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5万円以下の新定番になる?「Intel Arc B570」の性能を試してみた
2025年1月16日 23:00
2024年末に発表されていたIntelの新世代GPU「Arc B570」を搭載したビデオカードの販売が1月16日にスタートする。
この発売に先立って、Arc B570を搭載するASRock製ビデオカード「Intel Arc B570 Challenger 10GB OC」をテストする機会を得られた。先に発売された上位GPU「Arc B580」との比較を通して、ミドルレンジGPUの実力を確認してみよう。
219ドルのミドルレンジGPU「Arc B570」
Arc B570は、先に発売されたArc B580と同じ「Intel Arc Bシリーズ」に属するミドルレンジGPUで、Xe2アーキテクチャに基づいてTSMC N5プロセスで製造されたGPUコア「BMG-G21」を採用している。
Arc B570のBMG-G21で有効化されているXeコアの数は18基で、144基のXeベクトルエンジンとXMX、18基のレイトレーシングユニットなどが利用できる。
VRAMには19Gbps動作のGDDR6メモリを10GB搭載しており、GPUコアと160bitのメモリインターフェイスで接続することで380GB/sの帯域幅を実現した。電力指標のTotal Board Power(TBP)は150Wで、バスインターフェイスはPCIe 4.0 x8。
【表1】Arc B570の主な仕様 | ||
---|---|---|
GPU | Arc B570 | Arc B580 |
アーキテクチャ | Xe2 (BMG-G21) | Xe2 (BMG-G21) |
製造プロセス | TSMC N5 | TSMC N5 |
Xeコア | 18基 | 20基 |
Xeベクトルエンジン | 144基 | 160基 |
レイトレーシングユニット | 18基 | 20基 |
Xe Matrix eXtensions (XMX) | 144基 | 160基 |
ベースクロック | 2,500MHz | 2,670MHz |
最大クロック | 2,750MHz | 2,850MHz |
メモリ容量 | 10GB GDDR6 | 12GB GDDR6 |
メモリスピード | 19.0Gbps | 19.0Gbps |
メモリインターフェイス | 160bit | 192bit |
メモリ帯域幅 | 380GB/s | 456GB/s |
バスインターフェイス | PCIe 4.0 x8 | PCIe 4.0 x8 |
消費電力 (TBP) | 150W | 190W |
価格 | 219ドル | 249ドル |
ASRock「Intel Arc B570 Challenger 10GB OC」
今回のテストに用いるArc B570搭載ビデオカードは、ASRockの「Intel Arc B570 Challenger 10GB OC」だ。
2基の冷却ファンを備えるGPUクーラーを搭載しており、GPUのArc B570はベースクロックが2,600MHzにオーバークロックされている。補助電源コネクタはPCIe 8ピン×1基で、映像出力端子はDisplayPort(3基)とHDMI 2.1a。
比較用GPUとテスト環境
Arc B570の比較用には、上位モデルであるArc B580を搭載するSPARKLEのビデオカード「Intel Arc B580 TITAN OC」を用意した。
SPARKLE Intel Arc B580 TITAN OC3基の冷却ファンを備える大型GPUクーラーを搭載したビデオカードで、GPUのArc B580はベースクロックが140MHz高い2,740MHzにオーバークロックされ、電力リミットも10W高い200Wへ引き上げられている。
【表2】各ビデオカードの動作仕様 | ||
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GPU | Arc B570 | Arc B580 |
ビデオカードベンダー | ASRock | SPARKLE |
製品型番 | Intel Arc B570 Challenger 10GB OC | Intel Arc Arc B580 TITAN OC |
ベースクロック | 2,600MHz | 2,740MHz |
最大クロック | 2,750MHz | 2,850MHz |
メモリ容量 | 10GB GDDR6 | 12GB GDDR6 |
メモリスピード | 19.0Gbps | 19.0Gbps |
メモリインターフェイス | 160bit | 192bit |
メモリ帯域幅 | 380GB/s | 456GB/s |
PCI Express | PCIe 4.0 x8 | PCIe 4.0 x8 |
Power Limit | 150~160W(推測値) | 200W(スペック値) |
温度リミット | 不明 | 不明 |
Resizable BAR | 有効 | 有効 |
GPUドライバ | 32.0.101.6256 | 32.0.101.6256 |
両ビデオカードを搭載するテスト環境には、現行のCPUで最高峰のゲーミング性能を有する「Ryzen 7 9800X3D」と、AMD X870チップセットを搭載するASUSの「ROG STRIX X870-F GAMING WIFI」を用意した。そのほかの機材や条件については以下の通り。
