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ミニPCの熱い戦いが始まる。今選ぶべきおすすめモデルはどれだ!

今年は合計6モデルのミニPCをテスト

 2024年もさまざまなメーカーから多数の注目すべきミニPCが登場している。こうしたミニPCの中からイチオシの6モデルをピックアップし、徹底的に比較検証するのが今回の企画だ。

 ちなみに昨年と比べると搭載されるCPUの世代が進んだことで、性能や機能性が大幅に向上した。またインターフェイスもさらに充実し、超小型サイズや外部GPU搭載型などユニークなモデルも登場。魅力ある製品が多いだけに、ミニPC選びはかなり難しい状況と言えるだろう。ぜひ本稿を役立ててほしい。

 なお、本日(10月16日)の19:30より、今回取り上げているミニPCの比較をライブ配信でも実施するのでお見逃しなく!

本企画で検証したミニPC6製品をライブ配信で紹介します。ハイコスパ/長く付き合える普段使い/高性能、テーマごとに筆者の竹内亮介氏とPC Watch劉デスクがオススメ製品を提案。どちらが良いのか視聴者投票で決定します

最新CPU搭載モデルから買い得モデルまで6機種を厳選

 今回は搭載CPUや機能性が異なる6機種をピックアップし、さまざまな面から検証した。ミニPCの基本性能は、CPUが同じならほぼ同じ傾向を示すことが多いため、ここで取り上げられていないモデルを検討している場合でも参考になるはずだ。

 掲載順は市場におけるラインナップの豊富さを考えてAMD、Intel、外部GPU搭載モデルとした。また性能比較用グラフの見やすさも踏まえ、同じメーカーのCPUを搭載する製品は、CPUの世代が新しい順に並べている。

GMKtec「NucBox K8」

GMKtec「NucBox K8」
実売価格 : 10万円前後

 ミニPCが搭載するAMD製CPUでは最新世代(11月現在)となる「Ryzen 8000」シリーズのRyzen 7 8845HSを搭載。Zen 4世代のCPUコアとRDNA3世代の内蔵GPU、そしてAI演算用のNPUを組み合わせた高性能なCPUで、設定を落とせばPCゲームも楽しめる強力なミニPCだ。

MINISFORUM「MS-A1」

MINISFORUM「MS-A1」
実売価格 : 5万円前後

 Socket AM5に対応し、何とデスクトップPC向けのRyzen 7000/8000シリーズが利用できるミニPCのベアボーンPCである。ほかのモデルと違ってやや大きめではあるが、SSDを装着するM.2スロットを4基搭載したり、ビデオカードを利用できるOCuLinkを搭載したりと、多彩な機能を誇る。今回はRyzen 7 8700Gなどを搭載するモデルを試用した。

GMKtec「NucBox M7」

GMKtec「NucBox M7」
実売価格 : 6万4,000円前後

 Ryzen 6000シリーズの上位モデル「Ryzen 7 Pro 6850H」を搭載するミニPC。CPUコアは「Zen 3+」世代、内蔵GPUは「RDNA2」世代と現行世代と比べるとやや非力な面もあるが、セールス価格なら5万円を切ることを考えると、かなり安い。またこの価格帯ながらもOCuLinkを搭載しており、拡張性も高い。

ASUS「NUC 14 Pro Kit Tall」

ASUS「NUC 14 Pro Kit Tall」
実売価格 : 7万円前後から

 IntelのNUC事業を引き継いだASUSが発売しているNUCの最新モデルだ。現在入手性が高いのはメモリとSSDを搭載しないベアボーンPCで、Intelの「Core 3/Ultra 5/7」をCPUとして採用しており、筐体デザインはIntelが過去に発売していたNUCシリーズと非常によく似ている。今回の検証では「Core Ultra 7 165H」を搭載する最上位モデルを試用した(現時点では未発売)。

