山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
9,000円を切るリーズナブルな8型タブレット「Fire HD 8 (第8世代)」
2018年10月10日 06:00
Amazonの「Fire HD 8 (第8世代)」は、KindleストアやAmazonビデオなど、Amazonが提供するデジタルコンテンツを楽しむための8型タブレットだ。
従来の第7世代モデルとほぼ同じスペックながら、実売価格は16GBモデルで8,980円と、従来の11,980円から大きく引き下げられていることが特徴だ。
ここ数年、年1回のペースでモデルチェンジが行なわれている「Fire HD 8」だが、製品としては大きな変更点はなく、マイナーチェンジと言って良い微細な変更にとどまっていることがほとんどだ。今回の第8世代のモデルも、スペック表をじっくりと見比べて、ようやく2~3の相違点が見つかるという程度の違いしかない。
もっとも、一見するとほぼ変わっていないように見えながら、わざわざ新製品として投入される理由はきちんと存在している。今回はそれらの点も適宜紹介しつつ、10月4日に発売されたばかりの市販品を用いたレビューをお届けする。
スペックの違いはごくわずか、モデルチェンジの理由とは
まずは過去のFire HD 8との比較から。先代の第7世代に加え、その前の第6世代も参考までに掲載する。
モデル | Fire HD 8(第8世代) | Fire HD 8(第7世代) | Fire HD 8(第6世代) |
---|---|---|---|
発売年月 | 2018年10月 | 2017年6月 | 2016年9月 |
画面サイズ/解像度 | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) | 8型/1,280×800ドット(189ppi) |
CPU | クアッドコア1.3GHz×4 | クアッドコア1.3GHz×4 | クアッドコア最大1.3GHz |
メモリ | 1.5GB | 1.5GB | 1.5GB |
内蔵ストレージ | 16GB (ユーザー領域9.6GB)/32GB (ユーザー領域23.8GB) | 16GB (ユーザー領域11.1GB)/32GB (ユーザー領域25.3GB) | 16GB (ユーザー領域11.1GB)/32GB (ユーザー領域25.3GB) |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n | IEEE 802.11a/b/g/n |
バッテリ持続時間(メーカー公称値) | 10時間 | 12時間 | 12時間 |
スピーカー | ステレオ | ステレオ | ステレオ |
microSDカードスロット | ○(400GBまで) | ○(256GBまで) | ○ |
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部) | 214×128×9.7mm | 214×128×9.7mm | 214×128×9.2mm |
重量 | 約369g | 約369g | 約341g |
価格(発売時) | 8,980円(16GB)/10,980円(32GB) | 11,980円(16GB)/13,980円(32GB) | 12,980円(16GB)/15,980円(32GB) |
表を見ると分かるように、従来の第7世代モデルとは、ほぼ同一スペックだ。違いは、microSDの対応容量が256GBから400GBへと増えたこと、また(この表にはないが)前面カメラの解像度が背面カメラと同じ200万画素へと進化したくらいだ。
第6世代から第7世代へとモデルチェンジした時は、本体サイズや重量に変化があったが、本製品にはそれもない。
価格については、前述のように16GBモデルで3,000円も引き下げられ、このクラスのタブレットとしては破格の安さになっているが、逆にバッテリの持続時間は12時間から10時間へと短くなったほか、ストレージのユーザー使用可能領域は1.5GB減少しており、一長一短といったところだ。
なお開発者向けページによると、SoCはMediaTek「MT8163V/B (64bitクアッドコア)」で、CPUはARM Cortex-A53(1.3GHz)、GPUはARM Mali-T720 MP2、メモリは1.5GBということで、第7世代はもちろん、第6世代から変化していない。
3DMarkのIce Storm Unlimitedでベンチマークを取ったところ、第7世代モデルのスコアを(わずかではあるが)逆に下回るほどだ。
これだけであれば、従来モデルをなぜ継続販売しなかったのか不思議に思えるが、じつは本製品は、日本では利用できないある機能が追加されており、それがモデルチェンジの理由になっている。
それは、本製品上で音声アシスタント「Alexa」を利用するための機能だ。
