外科手術なしで脊髄損傷を迂回し信号を伝える手法、リハビリとしても有効か

脊髄損傷による麻痺の発生と、人工神経接続システムの概略図

　11月26日、英科学雑誌「Brain」オンライン版に掲載された論文にて、脊髄損傷で歩けなくなった患者が、脳からの神経信号を橋渡しする「人工神経接続システム」を使用することで、歩くような動きを再現できたと報告された。また、一部の患者では実験終了後に脚の運動機能に回復が見られた。

　東京都医学総合研究所 脳機能再建プロジェクトの田添歳樹主席研究員、西村幸男プロジェクトリーダー(新潟大学大学院客員教授兼務)、相模女子大学の笹田周作教授、千葉県千葉リハビリテーションセンターの村山尊司リハビリテーション治療部長、福島県立医科大学の宇川義一名誉教授らによる研究グループが報告した。

　脊髄損傷により脳と脚をつなぐ神経が途切れると、脳からの命令が上手く伝わらなくなり、下半身の麻痺が起こる。人工神経接続システムは、コンピュータにより神経の働きを体外で再現することで、損傷箇所を迂回しての信号伝達を試みるものだ。

　これまでの先行研究では、脳や脊髄に外科手術で電極を埋め込む侵襲的な方法が主であった。今回の実験では皮膚の上から神経の読み取りや刺激を行なう非侵襲、すなわち外科手術などを必要とせず人体への負荷が小さい手法が採用されている。

　今回の研究で実験対象となったのは、脊髄損傷から半年以上が経過し、通常のリハビリでは機能回復が見込めない患者だ。手に貼り付けたセンサーで神経信号を読み取り、システムで変換、脚につながる神経が集まる腰に磁気刺激として伝えることで、手と脚が連動するかを検証した。

　その結果、手の信号で脚を動かすことに成功し、リズミカルに動かすことで歩行時に類似した動作を再現できた。また、損傷が脊髄の高い位置にあり腰部の神経の損傷が少ない患者では、運動を繰り返す中で、磁気刺激による脚の動きが大きくなっていくことが確認された。

　さらに、元々わずかに脚を動かすことができた不全麻痺の患者においては、実験終了後、人工神経接続システムを外した状態でも、実験前に比べて脚を大きく動かせるようになっており、本来の運動機能に改善が見られた。

　研究グループではこの結果から、人工神経接続システムは非侵襲性かつ安全性の高い方法で実現できる可能性、さらにこの手法が新たなリハビリ方法となる可能性が示されたとしている。