レビュー
話題の「無線LAN時計」、電波時計と比べた場合のメリットデメリットをチェックした
2024年11月26日 06:05
今年夏にSNSで一時話題になったのが、Wi-Fiを経由して時刻合わせが行なえる「無線LAN時計」だ。国内2箇所の標準電波送信所からの標準電波を受信して時刻を調整する電波時計と異なり、この無線LAN時計はWi-Fi経由でNTPサーバーと同期して正確な時刻を取得するのが特徴だ。
今回筆者が購入したノア精密の「MAG無線LANアナログ掛時計シグナルキーパー」もそんな無線LAN時計の1つだ。果たしてWi-Fiを採用することでどのようなメリット・デメリットがあるのか、本製品に先駆けて発売されたニトリのWi-Fi時計との違いを含めて検証したので、レビューをお届けする。
Wi-Fi経由でNTPサーバーと通信して正確な時刻を取得
本製品の外観は、一般的な壁掛け時計と何ら異なるところはない。ボディ厚は公称5.3cmということで、厚くもなく薄くもない。また重量も780gと、特段重くはない。見た目だけで言えば、まったく普通の壁掛け時計だ。
文字盤は数字が大きく見やすいという特徴はあるものの、家庭でもオフィスでも問わず使える無難なデザインだ。ただ飾り気がまったくないので、ホームユースだとやや無機質に見えてしまうかもしれない。
セットアップはスマホを使って行なう。本体に電池を入れて背面のRESETボタンを押し、スマホから本製品固有のSSIDに接続。使用するWi-FiのSSIDとパスワードを入力し、日本のタイムゾーンを指定すれば完了だ。
ちなみにNTPサーバーはデフォルトで「pool.ntp.org」となっているが、自身で変更することもできる。このほか静的IPアドレスを指定したり、ゲートウェイやサブネットマスク、DNSサーバーを入力することも可能だったりと、設定の自由度はそこそこ高い。
なおタイムゾーンは日本時間だけではなく、国ごとのさまざまな時間を指定できる。本製品を複数購入し、日本国内の時間と海外の時間とを並べて表示するという使い方も可能だろう。
ただし意図的に時刻を5分進めておくなど、遅刻防止を目的としたライフハック的な使い方はできない。
設定が完了すると時針と分針が回転し始め、正しい時刻になったところでピタリと止まり、通常の1秒ごとの動きへと移行する。
設定中は秒針の動きが6秒間隔、設定に失敗した場合は2秒間隔で運行されるほか、電池残量が低下すると秒針が6時の位置で停止するなど、秒針の動作でさまざまなステータスが分かる仕組みになっている。
なお就寝中に秒針の音が気になる場合は、停止時刻と解除時刻を入力することで、任意の時間帯に秒針の動きを停止することもできる。同様の機能を持った壁掛け時計では、これらの時間帯は固定されていることがほとんどなので、それらをスマホから自由に設定できるのは本製品の大きなメリットだ。
ちなみに電池を抜いた場合の挙動だが、Wi-Fiの設定はきちんと記憶しているので、手動で再設定を行なわなくとも、セットアップ時と同様に時針が1周して正確な時間に合う。試した限り、電池は2本のうち1本だけでも動作するので、電池を1本ずつ入れ替えることで、スムーズに新旧の電池の交換ができるだろう。
電波時計のように設置場所を選ばないのが最大の利点
さて本製品は、Wi-Fiで時刻の同期ができるというだけで、壁掛け時計としてはとりたたて特徴はない。時刻に加えて液晶で年月日を表示したり、あるいは温度センサー内蔵で部屋の温度を表示したりといった、多機能な壁掛け時計のようなギミックはない。
そんな本製品の利点は、なんと言っても正確な時刻を保持できることだ。外部から正確な時刻を受信できる時計と言えば電波時計が思い浮かぶが、電波時計の接続先である標準電波送信所は国内2箇所しかなく、標準電波をうまく受信できない場合がある。
初回は窓際に移動させるなどしてなんとか設定を終えても、元の部屋に戻してしまうと受信できなくなり、使い続けるうちに時刻がじわじわズレていくことも少なくない。
これに対してWi-Fi経由でNTPサーバーから時刻を取得する本製品は、障害物に強い2.4GHz帯で通信を行なうこともあり、複雑な間取りでも正確な時刻を取得できる。電波時計の場合、高層マンションが林立しているエリアなどで、窓際に持っていっても電波を捕まえられないことがあるが、そうしたトラブルとも無縁だ。Wi-Fiそのものが弱く電波を拾いにくくても、アクセスポイントの側に移動させたり、増設するなどの対策が取れる。
もっとも電波時計のように買って電池をセットしたあと窓際にしばらく放置しておけば勝手に時刻が合うといった手軽さはなく、初回設定時にスマホを使ったWi-FiのSSIDおよびパスワードの設定は必須だ。
いったん設定してしまえば、1日1回は必ず時刻が同期され、常に正確な時間を参照できるようになるが、初回設定に最小限の手間は必要なのが、電波時計との違いということになるだろう。
無線LAN時計、どんな点に気をつけて選ぶべき?
