山田祥平のRe:config.sys
Type-C PD、怖いながらもNew Normal
2020年6月27日 09:50
USB Type-C PD充電器周辺が、ずいぶんわかりやすくなってきた。これも新しい当たり前なのだろう。最近は、複数ポートを持つコンパクトな製品もよく見かける。だが、その使い勝手が各機器で異なるのがやっかいだったりもする。各社のデバイスの対応周知についても曖昧だ。このあたりで、PD周辺の現状をおさらいしておこう。
PD対応なのにPD対応を名乗らない不思議
PD充電器は、充電器の能力を「W(ワット)」で示すことを、ようやく新しい当たり前にした。PDの能力の指針である供給電力はPDP(Power Delivery Power)と呼ばれている。まだまだ各社各様の表記で比較が難しいのだが、1つの目安となる点では好ましい。
ただ、充電される側(シンクデバイス)のスマートフォンやPCについては、充電器(ソースデバイス)にシンクデバイスとして要求するPDPについていまひとつ明確に示されていないことが少なくなく、自分のデバイスを最速で充電するには、どのくらいのPDPが必要なのかがわかりにくい。
要求するPDPより低いPDPしか得られない場合、最大速度での充電ができないのは仕方がないとしても、供給を拒みまったく電力が供給されないという場合もある。それが明確になっていないことが多いのだ。
たとえばFCCLのノートPC LIFEBOOK UHシリーズの仕様を見ると、最後の最後に注意書きとして、「最大5V/1.5A 給電です。USB Power Delivery対応機器への充電が可能です。45W(20V/2.25A)以上を供給可能な機器であれば、本体に充電が可能です。ただし、すべての対応機器の動作を保証するものではありません」と記載されている。
つまり、45W以上のPDPを持つ充電器であれば充電できるということがわかる。裏を返せばPDPが45W未満の場合、充電ができないということを意味している。おそらくは消費するより供給される電力のほうが小さくなってしまって充電ができないためだと思われる。30Wの充電器をつないでも何も起こらない。
その一方で、パナソニックのレッツノートなどは、仕様を見ても、「USB 3.1 Type-Cポート(Thunderbolt 3、USB Power Delivery対応)」と記載されているだけで要求するPDPがわからない。実際には稼働時には27W以上で満充電可能、27W未満では充電ができない。ただし電源オフやスリープ状態であれば15W以上あれば満充電が可能なのだが、これは同社に問い合わせてはじめてわかったことだ。
また、日本HPのHP Elite Dragonflyでは細かい仕様はわからない。「HP 65W USB Type-Cアダプタ同梱」ということがわかるだけだ。これについてはデルも同様で、かなり深いところまで調べていってもPD対応の仕様がよくわからない。デル機の場合は「E5 45W Type-C パワーアダプタ同梱」といったことで、45WのPDPが必要なのだろうなということが想像できる。
NECパーソナルコンピュータの場合はどうか。こちらも仕様 のなかに細かく「USB Power Delivery対応の15W以上のACアダプタやモバイルバッテリからPCへの充電が可能です」と記載されているのみだ。
VAIOやDynabookについても調べてみたが、USB PD対応ということがいまひとつよくわからない。実際の製品は対応しているのだが、そこがきちんと明記されていないのだ。
スマートフォンはどうか。シャープのAQUOS R5Gの仕様を見ると、充電規格として「USB Power delivery Revision3.0」と明記されている。これは安心だが、対応PDPについては言及されていない。
Xperia 1 II の場合は仕様としては明記されていないが、特徴説明のなかでPDに言及し、「急速充電(USB PD)に対応しているので、最短30分で約50%の急速充電が可能*。*21W以上のUSB PDに対応した急速充電器で充電する場合」と記載されていることからPD対応であり、21W以上のPDPで最速充電ができることがわかる。
一方で、Galaxyやarrowsなどは、どうにもPD対応ということが伝わってこない。
iPhoneについてはType-C - Lightningケーブルによる充電だが、その注として細かく「Apple USB-C電源アダプタ(18WモデルA1720と30WモデルA1882)アクセサリを使用し、2020年2月にAppleが実施したテスト結果によります。高速充電のテストは、バッテリを完全に消費したiPhoneハードウェアを使って実施しました。充電時間は環境条件によって変わり、実際の結果は異なる場合があります」として高速充電に対応していることが記されているが、これがPDかどうかを明記しているわけではない。でもPD準拠なのだ。
