福田昭のセミコン業界最前線

DRAMの需給バランスがストレージ市場の行方を左右

~日本HDD協会2018年2月セミナーレポート(応用分野編)

 ハードディスク装置(HDD: Hard Disk Drive)関連の業界団体である日本HDD協会(IDEMA JAPAN)は今年(2018年)の2月28日に「2018年の業界動向、4K/8K放送に向けたストレージの役割は?」と題するセミナーを開催した。

 同協会は毎年初頭に、ストレージ業界を展望するセミナーを開催してきた。例年は有料のセミナーであったが、今年は同協会設立25周年を記念して無料とし、一方で会員限定のセミナーとなった。

 毎年恒例のセミナーで非常に高く評価されているのが、市場調査会社テクノ・システム・リサーチのシニアディレクターを務める馬籠敏夫氏によるストレージ市場分析である。

 今年は、「Updated Storage(HDD and SSD)Market Outlook」と題してHDD市場とSSD市場について講演した。講演ではHDD市場とSSD市場、ストレージの応用市場などを分析した結果をわかりやすく解説していた。本編では、応用分野別のストレージ市場に関する講演内容をご紹介する。

 HDD市場に関しては、本コラムの記事「2017年のHDD出荷台数は4億台で3年連続のマイナス成長」で、SSD/NAND市場に関しては本コラムの記事「NANDの高値がブレーキも、SSDの出荷台数は22%成長を達成」ですでにご報告した。

 なお、本セミナーの講演内容は報道関係者を含めて撮影と録音が禁止されている。本レポートに掲載した画像は、講演者と日本HDD協会のご厚意によって掲載の許可を得たものであることをお断りしておく。

ストレージの出荷台数は減少から増加へ転じる

 初めに、ストレージ市場全体における、HDDとSSDの出荷台数の推移を見ていこう。2015年にHDDの出荷台数(世界市場)は4億6,883万台、SSDの出荷台数(世界市場)は7,993万台だった。単純に両者を合計すると、5億4,876万台のストレージが出荷されたことになる。

 2016年には、HDDの出荷台数は4億2,390万台に減少し、SSDは1億14万台に増加した。合計の出荷台数は5億2,404万台で、前年に比べて4.5%ほど減少した。

 続く昨年(2017年)はどうだったか。HDD出荷台数は4億308万台に減少し、SSD出荷台数は1億2,182万台に増加した。合計の出荷台数は5億2,490万台で、2016年とほぼ同じ水準で推移した。

 今年には、HDDの出荷台数は3億8,250万台とさらに減少し、SSDの出荷台数は1億5,820万台とさらに増加すると予測している。合計の出荷台数は5億4,070万台で、昨年に比べて3%ほど増加する。

HDDとSSDの出荷台数推移(世界市場、2015年~2018年)。2017年までは実績、2018年は予測。出典:テクノ・システム・リサーチ

PC向けの主力ドライブは依然としてHDD

 講演では、「PC向け」市場と「エンタープライズ向け」市場の概要を展望した。いずれもストレージの主要な応用分野である。

 「PC向け」のストレージ市場を見ていくには最初に、PC本体の出荷台数を知る必要がある。一昨年(2016年)のPC出荷台数(世界市場)は2億5,431万台で、前年に比べて4.7%の減少である。続く昨年のPC出荷台数は2億5,439万台で、前年とほぼ同じ台数を維持した。今年のPC出荷台数は2億5,585万台で、前年比0.6%増とわずかに成長する。

 PC出荷台数の内訳はIAサーバーとデスクトップPC、ノートPCである。IAサーバーとノートPCが増加し、デスクトップPCが減少する傾向にある。出荷台数の大半を占めるのはノートPCで、昨年には出荷台数の60%をノートPCが占めた。ついで多いのがデスクトップPCで、36%を占めている。残りの4%がIAサーバーである。

 これら3つの応用分野でHDDとSSDおよびeMMC/UFSの割合を台数ベースで見ていくと、いずれの分野でもHDD内蔵品が最大多数を占める。もう少し詳しく見ていこう。

 昨年の場合、ノートPCではHDD内蔵品が52.4%を占めた。SSD内蔵品は39.2%、eMMC/UFS内蔵品は6.2%である。デスクトップPCではHDD内蔵品の割合がさらに多く、82.6%を占める。SSD内蔵品は10.4%、eMMC/UFS内蔵品は3.6%とまだ少ない。

 IAサーバーでは昨年にHDDを内蔵する機種の割合は90.2%、SSDを内蔵する機種の割合は25.7%となった。なおいずれの分野でも合計値が100%を超えることがあるのは、HDDとSSD、eMMC/UFSの複数種類(たとえばHDDとSSDの両方)を内蔵する機種が存在するためである。

 今年はどうか。いずれの分野でも、HDD内蔵品の出荷台数が減少し、SSD内蔵品の出荷台数が増加する。ノートPCでは、HDD内蔵品の割合が46.2%、SSD内蔵品の割合が49.3%となり、HDDとSSDの比率が逆転する。デスクトップPCでは、HDD内蔵品の割合は72.2%とまだ多い。SSD内蔵品の割合は21.3%である。IAサーバーでは、HDD内蔵品の割合が下がり、63.0%となる。SSD内蔵品は52.0%と大幅に増加する。

