山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Apple「iPhone XS Max」で電子書籍を試す

~iPhone史上最大、6.5型大画面と電子書籍の相性は?

Apple「iPhone XS Max」。6.5型という画面サイズはiPhone史上最大だ

 「iPhone XS Max」は、Appleの6.5型スマートフォンだ。センサーハウジングと呼ばれる上部の突起が特徴的なベゼルレスのデザイン、顔認証であるFace IDなど、「iPhone X」で新たに採用された意匠を引き継ぎつつ、従来のiPhone 8 Plusと同等の筐体サイズを採用することで、6.5型という大画面を実現している。

 本製品は、「iPhone X」の後継である「iPhone XS」の大型版ということで、従来の命名規則に従えば「iPhone XS Plus」とでも名付けられておかしくないが、「iPhone XS Max」という新たな命名規則による型番が与えられている。

 その真意は定かではないが、ユーザーにとっては、新しい名前に見合うだけの革新的な何かがあるかは気になるところだ。

 今回は市販のSIMロックフリーモデルを用いて、電子書籍端末としての使い勝手をチェックするとともに、Androidスマホでも最近続々と登場しつつある、ベゼルレスの「縦長・高解像度」というカテゴリの中における、本製品の優位性についてもチェックしていく。

 なお、以下で紹介しているアプリなどの内容は9月22日時点のもので、それ以降のアップデート情報は反映されていないのでご了承いただきたい。

同時発売のiPhone XSと同じベゼルレスデザインが特徴
画面上部にはセンサーハウジングと呼ばれる黒帯がある
Touch IDは搭載しない。ホーム画面に戻るには画面下端から上に向けてスワイプする
底面にはLightningコネクタとスピーカーを備える
左側面にはミュートスイッチ、音量調整ボタンを備える
右側面には電源ボタン、SIMカードスロットを備える

6.5型だが筐体サイズは実はコンパクト

 iPhone史上最大サイズとなる本製品だが、6型クラスのスマートフォンが過去に存在しなかったわけではもちろんない。代表的な製品と比較してみよう。

モデルiPhone XS MaxZenFone 3 UltraXperia Z Ultra
製造元AppleASUSソニー
発売年月2018年9月2016年12月2014年1月
サイズ(幅×奥行き×高さ)77.4×157.5×7.7mm93.9×186.4×6.8mm92×179×6.5mm
重量208g233g212g
OS(発売時)iOS 12Android 6.0.1Android 4.2
CPUA12 BionicチップSnapdragon 652 (1.8GHz、8コア)Snapdragon 800 APQ8074(2.2GHz、4コア)
RAM4GB4GB2GB
ストレージ64/256/512GB32GB32GB
画面サイズ/解像度6.5型/2,688×1,242ドット(458ppi)6.8型/1,920×1,080ドット6.4型/1,920×1,080ドット
メモリカードスロット-microSDmicroSD
コネクタLightningUSB Type-CmicroUSB
備考IP68-防水(IPX5/8相当)および防塵(IP5X相当)に対応

 ここに挙げた機種はいずれも発売時期が大きく異なる上、そもそもAndroidとiOSの違いもあり、スペックの優劣を比較できるものではないが、この表で見るべきところはそこではなく、本体のサイズの違いだ。

 本製品は、画面サイズについてほかの2機種とそう大きな違いはないにもかかわらず、本体サイズは一回りどころか、二回りは異なる。具体的に言うと、本製品はほかの2機種に比べて、幅はおよそ15mm、全長に至っては20~30mmもコンパクトだ。

 これは、本製品がベゼルレスデザインを採用しているのが理由だ。つまり、画面サイズではなく筐体サイズにフォーカスするならば、本製品はこれら過去の6型クラスではなく、5.5型の「iPhone 8 Plus」など、従来の5.5~8型クラスが比較対象であることがわかる。

 事実、iPhone 8 Plusの筐体サイズは78.1×158.4×7.5mmと、本製品と誤差レベルの違いしかない。つまり手への収まりはそのままに、画面だけを大きくしたのが、本製品ということになる。

 「iPhone史上最大のモデル」と聞くと、筐体サイズまで巨大化したように誤解しがちだが、実際にはまったくそうではないことは、押さえておく必要がある。

6.5型というと巨大に感じるが、ベゼルレスかつ縦長画面での6.5型ということで、筐体サイズ自体はであり、片手で無理なくつかめる幅しかない
背面。ガラス製でQiによる急速充電に対応。カメラ部は若干の突起がある。なお今回筆者が購入したのはゴールドだが、従来のゴールドとは若干色味が異なる

