山田祥平のRe:config.sys

フルMVNOにしかできないことって何だ

 IIJがフルMVNO事業をスタートした。「フル」がつくことでMVNOとして、どのような付加価値を得られるのか。それは消費者にとってメリットになるのかどうか。5G時代の到来が視野に入ったこの時期にIIJはどこに向かっているのだろう。

フルMVNOってなんだ

 IIJによればフルMVNOとは、

国際的な移動体通信の識別子であるMNC・IMSIを保有する独立した移動体通信事業者として、基地局などの無線アクセス設備を他の移動体通信事業者(MNO)から提供を受けて運営する仮想移動体通信事業者(MVNO)

とされている。

 同社はドコモの3G/LTE網を利用する国内初のフルMVNOとして、通信におけるコアネットワーク設備の一部である加入者管理機能(HLR/RSS)を自社で保有/運用することにより、独自のSIMカードの発行/管理ができるようになり、より柔軟なサービス設計が行なえるようになるという。IIJでは既存のMVNOサービスをライトMVNO、今回スタートしたサービスをフルMVNOとして、当面、両事業を併行して運営していくという。

 フルMVNOとして最初に提供されるサービスは「IIJモバイルサービス/タイプI」となる。また、音声通話機能は提供されず、データ通信専用となる。これまでは、MVNOとしてドコモ網のタイプD、au網のタイプKを提供してきたが、それにタイプI、すなわちIIJが加わる形だ。法人向けのサービスとして提供されるものだが、プランとしては回線ごとにデータ通信量を設定して使う従来のような定額プランと、複数の回線で一定のデータ通信量を共有するパケットシェアプランが用意される。

 ざっくりした料金イメージを見てみると、固定としての基本料金が毎月200円で、定額プランの場合は10GBで3,200円~の通信料費用がかかる。

 つまり、今の時点では、従来のMVNO事業サービスより高額だ。今後、IoTの浸透に伴い1カ月に100MBもあれば十分といった用途もたくさん出てくるはずだが、そうした使い方にマッチするプランも見当たらない。「IoT時代に自由なSIMを」と、鳴り物入りでスタートした事業なのだが、現時点ではどうにももどかしい。

 だが、SIMライフサイクル管理機能のような機能も用意される点はフルMVNOならではだろう。これは、SIMの状態をアクティブとサスペンドにユーザー自身が切り替えることができる機能だ。サスペンド時は毎月の基本料金200円が30円になる。

 また、最初にアクティブにするまではコストが発生しないため、ハードウェアベンダーがデバイスに装着した状態で出荷するような形態の販売でも有利だ。ショップでの販売においても、販売時点で有効化されるPOSA商品として提供できれば、在庫管理についても容易になり、販売店舗拡大にも貢献できるかもしれない。

 今後提供される予定のものとして、埋め込みチップ型のSIM提供、国際ローミングサービス、上り方向の通信料が無制限の上り優先サービス、閉域接続などが用意されているそうだ。

やっかいな設定

 フルとライトの大きな違いは、SIMを製造できるか、加入者管理機能を持つかどうか、MNOのネットワークにしばられないかどうかだ。

 発表会で試用できたIIJのSIMを普段使いの「Galaxy S8+」に装着してみた。ドコモ網を利用するが、ここで装着するSIMはIIJという別事業者のものだ。したがってSIMロックが解除されていないと使えない。多くのMVNOはドコモ回線を利用し、ドコモからSIMの提供を受けていたため、ドコモ端末であればSIMロック解除の必要はなかったが、フルMVNOとしてのIIJなのだから、そうは問屋が卸さない。

 SIMロックを解除したドコモのGalaxyにSIMを装着し、再起動しても電波をつかんだ様子がない。これはデータ専用SIMだからで、正しいAPNを手動で設定する必要があった。APNはIIJモバイルやIIJmioなどで使われているものとは異なり、.biz のTLDが使われていた。設定後、もう一度再起動すると端末には「IIJ」というキャリア名が表示され4G+のアンテナピクトが立ち、いつものようにインターネットにアクセスできる状態になった。また、iPhoneでは、LTE用のAPNを設定する必要があった。

 つまり、エンドユーザーから見たとき、そこにはもうIIJが設備の提供を受けているドコモの存在は消えてなくなってしまっている。IIJという移動体通信事業者しか見えない状態だ。だが、再起動後、一瞬、NTT DOCOMOという名前が表示されてからIIJとなることを見逃さなかった。これが仕様なのかどうかは不明だ。

近くて遠い将来

 いずれにしてもはじまったばかりとはいえ、フルMVNOとしてのサービスが、これまでのMVNOに対して画期的によくなったという印象はない。

 今後の展開としてIIJではフルMVNOならではのサービス拡充を実現しようとしているそうだ。時間帯による通信制限や上り特化型通信サービスの提供などの柔軟なサービス形態のサポートなどがある。ちなみに、今回のIIJのSIMは、Nano、Microサイズを選んで切り取れるマルチFF SIMで提供される。これもMNOやフルMVNOしか提供できないサービスだ。

 さらに、グローバルサービスの拡充も想定されている。eSIMの提供により国際ローミングで、現地では現地の事業者情報を書き込んで使い、国内に戻った時点でIIJに書き戻すような運用が可能になる。そしてそれが国際データ通信料金の低廉化につながっていく。

 将来的には家電やウェアラブル端末などでの利用、そして、これまで触ることができなかったSIMカードのメモリ領域にアクセスできるようになったことで、そこにアプリケーションを取りこむようなことも考えているそうだ。

 少なくとも現時点では、われわれエンドユーザーにとってはフルMVNOのメリットは見出せない。悪く言えば見切り発車的な印象も強い。ただ、今回の事業のための投資には少なからぬコストがかかっているはずだが、同社はその回収を個々の料金に課するようなことは考えていないともいう。フルMVNOといってもVの文字は重くのしかかる。MNOから帯域を買っているという事実はこれまでのライトMVNOと何も変わらないからだ。あくまでもMVNOであってMNOではないのだ。それでも帯域購入のコストに比べれば、今回の設備投資はわずかであり、それは契約者数の増大などで補っていけると同社はいう。

 とにかく日本発のフルMVNO事業者が誕生した。今までできなかったことができるようになるなら、それを少しでも早く見せてほしい。アッと驚くサービスの誕生を期待しようではないか。