なお、Intel Arc BシリーズGPUのアイドル時省電力モードを有効にするため、今回はASPMを有効にしたうえで、Windowsの電源詳細設定にてPCI Expressの「リンク状態の電源管理」を「最大限の省電力」に設定している。
【表3】テスト機材 | |
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CPU | Ryzen 7 9800X3D (8コア/16スレッド) |
CPUリミット設定 | PPT=162W、TDC=120A、EDC=180A、TjMax=95℃ |
CPUアンコア設定 | MCLK=UCLK=2,800MHz、FCLK=2,000MHz |
マザーボード | ASUS ROG STRIX X870-F GAMING WIFI [BIOS=0803] |
メモリ | DDR5-5600 16GB×2 (2ch、46-45-45-90、1.1V) |
システム用SSD | Samsung 970 EVO Plus (NVMe SSD/PCIe 3.0 x4) |
ゲーム用SSD | CFD CSSD-M2B2TPG3VNF 2TB (NVMe SSD/USB 10Gbps) |
CPUクーラー | ASUS TUF GAMING LC 240 ARGB (ファンスピード=100%) |
電源 | 玄人志向 KRPW-PA1200W/92+ (1,200W/80PLUS Platinum) |
OS | Windows 11 Pro 24H2 (build 26100.2605、VBS有効) |
電源プラン | バランス、PCIe=最大限の省電力 |
ディスプレイ | 3,840×2,160ドット、60Hz |
計測 | HWiNFO64 Pro v8.17、ラトックシステム RS-BTWATTCH2 |
室温 | 約24℃ |
ベンチマーク結果
それでは、ベンチマークテストの結果を確認していこう。今回実施したベンチマークテストは以下の通り。
- 3DMark
- ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク
- F1 24
- UL Procyon
- Blender Benchmark
- DaVinci Resolve 19
- Adobe Camera Raw
3DMark「Speed Way」
3DMarkのDirectX 12 Ultimateテスト「Speed Way」でArc B570が記録したスコアは「1,935」で、Arc B580の「2,450」を約21%下回った。
3DMark「Steel Nomad」
3DMarkのDirectX 12テスト「Steel Nomad」では、GPU負荷の高い通常版Steel Nomadと、より軽量なSteel Nomad Lightを実行した。
高負荷テストのSteel NomadでArc B570が記録したスコアは「2,672」で、Arc B580の「3,093」を約14%下回った。
一方、負荷の軽いSteel Nomad LightでArc B570が記録したスコアは「9,904」で、Arc B580の「11,346」を約13%下回った。
3DMark「Port Royal」
3DMarkのDXR(DirectX Raytracing)テスト「Port Royal」でArc B570が記録したスコアは「6,741」で、Arc B580の「7,932」を約15%下回った。
3DMark「Solar Bay」
3DMarkの比較的軽量なレイトレーシングテスト「Solar Bay」でArc B570が記録したスコアは「48,965」で、Arc B580の「56,894」を約14%下回った。
3DMark「Wild Life」
3DMarkのVulanテスト「Wild Life」では、通常のWild Lifeと、より高負荷なWild Life Extremeを実行した。
Arc B570のスコアは通常版が「76,566」、高負荷版は「23,868」となっており、それぞれ「87,915」と「27,928」を記録したArc B580を13~15%下回った。
ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク
ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマークでは、描画設定を「最高品質」に設定して、フルHD/1080p~4K/2160pまでの画面解像度をテストした。
Arc B570のスコアはArc B580を13~14%下回っている。他方、Arc B570はフルHD/1080pで平均111.5fpsを記録して最高評価の「非常に快適」を獲得し、WQHD/1440pでも平均78.4fpsで「とても快適」の評価を獲得。WQHD/1440p以下の画面解像度でファイナルファンタジーXIVを快適にプレイできる実力を示している。
F1 24
F1 24では、描画プリセットを最高の「超高」に設定。フルHD/1080p、WQHD/1440p、4K/2160pの画面解像度で、アンチエイリアスを超解像無効の「TAA」に設定した場合と、XeSSによる超解像のみを有効にした場合、XeSSによる超解像とフレーム生成を有効化した場合のデータを計測した。
フルHD/1080pとWQHD/1440pにおいて、Arc B570が記録した平均フレームレートはArc B580を12~14%下回った。他方、XeSSによる超解像とフレーム生成はArc B570でもしっかり効果を発揮しており、両方を有効にした際の平均フレームレートはフルHD/1080pで134fps、WQHD/1440pでも108fpsに達している。
