山田祥平のRe:config.sys

ポケットの中のデスクトップ

 スマートフォンはモバイルコンピューティングをものすごく身近なものにした。それまでPCでしかできなかったことを、手のひらの上でこなすことを可能にし、四六時中の待ち受けで、他者からのコミュニケーションに応答できる。スマホも立派なコンピュータであり、一部の人々はスマホで十分とPCを使わなくなってしまったかもしれない。スマホの使い勝手が良くなればなるほど、その傾向がますます強くなる。

デスクトップを生成する接続された外部モニター

 スマホだけで何でもできると思っていたら大間違いだ。個人的にはずっとそう思ってきたし、これからもそうだとは思う。でも、スマホにはスマホのいいところがたくさんある。そして、それは時にはPCの使い勝手をしのぐというのも事実だ。

 ちなみにGoogleは、モバイルコンピューティングとデスクトップコンピューティングは競合するものではなく、連携して協調するものだと考えているようだ。

 今回、そのGoogleがAndroidの大きなマイルストーンとして、ついに、接続されたディスプレイ(connected displays)をサポートするようになった。まずは、GoogleのPixel 8/9/10 シリーズとSamsungのGalaxyシリーズなどで使える。

 この機能は、2024年10月に開発者プレビューとしてリリースされ、Google I/O 2025で紹介されてAndroid 16 AOSPに組み込まれた。今回は、Pixel Dropとして一般に開放されたかたちだ。プレビュー当時はDesktop windowingと呼ばれ、複数のアプリを拡大縮小できるウィンドウで扱える多目的な環境として、コンテンツを消費するだけの環境から脱皮、生産性や創造性を向上させるためのツールとしてのAdaptive UIが提供されようとしている。

 その環境でのアプリはスマホの縦長ウィンドウに束縛されない自由なウィンドウサイズで使うことができ、解像度や画面サイズに応じた表示となる。

 単一アプリのマルチインスタンスが前提で、たとえばドキュメントコンテンツのドラッグ&ドロップをサポートしたりもする。あらゆるアプリがマルチインスタンスで動くようになればいいが、それまでには相応の時間がかかるだろう。ただ、現時点でも限定的ではあるが、ChromeブラウザのようなタブUIを持つアプリで、任意のタブをデスクトップにドラッグ&ドロップして、2つのウィンドウを表示させることもできる。

表示が大きくなるだけではなく作業領域が広くなる

 使い方は簡単だ。スマホに外部モニターを接続すると、「PC」と「ミラー」を選択するようにうながされる。ここで、PCを選ぶと、外部モニターで新しいデスクトップセッションが開始される。ディスプレイ下部にはタスクバーが横たわり、左端のボタンはアプリの一覧画面を呼び出すスタートボタン的な位置付けとなる。

 スマホと外部モニターは独立して動作する。外部モニターをつないでも、スマホは何ごともなかったかのようにいつものように使える。まるでスマホの中に生成された仮想マシンのようなイメージが外部モニターに出力されている感じだ。OSのデスクトップ環境としては独立しているが、アプリの実行主体(インスタンス)が単一であるため、表示場所を奪い合う形になっているようだ。

 タブレットなどでは外部モニターは連続した表示領域としてメイン画面を拡張、画面相互のウィンドウ移動などが行なえるものもある。また、現時点で多くのアプリはまだマルチインスタンスをサポートしていないので、スマホと外部モニターの両方で同時に実行することはできない。

 外部モニターで起動しているアプリをスマホ側で起動すると、外部モニター側のウィンドウは閉じられる。逆も同様で、スマホで起動しているアプリを外部モニターで開くと、スマホ側のアプリは閉じる。

 スマホと外部モニターは、多くの場合、サイズ感がまったく異なる。画面解像度は1インチ当たりのピクセル数をDPIという単位で表すが、異なるDPIなのに決め打ったピクセル数で最小ボタンのサイズなどを定義してしまうと、画面表示に矛盾が起こってしまい、恐ろしく押しにくい小さなボタンになるといった弊害が起こる。

 こうした弊害を回避するために、画面密度が160dpiのときに1ピクセルが1となる新たな単位としてDPが定義された。この仕組みを使い、アプリは大きな画面でも小さな画面でも、解像度が異なっても、縦長でも横長でも、あらゆるウィンドウサイズに対応するアダプティブな設計が求められる。

パーソナルコンピューティングデバイスの将来

 現時点での、AndroidへのConnected Display実装はまだまだバグが多く、16:9以外のモニターをつなぐと不安定になったりするなど不具合も目立つ。だが、おおむね快適な操作性が提供されているし、将来性も感じられる。キーボードもスマホで使っている日本語入力がそのまま使えるが、やっぱり外付けのキーボードをBluetooth接続した方が良さそうだ。

 また、ポインティングデバイスについては、タッチ対応モニターをつないだところ、ちゃんとタッチで操作ができる。もちろんこれもBluetooth接続したマウスを使う方が快適に操作できる。まさにパソコンなのだ。

 つまり、PCのアイデンティティであるともいえる大画面とキーボード、そしてマウスがあれば、AndroidスマホはPCのように使えるという、ごく当たり前のことに本気で取り組もうとしているのがこのチャレンジだ。自宅に置いたAIレディな高性能パソコンを手持ちのAndroidスマホやタブレットのChromeリモートデスクトップで使うような方法もありだろう。この方法なら強力なローカルAIを持ち歩くことができる。

 確かに、キーボードとポインティングデバイスで操作ができて、複数のウィンドウを並べたり重ねたりして使うことができるというだけで、PCでWindowsを使っているかのような錯覚に陥る。マウスポインタの動きなどがまだ最適化されていなくて、ちょっとした使いづらさなども感じるが、これらがちゃんとすれば、本気でPCはいらないというユーザー層が確立されるだろう。

 この機能は、以前、SamsungがDexとして提供していた機能を、Googleがパートナーシップを組んでAndroid OSのコア機能として統合した結果であるともいえる。

 Samsung DeXではスマホをタッチパッドとして使ったりもできている。今後はこれらの機能も統合されていくに違いない。Samsung機のユーザーだけが対象ではなく、Android全体の使い勝手を底上げする動きに拡張しようということなのだろう。

 最近は、Googleマップのタイムラインや、スマートウォッチの運動履歴やヘルスケア情報など、スマホでしか確認できない情報も少なくない。それが大きな画面で確認できるのもうれしい。

 AppleがiPhone用のプロセッサを搭載したMacBook Neoを発売して話題になっているが、Androidはスマホの中にPCを包含したスタイルを提案しようとしている。キーボードとマウス、そして15インチ前後のモバイルモニターをノートPCのように持ち歩くスタイルもありなんだろう。

 昔もあったがこれらが合体したデバイスもまた出てきそうだ。あるいはモニターはTVでいいと割り切る学生諸君もいそうだ。スマホで卒論を書くようなスタイルも市民権を得そうな勢いだ。仕事での業務作業はそうはいかないだろうが、パーソナルなコンピュータ利用は新しい当たり前の時代に突入していきそうだ。