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MITと共同でニューロン単位での脳解析を目指す東芝メモリ

~2019年には96層QLC NANDを投入

SSDフォーラム 2018

 東芝メモリ株式会社は30日、都内にて「SSDフォーラム 2018」を開催した。

 同フォーラムは、東芝メモリの顧客向けイベントで、同社の製品などが紹介された。講演プログラムでは、同社 常務執行役員 SSD事業部長の横塚賢志氏が登壇し、挨拶を行なった。

 同氏は、東芝メモリは2018年6月1日より新体制となり、8月1日から親会社Pangeaと合併。2019年には本社を田町に移転予定で、心機一転して事業を継続していくとアピール。NANDフラッシュを発明した企業として、メモリとSSDを事業の軸に世界をリードしていくと語った。

東芝メモリ株式会社 常務執行役員 SSD事業部長 横塚賢志氏
新体制
事業概要

 事業規模は、2017年の売上高で約1兆2,000億円に達し、世界の半導体業界中8位を記録。国内半導体企業としては唯一の上位10社に入り、国内電気機器業界でも16位につけ、技術オリエンテッドな企業として、国内半導体業界も牽引していきたいとした。

 四日市工場には3D NAND生産棟を新設(第6棟)したほか、従来は各Fabにエンジニアが分散していたが、それらを集約する開発センターも新設。先端技術の開発を推進するとした。

 また、岩手県北上市にも新製造棟建設中で、AIを活用したシステムを導入し、同社最大規模の生産施設となる見込みであるという。

売上高
第6棟建設
岩手にも生産拠点を設置

 大きな設備投資を行なっているが、同氏は今後の展望について、それらの投資はデータの爆発的な増加が背景にあると説明。

 2017年に生成されたデータの総量は23ZB(ゼタバイト)だが、2025年には年間で160ZBにまで達し、そのうち4,560EB(エクサバイト)が保存されると予想されている。

 生成データに対し、保存されているのは3割程度ということになるが、同氏は、これは記録媒体の生産量に起因する制限だと述べ、市場の成長余地は大きいとした。

 また、次世代のアプリケーションやソフトウェアでは、高速なデータアクセスが必須となる世界であり、それらがフラッシュメモリの普及をさらに加速し、市場規模がより拡大していくと語った。

年25%を超えるペースで増加する年間生成データ総量
次世代アプリ/ソフトがフラッシュメモリ普及を加速
2025年の生成データ量は銀河系の恒星の数(10ZETA)の160倍に相当
年間保存データ総量の推移
2025年に保存されるデータ量は地球上の砂浜の砂粒の数(1,000EXA)の4.5倍に相当

 同社では、それらの需要に対して、3D NANDの多層化による高密度化と大容量化、SSDとしての高密度な実装、インターフェイスの高速化と処理能力向上、セキュリティに配慮した暗号化SSDと、高密度化/大容量化/高性能化/セキュリティの4つのスケールで応えていくとした。

高密度化と大容量化
高速化
セキュリティ
FIPS 140-2準拠の暗号化SSDも用意
4つのスケール
2020年のトレンド
スケールで対応

ニューロン解析にストレージが貢献

 次いで登壇したMIT Media Lab副所長の石井祐氏は、MIT Media Labと東芝メモリ、NHKのコラボで実現した、8K解像度のインタラクティブな脳の3Dビジュアライゼーションについて説明。

 MIT Media Labは、米マサチューセッツ工科大学内の研究所であり、スマートシティの研究なども行なっている。

 石井氏は、人類未知の領域には、宇宙や深海などを想起するが、人間の脳もその1つであると述べ、同研究所のEd Boyden氏を、その領域を解明しようと踏み込んでいる1人だと紹介した。

MIT Media Lab副所長 石井祐氏
スマートシティによる膨大なデータ生成
非常に複雑な人間の脳
Ed Boyden氏

 Boyden氏は、同氏が考案した「Expansion Microscopy(膨張顕微鏡法)」と呼ばれる手法を用いて、脳細胞の体積を8,000倍に増やし、それによって非常に複雑なニューロンのネットワークを可視化することに成功。

