イベントレポート
開発者を重視した基調講演で、新しいAPIや開発環境が発表
(2013/5/17 12:28)
米サンフランシスコにおいてアプリケーション開発者向けのカンファレンス「Google I/O 2013」が開幕した。今年で6回目となるこのイベントだが、Googleの新たな動向が見て取れるということで例年注目を集めている。まずは、その基調講演のレポートをお届けしよう。
ベスト・オブ・Googleとスマートフォン
基調講演は1秒違わず予定通り9時きっかりに始まった。「今、この会場にいる約6,000人のみなさん以外にも、世界中で今、この映像を100万人以上の人が見ている。みんな、ありがとう」、というSenior Vice PresidentのVic Gundotra氏の挨拶のあと、最初のスピーカーとして登場したのは、GoogleでAndroidとChromeを統括するSVPのSundar Pichai氏だ。
これまでの25年間、Windowsを使ってきて、デスクトップからラップトップへとフォームファクタが変わり、7年前にスマートフォンが出てきてからは携帯電話とタブレットのスタイルがそれに加わったことから話を始めたPichai氏は、まず、2005年当時と、現在のローマ法王就任式典の写真を披露した。その明らかな違いは、2013年の現在、ほとんどの人がスマートフォンで写真を撮っていることだ。この現象を引き起こしたのがスマートフォンであることには間違いない。
大事なことは世界の人々を驚かせることであり、そのためにGoogleは2つのプラットフォームを持っているとPichai氏。それは、もちろんAndroidとChromeであり、オープンスタンダードとして受け入れられているAndroidのアクティベートが当初の100万件から始まり、ついに2013年は9億件に達したことを報告した。そして、それに貢献しているのは、ベスト・オブ・Googleとして、サーチ、YouTube、Gmail、Drive、Google+、マップ、カレンダー、Playストアだとした。
新しくなるAndroid Playサービス
続いて登壇したのは、AndroidのProduct Management担当VPのHugo Barra氏だ。氏はここで、Google Play Servicesのアップデートを発表した。ここで発表されたのは、下記の5つだ。
マップでは、モバイル通信、Wi-Fi、GPSの位置情報が融合されたり、行動認識によって、今、移動しているのが自転車か徒歩かクルマであるかなどが分かるようになる。これによって、アプリのできることも大きく拡がるはずだ。
Google+のクロスプラットフォーム対応では、クラウドメッセージングが強化され、アップストリーミング・メッセージングや通知の同期がサポートされる。例えば、スマートフォンとタブレットを1台ずつ持っているユーザーが、メールの新着通知をどちらかのデバイスで消去すれば、もう片方のデバイスでも消去されているといったユーザー体験がさまざまなアプリでサポートされるようになる。
さらにゲーム関連では、新しいAPIファミリーとして、デバイスを超えたゲーム環境を実現するために、マルチプレーヤー対応などが発表された。
こうした新しいAPIを開発者がうまく使ってくためには、優れた開発環境の整備は欠かすことのできないものだが、こちらに関しても、統合開発環境であるAndroid Studioが強力にサポートする。デモでは、複数デバイスでどのように表示されるのかがリアルタイムでわかるライブレンダリングや、各国語対応の確認の様子などが紹介された。
ピュアGoogle体験ができるGALAXY S4の発表
続いてGoogle PlayのProduct ManagerであるElli Power氏が登場、Google Playの開発者コンソールの新展開について語った。
ここでは、apkファイルを好きな言語に翻訳するためにクラウド経由で翻訳会社に依頼できたり、アルファやベータテストをPlayストアでリリースできるようになったことが明かされた。これまでのベータテストは、apkファイルを独自に配布するしかなかったが、今後は、ストアに統合された形でできるようになる。
さらに、Google Playの新しいUIとしてタブレット向けのものが公開されたほか、Google Play Musicの新展開として、All Accessのサービスが発表された。いわゆる音楽聴き放題のサービスで、当初は米国のみで月額9.99ドルで提供される。残念ながら日本での提供は当面なさそうだ。自分自身がGoogle Play Musicにアップロードしている楽曲データとGoogle Play Musicで販売されている楽曲を統合して楽しめるパーソナルミュージックライブラリを実現する画期的なサービスだけに残念だ。