PC出荷台数と内蔵ストレージ出荷台数の推移。出典:テクノ・システム・リサーチ

金額でエンタープライズSSDがニアラインHDDを追い抜く

 次は「エンタープライズ向け」市場の概要を見ていこう。エンタープライズ向け市場を構成するストレージは、「エンタープライズ向けSSD」と、「エンタープライズ向け高性能HDD」、「エンタープライズ向け大容量HDD(ニアライン向けHDD)」の3分野である。

 昨年の時点で出荷台数がもっとも多かったのはニアライン向けHDDである。出荷台数は4,241万台だった。次がエンタープライズ向け高性能HDDで2,259万台、もっとも少ないのがエンタープライズ向けSSDで1,597万台である。

 ただし昨年の市場を金額ベースで見ていくと、様相が少し異なってくる。販売金額がもっとも多かったのはエンタープライズ向けSSDで、71億1,780万ドルである。次がニアライン向けHDDで67億3,400万ドルとなっている。そしてエンタープライズ向け高性能HDDが30億6,100万ドルである。

 出荷台数に関する最近の傾向としては、エンタープライズ向けSSDとニアライン向けHDDが増加傾向、エンタープライズ向け高性能HDDが減少傾向となっている。増加傾向が著しいのがエンタープライズ向けSSDで、この結果、金額ベースでは一昨年(2016年)まではニアラインHDDが最大だったのを、昨年に追い抜いた。

 この傾向は今後も続く。今年には、出荷台数でエンタープライズ向けSSDがエンタープライズ向け高性能HDDを追い抜く。エンタープライズ向けSSDの出荷台数は2,120万台、エンタープライズ向け高性能HDDの出荷台数は1,950万台と予測する。ニアライン向けHDDの出荷台数は4,700万台となる。

 平均単価(ドライブ当たりの金額)はエンタープライズ向けSSDがもっとも高い。昨年の時点で445.7ドルである。ニアラインHDDは158.78ドル、エンタープライズ向け高性能HDDは135.5ドルとなっている。平均単価のトレンドはSSDが減少傾向、ニアラインHDDが増加傾向、高性能HDDが横ばいである。たとえばSSDの平均単価は2015年には611.7ドルだった。2年間で約7割に下がっている。

 ニアラインHDDの平均単価が増加傾向にあるのは、おもにドライブ当たりの記憶容量が急速に拡大しているからだ。ドライブ当たりの記憶容量(平均値)は2015年に3,469GBだった。それが2017年には、6,202GBにと大きく増加している。79%もの増加である。そして今年は、ドライブ当たりの記憶容量(平均値)は7,930GBとさらに拡大する。

 一方、エンタープライズSSDのドライブ当たりの記憶容量はあまり伸びない。平均単価が高いことと、消費電力の大きさ(発熱密度の増加)が記憶容量の拡大を妨げている。とくに発熱密度の増加はかなり深刻で、今後の大容量SSDでは発熱が大きな問題になってくると馬籠氏は指摘していた。

 また、かつてはSSDベンダーはHDDに対するSSDの優位性の1つに消費電力の少なさを挙げていたが、最近では消費電力にあまりふれなくなったという。SSDの優位性は性能の高さ、具体的には入出力速度(IOPS)とスループットの高さでアピールしている。

エンタープライズ向けストレージの世界市場規模推移(2015年~2021年)。出典:テクノ・システム・リサーチ

HDD専業ベンダーは絶滅し、半導体メモリの影響力が強まる

 馬籠氏は講演で、ストレージ業界の状況についてもふれていた。まずHDDに関しては、HDD専業のベンダーは存在しなくなった。すべての(といっても3社しかいないのだが)HDDベンダーはSSDベンダーでもある。とくにWestern Digitalは、最近の四半期売り上げ高ではHDDとSSDがほぼ半分ずつという状態になっているという。Seagate TechnologyはまだHDDの売り上げがずっと多く、四半期売り上げに占めるSSDに割合は10%前後にとどまる。

 SSDに関しては本シリーズの「SSD/NAND編(NANDの高値がブレーキも、SSDの出荷台数は22%成長を達成)」で説明したように、大手SSDベンダーはすべて、NANDフラッシュメモリのベンダーでもある。そしてNANDフラッシュメモリベンダーの半分以上は、大手DRAMベンダーでもある。

ストレージ業界の地図。同じ色の箱にある企業は、資本関係があることを意味する。東芝メモリの株式売却が決まったことで、ストレージ業界の資本関係は一気に複雑化した。出典:テクノ・システム・リサーチ

 ここで状況を複雑しているのは、DRAMの高値安定である。Samsung Electronics、SK Hynix、Micron TechnologyのDRAM大手3社は、NANDフラッシュメモリの大手でもあるのだが、彼らはNANDフラッシュメモリよりも、DRAMを生産したほうが利益が高いという状態に置かれている。このため、NANDフラッシュメモリを増産せずにDRAMを増産する傾向が見られるとする。

 するとNANDフラッシュメモリの供給を増やすおもな要因は、3D NANDフラッシュの歩留まり向上だけになってしまう。歩留まりがある程度で高止まり(歩留まりは原理的に100%を超えることはない)すると、そこからは生産量が増えない。供給不足の懸念がつねに残る。

 一方でNANDフラッシュメモリの需給バランスはSSDの価格に影響する。SSD価格は最近は上昇傾向にあり、そのことがHDD出荷台数の減少トレンドを緩和している。つまり、DRAMの価格変動が、HDDの出荷台数を左右する。NANDフラッシュメモリとSSDの登場により、ストレージ市場はDRAMの市場動向に影響されるという、ややもすると不思議な状態に入っている。