具体的には、ホームボタンを長押しせずに音声アシスタント「Alexa」を使える「Alexaハンズフリー」機能と、ディスプレイ付スマートスピーカーEcho Showのように画面にニュースや天気予報、カレンダーなどを表示できる「Showモード」がそれだ。
米Amazon.comの製品ページはこちらの機能を大々的にアピールし、前述の細かいスペック変更はほとんど触れていないほどだ。
これこそが、本製品がモデルチェンジした最大の理由であり、日本のAmazon.co.jpのアカウントでセットアップした場合はこの機能が無効化されていることから、一見すると必然性のないモデルチェンジが行なわれたように見えてしまうというわけだ。
こうした事情を把握しておけば、ビデオチャットで重要になる前面カメラが本製品で強化されていること、常時給電しながらのShowモードではあまり重要でない、バッテリ容量が削減されている点など、変更になった多くの仕様が連動していることが分かる。軽量化が一向に進まないのも、据え置き用途が増えていることを考えれば辻褄は合う。
ちなみにユーザー使用可能領域が1.5GB減少しているのは、上記と同じくAlexa絡みのソフトウェアが関係している可能性もあるが、Fire OSのベースとなっているAndroidのバージョンが、5.1から7.1.2へと変更されていることのほうが、要因として大きそうだ。
なお第6世代から第7世代への移行時に省かれたジャイロセンサーは、今回の第8世代でも搭載されていない。また、8型タブレットとしてはかなり重い約369gという重量もそのままだ。
セットアップまわりの手順はほぼ同一
以上のように、ハードウェアについてはほぼ同一なのだが、実際に使い比べてみると、細かい相違点は散見される。順に見ていこう。なお本稿執筆時点でのFire OSのバージョンは「6.3.0.1」となっている。
パッケージは従来と同じフラストレーション・フリー仕様で、同梱物についても違いはない。セットアップの手順についても、完了間際にプライム会員向けのおすすめの本やビデオ、アプリ、ゲームをおすすめする画面が追加されているほかは、これといって違いは見られない。
設定画面への小分類追加など細かい使い勝手が向上
ホーム画面についても従来と同じで、本、ビデオ、ゲーム、ミュージックといったカテゴリを左右にスワイプすることで切り替えて表示するコンテンツページなど、従来と変わらない。画面の上から下にスワイプすることで表示されるクイック設定画面なども変わりはない。
ホーム画面を右にスワイプすることで表示される「おすすめ」画面が、やや宣伝臭が強くなったように感じる程度だ。
もっとも、本製品ではFire OSがこれまでの5から6へとバージョンアップしている(ベースになっているAndroidのバージョンも従来は5.1ベースだったのが7.1.2になっている)ことから、従来の第7世代モデルと比べ、表示まわりでいくつかの変化は認められる。
たとえば、画面上部からスワイプして表示させるクイックメニューは、見た目がコンパクトになったほか、アイコンだけを表示するモードが新たに追加されている。さらに通知の表示について、アイコンではなく丸囲みの数字で表示する「簡易表示」オプションが追加されるなど、表示を目障りに感じないためのブラッシュアップが行なわれている。
設定画面については、大分類の下に小分類が表示されるようになっており、わかりやすさが劇的に改善されている。従来は、どの設定項目がどの大分類の中にあるか分からず、行ったり来たりになることもしばしばだったが、こうしたわずらわしさも減りそうだ。このあたりは地味ながらも大きなプラス要因だ。
なお参考までに、前述のAlexaまわりの機能については、Amazon.co.jpのアカウントからいったんログアウトし、米Amazon.comのアカウントでログインすれば、その内容を見ることができる。
設定画面についてはすでに従来モデルの時点で日本語化されており、いつ日本版に対応してもおかしくない状況だ。
なお、ホーム画面に表示されている「Alexa」アイコンはこれらとはまったく異なり、Alexa対応のデバイス、つまり「Amazon Echo」を設定するためのアプリだ。iOSやAndroid向けに配信されているのと同じ内容で、これはAmazon.co.jpのアカウントでも、米Amazon.comのアカウントでも、どちらを使っていても表示される。
コミックの見開き表示には足りない解像度。レイアウトの最適化も望まれる
画質についてもチェックしておこう……と言いたいところだが、いかんせん画面サイズや解像度は従来モデルからまったく変わっておらず、また液晶ディスプレイの品質まわりにも違いは認められないため(従来より若干青みがかっているが、モデルの違いによるものかロット差か判断できない)、新旧製品を並べて比較しても相違点らしきものは見つけられない。以下の比較画像で確認してほしい。
