【MemCon 2009レポート】
未曾有の不況に喘ぐDRAM事業とフラッシュメモリ事業

MemCon会場のパネル

会期:6月22~24日(現地時間)
会場:米国カリフォルニア州サンタクララ
   Hyatt Regency Santa Clara



 半導体メモリに関する講演会「MemCon(メムコン)」で恒例となっている題目に、メモリ市場を分析し、展望する講演がある。主催者であるDenali SoftwareでMemory Market Analystをつとめる、Lane Mason氏による市場分析レポートだ。今年は講演トラック初日(23日)の最後にMason氏の講演があったので、その概要をお届けする。

講演の主な内容

 半導体メモリ市場は、2008年後半に急速に縮小し始めた。厳密には2008年第3四半期までは四半期ごとの市場規模は拡大基調にあったにも関わらず、同年第4四半期に突然かつ急激に落ち込んだのである。

 半導体メモリ市場の縮小は2009年第1四半期になっても止まらなかった。Denali Softwareの分析では、2009年第1四半期の半導体メモリの市場規模は、2008年第3四半期に比べて4割減となった。2009年第2四半期は、2009年第1四半期に比べると増加する見通しだが、市場規模は2008年第4四半期の水準にとどまる。

 市場規模の急激な縮小は、半導体メモリベンダーの業績に大きな影響を与えた。半導体メモリベンダーの損益は元々、赤字基調だった。DRAM価格は史上最低水準まで落ち込んでおり、NANDフラッシュメモリの市況も芳しくなかった。そこに急激な需要減退が襲ったため、半導体メモリベンダーの赤字額は2008年第4四半期に急激に増大した。

 半導体メモリベンダーの損益をDRAMベンダー、NANDフラッシュメモリベンダー、NORフラッシュメモリベンダーに分けると、DRAMベンダーは2008年第1四半期の時点ですでに、全体で34億7,000万ドルという巨大な赤字を計上していた。これに対してNANDフラッシュのベンダーは、2008年第1四半期~第2四半期は全体で黒字だった。それが2008年第4四半期に、全体で33億ドルという赤字決算へと転落した。NORフラッシュ事業はすでに赤字基調が続いており、2008年第4四半期は赤字額が急激に増えたものの、2009年第1四半期は2008年の前半と同じ赤字額の水準に戻っている。

半導体メモリ市場(世界全体)の推移(四半期ごと)半導体メモリを製品別に区分けした市場規模(世界全体)の推移(四半期ごと)
半導体メモリベンダー全体の売り上げと損失の推移(四半期ごと)DRAMベンダーとNANDフラッシュメモリベンダー、NORフラッシュメモリベンダーの損失の推移(四半期ごと)

●コスト割れ販売が続くDRAM
DRAM事業の現状

 Mason氏は続いて、DRAM市場の動向へと話題を転じた。DRAM価格は2007年以降、史上最低の水準にある。当然のごとく、コスト割れとなっている。このためDRAM事業は近年、赤字が続いてきた。

 DRAM価格のコスト割れを招いたのは、過剰な設備投資と過当な競争である。その象徴が台湾におけるDRAM事業への相次ぐ新規参入だった。過当競争によって台湾のDRAMベンダーはいずれも、多額の赤字決算に陥った。ただし、台湾のDRAMベンダーがDRAM市場に占める割合は合計でも15%未満で、韓国のSamsung Electronicsが30%、韓国のHynix Semiconductorが20%のシェアを有するのに比べると、その存在は大きくない。

 DDR2 DRAMを中心とする汎用DRAMに比べると、低消費電力DRAMやグラフィックスDRAMといった特定用途向けのDRAMは依然として価格が高く、プレミアムを維持している。ただし市場規模そのものがそれほど大きくはなく、汎用DRAM事業での損失を取り返すところにまでは至っていない。

 DRAM総ビット数(出荷数量を記憶容量に換算したもの)は、2007年に90%成長、2008年に70%成長という、もの凄い伸びを記録した。DRAMベンダーの過当競争がいかに酷かったかの裏返しでもある。その反動で2009年の総ビット数は、20%~30%の伸びにとどまると予測していた。

DRAM価格の推移('90年~2008年)台湾DRAMベンダーの損益推移(四半期ごと)台湾と韓国の半導体産業の比較
DDR2 DRAMとDDR3 DRAMの比率の推移予測特定用途向けDRAMの状況DRAM需要の動向
DDR3 DRAMを取り巻く状況DRAMベンダー各社の近況消費電力削減の動きがDRAMにも波及

●試練の時、NANDフラッシュ

 それからMason氏は、話題をフラッシュメモリに転じた。NANDフラッシュメモリのベンダー各社は、2008年下半期に業績が大きく悪化した。シェアトップのSamsungは辛うじて利益を確保したものの、東芝そのほかの各社は大きな損失を出した。拡大を続けてきたNANDフラッシュメモリ事業にとって、初めてぶつかった大きな壁と言える。

 NORフラッシュメモリは、市場規模は縮小しつつあるものの、一定規模の市場は残っている。NumonyxとSpansionの2社で市場の70%~80%を占める、寡占状態は変わらない。

NANDフラッシュメモリ事業の現状NANDフラッシュメモリの価格推移と出荷量(記憶容量換算)推移(2004年第1四半期~2008年第3四半期)2008年下半期におけるNANDフラッシュベンダー各社の業績
NANDフラッシュベンダー各社の製造技術(2009年半ばの時点)NORフラッシュメモリ事業の現状

 Mason氏は最後に、2009年以降を展望した。半導体メモリ事業が利益を生み出せるようになるには、早くても2010年を待たなければならない。経営再建中のQimondaは製造設備の圧縮が課題、台湾のDRAM産業はベンダー数の削減が課題である。半導体メモリ市場が落ち着きを取り戻すのは、2012年になるとする。2012年にはDRAMベンダーとNANDフラッシュベンダーはいずれも、3~4社に集約されるとの見通しを示していた。

2009年後半と2010年の展望2012年には半導体メモリ市場は落ち着きを取り戻す

 前年のMemConにおけるMason氏の講演と違い、今年の講演は具体的な数値に言及することが少なかった。例えば2009年の市場規模見通しは、2008年と比べたときの方向性(プラスなのか、マイナスなのか)すら明示されなかった。予測がきわめて困難な環境にあることは理解できるものの、いささか物足りなさを覚えた。次回のMemConでは、もう少し定量的な見通しが出てくることを期待したい。

(2009年 6月 26日)

[Reported by 福田 昭]