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ミニPCを「隠密」化して利用する方法。大画面モニターの悩みも一挙解決!

 メーカーや製品数が激増したこともあり、ユーザーの認知度や注目度も非常に高くなってきた小型デスクトップ“ミニPC”。手のひらサイズのコンパクトな筐体を採用しており、どんな場所でも気軽に利用できるのが最大の特徴となる。

 このただでさえコンパクトなミニPCを、さらに省スペースに、そしてその存在感すら消すようにして設置する方法がある。今回はミニPCの「VESAマウント」機能と、モニターアームを利用して、忍者のように存在感を消しながらミニPCを使う方法を解説していこう。最近の液晶モニター特有の事情についても、解決方法を紹介する。

背面からVESAマウント穴が見えるなら非常に簡単

 いわゆるVESAマウントとは、液晶モニターや大型TVの背面に、ミニPCを含む小型PCや周辺機器などを取り付ける機能のことだ。VESAマウント対応の液晶モニターや大型TVでは、背面に4カ所の75mmまたは100mm(大型の場合は200mmだがミニPCの場合は非対応となるケースが高い)ネジ穴を装備しており、ここにVESAマウント対応の機器そのものや、VESAマウントで固定するときに利用するプレートを装着できる。

 たとえばミニPCを液晶モニターの裏側に設置すれば、デスクまわりにミニPC用のスペースを確保する必要はないし、液晶一体型PCのように使える。こうした利点もあり、多くのミニPCではVESAマウント用の金具やプレートなどが付属している。

 まずは実際にMINISFORUMの「EliteMini UM890 Pro」を、LG Electronicsの液晶モニター「27UD58-B」の背面に装備するVESAマウントに設置してみよう。液晶モニターは10年近く前に発売された古い4K対応モデルだが、理由は後述する。

EliteMini UM890 Pro(左)とVESAマウント用プレート。必要なネジも同梱される

 EliteMini UM890 Proでは、ほかのミニPCと同様にVESAマウント用プレートを同梱する。まずはEliteMini UM890 Pro付属のネジを使い、付属するVESAマウント用プレートを27UD58-BのVESAマウント穴に固定する。さらに2本のネジをEliteMini UM890 Pro本体の底面に固定して、ネジの突き出している部分をプレートの指定箇所に引っかけるようにすればよい。

27UD58-Bの背面にあるVESAマウント穴。100×100mmの規格に対応している
VESAマウントに、EliteMini UM890 Pro付属のVESAマウント用プレートを同梱のネジを使って固定する
2本の長いネジを、EliteMini UM890 Proの底面にあるネジ穴に固定する。ネジの軸部が若干余るができるがそれでよい
先ほどのネジの頭を、VESAマウント用プレートの穴に挿し込む
EliteMini UM890 ProをVESAマウントした状態はこちら。インターフェイスは左右から挿す

 ほとんどのミニPCでは、ほぼ同じような構造のVESAマウント対応固定金具が付属しており、作業内容も似ている。見たとおり非常に簡単な作業であり、液晶モニターがこうしたVESAマウントに対応するモデルなら、ぜひ試してみてほしい。

VESAマウント穴が見えない場合は便利ガジェット追加で解決!

 ただしこのように作業が簡単な液晶モニターは、最近、とくに24型以上の大型パネルを採用するモデルだとまず見かけない。VESAマウント自体には対応するのだが、付属のスタンドを利用する場合、それ自体がVESAマウント穴を利用するためだ。

 最近の液晶モニターでは、チルトやスイベルといったシンプルな調整機能だけではなく、パネル高の変更や、向きを変更して表示方向を切り換えられる「ピボット」機能など、さまざまな調整機能をスタンド部分に装備する。

 そうした多機能なスタンドユニットはサイズも大きく、液晶パネルと接触するマウントユニットも大きめだ。そうした構造の影響で、背面のVESAマウントが大きめなマウントユニットで覆われてしまっているモデルが大多数を占める。