GMKtec「NucBox G5」

GMKtec「NucBox G5」
実売価格 : 2万7,000円前後

 コンパクトなボディサイズが魅力のミニPCだが、本機はそうしたミニPCの中でもさらに小さい。手のひらでギュッと包み込めるようなサイズ感で軽く、持ち運びも容易だ。CPUには、12世代Coreシリーズの高効率コア(Efficientコア、Eコア)のみで構成された「Intel N97」を採用している。

MINISFORUM「AtomMan G7 Pt」

MINISFORUM「AtomMan G7 Pt」
実売価格 : 26万円前後

 一般的なミニPCを2台縦に並べたようなサイズ感で、ちょっと大きめではある。しかし16コア/32スレッドの超弩級CPU「Ryzen 9 7945HX」と、外部GPUの「Radeon RX 7600M XT」を組み合わせることで、このサイズからは想像もできないほどの圧倒的なゲーミング性能を発揮する。また高性能ながらも大型のヒートシンクと複数のファンを組み合わせた冷却システムを採用し、静かに利用できる。


【表1】スペック
GMKtec
NucBox K8
MINISFORUM
MS-A1 WorkStation
GMKtec
NucBox M7
OSWindows 11 ProWindows 11Windows 11 Pro
CPURyzen 7 8845HS(8コア/16スレッド)非搭載(Socket AM5を採用)Ryzen 7 Pro 6850H(8コア16スレッド)
搭載メモリDDR5-5600 SO-DIMM 16GB 2基DDR5-5200 SO-DIMM 2基DDR5-4800 SO-DIMM 8GB 2基
ストレージSSD 1TB(PCIe 4.0)-SSD 512GB(PCIe 3.0)
拡張スロットM.2(PCIe 4.0)PCIe 4.0 x4 2基、PCIe 4.0 x1、PCIe 3.0 x4M.2(PCIe 3.0)
ネットワーク機能Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2、2.5GBASE-T 2基Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2、2.5GBASE-T 2基Wi-Fi 6、Bluetooth 5.2、2.5GBASE-T 2基
主なインターフェイスDisplayPort、HDMI、USB 4、USB 3.2 Gen 2 2基、USB 3.2 Gen 1、USB 2.0DisplayPort、HDMI、USB 4、USB 3.2 Gen 2、USB 3.2 Gen 1 2基、USB 2.0 2基、OCuLinkDisplayPort、HDMI、USB 4 2基、USB 3.2 Gen 2 2基、USB 2.0 2基、OCuLink
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) ※実測値130×127×53mm189×186×48mm125×132×62mm
重量 ※実測値570g1,818g
(CPU、メモリ、SSD込み)
632g
【表2】スペック
ASUS
NUC 14 Pro Kit Tall
GMKtec
NucBox G5
MINISFORUM
AtomMan G7 Pt
OSWindows 11Windows 11 ProWindows 11 Pro
CPUCore 3 100U
Core Ultra 5 125H/135H
Core Ultra 7 155H/165H
Intel N97(4コア4スレッド)Ryzen 9 7945HX(16コア/32スレッド)
搭載メモリDDR5-5600 SO-DIMM 2基LPDDR5-4800 12GBDDR5-5200 SO-DIMM 16GB 2基
ストレージ-SSD 256GB(SATA 3.0)SSD 1TB(PCIe 4.0)
拡張スロット/ベイM.2 2基(PCIe 4.0 x4)、2.5インチ-M.2(PCIe 4.0)
ネットワーク機能Wi-Fi 6、Bluetooth 5.3、2.5GBASE-TWi-Fi 5、Bluetooth 4.2、1GBASE-TWi-Fi 7、Bluetooth 5.4、2.5GBASE-T
主なインターフェイスHDMI 2基、Thunderbolt 4 2基、USB 3.2 Gen 2x2 Type-C、USB 3.2 Gen 2 3基、USB 2.0HDMI 2基、USB 3.2 Gen 1 3基、microSDDisplayPort、HDMI、USB 3.2 Gen 2 Type-C 2基、USB 3.2 Gen 2 4基
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) ※実測値117×112×54mm72×72×44.5mm61×153.5×268mm
(台座なし)
重量 ※実測値570g168g2,361g
(台座なし)

