行き×高さ)157.8×108.6×8.0mm160×113×8.7mm
重量158g174g
画面サイズ/解像度6型/1448×1072ドット(300ppi)6型/800×600ドット(167ppi)
ディスプレイ6インチ反射抑制スクリーンモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)
通信方式IEEE 802.11b/g/nIEEE 802.11b/g/n
内蔵ストレージ16GB約8GB
フロントライトあり(LED4個)あり(LED4個)
ページめくりタップ、スワイプタップ、スワイプ
ポートUSB Type-CMicro USB
バッテリ持続時間の目安最大6週間数週間
発売時価格10,980円(広告あり)
12,980円(広告なし)
8,980円(広告あり)
10,980円(広告なし)

 本製品の最大の特徴は、冒頭にも述べた高解像度化だ。これまで167ppiという、実質テキスト表示にしか使えない低解像度だったのが、212ppiを通り越して一気に300ppiとなり、上位のKindle PaperwhiteやKindle Oasisと肩を並べた。これまでKindleの各モデルは解像度の違いで差別化が図られていたが、完全に横一線となった格好だ。

 さらにUSB Type-Cポートを採用するなど、近代化改修が施されているほか、ストレージの容量も16GBと従来から倍増している。それでいて実売価格は、わずか2千円アップにとどめられている。1万円の大台に乗ってしまったとはいえ、現在が大幅な円安であることを考えると、お得感は非常に高い。

 一方で、防水機能は搭載しないほか、フロントライトは寒色のみ、Wi-FiもIEEE802.11b/g/nのみだったりと、エントリーモデルらしい割り切りは随所に見られる。もっともこのあたりは、解像度が横並びになった現在、上位モデルとの差別化にはある程度必要であることは理解できる。この件についてはあらためて後述する。

製品外観。画面サイズは従来と同じ6型だが、解像度が300ppiへと向上している
背面。滑り止め加工はなく手の脂もつきやすい
従来の第10世代モデル(右)との比較。筐体がわずかに小さくなっているのが分かる
背面の比較。Amazonロゴの位置が微妙に変更になっている以外に違いはない
従来モデル(下)のMicro USBに代えて、本製品(上)はUSB Type-Cを採用している
厚みの比較。従来モデル(右)と比べて若干薄くなっている
フロントライトを搭載。暖色はなく寒色のみだが、これで十分という人も多いはず
重量は実測156g。従来よりも軽くなっている

やや小型になったものの外観は同一。ダークモードにも対応

 パッケージは縦長薄型のボックスタイプ。同梱品はケーブルのほか、スタートガイドなどが付属する。電源アダプタが付属しないのは従来と同じだ。

 筐体は従来モデルよりもわずかに小さくなっているが、ややチープな再生樹脂を採用していることや、ベゼルと画面の間にある段差などは従来と変わっておらず、単体で見ると従来モデルとは区別はほぼつかない。フロントライトのLED数は4つと上位モデルに比べて少なめだが、普通に使っていて光量のムラを感じることはない。

パッケージはストレートな箱型
同梱品。ケーブルのほかスタートガイドなどが付属する。USB充電器は付属しない
ケーブルはいわゆるUSB Type-A→Type-Cタイプが付属する
上位のKindle Paperwhiteなどと違い、ベゼルと画面の間に段差がある
フロントライトを上方から覗き込むと4つのLEDが点灯していることが分かる

 セットアップの手順は従来通りで、とくに奇をてらったフローはない。2021年に発売されたKindle Paperwhite(第11世代)で導入された、スマホを使ったセットアップにも対応しているので、スマホのKindleアプリを利用しているユーザーは、より簡単にセットアップが行なえる。

まずは言語を選択。下段にスクリーンリーダによる読み上げ機能が追加されている
従来と同じくKindle上で設定するか、あるいはスマートフォンを使って設定するかを選ぶ。今回は通常の設定方法を選択
ネットワークを指定してパスワードを入力する
続いてAmazonアカウントを入力してサインインする
確認画面が表示された。「Kindle(第11世代)」であることが表示されている
子ども用のプロフィールを作るか選択する。以上でセットアップは完了

 ホーム画面以下の構成も、ざっと見る限り違いはない。機能面では、新たにダークモードをサポートしているほかは、これといって目新しい部分はないようだ。ダークモードの詳しい挙動については後述する。

ホーム画面。デザインは従来と変わらない
画面上部をタップすると同期や機内モードなどの設定が可能。新たにダークモードが加わった
ライブラリ。ダウンロード済みコンテンツの絞り込みなどは左上のアイコンから行う
Kindleストアにアクセスしてコンテンツの直接購入が可能

高解像度化でコミックの表示にも対応。ダークモードは実用性は高い

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。

 解像度は300ppiと、上位のKindle Paperwhite、およびKindle Oasisと同等であり、167ppi止まりだった従来モデルと比較すると、表現力の差は歴然だ。6型という画面サイズはいまとなってはコンパクトではあるものの、解像度的にテキスト中心にならざるを得なかった従来モデルと異なり、コミックも支障なく読めるのは大きな利点だ。

 そもそも、2021年にKindle Paperwhiteが6型から6.8型へと大型化して以降、スタンダードな「6型/300ppi」というモデルはしばらく空席状態だったので、本製品を300ppiに進化させて穴を埋める流れは必然だったと言える。ちなみに日本上陸時(2012年)の初代Kindle Paperwhiteは「6型/212ppi」だったので、この10年で完全に追い越してしまったことになる。