 VESAマウントを使うためにはそうした標準のスタンドを外す必要があるが、スタンドなしでは液晶モニターを安定して設置できないため、標準スタンドを使う限りは、ミニPCをVESAマウントすることは不可能になってしまう。

私物のINNOCNの「27M2V」では大型のスタンドユニットを背面から固定しており、VESAマウント穴は見えない状態

 こうしたことを解決するには、2つ、あるいは3つのアイテムが必要だ。もっとも重要なアイテムは、標準スタンドと置き換えて使う「モニターアーム」である。これは、VESAマウント機能を利用して液晶モニターのパネル部分のみを宙に浮いたように設置できるアイテムだ。

 モニターアームを導入すれば、標準スタンドを使っていた時に占有されていたデスク上のスペースを活用できるようになる。また液晶パネル部分のみをグッと近付けて視認性を高めることも可能だし、PC以外の作業でジャマになるならパネル部分のみをサッと避けることも簡単だ。ピボット機能で表示方向を変更できるタイプも多く、液晶モニターをより便利に活用できる。

後述する実際の組み込み作業で使ったエルゴトロンのモニターアーム「LX デスクマウントアーム」。実売価格は2万4,000円前後

 ただモニターアームもミニPCと同様、液晶モニターのVESAマウント穴を利用する。そのためミニPC用にVESAマウントを利用できないのだが、これを補うのが「VESAマウント増設プレート」と呼ばれるアイテムだ。

 VESAマウント増設プレートは、モニターアームのマウントユニットと液晶モニターのVESAマウント穴の隙間に挟み込むような形で取り付ける。こうすることで、液晶パネルを取り付けたモニターアームの横に、ミニPCを固定するためのVESAマウントを「増設」できる。VESAマウント周辺がスッキリしている液晶モニターなら、この2つがあれば大丈夫だ。

同じく今回の組み込みで利用した長尾製作所の「VESA規格増設プレート」。実売価格は1,800円前後

 ただ液晶モニターの背面の状況によってはもう1つ、エルゴトロンの「クイックリリースLCDブラケット」というものが必要になることがある。これは、液晶パネルとモニターアームのマウント部分にそれぞれ着脱用のパーツを取り付けることで、液晶パネル部分のみを簡単に着脱できるようにするためのものだ。

 クイックリリースLCDブラケットは、モニターアームに取り付ける「ピボットプレート」と、液晶モニターのVESAマウントに取り付ける「モニタープレート」、そして高さ1.5cmのスペーサーと専用の取り付けネジで構成される。

エルゴトロンの「クイックリリースLCDブラケット」。左がピボットプレート、右がモニタープレートだ。ほかにスペーサーと固定ネジが付属する。実売価格は3,700円前後

 このような紹介だけだと、なぜ必要か分からないかもしれない。ただ、デザインに凝った最近のゲーミング液晶モニターでは、標準スタンドを外すと、VESAマウント周辺が深くへこんでおり、モニタープレートを正しい位置に取り付けられないことが多い。こうしたタイプの液晶モニターでは、同じような理由でVESA規格増設プレートも取り付けられない。

 しかし付属するスペーサーを使えば、この段差を避けてモニタープレートを浮かせるように設置できる。同じようにVESAマウント周辺の段差が原因で設置しにくいVESAマウント増設プレートも、スペーサーを活用することで利用しやすくなるということだ。

実際にスペーサーを使ってモニタープレートを浮かせて設置するとこんな感じになる

 エルゴトロンのクイックリリースLCDブラケット以外に、こうした機能をサポートするガジェットを筆者は知らない。構造的にはしっかりとした固めのスペーサーと、M4規格で軸の長さがVESAマウントと合致する固定ネジがあればよさそうだが、重量のある液晶パネルを支えることを考えると、メーカーがその性能を保障するもののほうがよいだろう。