画面は美しいが、200gオーバーゆえ持ち方は制限される

 さて、本製品を手に取ってまず感じるのは、画面の大きさはもちろん、OLED(有機EL)ディスプレイの美しさだ。

 筆者は日頃iPhone SEを使用しているのだが、並べて見ると本製品の色の鮮やかさは明らかで、これまで不満を感じなかったiPhone SEの発色が色あせて見えてしまう。電子書籍ユースでは言わばオーバースペックだが、黒が引き締まって見えるのは利点として感じることもあるだろう。

 一方で、気になる点ももちろんある。1つは重量で、208gという重さは、長時間保持するのはかなり困難だ。筆者は個人的に、寝転がって端末を操作する場合、快適に使えるか否かのボーダーラインは「150g」だと感じているのだが、本製品はそれを大きく上回っている。

 さらに、多くのユーザーは装着するであろう保護カバーの重量を加算すると、250gをも超えかねない。そうなると、Kindleなど6型クラスのE Ink電子ペーパー端末よりも重いことになってしまう。これなら長時間の保持が難しいのも当然だ。

 それならば、いわゆるバンカーリングなどを裏に貼り付けて指を通すなど、「握る」、「持つ」以外の支え方も検討したほうがよい。

 とくに本製品の場合、寝転がって横を向いた姿勢や、仰向けの姿勢での読書が極めて難しいので、こうした使い方が多い人は、アクセサリ類の活用を念頭に置いておいたほうがよさそうだ。

iPhone SE(右)との比較。この写真ではさすがに違いはわかりにくいが、実物で写真や動画を見比べると、全体的に彩度が高く、かつ黒も深みがあるのが一目瞭然だ
6型のE Ink電子ペーパー端末であるKindle Paperwhite(205g)とは重量がほぼ同じだ
寝転がった状態で仰向けで読書する場合の筆者の持ち方。親指、中指、薬指の付け根で本体を支え、人差し指によるタップもしくはフリックでページをめくる

 なお、iOSアプリはAndroidアプリと違い、音量ボタンでのページめくりをサポートしない。

 そのサイズゆえ持ち方が制限されがちな大型スマホは、音量ボタンにページをめくる/戻るの操作を割り当てられれば、タップやフリックが使いにくい場合に重宝するが、本製品はその恩恵を受けられない。Androidアプリに慣れていると、この点がネックになる可能性はありそうだ。

テキストは快適。コミックは大画面化の恩恵に乏しい

 続いて電子書籍ユースについて見ていこう。まず解像度周りについてだが、本製品は2,688×1,242ドット(458ppi)ということで、細部のクオリティについては文句なしだ。

 以下は前回紹介したAndroidの縦長高解像度スマホ3製品との比較で、写真ではややフォーカスが甘く見えるが、実物ではおおむね解像度通りの傾向を示している。

テキストの画質比較。サンプルには太宰治著「グッド・バイ」を用いている。上段左が本製品(458ppi)、上段右がファーウェイ「P20 lite」(432ppi相当)、下段左がASUS「ZenFone 5」(402ppi相当)、下段右がHTC「U12+」(537ppi)
コミックの画質比較。サンプルにはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いている。上段左が本製品(458ppi)、上段右が「P20 lite」(432ppi相当)、下段左が「ZenFone 5」(402ppi相当)、下段右が「U12+」(537ppi)
コミックで同じコマのサイズを測り比べた結果。本製品は幅55.6mm。前出の「ZenFone 5」(6.2型)は55.1mm、「U12+」(6型)は55.2mmなので、本製品がもっとも大きいことになる。ただし差は1mm以下と、微々たる違いだ。前回のAndroidスマートフォンのレビューも参照されたい

 一方、画面が上下に伸びたことは、テキストの表示量が増やせるためにメリットは大きい。視線を上下移動させる距離は長くなるが、7型タブレットでテキストコンテンツを縦表示にした場合のような違和感はない。言うなれば、文庫本が新書版になったようなイメージだ。

 ただしコミックのようにページの縦横比率が決まっているものは、単に上下の余白が増えるだけなので、これまで小さくて見にくかったページが、本製品によって圧倒的に見やすくなるわけではない。

 少しでも大きく表示したい場合の選択肢としては間違っていないが、ベゼルレスではない従来の5型前半のスマホとの幅の違いは5mm前後なので、それらからわざわざ乗り換える必要性は感じない。期待しすぎると、あまりの代わり映えのなさにガッカリする場合もあるだろう。

 もちろん、上記の余白をうまく活かすようなほかのメリットがあれば別なのだが、各社の電子書籍ストアアプリを見る限り、現状ではそれほど画期的なアイデアらしきものは見受けられない。せいぜいページの進捗を示すバーや、フォントの種類やサイズ等を指定するオプションが、なるべくページに被らないように表示できる程度だ。

