買い物山脈

7年前のゲーミングPCを2万2,000円のIntel Arc A750ビデオカードで強化してみた

製品名
AR-A750D6-E8GB/DF
購入価格
2万2,000円
購入日
7月21日
使用期間
約1カ月
「買い物山脈」は、編集部員やライター氏などが実際に購入したもの、使ってみたものについて、語るコーナーです
筆者が購入した玄人志向のIntel Arc A750搭載ビデオカード「AR-A750D6-E8GB/DF」

 筆者は仕事柄、最新ゲーミングPCをレビューする機会が多く、息子もレビュー用の貸出機を使ってゲームをよくプレイしている。

 息子は大のゲーム好きで、暇さえあれば仲間とボイスチャットしながら「VALORANT」や「マインクラフト」、「オーバーウオッチ2」、「ストリートファイター6」などをプレイしているのだが、貸出機はハイスペックなものが多く、時にはCore i9+GeForce RTX 4090という現時点最速クラスのマシンを使えるという、とても贅沢な環境だ。

 もちろん、貸出機は記事執筆が終わったら返却するので、その後は娘が7年前に自作したゲーミングPCでプレイすることになるのだが、そのマシンは、Core i7-7700K+GeForce GTX 1060(3GB)という数世代古いスペックであり、最新ゲームを快適にプレイするにはかなり厳しい。

 「VALORANT」はかなり軽いゲームなのでそう問題はないが、2023年6月2日に発売された「ストリートファイター6」は、推奨環境がCore i7-8700+GeForce RTX 2070となっており、自作ゲーミングPCではCPU、GPUともに推奨環境を満たさない。

Razerファンの娘が自作したゲーミングPC(組立当時の写真)

 試しに「ストリートファイター6ベンチマーク」を実行してみると、フルHD解像度/画質HIGHではスコアが20で「動作困難です」という評価になってしまった。このベンチマークはスコア100が満点で、スコア91以上なら「快適にプレイできます」、スコア71~90なら「問題無くプレイできます」という評価になる。

 画質設定をNORMALに下げてみたが、スコアは40で「設定変更が必要です」という評価であった。対戦型格闘ゲームで、安定してフレームレート60fpsを出せないのは致命的だ。そこでこの自作ゲーミングPCで「ストリートファイター6」を遊ぶときには、画質設定を下から2番目の「LOW」に設定している。

 しかし、やはりもっとエフェクトなどが派手な画面でプレイしたいとか、「ARK: Survival Evolved」のような重めのゲームを快適にプレイするには、7年前のゲーミングPCでは力不足だ。そこで、今のゲームをより快適にプレイするために、ゲーミングPCを強化したいと考えていた。

自作ゲーミングPCでの「ストリートファイター6ベンチマーク」の結果。フルHD解像度/HIGHではスコア20となった
自作ゲーミングPCでの「ストリートファイター6ベンチマーク」の結果。フルHD解像度/NORMALではスコア40となった

安全牌を狙うなら「GeForce RTX 3060」だが、安さに惹かれて「AR-A750D6-E8GB/DF」を選択

 ゲーミングPCのパフォーマンスを上げるには、CPUやGPUを上位のものに交換すればよい。基本的にはCPUよりもGPUのほうがパフォーマンスへの影響が大きい。また、この自作ゲーミングPCのマザーボードのチップセットはIntel H170なので、第7世代Coreまでしかサポートしていないこともあり(つまり、現在搭載しているCore i7-7700Kが最速)、選択肢はGPUのアップグレードに絞られる。

 GeForce GTX 1060からのアップグレードなら、手堅いのやはりGeForce RTX 3060系だ。最新のGeForce RTX 4060でもいいが、コストパフォーマンス的には4万3,000円程度で買えるGeForce RTX 3060が優れている。それより上のクラス(GeForce RTX 3070やRTX 4070)になると、CPUとのバランスが悪くなり、電源容量的にも不安がある。7年前の自作ゲーミングPCの電源は650Wなので、やはりGeForce RTX 3060が最有力となる。

 素直にGeForce RTX 3060搭載ビデオカードを買おうかとも思っていたのだが、玄人志向からIntel Arc A750を搭載したAR-A750D6-E8GB/DFが、2万2,000円で販売されるというニュースを見て、さすがにRTX 3060のほぼ半額という価格は魅力的だ。

 もちろん、Intel Arc Aシリーズは、NVIDIAのGeForceシリーズに比べるとゲームの対応度や安定性は劣るが、頻繁にドライバがアップデートされており、当初に比べるとパフォーマンスや安定性も向上し、不具合も減ったという話も耳にしていた。

 Intel Arc A750搭載ビデオカードは、2022年10月の登場時は5万5,000円程度で販売されており、GeForce RTX 3060を上回る性能というふれ込みだった。RTX 3060と同程度かそれ以上の価格なら、Intel Arc A750搭載ビデオカードをわざわざ選ぶ気にはならないが、やはり2万2000円という安さに惹かれて、AR-A750D6-E8GB/DFを買うことにした。