NucBox G5は驚きの小ささ、OCuLink搭載モデルが増加

 まずはサイズやインターフェイス構成など外観的な部分を比較していこう。サイズや容積が一番小さいのは、一目瞭然でNucBox G5。ミニPCと言えば手のひらにのるようなサイズを想像する人は多いと思うが、NucBox G5はそれをさらに超えて「手のひらで包める」サイズだ。容積も231mlと非常に小さい。

【表3】サイズ比較
機種名サイズ(W×D×H)容積
GMKtec NucBox K813×12.7×5.3cm875ml
MINISFORUM MS-A118.95×18.6×4.8cm1,692ml
GMKtec NucBox M712.5×13.2×6.2cm1,023ml
ASUS NUC 14 Pro11.7×11.2×5.4cm708ml
GMKtec NucBox G57.2×7.2×4.45cm231ml
MINISFORUM AtomMan G7 Pt6.1×15.35×26.8cm2,509ml

 ここ最近のミニPCは2022年や2023年と比べても小型化の傾向があり、特にIntel N100系統のCPUを搭載するモデルでこうした小型モデルが増えてきている。ちなみにMINISFORUMの「Mercury EM680/EM780」もほぼ同等のサイズ感ながら、AMDの高性能なノートPC向けCPUを搭載している強力なミニPCだが、残念ながら現在は終売しているようだ。

驚異的に小さいNucBox G5
ミニPCとしては一般的なサイズのNucBox M7(左)と比較すると、かなり小さい
NucBox G5(左)と、Samsung ElectronicsのGgalaxy Z Flip4を並べたところ、底面積はほぼ同じだった

 ACアダプタが小さいのもNucBox G5。最大36Wと出力自体が小さいこともあって、PC向けの小型スピーカーやブロードバンドルーターで使われるようなコンパクトなACアダプタが付属する。コンパクトで軽量なミニPCというカテゴリの中でも群を抜いて小さくて軽く、持ち運びに向いている。

NucBox G5のACアダプタ
NucBox K8やM7に付属する出力が120WのACアダプタ(左)と、NucBox G5に付属する36WのACアダプタ

 インターフェイスについては、まずディスプレイ出力ポートを見ていこう。ポート数が最も多いのはNucBox M7とNUC 14 Proで、合計4基装備する。NucBox M7はUSB 4.0ポートを2基、NUC 14 ProはThunderbolt 4を2基装備しており、ノートPCやUSBハブを装備する液晶モニターと組み合わせる場合は、よりシンプルな接続が可能だ。

【表4】ディスプレイ出力
機種名DisplayPortHDMIType-C
(DisplayPort Alt Mode)
OCuLink
GMKtec「NucBox K8」111-
MINISFORUM「MS-A1」1111
GMKtec「NucBox M7」1121
ASUS「NUC 14 Pro」-22-
GMKtec「NucBox G5」-2--
MINISFORUM「AtomMan G7 Pt」111-

 またMS-A1とNucBox M7では、外付けのGPUユニットや一般的なビデオカードと接続してグラフィックス性能を向上できる「OCuLink」を装備しており、グラフィックス性能の拡張性に優れる。

ディスプレイ出力の豊富な機種
NUC 14 Proでは背面にすべてのディスプレイ出力端子を装備し、デスクトップPCとして使いやすい
搭載CPUの世代はちょっと古いが、ディスプレイ出力ポートが充実しているNucBox M7

 有線LANポートについては、2.5GBASE-T対応が進んだ。2.5GBASE-T対応のブロードバンドルーターやハブも低価格化が進んでおり、より高速にファイルをやり取りできる環境が作りやすくなっている。無線LANについては高速なWi-Fi 6Eへの対応が進む中で、AtomMan G7 Ptはいち早くWi-Fi 7への対応を行なっている。

