山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
イマドキの“縦長高解像度スマホ”で電子書籍を試す
~P20 lite、ZenFone 5、HTC U12+でじっくり比較
2018年8月8日 11:00
近年のスマートフォンのトレンドとなっているのが、従来よりもディスプレイが縦に長い、アスペクト比18:9のスマートフォンだ。画面の大型化が進むスマートフォンだが、横方向にこれ以上大きくなると、手でつかむのが難しくなる。それゆえ各社とも、縦方向へと画面を伸ばす方向に、舵を切っているというわけだ。
そして18:9というアスペクト比がもはや当たり前となった現在、これよりもさらに縦方向に画面が長いモデルが登場しつつある。iPhone X以降見られるようになった画面上部の切り欠き、いわゆるノッチの存在も大きく影響しているが、表示領域が広く、かつ持ちやすさも考慮されているとあって、興味を持っている人も多いはずだ。
今回はこの「アスペクト比18:9以上」、「解像度2,160×1,080ドット以上」のSIMロックフリースマートフォン3製品をピックアップし、電子書籍ユースにおける使い勝手を中心にチェックする。3製品のなかでもっとも優れた端末を決めるわけではなく、それぞれの特徴および使い勝手を、比較しながらじっくりと見ていきたい。
まずは3製品の特徴と基本スペックを紹介
まず最初に、今回取り上げる3製品の特徴を、写真も交えつつざっと紹介する。スペックはSIMロックフリーモデルに準じており、キャリアから販売される同一型番のモデルでは一部異なる場合がある。
ファーウェイ「P20 lite」
「P20 lite」はファーウェイのエントリーモデル。実売約3万円強とコストパフォーマンスの高さが特徴。画面サイズは5.84型で、解像度は2,280×1,080ドット、アスペクト比は19:9で、今回紹介する3製品のなかではもっとも縦長。画面上部にはiPhone Xに似たノッチがある。
本体サイズは149×71×7.4mm(奥行き×幅×高さ)と、ほかの2製品に比べると横幅がスリムで、重量も145gと軽量だ。画素密度は非公表だが、計算上は432ppi相当となる。
そのほかのおもなスペックは、OSがAndroid 8.0、CPUがHUAWEI Kirin 659 オクタコア(2.36GHz×4+1.7GHz×4)、メモリ4GB、ストレージ32GB、microSD対応(最大256GB)、バッテリは3,000mAh。なおCPUやメモリが強化された上位モデル「P20」も存在するが、こちらは本体サイズや重量、指紋認証センサーの位置も異なっており、別のモデルという印象だ。
ASUS「ZenFone 5」
「ZenFone 5」はASUSのスタンダードモデル。画面サイズは6.2型と、今回紹介するなかではもっとも大画面だ。解像度は2,246×1,080ドットで、18:9と19:9のほぼ中間となる。画面上部はiPhone Xに似たノッチを備えるほか、画面下部も角が丸い意匠が特徴。
本体サイズは75.6×153×7.7mm(同)と横幅がやや広めだが、重量は165gとサイズのわりには軽量だ。実売価格は5万円台前半。画素密度は非公表だが、計算上は402ppi相当となる。
そのほかのおもなスペックは、OSがAndroid 8.0、CPUがQualcomm Snapdragon 636 オクタコア(1.8GHz)、メモリ6GB、ストレージ64GB、microSD対応(最大2TB)、バッテリは3,300mAh。なお同じ画面サイズ/解像度でCPUやメモリを強化した上位モデル「ZenFone 5Z」も存在する。
HTC「U12+」
「U12+」はHTCのフラグシップモデル。解像度が2,880×1,440ドット(画素密度537ppi)と表示性能は突出しており、実売価格も10万円オーバーと、今回紹介するなかではもっともハイエンドだ。ほかの2製品と違ってノッチは採用せず、アスペクト比も18:9と標準的。画面サイズは6型。
本体サイズは73.9×156.6×8.7mm(同)とやや厚みがあるほか、重量も188gとかなりのヘビー級だ。
