福田昭のセミコン業界最前線
321層の超高層3D NANDフラッシュをSK hynixが披露
2023年8月14日 11:42
NANDフラッシュメモリとその応用製品に関する世界最大のイベント「フラッシュメモリサミット(FMS:Flash Memory Summit)」が8月7日に米国カリフォルニア州シリコンバレー地域の会議場「サンタクララコンベンションセンター(SCCC:Santa Clara Convention Center)」で始まった。
メインイベントである講演会と展示会は8日から10日まで開催される。恒例のキーノート講演(全体講演)では、半導体メモリと応用製品の大手ベンダーや技術開発ベンチャーなどが、聴衆に技術や製品などをアピールした。キーノート講演でNANDフラッシュメモリの開発情報を明らかにしたのは、キオクシア、SK hynix、Western Digital(以降はWDと表記)の3社である。キオクシアとWDは開発と量産で連合を組んでいるので、実質的には2つのグループになる。
次世代の3D NANDフラッシュメモリで特に注目を浴びたのは、フラッシュメモリ大手のSK hynixが開発した超高層の3D NANDフラッシュ技術(4D V9技術)である。メモリセル(あるいはワード線)の積層数は300層を超え、「321層」に達した。シリコンダイ当たりの記憶容量は1Tbit、多値記憶方式は3bit/セル(TLC)方式である。同社が開発した最新世代(4D V8)の積層数は238層なので、35%も積層数を延ばしたことになる。
321層の3D NANDフラッシュは前世代と比べ、記憶密度が41%向上し、読み出しの遅延時間が13%短くなり、書き込みスループットが12%向上し、読み出しの消費電力が10%低下するとした。
メモリセルのスタックを3つに分割
300層を超える超高層を実現できた大きな理由は、メモリセルスタックを3つに分割したことだ。238層まではスタックを2つに分割していた。321層に高層化すると、2分割では各スタック(「プラグ」と呼んでいた)の積層数が150層を超えてしまい、元から難しい製造がさらに厳しくなる。そこで前世代の238層品(均等分割で119層/プラグ)と比べてプラグ当たりの積層数をやや少なくしながら、3つのプラグ(均等3分割で107層/プラグ)を重ねることにした。
問題となるのは垂直方向が長くなることによる応力と、プラグ間の位置合わせだ。応力の少ない材料を選択するとともに、位置合わせには補正をかけた。
ISSCCで2月に発表した「300を超える積層数」の3D NANDフラッシュ
SK hynixは2023年2月に半導体回路技術の国際学会「ISSCC」で、300層を超える3D NANDフラッシュメモリの回路技術を発表していた(論文番号28.2)。メモリセルの積層数は曖昧な表現にとどまったものの、今回のフラッシュメモリサミットで発表した321層の3D NANDフラッシュとほぼ同じチップとみられる。
ISSCCでSK hynixが発表した3D NANDフラッシュメモリの概要は、記憶容量が1Tbit、多値記憶方式はTLC、メモリセルアレイは4つのプレーンに分割、ページサイズは16KB、書き込みスループットは194MB/s、読み出し遅延時間は34μs、記憶密度は20Gbit/平方mm以上である。シリコンダイサイズは公表していない。
多値記憶技術と超高層化技術で将来の高密化に挑む
記憶密度を高める重要な手段には高層化のほかに、多値化がある。現在は4bit/セル(QLC)方式の3D NANDフラッシュメモリが製品化されている。次の多値記憶方式としては5bit/セル(PLC)方式を複数の大手ベンダーが研究中だ。
5bit/セル方式では1個のメモリセルに32通りのしきい電圧を書き込む。ちなみに4bit/セル方式では16通り、3bit/セル方式(TLC)では8通りだった。PLC方式で32通りのしきい電圧を書き込んで検証する作業には、TLC方式の20倍近くの時間を要するという。
そこでSK hynixは、1個のセルを2つのサイトに分割し、各サイトに2.5bitを記憶させるPLC方式を考案した。各サイトから読み出したデータを合成して5bitのデータを得る。この方式だと、書き込み時間はTLC(3bit/セル)方式と同じ程度で済むという。
第7世代の176層品をゲーム機器や車載に展開
キーノート講演では、現行世代である第7世代(V7)および第8世代(V8)の最新状況も明らかにした。176層の第7世代は月間の量産数量が最も多い世代である。生産立ち上げから15カ月後には、128層世代(V6世代)に比べてウェハの出荷量が2.5倍に達した。
また第7世代(V7)品では、SSDやモバイル向けでなく、ゲーム機器に向けた低遅延品、車載に向けた高温対応品などを開発した。
第8世代(238層)品では、記憶容量が512Gbitのシリコンダイの量産を2023年5月に開始した。同年第4四半期には、記憶容量が1Tbitのシリコンダイを量産する予定だ。また用途別では、モバイル向けを2023年3月に、PC向けを同年4月に、データセンター向けを同年7月に出荷した。