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Optaneメモリの挑戦と挫折。【第3部】第2世代3D XPoint技術の行方
2022年9月12日 06:17
始めから予定されていた第2世代品の共同開発
2015年7月から2022年7月までの7年間に、IntelとMicron Technology(以降はMicronと表記)が「3D XPointメモリ」とどのように関わってきたかを振り返るシリーズの第3部である。第1部では、2015年から2017年までの主要な出来事をご紹介した。2015年7月にIntelとMicronが3D XPointメモリの共同開発成果(試作品)をアナウンスした後、2017年にはIntelが3D XPointメモリの応用製品を「Optane」ブランドで発売した。併せて3D XPointメモリの量産をIntelとMicronの合弁製造会社IM Flash Technologies(IMFT)で開始した。
第2部では、2018年から2019年までの主要な出来事をご紹介した。特にIntelとMicronの製品開発状況の違いをその背景から説明した。Intelが製品を立て続けに開発していったのに対し、Micronは製品開発に苦しんだ。
今回では、2019年から2020年までの主要な出来事を述べる。特に共同開発の重要課題である「第2世代」の3D XPointメモリ技術の開発動向をご紹介する。
4つのメモリセルアレイスタックを積み重ねる第2世代
第2部でも述べたように、2018年7月16日にIntelとMicronは、3D XPointメモリ共同開発の契約を完了させることを正式に発表した。開発中の第2世代3D XPointメモリが完成することをもって共同開発を終了し、以降は各社が独自に後継世代や派生品などの開発を進めることになった。第2世代の開発完了時期は2019年前半だとの見通しも示された。
3D XPointメモリは当初(第1世代)、2つのメモリセルアレイスタック(64Gbit/スタック)を積み重ねることにより、128Gbitという大きな記憶容量をシングルダイで実現していた。これが第2世代では、積層するスタックを4つに増やすことで、シングルダイに256Gbitという第1世代の2倍の記憶容量を収容すると見られていた。ただし、2018年7月16日の発表では、第2世代の姿(スタック数と記憶容量)に言及することはなかった。
おぼろげながらも第2世代の姿が見えてきたのは、2019年9月のことだ。同年9月26日にIntelが開催したイベント「Memory & Storage Day 2019」で、第2世代である4層スタックの断面を電子顕微鏡で観察した画像を公表した。
ただし第2世代のデッキ(スタック)当たりの記憶容量は第1世代から増減するのか、それとも同じなのかについては正式には公表されなかったようだ。
シリコンダイ解析サービス企業が第2世代の詳細を明らかに
第2世代の3D XPointメモリ(Optaneメモリ)の詳細を明らかにしたのは、シリコンダイ解析サービス企業のTechInsigtsである。Intelが2020年12月16日にイベント「Memory and Storage Moment 2020」で発表したデータセンター向け超高速SSD「Optane DC P5800X」からTechInsigtsはOptaneシリコンダイを取り出し、解析した。また第1世代の比較対象品として同じくデータセンター向けSSD「Optane DC 4800X」(2017年3月発売)からOptaneシリコンダイを取り出し、解析した。そして両者の解析結果を2021年6月3日に公表した。
第2世代品のデッキ数は4、記憶容量は256Gbit(32GB)である。シリコンダイ当たりの記憶容量は第1世代品の2倍となった。デッキ当たりの記憶容量は64Gbitで、第1世代品と変わらない。メモリセルアレイのデッキは第4層金属配線(M4層)と第5層金属配線(M5層)の間に作り込んだ。このレイアウトも、第1世代と同じである。メモリセル面積は0.0016平方μm、周辺回路(ロジック回路)の製造技術は20nmノードのCMOSプロセスで、これらも第1世代と変わらない。
シリコンダイ面積は195.6平方mmで、第1世代の206.5平方mmに比べて5%ほど縮まった。ただしメモリのシリコンダイとしては、第2世代もかなり大きな部類に入る。記憶密度は1.31Gbit/平方mmで、第1世代の2倍強に増えた。なお「Optane DC P5800X」では1個のパッケージに2枚のシリコンダイを収容しているが、このタイプが標準というわけではないようだ。ほかの第2世代採用品を見ていくと、1枚のシリコンダイを収容したパッケージも存在することが見て取れる。
第1世代Optane製品と第2世代Optane製品のリスト
TechInsigtsの調査結果に筆者の推定を加えると、第2世代Optaneメモリを搭載した製品はサーバー用超高速SSD「Optane DC P5800X」、サーバー用メモリモジュール「Optane DC Persistent Memory 200」(2020年第4四半期に出荷を開始)、OptaneとQLC NANDフラッシュを混載したNVMeインターフェイスのSSD「Optane Memory H20」(2021年5月発表、同年6月出荷予定)の3製品である(2022年7月時点)。
突然に訪れたエンディング
Intelは2021年5月17日に「Optane Memory H20」を製品発表した後、Optaneメモリに関連した公式な情報発信をしなくなる。2022年に入っても、情報発信はなかった。
そして1年2カ月を経過した2022年7月28日、同年第2四半期の業績発表リリースの中で、ひっそりと「Optane事業の段階的縮小」を記述する。そしてOptaneメモリの在庫を減損処理した。減損処理の金額は5億5,900万ドルに達する。
なおストレージ関連のニュースサイト「BLOCKS & FILES.」の2022年5月2日付け記事によると、IMFT(IM Flash Technologies)の3D XPointメモリ製造拠点(米国ユタ州リーハイ)ではIntel向けに大量のOptaneチップを製造済みであり、Intelが抱える在庫の総量は期間にして約2年分に相当するという。またこの記事では、第3世代以降のOptaneメモリ開発計画についてIntelは公式に触れていないことや、ニューメキシコ州リオランチョに保有するIntelの生産拠点はOptaneメモリのシリコンを製造する能力を持っていないことを指摘していた。
理想のメモリに最も近づいた3D XPointメモリ
理想のメモリとは粗く言ってしまうと、高速、不揮発性、大容量の3つの特性を兼ね備えたメモリのことだ。DRAMは高速だが不揮発性を持たず、記憶容量はこのところあまり拡大していない。NANDフラッシュメモリは不揮発性を備えており、大容量である。ただし書き込み速度は低く、書き換え回数に制限がある。
3D XPointメモリは高速、不揮発性、大容量を兼ね備えており、「理想のメモリ」に最も近い。しかも供給者は零細のベンチャー企業ではなく、マイクロプロセッサ最大手のIntelと半導体メモリ大手のMicronである。2015年7月の開発発表時に半導体メモリ業界が将来を大いに期待したのも当然のことと言えよう。
しかし現実は厳しかった。7年におよぶ挑戦の結果、Micronがまず脱落し、残ったIntelも事実上の撤退を決めた。ここで理由をあげつらうことは避けたい。技術の問題、市場の問題、経済の問題などが根本的に解決されなかったことは容易に推定できる。この点は改めて別の機会に論じたい。
Intelは半導体メモリ大手のSK hynixにNANDフラッシュ事業とNANDフラッシュ搭載SSD事業を売却しつつある。半導体メモリ事業そのものから完全に撤退するという、Intelの創業以来で初めての決断になる。かつてはDRAM事業から撤退してもNORフラッシュメモリ事業を立ち上げ、NORフラッシュ事業から撤退してもNANDフラッシュメモリ事業を立ち上げることでメモリ事業を継続してきた。半導体メモリ事業を喪うIntelは、ファウンダリ事業に活路を求めつつあるようにも見える。行方はまだ、不透明だ。