4K/2160pでは、Arc B570の平均フレームレートがArc B580を27~42%下回る結果となっている。この条件では10GBのVRAMを備えるArc B570でもメモリ容量が足りていないようで、フレーム生成の効果も薄くなっている。
UL Procyon「AI Image Generation Benchmark」
UL Procyon「AI Image Generation Benchmark」は、画像生成AIでのパフォーマンスを計測するテスト。今回は「Stable Diffusion 1.5 (FP16)」をIntel OpenVINOとONNX Runtimeで実行した場合のスコアを計測した。
Intel OpenVINO利用時のArc B570が記録したスコアは「1,206」で、Arc B580の「1,530」を約21%下回った。他方、ONNX Runtime利用時にArc B570が記録したスコアは「747」で、こちらもArc B580の「954」を約22%下回っている。
UL Procyon「AI Text Generation Benchmark」
UL Procyonの「AI Text Generation Benchmark」は、LLMを用いたテキスト生成のパフォーマンスを計測するテスト。今回はIntel OpenVINOとONNX Runtimeでテストを実行してスコアを計測した。
Intel OpenVINO利用時のArc B570は、LLAMA 2以外ではArc B580を5~11%下回るスコアとなっているが、LLAMA 2ではArc B580を79%も下回っている。これはVRAM容量不足によるもので、2GBの容量差が明暗を分けた格好だ。
ONNX Runtime利用時のArc B570も、LLAMA 2ではVRAM不足の影響でArc B580を91%下回っているが、それ以外ではArc B580を9~13%下回る程度のパフォーマンスを発揮している。
UL Procyon「Photo Editing Benchmark」
UL Procyonの「Photo Editing Benchmark」は、AdobeのPhotoshopとLightroom Classicで写真編集作業のパフォーマンスを計測するテスト。
Arc B570の総合スコアは「8,876」で、Arc B580の「9,447」を約6%下回った。また、個別のスコアに関しては、レタッチでは約8%、バッチ処理でも約4%、それぞれArc B580を下回っている。
Blender Benchmark
Blender Benchmarkを実行した結果が以下のグラフ。テスト時のベンチマークバージョンは「3.1.0」で、Blenderのバージョンは「4.3.0」。
Arc B570のレンダリング速度はArc B580を21~24%下回っている。Arc B580レビュー時のテストにおいて、Arc B580のレンダリング速度がGeForce RTX 4060を4割近く下回っていたことを考えると、Blender 4.3.0におけるArc B570のパフォーマンスは優れているとは言い難い。
システム消費電力と電力効率
ワットチェッカーを使ってシステムの消費電力を測定し、アイドル時の最小消費電力と、ベンチマーク実行中の平均消費電力および最大消費電力をグラフ化した。
アイドル時消費電力はArc B570が64.4W、Arc B580が65.8Wでほぼ同等の結果となった。
ベンチマークテスト実行中のArc B570が記録した平均消費電力は190.1~249.7Wで、210.4~287.1WだったArc B580より20~35Wほど低くなっている。
システムの平均消費電力でベンチマークスコアを割ることによって求めたワットパフォーマンスを、Arc B580を基準に指数化したものが以下のグラフ。
平均消費電力自体はArc B580より低かったArc B570だが、ワットパフォーマンスはArc B580比で85~98%となっている。あくまで両GPUを搭載したシステム全体のワットパフォーマンスを比較したものではあるが、ASRock Intel Arc B570 Challenger 10GB OCとSPARKLE Intel Arc B580 TITAN OCのワットパフォーマンスが大差ないものであることは伺える。
ベンチマーク実行中のモニタリングデータ
モニタリングソフトのHWiNFO64 Proを使って取得した、ファイナルファンタジーXIV: 黄金のレガシー ベンチマーク(4K/2160p)実行中のモニタリングデータから、GPU温度などのデータをまとめた結果が以下のグラフ。
Arc B570の温度はGPUコアが最大62.0℃(平均59.5℃)、VRAMが最大70.0℃(平均66.1)となっており、温度リミットは不明だがサーマルスロットリングが作動した様子はなかった。GPU消費電力については最大160.4W(平均144.6W)となっており、150~160Wに達した瞬間のみ電力リミットスロットリングが作動したことがログに残っているが、GPUやVRAMのクロックにはほとんど影響しなかったようだ。
Arc B580との性能差はそれなりに大きいArc B570。相応の価格差があるなら面白いミドルレンジGPU
Arc B570のパフォーマンスは上位モデルのArc B580を15~20%ほど下回るものとなっており、上位と下位ではっきりと差をつけてきた印象だ。
とはいえ、Arc B570もWQHD/1440p以下でゲームを遊べるだけのGPU性能と10GBのVRAMを備えていることも確かであり、価格次第では5万円以下の価格帯で存在感を発揮する可能性を秘めている。まずはArc B580との性能差を相応と思えるだけの価格で登場することを期待したい。