テキストの表示。上下に伸びたスペースも活用し、新書に近い感覚で読める
コミックの表示。上下の余白がそのままで、あまり表示領域を有効活用できていない。とくにApple Booksは背景色がグレーなのもやや不格好だ
テキストは上下に伸びたスペースを使って進捗バーやオプションメニューを本文と重ねずに表示できる。これは後述するApple Booksの例
Apple Booksはフォントサイズ調整はかなり融通が利くものの余白サイズ調整などの詳細なメニューはない。もうひと押しほしいところ
コミックも上下の余白を使い、移動先ページのサムネイルを表示することができるが、言ってみればそれくらいで、あまり縦長画面ならではの工夫があるわけではない
唯一、サムネイルを一覧表示して移動できるメニューについては、画面の縦長化によって一覧性が向上した印象だ

大画面とは言え見開き表示はさすがに難しい

 では発想を変えて、横向きにしての表示はどうだろうか。

 本製品はまがりなりにもiPhone史上最大の画面サイズということで、横向きでの見開き表示もいちどは試してみたくなるところだが、残念ながら実用レベルではまったくない。

 たとえば、iPhoneの中で(先日まで)最も小さいモデルだった「iPhone SE」でコミックを表示した場合と比べても、1ページあたりの面積は、本製品のほうが小さい。

 自炊系のアプリを使えば上下をトリミングして多少大きく表示できる可能性はあるが、それでもごくわずかで、現実的には使い物にならないだろう。

本製品で見開き表示を行なった状態を、iPhone SEの単ページ表示と比較したところ。iPhone SEにすらページサイズで負けており、やはり見開き表示は実用性の点で厳しいようだ

 ストアによっては、画面を横向きにしても見開き表示にならず、1ページが横幅いっぱいに表示され、縦スクロールとスワイプのミックスで読み進めなくてはいけない場合もあるほか、コンテンツは見開きで表示できても、アプリのホーム画面は縦向きで固定されており回転しない場合もある(後述のApple Booksがまさにこれだ)。

 従って、本製品は従来のスマホと同様、縦向きでの1ページ表示を楽しむのがベターということになる。サイズ的に仕方ないとはいえ、解像度は十分なだけに、ややもったいないところだ。

本製品で見開き表示にした状態。絶対的なサイズの小ささに加えて、左右の余白がどうしても目立つ
電子書籍ストアアプリによっては見開き表示にならず、横幅に合わせて拡大される場合もある。これはBookLiveの例
横向きでテキストコンテンツを表示したところ。1行の文字数が少なく、新聞のコラムを読んでいるかのようだが、これはまだマシな部類だ。写真は紀伊國屋書店Kinoppyの例
純正アプリであるApple Booksからして、頑なに上部にタイトル、下部にノンブルを表示するため天地が窮屈に感じられたりと、横向き表示は考慮されていないようだ

新登場の「Apple Books」、従来のiBooksとの違いは?

 さて、今回の「iPhone XS」および「iPhone XS Max」の登場と時をほぼ同じくして、iOSの最新バージョン「iOS 12」が登場した。このiOS 12では、Apple純正の電子書籍ストアが、これまでの「iBooks」から「Apple Books」へと差し替えられている。どこが変わったのかを見ていこう。

 「Apple Books」は、従来機種でもiOS 12にアップデートすることで自動的に「iBooks」に差し替わる。アイコンのデザインも同一であるほか(アイコンラベルは「Apple Books」ではなく「ブック」である)、本を開いてページをめくるといった基本操作においても、とくに違いは感じられない。では一体何が違うのかというと、ホーム画面の構成だ。

 従来は、アプリを起動すると購入済みのコンテンツ(ブック)が表示され、そこからおすすめやランキングといった、未購入のコンテンツをまとめた画面に切り替える仕組みだったが、今回のApple Booksは「今すぐ読む」という、現在購読中のコンテンツとおすすめコンテンツを並べて表示する統合画面が表示され、そこからライブラリやブックストアに切り替える仕様になっている。

 この仕様変更は、「購入済み」、「未購入」のコンテンツに区別して考えると分かりやすい。従来のiBooksは、まず「購入済み」が表示され、そこから「未購入」に切り替える流れだったが、今回のApple Booksでは最初に「購入済み+未購入」が表示され、そこから「購入済み」「未購入」へと切り替える流れを採用している。

 つまり上にもう1階層を追加し、未購入のコンテンツへの接触機会を増やしたということになる。これは他社の電子書籍ストアアプリのほか、先日リニューアルしたApp Storeとも共通する方向性で、要は未購入のコンテンツの露出を増やし、購入を促すという意図だと考えられる。

Apple Booksの基本画面構成(下部ボタンで切替可能な5画面を横に連結している)。ホーム画面に当たる「今すぐ読む」には、購読中のコンテンツのほか、未購入のおすすめコンテンツなどが表示される
こちらは従来のiBooksの基本画面構成。ホーム画面には購入済みコンテンツのみが表示され、それを切り替えることで初めて、未購入のおすすめコンテンツなどが表示されていた