【表5】ネットワーク機能
機種名有線LAN無線LAN
GMKtec「NucBox K8」2.5GBASE-T 2基Wi-Fi 6E
MINISFORUM「MS-A1」2.5GBASE-T 2基Wi-Fi 6E
GMKtec「NucBox M7」2.5GBASE-T 2基Wi-Fi 6
ASUS「NUC 14 Pro」2.5GBASE-T 1基Wi-Fi 6E
GMKtec「NucBox G5」1GBASE-T 1基Wi-Fi 5
MINISFORUM「AtomMan G7 Pt」2.5GBASE-T 1基Wi-Fi 7
【表6】USBポート
機種名USB 4.0Thunderbolt 4USB 3.2 Gen 2以上USB 3.2 Gen 1
GMKtec「NucBox K8」1-21
MINISFORUM「MS-A1」1-12
GMKtec「NucBox M7」2-2-
ASUS「NUC 14 Pro」-24-
GMKtec「NucBox G5」---3
MINISFORUM「AtomMan G7 Pt」--6-

 周辺機器との接続で利用する高速なインターフェイスポートであるUSB4ポートやThunderbolt 4は、おおむねどのモデルでも搭載されるようになってきた。ただ今回取り上げた中では圧倒的なスペックを誇るAtomMan G7 Ptだと、そのどちらも搭載しないのはちょっと意外ではある。とはいえUSB 3.2 Gen 2以上の高速ポートの搭載数を見ると、NUC 14 ProとAtomMan G7 Ptが6基で並ぶ。

LANが2基の機種は多い
有線LAN端子を2基装備するモデルも珍しくない

外部GPUの影響大! 最新CPUを搭載するなら性能もかなり高い

 次にいくつかのベンチマークテストで、今回取り上げたミニPCの基本性能を比較していこう。

 ざっくりと搭載するCPUとコア/スレッド数、内蔵GPUや外部GPUを整理したのが下の表だ。入手性の高いモデルがベアボーンPCとなるMINISFORUMのMS-A1とASUSのNUC 14 Proは、メーカーから提供された試用機(32GBのメモリと1TBのSSDが組み込み済みの完成機)で検証を行なった。

【表7】検証環境
機種名CPUGPU
GMKtec「NucBox K8」Ryzen 7 8845HS
(8コア/16スレッド)
Radeon 780M
MINISFORUM「MS-A1」Ryzen 7 8700G
(8コア/16スレッド)
Radeon 780M
GMKtec「NucBox M7」Ryzen 7 Pro 6850H
(8コア/16スレッド)
Radeon 680M
ASUS「NUC 14 Pro」Core Ultra 7 165H
(16コア/22スレッド)
Arc Graphics
GMKtec「NucBox G5」N97
(4コア/4スレッド)
UHD Graphics
MINISFORUM「AtomMan G7 Pt」Ryzen 9 7945HX
(16コア/32スレッド)
RX7600M XT
(外部GPU)

 まずは一般的なアプリに関する使用感などを検証できる「PCMark 10 Extended」だ。通常の検証では各項目ごとに比較するが、今回は数が多いので総合スコアのみを比較する。

 最もスコアが高く性能面で優位に立ったのはAtomMan G7 Pt。16コアの高性能なCPUに加え、ミドルレンジの外部GPUを搭載しているのが強い。内蔵GPUを利用するミニPCでは、NucBox K8とMS-A1が強かった。

 3DMarkは、グラフィックス性能を計測するベンチマークテストだ。DirectX 12をベースとした「Time Spy」、DirectX 11をベースとした「Fire Strike」、DirectX 12ベースだが内蔵GPUでも動くような軽いゲームへの適性を検証できる「Night Raid」を実行し、そのスコアを比較したのが下のグラフだ。

