山田祥平のRe:config.sys

恋しくてせつないファーウェイの新たな一歩が心強い

 2019年以降、ファーウェイの売上高は米国による制裁の影響で落ち込んでいたが、それが急速に回復しているようだ。そんな中、同社は2月18日に、マレーシア・クアラルンプールで「2025 HUAWEI Innovative Product Launch」を開催し、世界初とする三つ折りスマホを始め、グローバルでの新製品発売を発表した。

柔軟な発想を具現化するファーウェイの技術力

 クアラルンプールの発表会では、3つ折りスマホとして知られる「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」、タブレットのハイエンドモデル「HUAWEI MatePad Pro 13.2」、オープンイヤータイプのイヤフォン「HUAWEI FreeArc」、手軽なスマートバンド「HUAWEI Band 10」が発表された。

 日本ではグローバル発表に先駆けてイヤフォンの「HUAWEI FreeArc」がクラウドファンディングサイトで発表されている。また、3つ折りスマホもすでに中国で発表済みだったので、新製品情報としてはあまり新鮮味を感じなかったというのが正直なところだ。

 だが、この発表会が、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、香港、カンボジアでの発売を発表するもので、招待客ではUAEなどが最前列に目立っていたり、中東やアフリカからの参加者も見かけるなどに注目すると、同社の今後の方向性が垣間見えてくるように感じる。各国の販売店幹部なども大勢出席していたようだ。

 2019年以降、2025年までの6年間、ファーウェイは沈黙を続けてきたわけではない。コンシューマ向けデバイスでも、スマホはともかく、オーディオやスマートウォッチ/バンドなどウェアラブルデバイスの分野では特筆すべき製品をリリースし続けてきた。

 個人的に感服したのは2024年2月に発表された「HUAWEI FreeClip」を手にしたときだった。耳をふさがないイヤフォンだ。環境音がそのままきこえる完成度の高いオープン型イヤフォンだ。

 すごいと思ったのは、このイヤフォンが左右対称のフォルムを持つことだった。完全ワイヤレスイヤフォンで左右のユニットがまるっきり同じなのだ。まるっきり同じなので、当たり前だがどちらの耳にも装着できる。普通はこれではややこしいとされるだろう。だから、右は赤、左は白などといったマークをつけるなり、LとRを刻印したりする。それが普通の発想だ。

 ところがこの製品は、装着された左右をセンサーを使って認識し、個々のユニットがどちらの耳に装着されているのかを判別することができ、それによって再生するソースのLRを自動的に正しい側の耳に届ける。

 いったいどうしたらこういう発想にいたるのか。ちょっと考えてしまった。片耳モノラルとしても使えるので、ユニットをとっかえひっかえ充電して、バッテリの残量を気にしないでエンドレスで使用できる。

 オープンイヤータイプのイヤフォンは片耳利用でも便利で、特に通話が多いユーザーには歓迎される仕様だ。PCのキーボードを叩いてメモをとりながら通話したりするにも重宝する。

 こうしたちょっとした工夫は同社の技術や製品作りのスキルの高さを証明するのに十分な根拠となる。誤解を怖れずに言えば制裁の対象となるくらいに高い技術を持っている企業であることを米国が認めていると考えることもできる。

オーディオ特化の新アプリHuawei Audio Connect

 発表会の終盤、オープンイヤータイプのイヤフォン「HUAWEI FreeArc」を発表するために登壇したFarangis Sultonzoda(Senior Product Expert)氏は、ファーウェイが「Huawei Audio Connect」というアプリをこの3月にリリースすることを公表した(この原稿を書いている3月7日現在では、未公開)。

 便宜上、アプリと呼んでいるが、実際にはOS設定の拡張として実装され、OSのBluetooth設定で表示される接続中のBluetoothデバイスからHuaweiのオーディオデバイスを開くと、さまざまな項目のデバイス設定ができ、ファームウェアのアップデートなどもここでできる。個別にアプリを開く必要はなくなる。これらの操作は、これまで独自アプリのHUAWEI AI Lifeが担っていた。