8型という画面サイズは、Apple「iPad mini 4 (7.9型)」とほぼ同じだが、アスペクト比の関係で本製品は画面が細長く、本体を横向きにして見開き表示にした場合も天地が圧迫され、アスペクト比4:3のiPad mini 4などと比べると、ページサイズが小さく表示されてしまう。
それでも解像度が高ければ、まだコミックなども読むことができるのだが、本製品は189ppiと、解像度はお世辞にも高くはないので、コミックを見開き表示すると細部のディティールが潰れてしまって、満足に表示できない。
1ページあたりのサイズでいうと、6.5型のiPhone Xs Maxよりも大きいのだが、解像度が足りないのが悔やまれる。
また(これも第7世代モデルのおさらいになるのだが)、本製品を横向きで使おうとすると、ただでさえ天地が狭いところに、ホームボタンなどが画面下部に配置されるため、さらに画面が息苦しく感じられる。
動画のように、視聴中に全画面表示になるコンテンツは問題ないが、本のライブラリを表示した時は検索バーなどが天地を圧迫して、書影が1.5列程度しか表示できないのはいただけない。
縦向きにすると横に並ぶ書影の数は減るものの、こちらのほうが明らかに圧迫感がない。せめて検索バーを非表示にできればよいのだが、現状では手の施しようがない。
これはコンテンツの詳細ページでも同様で、1画面に書影1枚しか表示されないような間延びしたレイアウトが続くので閉口してしまう。
ビデオのトップページではスクロールを始めると上部のバーが隠れるなど天地を広く使える設計になっており、ストレスはほぼ感じないのだが、それに比べてKindleの横向き表示は不遇な印象だ。一日も早い最適化を期待したい。
リーズナブルだが従来の課題はそのまま。解像度の向上が望まれる
以上のように、日本国内ではAlexaの利用に制限があることから、第7世代モデルから本製品に買い換える大きな理由は見当たらない。
じつは本製品の発表直後、第7世代モデルについてもソフトウェアアップデートでAlexaハンズフリーおよびShowモードへの対応を果たしており(ただし一部機能に制限がある)、今後日本でAlexaハンズフリーおよびShowモードが使えるようになったとしても、まずはアップデートするのが先だろう。
ただし新規購入や、もしくは第6世代以前のモデルからの買い替えであれば、第7世代モデルに比べてより大容量のmicroSDをサポートした本製品を選ぶ価値はある。
価格は従来に比べて、同じ容量で16GBモデルが2,000円、32GBモデルが3,000円も引き下げられており、16GBで21,980円だった第5世代モデルの半額以下まで下がった計算になる。お買い得であることは疑いようがない。
もっとも、筆者は今回のモデルを始め、歴代のFire HD 8をすべて購入しているが、本稿のような評価記事を書いたあと1~2週間はそのまま使い続けるものの、徐々に利用頻度が減っていき、1ヶ月も経つとプライベートでも使わなくなってしまうことがほとんどだ。
理由は大きく分けて3つで、1つは解像度不足で見開き表示が難しいこと、重量的に長時間の片手持ちに難があること、また画面が反射しやすい上に手の脂がつきやすく、すぐに画面が手の脂でベタベタになってしまうことも、理由として大きい。しばらくすると別のデバイス、具体的にはiPad mini 4やAndroidスマホに取って代わられているというのがお決まりのパターンだ。
今回の第8世代モデルは、ほぼ従来と同じ仕様であるため、この3つのポイントについてもそのままだ。8型というサイズは10型に比べてハンドリングしやすく、またKindleストアを使うに当たってアプリ内で次の巻を購入できるFireタブレットは非常に使い勝手がよく、積極的に活用していきたいのはやまやまなのだが、今回も期待薄というのが正直なところだ。
もちろん、これは複数のデバイスを所有していることが前提であり、コストパフォーマンスが優秀という評価は変わらないが、積極的に使う理由が価格だけというのは少々寂しい。
同じFire HDシリーズの10型モデル「Fire HD 10」が、フルHD化によって使い勝手の幅が大きく広がったのとは悪い意味で好対照だ。
それを考えると、次期モデルでは重量などの問題はさておき、せめて解像度の向上は望みたいところ。米Amazon.comでは前述のShowモードでの利用を前提にした専用の充電ドックがリリースされており、本体の外観が変わるモデルチェンジはおそらく来年も望み薄だと考えられるが、解像度の向上だけならばそうした問題もない。
解像度さえ上がれば、たとえ現行のアスペクト比であっても、見開き表示は実用レベルで行なえるため、読書端末としての評価は一気にアップする。
本製品自体を高解像度化するのか、あるいは上位モデルを追加するのかはさておき、AmazonビデオでもUHDコンテンツが増えつつあることも含め、それに見合った解像度の8型デバイスの登場を期待したいところだ。