 現状では、未購入のコンテンツを見せる切り口が「エディターのおすすめ」、「ベストセラー」、「今月のベスト」、「期間限定価格」などやや地味で、話題性重視で臨機応変に特集を差し替えている国内電子書籍ストアに比べるとシズル感に乏しいが、従来はこうした切り口さえ、「おすすめ」の下までスクロールしなくてはいけなかったわけで、これまでの無味乾燥なイメージからの脱却が期待される。

 また本の紹介ページや、一覧画面などでは、従来に比べてサムネイルが大型化するなど、画面サイズの大型化を考慮した変化が見られる。さらにオーディオブックが単体のカテゴリとして独立するなど、ほかの電子書籍ストアにはない特徴もある。

ブックストアにおける本の紹介ページ。左がApple Books、右が従来のiBooks。サムネイルが大型化し見た目が大きく改められている
同一シリーズの一覧画面。こちらもサムネイルの大型化を中心として見た目が変更になっている

 そもそもApple Books以外の電子書籍ストアのほとんどは、コンテンツの購入は別途ブラウザ側で行なわなくてはならず、Android版アプリのように、コミックを読み終えたらすぐに続きの巻をアプリ内で購入して読む、というスキームが苦手だ。

 そうした点でApple Booksは、ほかの電子書籍ストアアプリに比べて、圧倒的に有利な立場にある(iOS以外のデバイスで読めないという互換性の問題はあるが)。今回のリニューアルで、従来とは明らかに違う、電子書籍に本腰を入れて取り組み始めた姿勢が見え始めただけに、今後の動きに注目したいところだ。

Apple Books(左)は、コミック上下の余白がグレーで表示されるため、無駄なスペースの存在が気になることもしばしば。Kindle(右)などのアプリではこうした心配はない
フォントの種類が豊富なのも、Apple Booksの特徴だ
ほかの電子書籍アプリと比べてもフォントサイズの可変幅が大きい。これは最大限まで大きくした状態
配色は白・黒・セピア以外にグレーという珍しい選択肢もある
ページめくりをせず横にスクロールさせるモードも備える。以前から搭載されていた機能だが、上下に長くなった画面にある意味で適したインターフェイスといえる
ほかの電子書籍アプリストアでは絶滅しつつある、ページめくりのエフェクトがいまだ現役なのも特徴

iPhoneで電子書籍を楽しむには最良の選択。アプリは最適化を待ちたい

 以上ざっと見てきたが、本製品を実際に手に持って読書をしてみると、テキストコンテンツでは画面が縦方向に広がったことが活きており、本製品で電子書籍を楽しむメリットは大きいと感じる。

 一方のコミックは、5型後半のスマホと比べた場合の表示サイズは誤差レベルで、それほどメリットを実感できるわけではないが、iPhoneという縛りの中で(つまりiPadを選択肢に含めずに)電子書籍を快適に楽しみたい場合は、最良の選択であることは間違いない。あとは重量と、そしてなにより価格について、どう判断するかによるだろう。

 今後、本製品で動作する電子書籍アプリに期待したいのは、表示領域が縦に長くなったことで、画面上部に指が届きにくくなったことへの対応だ。

 これは、画面サイズが大型化したiPhone 6 Plus以来の問題で、それを解決する方法として、画面を下にスライドさせるメニュー=簡易アクセス機能もOS側に用意されているが、本製品は従来のiPhone 8 Plusと比べても画面がさらに縦長になっており、この問題は深刻だ。

簡易アクセス機能を有効にしておくと、画面下端を下にスワイプすることで、画面全体が下にスライドし、上部のメニューなどに指が届きやすくなる。電子書籍アプリでも有効だ
簡易アクセス機能は「設定」→「一般」→「アクセシビリティ」→「簡易アクセス」で有効化できる

 iPhoneは今回のモデルチェンジで、ホームボタンを搭載したモデルが(継続販売の従来モデルを除いて)姿を消し、今後はアスペクト比が18:9よりもさらに縦長の画面がメインストリームとなることがほぼ確定した。またAndroidも現在、ハイエンドからミドルクラスのモデルを中心に、同様の傾向が著しい。

 そうなると、画面を下にスライドさせるという補助機能を使うのではなく、アプリのインターフェイス自体を画面下部に集約したほうが操作の効率がよくなるのは自明の理だ。事実、iOS向けの「Chrome」では、先日のリニューアルで、ボタン類が下部に集約されている。

 今後は電子書籍ストアアプリ側でも、上下の余白をどう活用するかという問題に加えて、こうしたインターフェイスの最適化が、求められるようになるのかもしれない。