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日本データ復旧協会、データ復旧の模範を示し業界の健全化を図る

~第1回通常総会レポート

第1回通常総会の様子

 データ復旧の業界団体である、一般社団法人日本データ復旧協会(DRAJ)は6月22日、東京・新橋の第一ホテル東京で、第1回通常総会を開催。同協会の取り組みについて説明した。

 日本データ復旧協会は、会員各社の技術レベルの向上とマーケットへの適切な情報発信を通じて、安心してデータ復旧サービスを利用できる環境の整備と、業界の健全なる発展を図ることを目的に、2009年に発足。

 常任理事会社として、アドバンスデザイン、アラジン、A1データ、大阪データ復旧、くまなんピーシーネットが加盟している。

 2017年7月20日に一般社団法人として社団化し、2018年2月には、アイ・オー・データ機器、DD-RESCUE、バッファロー、ロジテックINAソリューションズが参加した。

 また、特別会員企業として、特定非営利活動法人デジタル・フォレンジック研究会が、賛助会員企業には、富士通インターコネクトテクノロジーズ、一般社団法人情報サービス産業協会が加盟している。

 現在、AOSリーガルテック、ワイ・イー・シー、データテックの3社が入会審査中だという。

挨拶する一般社団法人日本データ復旧協会の本田正会長

 通常総会における挨拶で、同協会の本田正会長(A1データ社長)は、「私が、日本で最初にデータ復旧サービスを開始しようとした23年前には、データ復旧会社は、米国に29社、欧州には1社しかなかった。そのなかで、本当にデータ復旧の技術があるといえたのは1割。そのなかの1社から技術を教えてもらい、事業をスタートした。

 当初はメインフレームとミニコン、そしてNECのPC-9800シリーズのデータリカバリを行なっていた。データ復旧は、医者と同じ役割をはたしていた。持ち込まれたHDDやコンピュータのデータを復旧すると、高い費用をいただきながらもも、お客様からありがとうと言ってもらえるビジネスであった。データをなくしたお客様の最後の砦となっていた。

 だが、2010年頃になると、多くの業者が参入するようになってきて、状況が変わりはじめた。ここにきて、さらに強い危機感を持っている。最近では、サービス事業者の乱立のなかで、心ない一部の業者により、かなり強引なビジネスがまかり通っている。これは許しがたいことであると同時に、人として残念なことである。

 それに対抗するためには、われわれが結束し、データ復旧はこうあるべきという模範を示すべきだという結論に至った。われわれが模範となってデータ復旧をどうしていくかを真剣に考えなくてならない時期に入ってきており、私的な組織ではだめだと考えて、社団化した」などと述べた。

 「データは人間の血液のようものであり、コンピュータのデータなしでは、正常な営みが行なえない状況にある。企業での利用に加えて、個人ユースでも、子供の成長記録がなくなってしまうということも起こる。東日本大震災のときには、損害状況があまりにも酷く、どうしても復旧できないものもあった」などと振り返りながら、同協会の基本方針についても説明。

 「私たちは、データ復旧業界の健全化を目指す。データ復旧サービスを必要とする、すべてのお客様から信頼されるためには、どうすれば良いかを毎日考え続けている。健全なデータ復旧サービスの姿勢をとり続けることで、データ復旧に関わるすべての事業者の模範となりたい。

 会員企業は、お客様の大切なデータを消失の危機から救う事業を行なっていることをつねに認識し、真摯にデータ復旧サービスと向かい続けることを宣言する。具体的には、技術レベルの向上に励み、つねに最良のデータ復旧サービスを提供すること、社会の役に立つと思われることは積極的に取り入れて共有していくこと、子供たちの将来を奪う、児童ポルノのデータ復旧は絶対に行なわないことを決めている」とした。

 データ復旧率の表示についても言及し、「復旧率は、お客様のほしいデータがどれだけ戻ったかをベースに考えている。どの程度の確率で復元できるのかといったことは、事前に知りうることができない。むやみに、高い復旧率を謳って、誘う行為もあるが、当協会の会員は、定義なき誇大なデータ復旧の成功率を謳う『おとり広告』で、お客様を惑わしたり、誘ったりしない。どのような定義のもとに復旧率を示すべきかということも考えていく」とした。

