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MIT、小さな人工頭脳を開発

ニューロモーフィックで人間の頭脳を再現したチップ

 米マサチューセッツ工科大学(MIT)は8日(現地時間)、メモリスタを使った数万の人工シナプスを実装し、単一チップで人間の頭脳を再現したと発表した。

 メモリスタ(memristorまたはmemory transistor)とは、通過する電荷を記憶して抵抗が変化する受動素子の一種であり、次世代の不揮発性メモリとして開発が行なわれている。今回開発されたチップは、シリコンベースのメモリスタで構成され、数万の人工的シナプス(神経細胞の接合部)で人間の脳で行なわれるシナプスの情報伝達を再現している。ちなみに人間の脳のシナプスの数は100兆個を超えている。

 メモリスタは、ニューロモルフィック(神経形態学的)コンピューティングでは必須要素として捉えられており、回路上でトランジスタとして機能するが、脳のシナプスと非常に似通った働きをすることが特徴。脳のシナプスは1つのニューロン(脳の神経細胞)からイオンのかたちで信号を受け取り、次のニューロンへと一致する信号を送る。

 一般的な回路のトランジスタでは、特定の強さの電流を受け取ったとき、0か1の2値で切り替えを行なって情報を送信する。それとは対照的に、メモリスタでは脳のシナプスのように、送信する信号は受信する信号の強度によって変化し、単一のメモリスタで複数の値を持たせることが可能。それゆえ、2進法のトランジスタよりも広範囲の命令を実行できる。

 メモリスタは脳のシナプスのように、ある電流強度に関連づけられた値を“覚える”ことができ、次に似た大きさの電流を受け取ったときにまったく同じ信号を作り出すことができる。この特性は複雑な方程式やオブジェクトの視覚的分類といったものの答えを、信頼たり得るものにする。

 科学者らは、メモリスタが究極的には従来のトランジスタで作られるチップよりもさらに小さくでき、スーパーコンピュータやクラウドに頼らずとも強力で携帯性に優れたデバイスを実現できるという。

 ただし、既存のメモリスタの設計では、1つのメモリスタはスイッチング媒体によって分割された陽極と陰極で作られている。この設計では、電圧が大きな電導チャネルを刺激する場合や、一方の電極から他方へとイオンが大量に流れる場合はうまく動作するが、薄い電導チャネルを通して微弱な信号を作る場合は信頼性に難がある。

 今回、MITの研究者らは、合金のなかで金属を溶かす冶金学の原理を活用し、この制限を回避する方法を発見した。

 メモリスタの陽極の材料には普通銀が使われるが、新しく銀とシリコンの両方に結合できる理想的な合金素材である銅を採用。まずシリコンで陰極を作り、微量な銅を堆積させた銀の層で陽極を作った。そして2つの電極の周りにアモルファスシリコン媒体を挟むという方法で、1平方mmサイズで数万個のメモリスタで構成されるシリコンチップを生成した。

 チップの最初の試験では、キャプテンアメリカのシールドをグレースケールで再現し、イメージ内の各ピクセルをチップ内のメモリスタを対応させた。それから、対応するピクセルの色と関連が強かったそれぞれのメモリスタの伝導性を調節。結果、チップはしっかりとキャプテンアメリカのシールドを“思い出す”ことができ、ほかの素材を使ったチップと異なり、何度も再現が可能だった。

キャプテンアメリカのシールドを再現

 また、このチップでMITのキリアンコートの画像にシャープやブラーをかけるといった画像処理タスクを実行してみたところ、同じように変更が加えられたイメージを作り出すことに成功した。

キリアンコートにシャープやブラーをかけた画像

 現在MITの研究チームは、この人工シナプスを使って実際に推論テストを行なっており、この技術を発展させて大規模なアレイで画像認識タスクを実行したいとし、いつの日か人工頭脳としてスーパーコンピュータやクラウドを使わずにこういったタスクを、持ち運び可能なサイズのデバイスで処理できるようになるかもしれないと述べている。