世のなかの新しい当たり前がPDになっているし、各社のデバイスはそれに対応しているにもかかわらず、あまり積極的にそのことをアピールしていない。すごく残念だ。
各社にお願いしたいのは、そのデバイスがPDに対応しているのかどうかはもちろん、あわせて最速充電のためのPDPと充電可能な最低PDPを明記してほしいということだ。
2つのポートの振る舞いに注意
ともあれ、各社が明示的にアピールしているいないは別にしても、日常的に使っているデバイスの多くがPD対応してきた。
すべてがPDなら充電器とデバイスのペアが固定されない。じつにラクチンだ。そこで、100均のダイソーで蓋つきのバスケットボックスを100円で入手、複数の充電器と電源タップを詰め込んだ。
傍らには皿立てを別途100円で入手し、ノートPCやスマートフォンを立てかける。冒頭の写真がそうだが、これで見た目はかなりすっきりする。ちょっと強引だが、これでなんちゃって10ポートPD充電器のできあがりだ。
なかに突っ込んだPDアダプタから、6本の18Wを白いケーブルで、2本の60Wを黒いケーブルで取り出した。使うのはまれだがなくても困ることがあるので従来のUSB Type-A充電器も格納し、Micro USBとLightningケーブルも1本ずつ出しておいた。常用iPhoneはまだiPhone 7なのでこれでいい。結局、ボックスからは10本のケーブルが生えた。
PD充電器は、各社、製品のバリエーションが増えてきていて、迷うくらいになっている。興味半分で次々に入手するのだが、コロナ騒ぎのなかで外出を自粛するようになってなかなか使う機会がないのはちょっとくやしい。
それに新しい製品が小型軽量になってきていることや、2ポート対応のものなどが出てきていて、古くて比較的大きなサイズのアダプタが陳腐化されつつある。しかも、各社各様の外観はバラバラだ。そういうアダプタをケーブルボックスに入れてしまって見かけがそろわない見苦しさを隠蔽してしまおうというわけだ。
ただし、熱の問題もあるので密閉容器はおすすめできない。またケーブルについてはすべてを同じ長さに統一しようとせずに、長めのものも数本混ぜたほうが使いやすい。対応PDPごとに色を変えておくとわかりやすいのは言うまでもない。
結局のところ現行で使われているデバイスは、PDP 60Wか18Wのどちらかだと考えればとくに問題はなさそうだ。PD充電器には30Wや45Wのものもあるが、大きなPDPを持つ製品がコンパクト化するなかで中途半端な存在になりつつある。
また、持ち運びには2ポートを持つ充電器が便利だが、落とし穴もある。単ポートを利用したときと2ポート同時に使ったときにPDPが再構成されることが多いからだ。
たとえば今、もっともリーズナブルな製品だと自分では思っているAUKEYのOmnia USB充電器「PA-B4」は、103gの重量でPDPが65Wと、きわめてコンパクトなのが魅力だが、2つのポートを同時に使うと、それぞれが45Wと18Wに強制再分割される。
しかも2つのポートの上と下で最大PDPが異なるのには注意が必要だ。出先での充電は、ほとんどの場合、PCとスマートフォンなのでそのことをわかっていて使う分には重宝する。
PCの消費電力が大きく、もっと大きなPDPが欲しいというなら、RAVPowerの「RP-PC128」がよかった。2つのポートを区別なく使えて単ポート利用なら90WのPDPに対応する。eMarker内蔵の5A対応ケーブルも1本付属する。
2つのポートを使う場合も2つ目のポートに使われるPDPを差し引いた分がもう片方のポートで供給されるので60W+30W的な使い方ができる。
ただ、いったん60W+30Wに分配されると、30W側のデバイスを取り外しても60Wが90Wに復帰しない。プラグを抜き差しして再接続する必要がある。
こうした仕様はまだマシな方で、2ポート充電器のなかには、ケーブルを接続しただけで、デバイスを接続していないのに複数ポートが使われていると認識して各ポートのPDPを調整するものがある。
PDの仕様書を読んでもこの振る舞いが正しいのか間違っているのかがよくわからないのだが、こうした仕様は使いにくいし、充電器をバスケットに押し込んで格納してケーブルはつなぎっぱなしということもできない。
誰もが直面するようなちょっとした使い勝手について、各製品の詳細をなめまわすように読んでもわからないというのはよくないことだと思う。
充電器については、最近は、各社ともにPDPとともに電圧と電流の組み合わせであるPDO(Power Data Object)をきちんと明記してくれるようになって仕様がわかりやすくなっているのはうれしいが、2ポート充電器における振る舞いについても再ネゴシエーションのタイミングなどを含めてきちんとわかるようにしてほしいと、これまた各社にお願いしたい。
新しい当たり前は浸透するのに時間がかかる。それでもより早期の浸透のために関係各社ができることはたくさんある。誰もが安心安全に、そして効率よくデバイスを充電できるように、つとめてほしいものだ。