 こちらも傾向はPCMark 10 Extendedと同じだが、グラフィックス性能の違いが反映されやすいテストなので、AtomMan G7 Ptの強さがさらに際立っている。PCゲームを高解像度でプレイしたいなら、やはりこのくらいのスペックは必要だ。外部GPUを搭載しないグループで比較すると、Time SpyではNUC 14 Proが一歩リードし、Fire StrikeとNight RaidではNucBox K8とMS-A1がリードするという結果となった。

 実際のPCゲームを利用するベンチマークテストも行なってみた。「ファイナルファンタジーXIV : 黄金のレガシー ベンチマーク」は、ファイナルファンタジーXIV : 黄金のレガシーがどの程度スムーズに動くかを検証できるテストだ。解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)、グラフィックス設定は[標準品質(デスクトップPC)]と、[高品質(デスクトップPC)]の2つ。今回はスコアを比較した。

 もう一つは、比較的グラフィックス描画負荷が軽い「レインボーシックス シージ」で、解像度は同じくフルHD、グラフィックス設定は[中]と[最高]の2つだ。このテストでは平均、最高、最低FPSを計測できるが、やはり比較する台数が多いため、分かりやすくするため平均FPSのみをグラフ化して比較した。

 基本的にグラフィックス描画性能が重要なテストなので、ランキングは3DMarkの結果に準じる。両方のテストでAtomMan G7 Ptがほかを突き放しており、圧倒的なパフォーマンスを見せた。内蔵GPUを使うモデル同士だと、一部のテストでNUC 14 Proが勝つ場面もあるが、基本的にはNucBox K8の成績が優れていた。

 TMPGEnc Video Mastering Works 7による動画エンコードは、主にCPUコア部分の性能を計測できるベンチマークテストだ。処理にかかる時間が短いほど性能が高く、このテストで最も性能が高いのは、やはりAtomMan G7 Ptだった。

 AtomMan G7 Ptが搭載しているRyzen 9 7945HXは、Intelで言うところの高性能コア(Performanceコア、Pコア)を16コア搭載し、32スレッド実行に対応する。NucBox G5を除くほかのミニPCのPコアは8コア以下であることを考えれば、これは当然の結果だ。これに続くのがNucBox K8とMS-A1、そしてNUC 14 Pro。やはり最新世代のCPUを搭載するミニPCは強いが、搭載CPUの世代が古く実売価格がグッと安いNucBox M7もかなり健闘している。

 全体的な傾向としては、搭載CPUのグレードが高い上に外部GPUでグラフィックス描画性能を強化しているAtomMan G7 Ptが、ずば抜けた成績を収めている。内蔵GPUを利用するグループではNucBox K8とMS-A1が半歩リードし、それに続くのがNUC 14 Pro。ただほかのミニPCと比べると圧倒的に安いNucBox M7もかなりよい位置に付けており、コストパフォーマンスではかなり優秀。

 ベンチマーク時の温度や消費電力も見ていこう。筐体サイズやモデルごとに搭載する冷却パーツが異なるので、このCPU搭載のミニPCならここまで冷える、というような判断はできないが、おおまかな目安としてとらえてほしい。

 CPUと消費電力のグラフでは、PCゲームの長時間プレイを想定して3DMarkの「StressTest(Time Spy、約24分間)」実行中の最高値を3DMark時、同じくCPUに大きな負荷がかかるCinebench R23実行中(約10分間)の最高値をCinebench時とした。

 CPU温度については、NucBox K8とMS-A1がかなり低い。ただどちらも負荷の高いテストのときはファンの回転数が上がりやすい設定になっており、動作音はほかのミニPCよりちょっと大きめだった。NUC 14 Proはどちらの状況でも95℃まで上がっているが、だからと言って性能低下が起きている様子もなく、テストが終わればすぐにCPU温度は低下する。

 AtomMan G7 Ptも3DMark時の温度は高めではあるが、これは最初の一瞬だけ。以降は70~75℃で移行しているほか、豪華な冷却パーツを組み合わせているおかげなのか非常に静かだった。ゲーミングPCとして十分な性能を発揮しながらも、ここまで静かに利用できるというのはなかなか驚きだ。

