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Adobe、生成AI「Firefly」を利用した開発中のアプリをSneaksで公開

AdobeがAdobe Summitの中で開催したSneaks、Adobeのイベントで最も人気がある催し物

 Adobeが3月21日~3月23日(米国時間、日本時間3月22日~3月24日)に開催したAdobe Summitでは、Fireflyのような生成AIモデル、同社のクリエイター向けツール「Adobe Creative Cloud」やマーケター向けツール「Adobe Experience Cloud」向けに提供しているAIプラットフォーム「Adobe Sensei」を生成AIに拡張した「Adobe Sensei GenAI Service」などの生成AI関連の発表が相次いだ。

 Adobeとしては開発したFireflyなどの生成AIモデルを、Creative CloudやExperience Cloud向けに横展開していくことで、クリエイターやマーケターの生産性を向上することで同社ツールの価値を上げていくことが狙いだ。

 そうしたAdobeは、Adobe Summitの会期2日目(3月22日)の夕刻に、同社のイベントでは恒例となっている「Sneaks」を開催した。今回のSneaksでは早速生成AIモデル「Firefly」を利用したアプリケーションが紹介されるなど、注目の内容となった。

Adobeの研究開発部門がその成果を発表する場となるSneaks、観客はビール片手に参加する

Adobe アナリティクス・データサイエンス担当 主任エヴァンジェリスト エリック・マシソフ氏(左)と女優・コメディアンのティグ・ノタロ氏(右)

 Adobeが10~11月に開催しているAdobe MAX、3月に開催しているAdobe Summitという2つの年次イベントにおいてのSneaksは、同社の研究開発部門(Adobe Research)が研究している新しいアプリケーションや機能などを紹介するイベントで、言ってみればAdobeの研究開発部門の「学園祭発表」みたいなものと考えれば分かりやすいだろう。このため、来場者もビールやワインなどのお酒を片手に参加して、そうしたリサーチャーにヤンヤの歓声を浴びせたり、大笑いしながら見たりする、そうした真面目なカンファレンスの中ではより砕けた感じで行なわれるイベントとなっている。

 そうした、人気投票をすればきっと基調講演よりも人気を集めるであろうSneaksだが、発表される内容に関しては至って真面目な内容だ。というのも、いずれもAdobeの研究者が真剣に開発されたものが発表され、その中からは実際の製品になるものもあるからだ。

 たとえば、今やCreative Cloudの主要アプリケーションの1つになっている「Fresco」は元々SneaksでAdobeの研究者が発表していた研究成果がベースになっている。今やPhotoshopの人気AI機能の1つである「被写体を選択」なども同様で、最初はSneaksで紹介された機能が、実際のアプリケーションに実装された。つまり、Sneaksで発表されたものを見ていれば、Adobeが近い将来にどのような製品をリリースするのかが見えてくるのだ。

 司会の1人として登壇したAdobe アナリティクス・データサイエンス担当 主任エヴァンジェリスト エリック・マシソフ氏は「100を超える応募があったが、今回紹介するのが7つだ」と述べ、Adobe Researchの研究者にとっても、このSneaksに登壇するのは簡単ではないと説明している。

 また、今回のSneaksはもう1人のホストとして、女優でコメディアンのティグ・ノタロ氏を迎えて行なわれ、冷静なツッコミがなんども来場者の大笑いを誘っていた。途中では機材のトラブルが発生して、本来はボックスの上に置かれているハズのカメラが、ボックスの中に置かれているというハプニングが起きると、ノタロ氏はそのボックスの中をのぞきこんで撮影するなどのアドリブを見せて、さらなる大笑いを誘っていた。

本来は上にあるハズのカメラが、ボックスの中にある手違いがあり……
ボックスの中を覗いて写真撮影

複数の開発中の顧客ユーザー体験を改善するアプリケーションが紹介される

 前述の通り、今回のSneaksで紹介された開発中の機能は7つになる。Adobeでは開発中の製品にはコードネームがつけられており、「Project XXXX」という形で紹介される。これはどんな製品でもそうで、たとえば後にLightroom CCという製品名で投入されたクラウドベースのLightroomは「Project Nimbus」、同じくクラウドベースのPremiereとなるPremiere Rushは「Project Rush」という開発コードネームで呼ばれていた。

 同じように、今回Sneaksで発表されたアプリケーションや新機能もいずれも「Project XXXX」という形式で紹介されており、将来製品がリリースされるまではこのコードネームで呼ばれ続けることになる(もちろん製品化されず消えるものもあるが……)。

Project Path Wise

Project Path Wise

 Project Path Wiseは、複数のマーケティングチャンネルを利用して、どのようなプログラムを展開するかを自動化するツール。通常であれば、こうした作業はマーケティングの専門家などが取り組んでも数週間かかるが、これを利用することで作業を数分に短縮することが可能になる。