 新しい「Huawei Audio Connect」アプリの建て付けは、現在のAndroid OSにおけるGoogle Pixel Budsアプリと同じらしい。アプリとしてインストールするが、設定機能の一部として振る舞うので、アプリを起動するという概念がない。実際、アプリを開けば、設定アプリのBluetoothデバイス設定が開く。

 ファーウェイは、この実装をHuaweiデバイスでのみ提供し、Google PixelやGalaxyといった一般のAndroidスマホ、またはiOSスマホでは従来通りAI Lifeアプリを使うとしていた。

 ここまでは発表会場で説明員から聴いた情報だ。現場では詳しいことが分からず、責任者までやってきて説明するなど、ちょっとした騒ぎになったが、おおまかなことは把握できた。

 だが、日本に戻って情報を集めるうちに別の方向性があることが分かってきた。Huawei Audio Connectは、現在のHuawei AI Lifeの後継アプリとして、最初にiOS版がリリースされる予定で、Android用の提供は時期未定だという。

 少なくとも、最初の段階では現状のAI Lifeアプリと比べて、少し進化した程度のアプリにすぎず、オーディオ製品に特化したアプリではあるが、接続オーディオをコントロールできる項目などは、現状のAI Lifeと大きく変わらないといった情報も入ってきた。

 Android版の提供が時期未定になる理由はいったいなんなのだろう。もしかしたら、Android版は現地で説明された仕様を目指しているのではないかという想像もできる。

OSとアプリとデバイスと

 すでに書いたようにファーウェイのイヤフォン等各種オーディオデバイスでは、同社が提供するAI Lifeというアプリを使って各種の設定を行なってきた。iOS版のAI LifeアプリはAppleのApp Storeで入手でき、ほかのアプリと同様に安心して利用できるが、AndroidではGoogle Playストアでは見つからず、製品同梱のQRコード読み取りなどの方法で入手し、提供元不明のアプリのリスクを承知でインストールする必要がある。

 一方で、ファーウェイはAppGalleryというアプリストアを運営している。同社の公式アプリ配信プラットフォームだ。

 現時点でのファーウェイデバイスは、GoogleからAndroidの提供を受けることができず、グローバル向けのデバイスではEMUI OSが実装されて出荷されている。EMUIの最新バージョンはEMUI14.2 で「HUAWEI Mate XT ULTIMATE DESIGN」にもこのOSが実装されている。AndroidのオープンソースプロジェクトであるAOSPをベースにしたもので、基本的にAndroid互換だ。

 ちなみに、ファーウェイはAndroidに依存しない独自OSとしてHarmonyOSを開発、中国国内向けのデバイスではそれがインストールされて出荷されている。

 EMUIには、一般的なAndroidデバイスのようなマップ、Gmail、カレンダー、フォト、Chrome、といったGoogleアプリはない。必要なら自力でインストールする必要がある。だが、そのために役立つGoogle Playもない。

 現行のEMUI上でアプリを入手するにはAppGalleryアプリを使う。そこでGoogleアプリを検索すると、現時点ではApkPureというサードパーティサービスにリダイレクトされ、そこでの検索結果が表示される。

 そして、AppGalleryにはない種々のGoogleアプリのAPKファイルを入手することができるのだ。APKファイルはAndoroidアプリの実体で、リスク覚悟でそれをインストールすることでアプリを使えるようになる。

 提供元不明のAPKファイルをリスク覚悟でインストールしてまでアプリを使うかどうかは別として、ファーウェイがAndroid互換のEMUIをグローバル市場に提供し、それでビジネスを進めていくために、いろんなアプローチを模索していることが分かる。

 Android版の「Huawei Audio Connect」では、Google Pixel Budsのように、ペアリングするだけで、Bluetooth設定から各種の設定やファームウェアのアップデートができるようにしたいのではないか。

 ファーウェイがこのUXを実現し、特別なアプリを入れることなく各種デバイスの制御ができるようにすれば、ひとまずAndroidにおけるデバイス制御のためのアプリ問題は解決する。さらに、オープンなAPIが使えるようになれば、いろんなことがスマートに解決するだろう。少なくとも、イヤフォンや時計、バンド、メガネといったウェアラブルデバイスについてはこのUXは理想的だ。

 ちょっとずつ、何かが動き始めている。