 消費電力が低いのは、当然ながらNucBox G5だ。Intel N100と似た構成のCPUを搭載するため、消費電力の低さは当然といったところ。圧倒的な性能を示すAtomMan G7 Ptは、消費電力では惨敗。この2台を除くと、NucBox M7の消費電力の低さが光る。どちらの状況でも80Wを切るというのは、今までテストしてきたミニPCと比較しても優秀だ。

どのモデルもメモリやSSDの換装作業はしやすい

 最後に内部構造をチェックし、メモリやSSDの増設がしやすいかどうかを検証しよう。NucBox K8は、メーカーロゴが印刷されている天板をゆっくり引っ張り上げて浮かせると、SSDとメモリを冷却するファンが組み込まれた内部プレートにアクセスできる。

 さらに内部プレートを4隅で固定しているネジを外した後、側面のロックを外すと、メモリスロットやSSD用のM.2スロットにアクセスできる。ファンの電源ケーブルを引きちぎらないように、慎重な作業が必要だが、マニュアルをよく見て作業内容を確認すれば、取り立てて難しい作業ではない。

NucBox K8の内部
天板を外すと内部プレートにアクセスできる
さらに内部プレートを外すと、このようにメモリスロットやM.2スロットにアクセスできる。M.2スロットは2基装備

 MS-A1では、まず底面から内部フレームを固定している8本のネジを外す。その後背面から付属の引き出し用金具を使い、内部フレームを引き出す。M.2スロットは基板の表裏に2基ずつ装備しており、試用機ではWindows 11がインストールされたM.2 SSDが1枚、底面に装着済みだった。底面にはもう1基のM.2スロットがあり、ここには試用機向けにU.2スロット変換コネクタとU.2対応 SSDが装着されていた。

 天板方向にもM.2スロットが2基、メモリスロットが2基、そしてCPUソケットを装備する。M.2スロットとメモリスロットの両方にまたがる大型のヒートシンクを装備しており、しっかり冷却できそうだった。CPUの交換となるとちょっとやっかいだが、メモリとSSDくらいなら難易度は低い。

MS-A1の内部
底面のネジを外してから、付属のクリップを使って内部フレームを引き抜く
底面方向のM.2スロット。右が変換アダプタを使って取り付けられれたU.2対応SSD、右がWindows 11用のM.2 SSD
表面のヒートシンクを外したところ。前面(画像では上部)に2基のM.2スロットとメモリスロットを装備する

 NucBox M7では、アクリルの天板を30度以上左に回転させる。すると天板が外れてファンを装備した内部プレートにアクセスできる。この内部プレートの4隅にあるネジを外し、内部プレートを上に持ち上げると、メモリスロットやM.2スロットにアクセスできる。天板の外し方はユニークだが、作業内容的にはシンプルで問題なく換装作業を行なえるはずだ。

NucBox M7の内部
天板を左に30度以上回転させると、ロックが解除されて天板が取り外せるようになる
内部プレートを外すとメモリスロットやM.2スロットにアクセスできる。ファンの電源ケーブルに注意しよう

 NUC 14 Proでは底面のロックを解除し、レバーをちょっと押すだけで簡単に底面が外れる。今回試用したTallタイプの筐体ではこの底面が2.5インチSSDの取り付け場所になっており、SATAケーブルや電源ケーブルを利用するためのフレキケーブルが基板とつながっている。底面を外したタイミングでフレキケーブルにダメージを与えないよう、慎重に作業したい。

NUC 14 Proの内部
底面のロックを解除し、レバーをずらすと「カチリ」と音がして底面が外れる
フレキケーブルに注意しながら底面を外すと、メモリスロットとM.2スロットにアクセスできる。空いているM.2スロットは2242サイズなので注意

