福田昭のセミコン業界最前線

PCのストレージはHDDからSSDに主役が交代

~日本HDD協会2020年1月セミナーレポート(応用分野・技術開発編)

HDDとSSDの出荷台数推移(世界市場、2015年~2024年)。2018年までは実績、2019年は推定、2020年以降は予測。テクノ・システム・リサーチのデータから筆者がまとめたもの

 ハードディスク装置(HDD)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は、今年(2020年)の1月24日に「2020ストレージの最新動向と今後の展望」と題するセミナーを東京で開催した。

 日本HDD協会は毎年1月あるいは2月に、HDDを中心とするストレージの業界動向や技術動向、市場動向に関するセミナーを主催してきた。このセミナーの恒例となっており、非常に高く評価されている講演が、市場調査会社テクノ・システム・リサーチによるストレージ市場の分析である。

 今年は「Updated Storage (HDD and SSD) Market Outlook 2020」と題してストレージ市場を解説してくれた。講演者は同社でアナリストをつとめる楠本一博氏である。楠本氏は、HDD市場とSSD市場、ストレージの応用市場などを分析した結果をわかりやすく解説していた。

 HDD市場に関しては本コラムの前々回(2019年のHDD出荷台数は3億1,673万台で5年連続のマイナス成長)、SSD市場に関しては前回(SSD市場が台数と金額でHDD市場を史上はじめて追い抜く)ですでに概要を報告した。今回は、応用分野と応用別ストレージ、大容量HDD開発に関する講演の概要を紹介する。

 なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者である楠本氏と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。

ストレージ出荷台数は2022年以降は5億3,500万台前後で推移

 はじめは、ストレージ市場全体における、HDDとSSDの出荷台数の推移を見ていこう。一昨年(2018年)にHDDの出荷台数(世界市場)は3億7,535万台、SSDの出荷台数(世界市場)は1億6,918万台だった。単純に両者を合計すると、5億4,453万台のストレージが出荷されたことになる。合計値は前年に比べて3.7%増加した。

 昨年(2019年)には、HDDの出荷台数は3億1,673万台に減少し、SSDの出荷台数は2億3,396万台に増加した(いずれも推定値)。合計の出荷台数(ストレージ出荷台数)は5億5,069万台である。前年に比べると1.1%増加した。

 今年は、HDDの出荷台数は2億7,400万台に減少し、SSDの出荷台数は2億7,930万台に増加すると予測する。合計の出荷台数は5億5,330万台で、前年からわずか(0.47%)に増える。来年(2021年)以降もHDDの減少とSSDの増加が続く。合計値はわずかに減っていく。2024年のストレージ出荷台数は5億3,570万台になると予測する。

2019年のPC出荷台数は前年比4.1%増の2億6,208万台

 応用分野別では、HDDとSSDはともに「PC向け」の出荷台数がもっとも多い。そこで講演では、PCの出荷台数の動向を説明していた。2016年~2019年の四半期ごとの出荷台数である。

PC出荷台数の推移(2016年~2019年、2019年第4四半期は推定、そのほかは実績)。出典 : テクノ・システム・リサーチ

 年間ベースの出荷台数を見ていくと、2016年が2億5,370万台、2017年が2億5,439万台、2018年が2億5,172万台、2019年が2億6,203万台である。PCの出荷台数は減少が続くと言われてきたが、2019年は前年に比べて出荷台数が増加した。

 内訳を見ると、「サーバー」、「デスクトップ」、「ノートブック」のなかで「ノートブック」は、2017年から2019年まで3年連続で出荷台数を伸ばしている。「サーバー」の前年比は2017年が増加、2018年が減少、2019年が増加である。「デスクトップ」の前年比は2017年と2018年が減少、2019年が微増となった。2019年の出荷台数(推定値)がもっとも多いのは「ノートブック」である。台数は1億6,523万台でPC全体の63%を占める。「デスクトップ」は8,700万台、「サーバー」は980万台である。

 2019年第3四半期におけるPCベンダーの出荷台数ランキングは、トップがHPで24.2%、2位がLenovoで22.6%、3位がDellで17.8%、4位がAppleで7.5%、5位がAcerで6.4%、6位置がASUSTeKで5.5%、7位が富士通(Lenovo)で1.6%、8位がSamsung Electronicsで1.4%、9位がNEC(Lenovo)で0.7%、10位がDynabookで0.5%である。残りのベンダーは11.9%を占める。

ノートPCの7割がフラッシュストレージを内蔵

 PC本体が内蔵するストレージには、HDDとSSD、eMMC/UFSの3種類がある。また機種によっては、2種類以上のストレージを搭載していることがある。この前提で「サーバー」と「デスクトップ」、「ノートブック(ノートPC)」がどのようなストレージを搭載しているかを、2017年~2019年の範囲で分析してみせた。