 Adobe Senseiを利用して顧客のユーザー体験のトラフィックなどを解析し、さらにAdobe Sensei GenAI Serviceを利用して、開始前のプログラムであってもユーザーが各ステージでどのような体験をするかについてデータに基づいた正確な予測をしてくれる。それにより、マーケターはそうしたプログラムを開始前であっても変更修正することが可能になる。

Project Custom Clips

Project Custom Clips

 Project Custom Clipsは特定のオーディエンスや配信チャンネルに合わせた動画を自動で作成してくれるツール。通常であれば、動画を作成する専門知識をもった担当者が編集するため、コストや時間がかかる。そうした作成を自動化するために、Adobe SenseiによるAIが過去の動画パフォーマンスデータや顧客データなどを分析することで、それを基づいて動画を自動生成する。

 たとえば、長時間の動画から、キャッチーな部分だけを抜き出して15秒に縮めた動画にするといったことを自動で行なうことが可能になる。

Project Limitless Options

Project Limitless Options

 AdobeのAdobe Experience CloudではリアルタイムCDPというSaaSアプリケーションを提供しており、IDの管理や、そのIDに紐づいている属性などにより、企業顧客に向けて個々のユーザーに特化したユーザー体験を向上させる仕組みを提供している。しかし、そうした個々のユーザーに特化したキャンペーンを提供するには、大量のコンテンツを迅速に作り出す必要がある。

 そこで、Project Limitless OptionsではAdobeが今回発表した生成AIモデルとなる「Firefly」を活用し、個々のユーザーに特化したコンテンツを生成AIで自動生成する。それにより、マーケティング担当者はパーソナライズされたキャンペーンやコンテンツの迅速な作成や展開を実現することが可能になる。

Project True Colors

Project True Colors

 Project True ColorsはAdobe Experience CloudのSaaSアプリケーションである「Adobe Commerce」を利用して構築されているECサイトを訪問した買い物客が、自分に特化した商品検索などを実現する仕組みになる。

 顧客が撮影したセルフィー写真をSenseiのAIで解析し、肌の色調や顔のパーツなどを特定する。それにより顧客の肌の色調と合うような服を選ぶ、そうしたことに利用される。それにより顧客は自分に特化した商品を探すのに時間を節約できるようになり、企業にとっては売り上げが増えるというメリットをもたらすことができる。

Project Fast Filtered

Project Fast Filtered

 Project Fast Filteredは、Adobe SenseiベースのAIを利用して、Adobe Commerceを利用したECサイトでラインアップされている商品を分析し、商品ごとにサイズや色みたいな情報を取り出して、検索することが可能になる。ECサイトによってはそうしたスペックを十分に用意できていない場合もあり、そうした検索ができないこともあるが、このProject Fast Filteredを利用するとAIが画像認識などのテクニックを活用して、商品の属性設定を自動で行ない、より検索性が高くなる。

Project Segment Smarts

Project Segment Smarts

 Adobe Experience Cloudをバックエンドで利用してWebサービスやモバイルアプリなどのサービスを提供している企業にとって、既に多くの量のデータやアセット(コンテンツのこと)などデータとして保存されているが、その多くは利用されていないという。そうしたデータを、Adobe Sensei AIが解析し、特定の顧客に最適なコンテンツをピックアップしてそれをコンテンツとして提供していく仕組み。

Project Side by Side

Project Side by Side

 Project Side by Sideは複数の関係者が集って共同作業を行なうときに、サイドバイサイドで表示する仕組み。一般的にはクラウドサービスは階層化されており、同じ企業の従業員であってもアクセスできる人、アクセスできない人などがあって、アクセスできる人が電話会議などの画面に表示するなどの工夫をしなければいけない。

 しかし、Project Side by Sideを活用すると、そうした権限を与えなくても、一時的に表示可能にして、関係する人がみなデータを見ながら議論が可能になる。同時に参加している従業員同士でチャットし、Slackのようなツールを利用して行なうような作業をAdobeのサービス内で行なうことが可能になる。

生成AIを利用した研究成果も早くも登場

 Adobeの近年のSneaksはAdobe SenseiのAIを利用したサービスやアプリケーションなどが紹介されることが多くなっている。別にそれはAdobeに限ったことでなく、どんな企業でもそうしたAIを活用した機能が1つのトレンドになっているからだ。

 今回のSneaksでは、従来のAIだけでなく、Fireflyに代表されるような生成AIを利用した例も早速紹介されている。Fireflyが利用されたのはProject Limitless Optionsで、個々のユーザーに特化したデータを生成していく、そうしたデモが行なわれた。

 生成AIに関してAdobeだけでなく、今週、MicrosoftやNVIDIA、Googleなどのさまざまな企業からニュースが相次いでいる。そうした動向は今後も続く可能性が高く、AdobeのSneaksでもそうした研究成果が発表されるようになっていく可能性が高いのではないだろうか。10月~11月にクリエーティブツール向けに行なわれるAdobe MAXでもそうした成果が発表されることに期待したいところだ。