 NucBox G5では、底面を外して内部にアクセスする。まずは四隅で底面を固定しているネジを外し、ゴム足も外しておく。その状態でネジ穴から見えるプラスチックと金属の境目に細いピンかピンセットの先を挿し、慎重に持ち上げるとパカッと外れる。底面がぴったりとくっ付いているので外しにくいかとも思ったが、ちょっとでも隙間を作れば簡単に外れる。メモリは直付けなので交換は不可能、中央にはシステム用のM.2 SSD(2242サイズ)が取り付け済みだった。

NucBox G5の内部
底面とネジ穴の金属部分の隙間に、細いピンを挿して底面を浮き上がらせる感じで作業しよう
中央にあるのが2242サイズのM.2スロットだ

 AtomMan G7 Ptでは、LEDが組み込まれている右側板をまず外す。これは磁石でくっ付いているだけなので簡単だ。次に内部のLEDパネルを外す。底面近くの2つのネジを外すと、これも簡単に外せるのだが、LEDパネルへの配線ケーブルがあるので外すときはこれにも注意したい。

 この状態だとメモリスロットにしかアクセスできないので、さらに中央のヒートシンクとファンを外す。すると背面側のM.2スロットはシステム用のM.2 SSDが装着済みで、中央にある一般的な2280サイズのM.2スロットは空いた状態だった。やはりファンの電源ケーブルの取り回しには注意が必要だが、作業は簡単だ。

AtomMan G7 Ptの内部
右側板は磁石でくっ付いているだけなので、隙間にツメなどを挿し込んで開くだけでよい
大きめなLEDの発光版は2本のネジで固定されているのでこれも外すと、こんな感じでメモリスロットにアクセスできる
中央のヒートシンクとファンを外すと、2基のM.2スロットにアクセスできるようになる

 今回取り上げたモデルは、総じてメモリスロットやM.2スロットへのアクセスがしやすく、メモリやM.2 SSDの拡張や交換は容易だった。強いて言えばドライバーなしで作業できるNUC 14 Proが一番優れていると言ってもよいが、ほかのモデルでもマニュアルを読めばトラブルになる可能性は低い。

 ただ発熱が大きなDDR5メモリやM.2 SSDを冷却するため、メモリスロットやM.2スロット付近にファンを装備するモデルが増えている。その電源ケーブルを抜いたり、断線させないように注意して作業したい。

NucBox K8とM7がバランスのよさでオススメ

 このようにさまざまな観点から6台のミニPCを見てきたが、性能と価格のバランスに優れるのはNucBox K8とNucBox M7あたりか。K8は、外部GPUを搭載しないモデルで比べると性能では文句なしのトップグループに位置する上、キャンペーン価格や大幅値引きのクーポンを狙うことで7万5,000円前後で購入できることもある。MINISFORUMの「UM890 Pro」など、NucBox K8と同じCPUを搭載するミニPCにも注目したい。

 M7は性能比較では二番手グループに位置するものの、何と言っても安い。同じようにキャンペーン価格やクーポンを活用することで5万円を切ることもある。今まで使ってきたWindows 10搭載の古いデスクトップPCからの乗り換えなら、なかなか魅力的な選択肢となるはずだ。

 ミニPCでも強力なゲーミング性能が欲しいなら、AtomMan G7 Ptしかないだろう。このサイズからは想像もできないゲーミング性能、そして静かな動作音には驚いた。AtomMan G7 PtのCPUとGPUは、ミドルレンジのゲーミングノートPCではよく見かけるが、そうしたノートPCは一般的にかなりうるさいし、AtomMan G7 Ptの実売価格では購入できないことも多い。そうしたことを考えると買い得感もある。

 今回は実機がないため試せなかったが、Intelでは「Luner Lake」世代、AMDなら「Ryzen AI 300」シリーズなど、新しい高性能なノートPC向けCPUを搭載するミニPCもアナウンスが始まっている。今後もミニPCの動向からは目が離せない状況と言ってよさそうだ。