PCの製品分類別出荷台数と内蔵ストレージ出荷台数の推移(2017年~2019年)。出典 : テクノ・システム・リサーチ

 サーバーは2017年の時点で、HDDの搭載率が90.2%、SSDの搭載率が9.6%とHDDが圧倒的に多かった。それが2019年には、HDDの搭載率が43.4%と半分を割り込むまでに低下した。SSDの搭載率は57.1%と半分を超えた。

 デスクトップは2017年の時点でHDDの搭載率が82.6%、SSDの搭載率が10.1%、eMMC/UFSの搭載率が3.6%だった。「フラッシュストレージ」という枠組で考えると、搭載率はSSDとeMMC/UFSの合計(両方を本体が標準搭載していることは考えにくい)で13.7%となる。それでもHDDの搭載率がフラッシュストレージに比べるとはるかに高い。

 それが2019年には、HDDの搭載率が45.9%、SSDの搭載率が48.3%となり、SSDの搭載率がHDDを超えた。eMMC/UFSの搭載率は4.6%である。フラッシュストレージ(SSDとeMMC/UFSの合計)の搭載率は52.9%となり、半分を超えた。

 ノートブックは2017年の時点でHDDの搭載率が52.4%、SSDの搭載率が39.2%、eMMC/UFSの搭載率が6.2%、フラッシュストレージ(SSDとeMMC/UFSの合計)の搭載率が45.5%となっていた。SSDの搭載率が約4割とかなり高い。2019年にはHDDの搭載率が30.3%に下がり、SSDの搭載率が57.0%に上がり、eMMC/UFSの搭載率が11.8%に上がった。フラッシュストレージの搭載率が68.8%と7割近くを占めた。ノートブックのストレージはフラッシュメモリが主流になった、と言えよう。

エンタープライズ市場は高性能HDDからSSDへの置き換えが進む

 ここからは「エンタープライズ向け」ストレージ市場の概要を見ていこう。エンタープライズ向けストレージはおもに、「エンタープライズ向けSSD」と、「エンタープライズ向け高性能HDD」、「エンタープライズ向け大容量HDD(ニアライン向けHDD)」の3品種に分けられる。講演では2015年~2023年の市場概要(出荷台数、出荷金額、総出荷記憶容量、平均記憶容量、GB単価、平均価格)をスライドで示していた。

エンタープライズ向けストレージの市場概要(世界市場、2015年~2023年)。2018年までは実績、2019年は推定、2020年以降は予測。出典:テクノ・システム・リサーチ

 2023年までのトレンドとしては、「エンタープライズ向けSSD」(以降はSSDと表記)と「ニアライン向けHDD」(以降はニアラインHDDと表記)の出荷台数が増加し、「エンタープライズ向け高性能HDD」(以降は高性能HDDと表記)の出荷台数が減少する。高性能HDDをSSDが置き換えていく。

 単年ベースの出荷台数で見ていくと、3年前の2017年は、ニアラインHDDがもっとも多く4,240万台、ついで高性能HDDが2,259万台、SSDが1,597万台と続いた。それが翌年の2018年には、SSDが2,490万台に増加し、高性能HDDが2,150万台に減少したことで、両者の出荷台数が逆転する。

 2019年はニアラインHDDが5,278万台、SSDが2,830万台、高性能HDDが1,702万台となり、SSDと高性能HDDの差がさらに広がった。2023年にはニアラインHDDが7,200万台に、SSDが5,000万台に増加すると予測する。高性能HDDは650万台と大幅に減少する。

 市場を台数ではなく、金額で見ていくと、SSDの突出ぶりが目出つ。2017年における出荷金額はSSDがもっとも多く、71億1,780万ドルである。次がニアラインHDDで67億3,400万ドル、それから高性能HDDが30億6,100万ドルとなっている。翌年の2018年にはSSDが99億6,000万ドル、ニアラインHDDが82億2,900万ドルへと増加した。高性能HDDは27億7,100万ドルに減少した。

 2019年にはSSDが104億7,100万ドル、ニアラインHDDが88億3,800万ドルとさらに増加した。高性能HDDは19億4400万ドルと大きく減少した。2023年にはSSDが148億5,000万ドルに、ニアラインHDDが126億7,200万ドルに増加すると予測する。高性能HDDは6億7,930万ドルへと大幅に縮小する。

ニアラインHDDの平均記憶容量は2023年に17TBを超える

 ここからはエンタープライズ向けストレージの平均記憶容量(ドライブ1台当たりの記憶容量)に注目しよう。平均記憶容量は3品種のいずれも、増加トレンドにある。一昨年における平均記憶容量はSSDが前年比15.5%増の1,250GB、高性能HDDが同15.6%増の974.47GB、ニアラインHDDが同24.5%増の7,726.33GBである。

 そして昨年における平均記憶容量(推定)は、SSDが前年比13.6%増の1,420GB、高性能HDDが同18.0%増の1,150GB、ニアラインHDDが同17.1%増の9,050GBとなった。今年の平均記憶容量は、SSDが前年比11.3%増の1,580GB、高性能HDDが同6.1%増の 1,220GB、ニアラインHDDが同18.2%増の10,700GB(約10.4TB)と予測した。

