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Adobeから画像生成AI「Firefly」登場。権利関係もクリア
2023年3月21日 22:00
Adobeは、3月22日から3月24日(米国時間、日本時間3月23日~3月25日)、米国ネバダ州ラスベガス市の会場において、同社のデジタルマーケティング事業向けの年次イベント「Adobe Summit」を開催する。それに先だって、3月21日に報道発表を行ない、同社の画像生成AI(Generative AI)の新しいサービス「Firefly」をベータ版として提供開始することを明らかにした。
FireflyはAdobeが独自に開発した生成AIのモデルを採用したサービス。Adobeが商用展開しているストックサービスとなる「Adobe Stock」のコンテンツを利用して学習されているため、ほかの生成AIで問題になりがちなコンテンツの合法性に課題を抱えていない。そのため、法的な曖昧さから生成AIの利用を敬遠していた企業も安心して利用できる。
将来的にはPhotoshop、Illustrator、Premiere ProなどのCreative Cloudのアプリケーションにも、Fireflyを利用した機能が実装されていく計画で、「クリエイターを助けるAI」を標榜するAdobeの方針に合致した生成AIとして実装されていくことになる。Adobeによれば既にベータプログラムが開始されており、登録したユーザーは順次利用できるようになる。
著作権と商標などが処理済みのAdobe Stockのデータを使って学習
画像を生成する生成AIと言えば、「Stable Diffusion」がよく知られている。Stable Diffusionはディープラーニングを利用し、テキストから画像を生成するAIとして提供されている。
Stable Diffusionに限らず、こうした画像生成AIの多くは、モデルを構築した後の学習にインターネット上の画像データを活用するのが一般的だ。だが、画像生成AIはモデルを構築しただけでは十分ではなく、その後に大量のデータ(この場合は画像データ)を利用して学習させなければ、実用になり得ない。
しかし、著作権で保護されているがインターネット上に公開されているデータを学習に使っていいのかは、倫理的に、そして法的に問題があるともされており、論争になっている。ベンチャー企業の中には、そうしたことを曖昧にしながら事業を行なっているところもあり、大企業などでは法的な問題を避けるためにこうした生成AIを事業に活用することを従業員に禁止しているところも少なくない。
Fireflyはそうした画像生成AIが持つ課題を解決する。具体的には、FireflyはAdobeが独自開発したAIモデルを採用し、さらに学習データにはAdobeがCreative Cloudの一部として提供しているストックフォトサービス「Adobe Stock」のデータを利用している。
Adobe Stockには、Adobeがそうしたモデルの学習データとして利用することを権利者が許諾したデータがアップロードされている。Adobe生成AI & Sensei担当副社長のアレクサンドル・コスティン氏は「他社が提供している画像生成AIの多くは、著作権で保護されているインターネット上のデータを利用して学習しており、大企業にとってビジネスに活用する上で大きな課題を抱えている。
しかし、FireflyではAdobe Stockに公開されていて、学習に使用してよいと投稿者が許可しているデータを利用して学習を行ない、エンタープライズでも著作権や商標などをきちんと処理されているデータとして利用することできる」と述べる。
また、こうした生成AIではどのようなAIモデルを利用して構築しているのかが、パフォーマンスに大きな影響を与える。今回AdobeはFireflyのAIモデルを自社開発しており、そこに自社で運営しており著作権や商標などの管理がキチンとされているAdobe Stockのデータを利用して学習することで、高効率でかつ安全安心なサービスを作り上げているとコスティン氏は説明する。
Photoshop、IllustratorやPremiere Proなどにも機能を順次実装
Fireflyは、最初はWebツールベースで、テキストを入力すると画像とテキストに効果をつけた画像を生成するWebサービスとして提供される。単に生成を指示するだけでなく、スタイルの指定ができるなどのカスタマイズができることもFireflyの生成AIサービスの大きな特徴となっている。
将来的にはFireflyの機能はPhotoshopなどのCreative Cloudのデスクトップアプリからも利用できるようになる。Adobe Senseiを利用したAI編集機能がPhotoshopやIllustrator、Premiere Proなどに実装されているのと同じように、Fireflyを利用した生成AIの機能がPhotoshop、Illustrator、Premiere Pro、Substance、Expressなどのデスクトップアプリに順次実装されていく。
さらにAdobe Summitで語られるExperience CloudのデジタルマーケティングツールとしてもFireflyは利用される。「Adobe Sensei GenAI Service」と呼ばれるAdobe SenseiとFireflyベースのGenAIが融合したサービス基盤がそれで、Adobe Expressを利用してコンテンツを生成したり、マーケティングコピーを生成したり、動画のキャプションを自動でつけたりなどさまざまな使い方ができるようになる計画だ。
CAIによるコンテンツ作成履歴の機能に標準対応し、CAI対応ツールで生成AIであることなどを確認できる
その一方、そもそもクリエイター向けのツールであるCreative Cloudを提供するAdobeということもあり、Fireflyが学習に利用するような元々の画像を生成しているクリエイターの権利にもきちんと配慮することは忘れられていない。
このFireflyで生成されたコンテンツにはAdobeが中心となって推進している「CAI」(Content Authenticity Initiative)に準拠し、その生成されたコンテンツが、生成AIが生成したコンテンツであることを証明する証明書をつけて配布されるのが標準となる。
このCAIは今後Photoshopなどでサポートされる予定(現在はベータ版のPhotoshopでのみ対応)の、コンテンツの証明書をバンドルする仕組みで、そのコンテンツは誰が作成したのかというメタデータをファイルに付属させる、あるいはクラウド上に保存することで、そのコンテンツは誰が作成し、どういう経路を経て編集されているのかなどが履歴として蓄積されていく。Fireflyで生成された生成AIによるコンテンツは、このCAIのメタデータが標準で付加される形になるため、生成AIが作ったコンテンツであることをCAIの履歴を確認するツールを利用して確認できる。
また、クリエイターは自分のコンテンツを、生成AIの学習に利用してほしくない場合には「Do Not Train」というタグをCAIに付加して流通させることを可能にする。それにより、生成AIには自分のノウハウが詰まった画像データを学習してほしくないというクリエイターのニーズに応えることを可能にする。
だし、CAIはコンテンツ保護の仕組みではなく、履歴を残すという仕組みであるため、生成AIを提供する他の企業が、悪意を持ってそれを無視すると決めた場合には防ぐことはできない。
Adobeによれば、Fireflyのサービスはベータ版の提供をWebサイトで既に開始している。現時点ではテキストから画像を生成したり、その生成するコンテンツのスタイルを指定したり、テキストに効果をかけることなどを試すことが可能になるとAdobeでは説明しており、デスクトップアプリへの実装は今後順次行なわれていく計画だ。