 ちなみにタッチ操作時のレスポンスは、従来モデルと変わっていない。CPUまわりのスペックは明らかになっておらず、従来より向上している可能性はあるが、少なくとも使ってすぐ体感できるレベルの速度差は感じなかった。従来モデルのユーザーがレスポンスの向上を図りたければ、本製品ではなく上位のKindle Paperwhiteをチョイスしたほうがよいだろう。

コミックを表示したところ。画面こそやや小さめだが300ppiという高解像度ゆえディティールも潰れずしっかり読める
従来モデル(右)との比較。画面サイズは変わらないが解像度が段違いだ
Kindle Paperwhite(右)との比較。6.8型ゆえ、本製品とはページサイズがかなり異なる
画質の比較。左から本製品(300ppi)、従来モデル(189ppi)、Kindle Paperwhite(300ppi)。線のシャープさが従来モデルとは明らかに異なっている。ただし見る限りKindle Paperwhiteほどではないようだ
テキストを表示したところ。文庫本サイズでアスペクト比のバランスもよい
従来モデル(右)との比較。コミックと違ってあまり解像度の影響はない
Kindle Paperwhite(右)との比較。画面サイズが大きいぶんフォントサイズを揃えるとそれだけ多くの文字を画面内に表示できる
画質の比較。左から本製品(300ppi)、従来モデル(189ppi)、Kindle Paperwhite(300ppi)。こちらはコミックほどの差は感じられない

 ところで本製品の特徴として、ダークモードをサポートしたことが挙げられる。すでに上位モデルでは搭載されていた機能だが、本製品のようなエントリークラスの製品にまで盛り込まれるようになったのは、E Ink電子ペーパー端末の昨今のトレンドを反映した結果と言える。

 ダークモードはKindleと同じくE Inkを採用した楽天Koboも対応しているが、テキストコンテンツにしかダークモードが適用されない楽天Koboと違い、Kindleのそれはホーム画面や設定画面などにも一貫して適用されるので、読書を終えてホーム画面に戻った時に急にまぶしさを感じることがなく、実用性は高い。

ダークモードは画面の上部、設定画面からすばやく切り替えられる
左が本製品、右が同じくダークモードを搭載した楽天の「Kobo Clara 2E」。どちらもテキストでは画面が白黒反転して表示される
ホーム画面などでは、Kobo Clara 2E(右)はダークモードが適用されないのに対して、本製品はきちんと適用される。画面の切り替え時のストレスも少ない

 ちなみに本製品の設定項目を見ていくと「ユーザー補助」の中に「白黒反転」という項目が追加されている。説明によると「テキスト、画像、ページの色の反転をすべての画面に適用します」とある。

 ダークモードの場合、コミックなど画像ページは白黒反転を行なわずそのままの状態が維持されるので、これは内容を問わず反転させる別の機能かと思ったが、試してみた限り、ダークモードと同じ挙動のようで、ダークモードのオン・オフに連動してオン・オフが切り替わる。わざわざ名前だけ変えている理由は不明だ。

設定項目には新たに「白黒反転」という項目が追加されているが、ダークモードと違いはないようだ

「Kindleならどれを買っても300ppi」になった理由を考える

 以上のように、画面サイズは6型のままだが、解像度が300ppiに向上したことで、コミックなども支障なく読めるようになり、汎用性はグッと高まった。筐体のチープさは気にならなくはないが、6型というサイズは本製品だけなので、片手で握れるサイズのE Ink端末を探しているユーザーにとって、こうしたスペックの底上げは朗報だろう。

従来モデルは写真のように筐体に摩擦跡がつきやすかった。本製品も同様の樹脂素材ゆえ耐性は同レベルと見られる
6型のKindleは本製品のみ。片手で握れるサイズであることはメリットだ

 ところで、これまで解像度と画面サイズでモデルの差別化を図っていたKindleファミリーが、今回なぜ解像度を横並びにするに至ったのだろうか。上位のKindle Paperwhiteとは画面サイズが異なるほか、最上位のKindle Oasisとはページめくりボタンの有無という大きな違いはあるとはいえ、差別化ポイントは明らかに少なくなっている。

 筆者の予想だが、これは近い将来、別の差別化ポイントを備えた製品が登場する布石ではないかと思う。それはズバリ、カラーE Ink搭載モデルだ。仮にそうしたモデルが登場すれば、最初にカラーかモノクロかという選択肢が加わるので、モノクロは画面サイズの違いおよびページめくりボタンの有無だけで、十分な差別化ポイントになりうる。

 またカラーE Inkを抜きにしても、来月には手書き入力対応の大画面モデル「Kindle Scribe」の発売も控えており(ちなみにこれも300ppiである)、解像度は差別化ポイントからいったん外して、違いをわかりやすくした……と考えれば辻褄も合う。「Kindleならどれを買っても300ppi」というフレーズが使える(楽天Koboはそうではない)のも大きいだろう。

 と、このあたりはあくまで筆者の予想でしかなく、実際にはAmazonの意向とは無関係に300ppi未満のE Inkパネルが終息に向かいつつあるだけかもしれないが、Kindleのラインナップ全体を見ると、Kindle Oasisのモデルチェンジはいつあってもおかしくなく、また発売からまもなく2年になるKindle Paperwhiteのモデルチェンジも、そろそろ動きがあると見てよい。

 そうした意味で、仮にカラーE Inkに動きがなかったとしても、この先1~2年ほどで大きな動きはありそうで、本製品の登場はほんの序章、そうした可能性もありそうだ。