 その後、AKIBA PC Hotline!をチェックしていたら7月21日に発売が開始されるということを知り、なんとか入手したが、あっという間に売り切れたようだ。

 AR-A750D6-E8GB/DFの中味は簡素で、ビデオカード本体以外には「Ghostbusters: Spirits Unleashed」や「Gotham Knights」という2本のゲームソフトと3本のクリエイティブアプリ(動画配信ソフト「XSPlit Premium」の3カ月のサブスクリプションと画像アップコンバートソフト「ギガピクセルAI」のフル版、動画編集ソフト「ビデオプロX14」の6カ月のサブスクリプション)がもらえる引き換えコードが書かれた紙が付属しているだけだ(引き換え期限は2023年8月31日まで)。

 AR-A750D6-E8GB/DFには静音タイプの90mmファンが2基搭載されており、状況に応じてファンが停止するセミファンレス仕様となっている。カード長は222mmと短めなので、ほとんどのケースで利用可能だ。厚さは2スロット占有で、出力端子はHDMI 2.0が1つとDisplayPort 2.0が3つの合計4つである。補助電源コネクタは8ピン×2という仕様だ。ビデオメモリは8GBで、メモリ容量はNVIDIAのGeForce RTX 3070やGeForce RTX 4060といったミドルクラスGPUと同じだ。

AR-A750D6-E8GB/DFのパッケージ
AR-A750D6-E8GB/DFの主な仕様
AR-A750D6-E8GB/DFの表面。90mmファンを2基搭載
AR-A750D6-E8GB/DFの裏面
AR-A750D6-E8GB/DFのブラケット部。HDMI 2.0が1つとDisplayPort 2.0が3つ用意されている
AR-A750D6-E8GB/DFの上面。補助電源コネクタは8ピン×2という仕様だ
「Ghostbusters: Spirits Unleashed」と「Gotham Knights」という2本のゲームソフトや3本のクリエイティブアプリの引き換えコードが付属している

8ピンコネクタが足りなかったので、6ピン→8ピン変換ケーブルを利用

 早速、GeForce GTX 1060搭載ビデオカードをAR-A750D6-E8GB/DFに交換しようとしたのだが、困ったことに気付いた。AR-A750D6-E8GB/DFは、補助電源コネクタが8ピン×2という仕様なのだが、7年前に自作したゲーミングPCの電源ユニットの補助電源コネクタは8ピンと6ピンが1つずつという仕様で、8ピンコネクタが1つ足りないのだ。

 そこで、6ピンコネクタを8ピンコネクタに変換するケーブルを利用することにした。もちろん、6ピン→8ピン変換ケーブルは、あくまでも合計必要電力が電源ユニットの容量を超えていない場合に利用するもので、安易に使うべきではないが、Intel Arc A750搭載ビデオカードの消費電力は225Wなので、650W電源なら問題ないと判断した。

 AR-A750D6-E8GB/DFのカード長は以前使っていたGeForce GTX 1060(3GB)搭載ビデオカードとほぼ同じであり交換自体は特に問題なく完了した。

6ピン→8ピン変換ケーブルを用意した
以前利用していたGeForce GTX 1060(3GB)搭載ビデオカードは補助電源コネクタが6ピン×1のみであった
AR-A750D6-E8GB/DFに交換したところ。8ピンの補助電源コネクタが2つ用意されている
6ピン→8ピン変換ケーブルを使って、電源を供給した
以前使っていたGeForce GTX 1060(3GB)搭載ビデオカード(上)とAR-A750D6-E8GB/DF(下)。長さはほぼ同じだ。以前使っていたビデオカードも玄人志向製である

Resizable BAR非対応のPCでも大丈夫なのか?

 実は今回、7年前に自作したゲーミングPCのアップグレードにAR-A750D6-E8GB/DFを選択するにあたっては、1つ懸念事項があった。Intel Arc Aシリーズは、Resizable BARと呼ばれるPCI Expressのオプション技術が有効であることを前提に設計されており、Resizable BAR非対応の環境だと、性能が大きく落ちるといわれているのだ。

 Resizable BARは、CPUからビデオメモリの全領域へ一度にアクセスする技術であり、GeForce RTX 3060などもResizable BARに対応しているのだが、GeForce RTXシリーズの場合は、Resizable BAR対応と非対応の性能差はせいぜい数%なのに対し、Intel Arc AシリーズではResizable非対応だと2割程度も性能が低下するという計測結果も出ている。

 しかし、Resizable BARをサポートしているのはかなり最近のプラットフォームのみであり、Intelプラットフォームでは、CPUが第10世代Core以降、チップセットがZ490/H470/B460/H410以降しかResizable BARに対応していない。