 今後はどうか。SSDは比較的順調に記憶容量を拡大し、2023年には2,130GBになると予測する。2020年に比べると、1.35倍に増える。高性能HDDは記憶容量拡大のペースが鈍る。2023年には1,290GBになると予測する。2020年に比べると1.06倍とあまり増えない。

 ニアラインHDDは記憶容量拡大の勢いがもっとも強い。2023年には17,800GB(約17.4TB)になると予測する。2020年の1.66倍に増える。

ニアラインHDDの大容量化を牽引する要素技術

 ニアラインHDDの記憶容量拡大は、高密度な磁気記録技術の開発とドライブ1台が内蔵するプラッタの枚数増によって支えられてきた。

ニアライン向けHDDの記憶容量拡大ロードマップと磁気記録技術の推移。出典 : テクノ・システム・リサーチ

 従来から使われてきた記録技術は、垂直磁気記録(PMR : Perpendicular Magnetic Recording)方式である。PMR方式のドライブは気密封止されておらず、ドライブが内蔵するプラッタ(ディスク)や磁気ヘッドなどの周囲は空気(エア)で満たされていた(「エアドライブ」とも呼ぶ)。このドライブでPMRの記憶密度を向上させつつ、プラッタ枚数の増加を併用することで、4TBまではドライブ容量の拡大が進んだ。

 ドライブ容量で6TBからは、ドライブ内部にヘリウム(He)のガスを充填して気密封止する製品が登場した(「ヘリウムドライブ」とも呼ぶ)。ヘリウムは分子が空気(おもに窒素)に比べると軽いので、プラッタの回転による流体抵抗が下がる。このため、磁気ヘッドの外乱を大きく低減できた。ヘリウム封止により、プラッタを薄くしてより多くの枚数のプラッタをドライブに内蔵することで、ドライブの記憶容量を拡大するようになった。2019年時点では記憶容量が14TBのヘリウムドライブ(プラッタ枚数は8枚)が製品化されている。

 一方でエアドライブ品の容量を拡大する努力も続けられた。エアドライブ品の最大容量は2019年時点では10TB(プラッタ枚数は6枚)に達している。

 続いてドライブ容量で10TBからは、瓦磁気記録(SMR : Shingled Magnetic Recording)方式を採用した製品が登場した。SMR方式では隣接するトラックの一部を重ね合わせることで、記録密度を高めている。PMRに比べて1.4倍前後の記録密度を実現した。2019年時点ではSMR方式のヘリウムドライブで18TBの大容量品(プラッタ枚数は9枚)が製品化されている。

 12TBからは、2次元磁気記録(TDMR : Two Dimentional Magnetic Recording)方式を採用した製品が登場した。TDMR方式では2個の読み出し磁気ヘッドがそれぞれ、2つのトラックから信号を読み出す。具体的には目的のトラック以外に、隣接する2つのトラックからも信号を読み出し、1つの信号として再生する。3つのトラックAとBとCが隣接していたとしよう。目的のトラックをBトラックとする。1個の磁気ヘッドはAトラックとBトラックの信号を読み出す。もう1個の磁気ヘッドはBトラックとCトラックの信号を読み出す。2つの読み出し信号から、信号処理によって1つの再生信号を生成する。

 こうすると隣接するトラック間の干渉などの雑音を除去できるので、信号対雑音比が向上する。信号対雑音比が一定であれば、トラックのピッチを詰められる。すなわち、記録密度を従来よりも高められる。2019年時点ではTDMR方式のヘリウムドライブで16TBの大容量品(プラッタ枚数は9枚)が製品化されている。

 さらに16TBからは、「エネルギーアシスト磁気記録」と呼ばれる、新しい磁気記録技術が導入されつつある。記録媒体に外部からエネルギーを与えることで磁化反転に必要な磁界を一時的に弱くし、書き込みを容易にする。この技術にはおもに2つの方式がある。熱エネルギーを使う「熱アシスト磁気記録(HAMR : Heat-Assisted Magnetic Recording)」方式と、マイクロ波のエネルギーを使う「マイクロ波アシスト磁気記録(MAMR : Microwave Assisted Magnetic Recording)」方式である。

 HDD大手2社は、エネルギーアシスト磁気記録に関してはそれぞれ別の技術を採用し、開発を進めてきた。Seagate TechnologyはHAMR方式を、Western Digital(およびHGST)はMAMR方式を導入した。Seagate TechnologyはHAMR方式を導入した16TB HDDの試験生産を2018年に実施した。2020年には20TB以上のHDDを生産するとみられる。そして2023年にはHAMR方式によって記憶容量を40TB以上に高める計画である。

 Western Digitalは、MAMR方式を導入した20TB HDDのサンプル出荷を2019年第4四半期にはじめた(同社の2020年1月30日付け四半期決算発表リリースによる)。記憶容量を40TBに拡大したHDDをMAMR方式で2025年までに実現する予定である。