 このとき、体積が8,000倍になった脳は解像度が8,000倍となり、データ量も8,000倍になる。そこで、10~100TBクラスの大容量データに対して、10GB/sクラスの高速アクセスが必要となり、その分野で東芝メモリが協力しているという。高解像度で3D顕微鏡画像を観察するため、NHKとも協力し、8Kサイズでのインタラクティブ3Dビジュアライゼーションも実現した。

 チームは神経細胞レベルでの脳の仕組みの解明を目指しており、膨張顕微鏡法による詳細な観測だけでなく、Optogeneticsによる神経細胞の制御といった研究も行っている。

 目標としては、脳まるごとのニューロンの高速全解析だが、今はマウスの海馬の断片で5TBになり、マウスの脳全体で1EB(100万TB)のデータサイズとなる。人間の脳に至っては、3ZB(30億TB)という途方もないサイズになる。

 目標実現に向けて、両者は毎秒TB超の転送速度を持ったストレージ環境の構築を目指している。

脳科学
膨張顕微鏡法
脳細胞の3Dモデル
人間の記憶を分析するためのコラボ
ニューロンシーケンシャー(高速全解析)
高速ストレージが要求される
論文抜粋

 石井氏は、ストレージ技術は、データセンターやクラウドなど直接連想できる領域だけでなく、科学研究分野にも貢献していると延べ、ストレージ技術の進化が、科学分野でもエポックなターニングポイントを作るのではないかとした。

人工記憶需要爆発
NAND/SSDの需要爆発

会場展示も

 会場には、同社の製品やソリューションも展示されており、後述するNVMe-oFを活用した8Kニューロン3Dモデルのデモも展示。

8Kニューロン3Dモデルのデモ
ナノスケール脳ニューロンリアルタイム再生デモ
メディカルサイエンスのデータ需要
NVMe-oFで大容量高速ストレージを展開
デモ機

 7月に発表された96層3D NAND採用のNVMe SSD「XG6」(東芝メモリ、約3GB/sのライト性能を実現した業界最速クラスのSSD)は、動作デモで公称値に迫るシーケンシャルライト2,872MB/sを記録していた。

 同社によれば、96層QLC NANDも2019年に投入する予定とのことで、早期の製品化に期待したい。

96層3D NAND採用のNVMe SSD「XG6」
XG5との比較
XG6はシーケンシャルライトで公称値に迫る2,872MB/sを記録している
96層BiCS FLASHの模型
拡大模型
ビット記録部の構造
実際のウェハ
小型フォームファクタのNVMe SSD「BG3」
DRAMを内蔵せずハード側のDRAMをキャッシュに利用する「HMB」のデモ。転送速度が向上している

 NVMe SSDをローカルではなく外部の接続インターフェイスを使ってストレージとして利用する「NVMe over Fabrics(NVMe-oF)」のソリューションも展示。

 NVMe-oFはインターフェイスを限定した規格ではないが、東芝メモリでは普及率の高いEthernetでの利用がもっとも将来性があると考え、数十GbpsのEthernetで接続しての利用を提案している。

 現状は転送速度のボトルネックはなく、レイテンシ面でも10~20μsの増加にとどまるため、ほぼローカルストレージと変わらないパフォーマンスで動作するという。

NVMe-oF(NVMe over Fabrics)
デモは40Gbps Ethernetで接続
インターフェイスの移行
ノードごとにストレージを配置するよりも集約することで利用効率を向上
ネットワーク経由でも低遅延
KumoScale
連携
対応SSD
管理画面
レイテンシはローカルとほぼ変わらず
NVMe-oF SSD+Ethernet JBOF試作機
NVMe-oF SSD試作機
ヒートシンク下にMarvell製チップを搭載
CPUの性能ボトルネック
ストレージとサーバーの分離
NVMe-oF SSD
Ethernet JBOF
試作機構成