 さらに、「開封作業は、コンディションの悪化を伴うため、将来的な作業チャンスを奪いさるリスクもある。会員企業は、明確な承諾を得ないかぎり、HDDやSSD、メモリなどの保存媒体、スマートフォンやタブレットなどの端末を、無断で開封しないことを示している。開封が必要と判断した時点で、その旨を十分説明し、承諾を得ないかぎり、開封はしない」とした。

 また、「調査費を除き、基本的には、データ復旧料金は成功報酬によって得るものとし、ほかの費用を請求することはしない。正当な理由として、復元可否に関わらず、費用負担が生じる場合には、事前にその旨を十分説明し、承諾を得ないかぎり、作業着手や請求は行なわない」などとし、「定期的な見直しや改定を繰り返し、時代にあわせた方針と活動で、データ復旧サービスを利用するお客様を守る内容にしていく。データ復旧の依頼と問い合わせは、安心して、信頼できるDRAJ加盟企業各社に問い合わせてほしい」と語った。

新規会員各社に会員章が手渡された
会員会社に手渡された会員章

 なお、通常総会では、会長に本田正氏が重任で選出したほか、副会長には、浦口康也氏(くまなんピーシーネット社長)を新任で選出。常任理事には、瀧伸一氏(アドバンスデザイン副社長)、下垣内太氏(大阪データ復旧社長)、長濱慶直氏(アラジン社長)を選出した。また、監事には、溝呂木清氏(A1データ事業部長)、横山秀光氏(横山秀光税理士事務所所長)が新任で選ばれた。

 さらに、業界活性化に向けた各種活動などを企画する運営委員会、業界規模の調査活動などを通じて、市場の健全化事業を行なう市場調査委員会、被害実態や児童ポルノなどの内外の倫理調査活動および報告を通じて、業界の健全化を行なう倫理委員会、会員交流と内外のPR活動、勉強会、イベント開催などを通じて、業界連携を行なう交流委員会を設置することも決議した。

 2018年9月および2019年3月には、サービス業者のホームページ調査を実施する予定であるほか、2019年2月には、児童ポルノ拡散防止キャンペーンを実施する予定だ。2018年12月には、PCや外付けHDD、SSD、NAS、サーバーなどの対象にしたストレージの業界規模調査を実施する予定だという。

 本田会長は、「バッファローやアイ・オー・データ機器などが会員として参加したことで、業界規模の調査の精度はこれまで以上に上がるだろう」と期待を寄せた。

くまなんピーシーネットの浦口康也社長(左)と、大阪データ復旧の下垣内太社長(右)による特別ディスカッションの様子

 通常総会終了後には、くまなんピーシーネットの浦口康也社長(同協会副会長)と、大阪データ復旧の下垣内太社長(同協会常任理事)による「データ復旧市場の今後と健全化~データ復旧とデジタルフォレンジック、その将来~」と題した特別ディスカッションが行なわれた。

 ディスカッションでは、ストレージ業界の歴史や変化を紹介したり、データ復旧に仕組みなどについて説明された。

 大阪データ復旧の下垣内太社長は、「消耗や故障などのストレージ障害、誤って初期化してしまった場合などのヒューマンエラーなどのほか、デジタルフォレンジックにおけるデータ復旧、ランサムウェアなどのサイバー攻撃を受けたさいのデータ復旧、災害による被害によって壊れたデータの復旧がある。最近では、1,500万円分の仮想通貨の暗号化キーを紛失してしまい、PCのどこかにないかを探してほしいという依頼があった」と語り、過去には、HDDのプラッターだけを持ってきて、ポケットから出して復旧してほしいと言われた経験を挙げ、「衝撃的な出来事だった」などとした。

 くまなんピーシーネットの浦口康也社長は、「データ復旧は、医療に似た対応が必要である。顧客に対して、どこまでできるのかということを説明するインフォームド・コンセント、費用が高すぎると言われた場合のセカンドオピニオン、復旧を行なう作業者だけでなく、いつまでにデータを復旧してほしいとするユーザーの精神的ストレスの緩和、および心のケアなどが大切である」と述べたほか、「データがなくなると、会社が潰れると言われたケースがあった。また壊れたと言って、再びHDDを持ち込んでくるユーザーもいる。バックアップをするなど、データに対する考え方を改めてほしいと思うこともある」などと語った。

くまなんピーシーネットの浦口康也社長
HDDのプラッターだけを持ってきて、ポケットから出して、復旧してほしいといわれたシーンを再現する大阪データ復旧の下垣内太社長