ところでこの無線LAN時計、新しいカテゴリの製品ではあるものの、メーカーのノア精密は卓上タイプの製品を2023年から販売していたりと、本製品が世界初の製品というわけではない。中でも壁掛けタイプに関しては、今夏に発売されたニトリの「Wi-Fiで時間を合わせる掛け時計 (SW 009TG)」がネットでひとしきり話題になったので、その段階で初めて知ったという人も多いだろう。
このニトリ製品、あいにくすぐに終息してしまったようで、本稿執筆時点ではすでにメーカーの製品ページも消失してしまっているのだが、本製品とは機能的に似て非なる部分も多いので、今後同じカテゴリの製品が登場した時、製品選びにあたって何に着目すべきか参考になる。ここでざっと違いについてまとめておきたい。
まず大きな違いとしては、設定できる項目の数が挙げられる。スマホを使って本体固有のSSIDに接続し、セットアップを行なう仕組みは両者ともに同じだが、ニトリ製品はNTPサーバーを指定できないほか、静的IPアドレスを指定するなどのプラスアルファの設定もできない。通常利用では特に問題ないだろうが、NTPサーバーについては廃止の可能性がゼロではないので、任意のサーバーを指定できる本製品のほうが安心感は高い。
一方で秒針は、本製品は1秒ごとにカチカチと音を立てて動くステップ仕様なのに対し、ニトリ製品は無音でスムーズに回転する静音仕様となっている。筆者は個人的にステップ秒針が苦手で、身の回りで使っているアナログ時計はすべて静音秒針で統一しているくらいなので、これについてはニトリ製品のほうが実用性は高いと感じる。
ただし本製品は前述のように、就寝時間帯に秒針を止めておく機能があるので、秒針の音が気になって寝られない事態は回避できる。もっともその場合は秒を知る手立てがなくなってしまうので、やはり最初から静音仕様のラインナップが欲しかったと感じる。その一方で、仮にそうした仕様を採用した場合、秒針の動きでステータスを判別することができなくなってしまうので難しいところだ。
電池寿命についても違いがある。ニトリ製品の電池寿命は単3形乾電池2本で約8カ月と、一般的な壁掛け時計としてはやや心もとなかった。Wi-Fiへの接続は一定の電力を消費するため、電波時計などに比べて電池の持ちが弱くなるのはやむを得ないが、壁掛け時計で1年も持たずに交換を求められるのは、やや頻度が高すぎる印象だ。
これに対して本製品の電池寿命は約1年程度とされている。決して長寿命とは言えないが、これならば許容できるレベルだ。個人的には、一度にセットできる単3形乾電池の本数を2本から4本に増やしてでも、さらなる長寿命は実現させてほしいと思う。
メリットは大だが会社への導入は注意が必要?
以上ざっと使ってみたが、常に正しい時刻が表示されているという安心感は、電波時計以上と言える。初回はスマホから設定しなくてはいけないぶん、Wi-Fiの設定すらしたことがない一般ユーザーにはややハードルは高いかもしれないが、そこさえなんとかすれば、あらゆる家庭、オフィスで大きなメリットがある。今回試用してみて、無線LAN時計というジャンル自体、今後大きく伸びる可能性はあると感じた。
ただし本製品を会社で利用する場合には注意が必要だ。というのも本製品を使うには、社内で利用しているWi-FiのSSIDやパスワードを設定しなくてはならず、またIPアドレスも1つ必要になる。分類上は事務用品ではなくネットワーク機器という括りになるはずで、システム部門の許可なしに導入すると、トラブルになる可能性は高い。
万一それらを考慮せずに購入し、Wi-Fiの利用が許可されなければ、個人のテザリング回線を利用するなどして初回の時刻はなんとか合わせられても、定期的に時刻を同期するという本製品のメリットを享受できず、普通の壁掛け時計のほうがよかった、となりかねない。また会社側でWi-Fiのパスワードを定期的に変更している場合も、そのたびに設定変更が必要になる。導入にあたっては、そうした手間も折り込んでおくべきだろう。
また実売価格は7,678円と、一般的な壁掛け時計や、実売3,990円だったニトリ製品と比べるとやや高額だ。今後デザインのバリエーションや、静音秒針仕様のモデルの登場を期待するとともに、さらなる低価格化についても期待したいところだ。