そのほかのおもなスペックは、OSがAndroid 8.0、CPUがQualcomm Snapdragon 845 オクタコア(2.8GHz×4+1.7GHz×4)、メモリ6GB、ストレージ128GB、microSD対応(最大2TB)、バッテリは3,500mAh。防水防塵(IP68)に対応しているのは、今回紹介するなかでは本製品だけだ。
表示品質は文句なし。縦長画面はテキストコンテンツで生きる
さて、最初に結論を書いておくと、電子書籍を読むためのデバイスとしては、どの製品も合格点だ。さすがに見開き表示にこそ向かないが、いずれも解像度は十分すぎるほど高く、致命的なウィークポイントは見られない。またAndroidであるため、ストアアプリ内でのコンテンツ購入や、音量ボタンを使ったページめくりもサポートしている。
その上でここからは、表示性能と操作性の2つにポイントを絞り、各製品の違いをチェックしていきたい。以下とくに断りがない場合、電子書籍アプリにはKindleを用いている。
まず画面表示周りについてだが、どの端末も400ppiを超えていることもあり、テキストコンテンツは細い線が途切れることなく、コミックもディティールが潰れることもなく描写できる。以下の画像からもわかるように、比較に用いている300ppiクラスの5.2型スマートフォン「ZenFone 3 Max」との違いは一目瞭然で、明らかにワンランク上といった印象だ。
ただし実際の表示サイズは、3製品ともに同等というわけではなく、「P20 lite」だけが、ほかの2製品よりも本体幅がせまいこともあり、表示されるページサイズはひとまわり小さくなる。そればかりか、5.2型の「ZenFone 3 Max」よりもページサイズが小さいという、逆転現象が発生している。
つまり数値上の画面サイズ=対角線の長さが大きくなったからと言って、表示されるページサイズが必ず大きくなるわけではない、ということだ。これを認識していなければ、せっかく画面サイズが大きいスマートフォンに買い替えたのに、以前よりもコミックのページサイズが小さくなった、大きくなったのは上下の余白だけ、ということが起こりうる。
むしろ現行のスマートフォンについては、端末の横幅を見たほうが、コミックを表示したさいのページサイズの把握に役立つ。前述の「P20 lite」と「ZenFone 3 Max」にしても、前者が71mm、後者が73.7mmなので、この理屈が当てはまる。スマートフォンのベゼル幅は機種ごとに違うのでいかなる場合にも当てはまるわけではないが、参考材料にはなるだろう。
といったわけで、コミックを読む場合、画面が縦長であることにそう大きなメリットはないのだが、その一方、使えば使うほどメリットを感じさせられるのが、テキストコンテンツの表示だ。
テキストコンテンツはリフロー型であり、画面のアスペクト比に応じてレイアウトが変化する。つまり縦長スマートフォンでも、上下に余白を作ることなく、画面サイズをフルに活かした全画面表示が可能だ。感覚的には、幅がスリムな文庫本か、ひとまわり小さい新書といったイメージで、バランスも良好だ。
同じ縦長でも7~8型のタブレットとなると、縦に長すぎて一行の文字数が多すぎるため、視線の移動に疲れを感じることがあるが、今回のような6型前後のスマートフォンであれば、そうした問題もない。むしろテキストコンテンツを読むことが多い人には、おすすめできると言っていいだろう。
音量ボタンによるページめくりは操作性に若干の差あり
続いて持ちやすさや操作性など、使用感について見ていこう。
この3端末を持ち比べたときに最初に感じるのは、「P20 lite」の軽さだ。「P20 lite」は145gと、今回紹介しているなかでは唯一150gを切っており、ほかの2製品と持ち比べるとすぐ判別できるほど軽い。
また本体幅も71mmとスリムで、それゆえ片手でも握りやすい。前述のようにコミックを表示した場合のページサイズはひとまわり小さくなるのだが、片手で持ってハンドリングしやすいことを第1条件にするならば、ほかの2機種に比べてアドバンテージがあるだろう。