そして、SamsungのGALAXY S4のGoogle版も発表された。開幕前ほとんどウワサにもなっていなかったデバイスだ。こちらは、いわゆるリードデバイス的な扱いが為される特別バージョンのGALAXYで、Google自身が直販する。アンロックされたブートローダーつきで、ピュアGoogle体験が提供され、常に最新のAndroidがプッシュされるということで、会場は喝采の嵐が起こった。T-MobileとAT&TのLTE対応で、16GBストレージのものが649ドルで販売される。発売は6月26日からだ。
Androidと並ぶもう1つのプラットフォームとしてのChrome
Androidと並ぶGoogleのプラットフォームとしてChromeがある。Android色の強いGoogle I/Oカンファレンスだが、今回は、Chromeにも強くフォーカスされている。Chromeのユーザー数は、今、7億5千万に達し、各社からChromebookが発売されるなど、その周辺は実にホットだ。
Chromeのエンジニアリング担当VPであるLinus Upson氏は、ChromeにおけるJavaScriptの処理性能向上やGoogleの静止画フォーマットWebPとJPEG、動画フォーマットとしてのVP9とH.264の比較などで、その優位性をアピールした。
そして、ここでは、異なる解像度とスクリーンサイズのデバイスを並べ、まるでマルチディスプレイのような環境を作り、それらを連携させて表示されるサーキットで複数のプレーヤーがレースをできるといったことがデモされた。
さらに、教育現場への貢献に熱心なGoogleは、Google Appsがさまざまな教育の現場で使われていることを紹介、Google Play for Educationといったガイドラインが披露された。
新生Google Mapsのお披露目、まずはPCから
基調講演はまだまだ続く。Google+の新しい機能として、ハングアウトが発表された。Android端末では、Googleトークに変わって使われることになる。
また、ヨセミテの写真で有名なネイチャー写真家のAnsel Adamsの「You don't take a photograph you make it(写真は撮るんじゃなくて作るものなんだよ)」という言葉が引用され、ユーザーの暗室は今データセンターにあるとされ、写真の加工機能の強化が披露されている。Ansel Adamsは、「ネガは楽譜、プリントは演奏」という言葉でも有名だが、Google+は今、スクリーンへのプリントの領域まで踏み込もうとしているわけだ。また、今後のGoogle+では、フルサイズの写真データが15GBまで無料で保管されるようになるという。
一方、Search & Assist, Mobile担当VPのJohanna Wright氏はChromeで強化された音声認識をデモした。たとえば、「Show me things to do at Santa Cruz」と尋ねると、Googleが音声でそれに応えてくれるといったイメージだ。
Googleマップも強化。今、199カ国で使えるマップだが、この夏の正式出荷開始を前に、この日から新バージョンのプレビュー版が使えるようになったことがアナウンスされた。Google Maps担当VPのBrian McClendon氏は、今回のカンファレンスにマップ関連のセッションが17セッションもあることを強調、生まれ変わるマップの素晴らしさを語った。
Googleはアプリ開発者の支援に力を惜しまない
VPやSVPが入れ替わり立ち替わり登場して新しいGoogleが紹介された基調講演だが、ここまでで優に3時間を超える長丁場だった。そして、最後にCEOのLarry Page氏のまさかの登場で、会場は大喝采。Page氏はポケットの中のスマートフォンは実にアメージングな事象を次々に起こすようになり、そのUIは生活そのものであり、人々を幸せにすることに貢献すると述べた。原因不明の声帯麻痺であることが明らかにされたPage氏だが、その痛々しい声の中でも、これからのGoogleを牽引していくことの決意を感じさせるものだった。また、Page氏はそのままQ&Aセッションに挑み、観衆からの質問に1つ1つ答えていった。これもまた30分を超える時間が割かれ、4時間近い長丁場の基調講演が終わった。
2012年は、2日に分けて行なわれた基調講演が、今年は初日の午前中に集中されたことから、これだけの長時間になったわけだが、開発者が興味を持つAPIの拡充や新サービスの話題に終始され、Androidの新しいバージョンが発表されたわけでもなく、ウワサされていた新しいハードウェアも披露されなかった。
これは、今のGoogleが、いかにアプリの充実を重要視しているかを示すものであり、フラグメンテーションを起こしかねないデバイスの状況の中で、アプリ開発者が優れたアプリを開発しやすいようにGoogleが努力を惜しまないことのアピールだととっていいだろう。つまり、お祭り的なイベントにするのではなく、開発者を大事にするGoogleの姿勢を象徴する基調講演だった。Google I/Oは、マーケティングイベントではなく、純粋に開発者のためのカンファレンスであり、ここでは豊富な知識を得ることができるということを、改めて確認することを余儀なくされたわけだ。