実際にゲーミングモニターにミニPCをVESAマウントしてみよう

 今回は、INNOCNの27M2VにモニターアームとミニPCを背面設置するまでの流れを紹介しよう。27M2Vも、標準スタンドのマウントユニットを外すとVESAマウント穴周辺が深くへこんだ状態なので、クイックリリースLCDブラケットが必要になる。

INNOCNの27M2Vは、4K解像度に対応する27型パネルの液晶モニター。1,152ゾーンに分割されたLEDを細かく制御し、コントラスト比を高める「ミニLED」機能や、最大165Hzのハイリフレッシュレート表示に対応

 ちなみにクイックリリースLCDブラケットは、当然ながらエルゴトロン製モニターアーム専用のオプションとして用意されている。今回の検証で使うLX デスクマウントアームも含め、筆者が使っているすべてのモニターアームはエルゴトロン製なので問題はないが、構造的には他社のモニターアームでも普通に使えそうだ。

 まずは標準スタンドを外し、VESAマウント穴部分にアクセスできるようにしよう。そこにスペーサーと取り付けネジを使い、クイックリリースLCDブラケットのモニタープレートを取り付けると、モニタープレートが若干浮いた状態で固定される。

27M2VのVESAマウント部。スタンドユニットのマウントに合わせて大きくへこんだ状態だ
まず27M2VのVESAマウント穴にスペーサーをかぶせる
その上にモニタープレートを置く。ネジ穴とスペーサーの位置をきちんと合わせておくのを忘れずに
モニタープレートの上から固定用のネジを挿す
ドライバを使ってモニタープレートをしっかりと固定する

 次にモニターアームをマニュアルに従って机に設置する。今回のモニターアームに関する手順は過去記事でも紹介しているので参照してほしい。モニターアームが組み上がったら、先端パーツのみを外す。外した先端パーツにVESAマウント増設プレートとピボットプレートを取り付けて、先端パーツをもとに戻そう。増設したVESAマウントを張り出す方向は、周辺の状況を考えてあらかじめ決めておこう。

モニターアームの先端とピボットプレートの間に、VESAマウント増設プレートを挟み込むようにして設置する
3つのパーツのネジ穴を合わせた状態にして、ネジを挿す
挿したネジをドライバで回し、緩まないようにしっかり固定する
準備が終わったモニターアームの先端部分を、モニターアームのマウント部分に戻す

 モニターアームと液晶モニターの準備が終わったら、液晶モニター側のモニタープレートを、モニターアームのピボットプレートにかぶせるようにして上から挿し込む。正しく挿し込まれていれば、カチリと音がしてロックされる。その後、横に張り出しているVESAマウント増設プレートに、ミニPCをVESAマウントしよう。

液晶モニターをモニターアームに取り付けた状態。一目見ただけでは、VESAマウントを増設しているようには見えない
裏側を見ると、VESAマウント増設プレートのVESAマウント部分が張り出しているのが分かる
このVESAマウントを利用して、27UD58-Bの背面に取り付けたときと同じ手順でミニPCを固定すれば作業は終了
これは手順とは異なるが、20~30cmと短いディスプレイ接続用ケーブルを用意しておくと、ミニPCと液晶モニター周辺がスッキリと整理しやすくなる

モニターアームの利便性は無限大、環境移行もスムーズ

 これまで見てきたとおり、液晶モニターの背面構造によってはそれなりにコストはかかる。そもそもミニPC自体非常に小さいので、VESAマウントしなくても液晶モニターの奥にでも突っ込んで設置してもよいかもしれない。

 しかしモニターアームを導入すればデスク上のフリースペースは大きく広がるし、前述のとおりパネルの場所も自由に変更できる。利用していないとなかなかその利便性は分かりにくいのだが、一旦導入すれば手放せないアイテムなのは間違いない。筆者の事務所で導入したモニターアームは、今回の検証用で4本目となる。

 また今回のようなセッティングを一度行なっておけば、ミニPCを買い換えてもすぐに同じような環境を構築できる。ミニPCの利用環境をワンランク高めたいなら、ぜひとも利用したい機能の1つと言ってよいだろう。