ページめくりは、標準的なタップやスワイプによる操作にはもちろん対応するが、3製品はいずれもAndroidということで、本体側面の音量ボタンを使ってのページめくりを活用したいところ。3製品とも、左手なら人差し指、右手なら親指で操作しやすい配置になっており、片手持ちで電子書籍を読み進められる。
ただし「U12+」に関しては、音量ボタンでのページめくりはややコツが必要だ。というのも「U12+」はiPhone 8のTouch IDと同じく、ボタンが機械的に沈み込まずにバイブが震えて反応を返す感圧式だからだ。
感圧式とはいえ、適度に間隔を空けて押すことに問題はないのだが、連続してページをめくるために繰り返し押すと、力の調整がうまく行かず何ページかまとめて進んでしまうことがある。パラパラとページをめくることが多いコミックでは、慣れるまでは使いにくさを感じることもありそうだ。
一方、この「U12+」では「エッジセンス」なる機能に注目したい。これは本体下部を握る操作に、特定のアクションを割り当てられるユニークな機能だ。ボタンのない部分を握ってなんらかのアクションが実行できるのがおもしろい。
この「エッジセンス」を使えば、よく使う電子書籍アプリの起動を割り当てておき、電話やメールなど別アプリの操作を済ませたあと、すばやく電子書籍の画面に戻る、といったことができる。感圧式の本製品ならではの、可能性を感じさせるインターフェイスだ。
なお、3製品すべてに言えることだが、ベゼルが細いことによる誤操作は少なからず発生する。具体的には、縁の部分に指をかけていただけでテキストが範囲選択されたり、親指の付け根付近が画面に当たってページがめくられたり、といったことが起こる。「P20 lite」は本体がスリムなせいか、この症状が比較的起こりやすいように感じられた。
最後に性能についてもふれておこう。電子書籍ユースにおいてはどの製品も十分な性能で、差を感じる機会はほぼ皆無なのだが、実際にこれら製品を購入する場合は、電子書籍ユースではあまり重要視されないスペックや機能、および価格も判断基準に入ってくるのが普通だろう。
そもそも今回の3製品は、実売価格が大きくかけ離れていることからもわかるように、CPUなどのグレードがまったく異なっているため、ベンチマークを実行するとそれらの差が露骨に現われる。動画再生やゲームなど、電子書籍以外の利用目的を考慮する場合は、これらも併せて参考にしてほしい。なお、計測はいずれも初期設定のまま行なっている。
画面の縦長化によってUIは今後どうなる?
今回紹介したような縦長高解像度のスマートフォンは、現実的には両手を使って操作する人がほとんどだろう。電子書籍の場合は、通常時はページをめくる操作が大半を占めるため片手のみでの操作も可能だが、あらゆるアプリでそう都合よくいくわけではない。
ただ個人的には、こうした縦長高解像度スマートフォンであっても、UIはなるべく片手で操作できることを前提に設計すべき、と思う。とくにアプリについては、ナビゲーション系のボタンをやたらと画面の上と下に分散させるのではなく、なるべく下部に集約したほうが、指を動かす距離が減り、かつ端末を持ち替える頻度が減る。
要するに、やむを得ず両手を使って操作しなくてはいけないとしても、主要な操作はなるべく片手で完結するように留めておいてほしい、ということだ。「両手操作が必須」なのと「一部に両手操作が必要だが片手でも可能」では、実際の使いやすさがまったく異なってくる。
これがブラウザだと、片手での操作に特化したアプリも存在しており、ユーザー側に選択の余地があるが、電子書籍アプリはストアと紐づいていることからユーザー側に選択権はなく、純正アプリの正常進化を願うしかない。縦長化によって今後UIがおかしな方向に行かないか若干危惧しつつ、本稿の締めとしたい。
なお、SIMロックフリーではないため今回は取り上げなかったが、同じ縦長高解像度スマートフォンとしては、サムスンのGalaxy S9+(6.2型、2,960×1,440ドット)、シャープAQUOS R2(6型、3,040×1,440ドット)などの選択肢もある。キャリア製のモデルも含めて考えるのであれば、これらも選択肢の1つとして検討してみてほしい。