 今回対象となるゲーミングPCのCPUは第7世代Coreであり、当然Resizable BARには非対応だ。そのため、AR-A750D6-E8GB/DFのパフォーマンスをフルに引き出せる環境ではないが、今回の目的はあくまでも、現状のGeForce GTX 1060(3GB)では性能的に厳しいゲームを快適に遊べるようにしたいということなので、その点は気にしないことにした。

 インテルのサイトから最新ドライバをダウンロードし、インストールすると、設定ユーティリティ「Intel Arc Control」もインストールされる。Intel Arc Controlでは、Intel Arc Aシリーズの動作状況の確認や詳細設定などが可能だが、起動するとRisizable BARが有効になっていないという警告が表示された。

Intel Arc Controlでは、現在のGPUクロックや温度、GPUメモリー使用率などを監視できるほか、GPUパフォーマンスのブースト設定なども可能だ
Resizable BARが有効化されていないという警告が表示される
システム情報でも「Resizable BAR」が無効になっているというアラートが表示される

「ストリートファイター6」は2段階上の画質設定でも快適にプレイできるように

 今回、AR-A750D6-E8GB/DFに換装した7年前のゲーミングPCはResizable BAR非対応なので、AR-A750D6-E8GB/DFの性能をフルに発揮できるわけではないが、重要なのは以前のGeForce GTX 1060(3GB)に比べてどれだけパフォーマンスが向上したかだ。

 そこでまず、「ストリートファイター6ベンチマーク」を実行してみた。換装前はフルHD解像度/画質HIGHのスコアはわずか20だったが、換装後はスコアが86まで向上。評価も「問題なくプレイできます」となった。

 また、フルHD解像度/画質NORMALでは、換装前40だったスコアが最高スコアの100に向上した。実際に、フルHD解像度/画質HIGHでオンライン対戦を行なってみたが、特にカクツキやひっかかりなどは感じられず快適にプレイできた。

AR-A750D6-E8GB/DF換装後の「ストリートファイター6ベンチマーク」の結果。フルHD解像度/HIGHではスコア86となった
AR-A750D6-E8GB/DF換装後の「ストリートファイター6ベンチマーク」の結果。フルHD解像度/NORMALでは最高のスコア100となった

 以前は、画質設定を2段階下のLOWにしないと快適にプレイできなかったことを考えると、満足できる結果だ。

 さらに、「BLUE PROTOCOLベンチマーク」の換装前と換装後のスコアを比べてみた。BLUE PROTOCOLは、オープンワールドタイプのオンラインアクションRPGで、劇場アニメのような美しいグラフィックスが売りだ。

 換装前のフルHD解像度/高画質でのスコアは8,543で、評価は「快適」であったのに対し、換装後のフルHD解像度/高画質でのスコアは12,469で、評価は最高ランクの「極めて快適」となった。また、換装前のフルHD解像度/最高画質でのスコアは5,584で、評価は「設定変更を推奨」であったのに対し、換装後のフルHD解像度/最高画質でのスコアは11,096で、評価は「極めて快適」となった。

 どちらの条件でも、スコアが大きく伸びているが、特に負荷の高いフルHD解像度/最高画質では約2倍にスコアが向上し、換装前は設定変更が推奨されていたが換装後は最高ランクの評価となった。

換装前の「BLUE PROTOCOLベンチマーク」のフルHD解像度/高画質でのスコアは8,543で、評価は「快適」であった
換装前の「BLUE PROTOCOLベンチマーク」のフルHD解像度/最高画質でのスコアは5,584で、評価は「設定変更を推奨」であった
AR-A750D6-E8GB/DF換装後の「BLUE PROTOCOLベンチマーク」のフルHD解像度/高画質でのスコアは12,469で、評価は「極めて快適」であった
AR-A750D6-E8GB/DF換装後の「BLUE PROTOCOLベンチマーク」のフルHD解像度/最高画質でのスコアは11,096で、評価は「極めて快適」であった

安定性も思ったより良好、コストパフォーマンス重視ならあり

 AR-A750D6-E8GB/DFで7年前のゲーミングPCを強化するというのが今回のテーマだが、その目的は十分達成できたといえる。

 Intel Arc A750搭載ビデオカードの登場当初は、特定のゲームで不具合が生じたり、性能が十分に発揮できないといったことがあったようだが、Intelはドライバアップデートを毎月のように行なった結果、ゲームでの不具合もほぼなくなり、動作の安定性やパフォーマンスも向上している。2万2,000円の投資で、ゲームでのパフォーマンスが2倍以上に向上するのなら、コストパフォーマンスは高いといえる。

 AR-A750D6-E8GB/DFは初回出荷数が限られていたようで、売り切れてしまっているが、再販の可能性もありそうだ。GeForce GTX 1060やGeForce GTX 970などを使っていて、性能不足を感じているなら、選択肢の1つとなるだろう。