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ごろ寝でも使える6型UMPC「GPD Micro PC」を先行レビュー
2019年1月25日 11:00
中国・深センGPD Technologyは、2018年末にネットワークエンジニア向けのUMPC「GPD Micro PC」を発表。米・ラスベガスで開催したCES 2019にも出展を果たした。
2月15日から4月16日まで、Indiegogoでクラウドファンディングを募る予定とされており、予価は299ドルだ。出荷は、最初の2,000台が5月第2週、それ以降は6月以降を予定しているのだが、株式会社天空の協力によりいち早く試作機を入手できたので、レビューをしていきたい。
ちなみに試作機の段階でもかなり完成度が高く、今からすぐに販売ができそうなレベルな仕上がりとなっているが、実際に販売されるモデルと外観や仕様に違いがある点が存在するかもしれないことを、あらかじめご了承いただきたい。
第3のファミリとなるGPD Micro PC。仕様を見ていく
GPD Micro PCは同社が展開するWindows搭載UMPCとして、「GPD WIN」、「GPD Pocket」に続く第3のシリーズとなる。コンセプト的には、GPD WINからキーボードの実用性を高め、ゲームコントローラを省き、フルサイズのシリアルポート、HDMI、Gigabit Ethernetといった、ネットワークエンジニアが日常的に使いそうなインターフェイスを追加したモデルとなる。
まずはスペックに加えて、実機からわかった採用パーツをおさらいしておこう。
【表】GPD Micro PCのおもな仕様 | |
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CPU | Celeron N4100(4コア、1.1GHz、ビデオ機能内蔵) |
メモリ | 4GB(シングルチャネル LPDDR4/SK Hynix H9HKNNNCTUMUBR) |
ストレージ | 128GB M.2 2242/SATA SSD(BIWIN SSD) |
液晶 | 1,280×720ドット6型(AU Optronics 017D8) |
無線LAN | IEEE 802.11ac(Intel Dual Band Wireless-AC 3165) |
有線LAN | Gigabit Ethernet(Realtek RTL8168/8111) |
本体サイズ | 153×113×23.5mm(幅×奥行き×高さ、突起部含まず) |
重量 | 440g |
リモートで別の機器を操作するための利用を想定しているためか、本機のスペックは控えめとなっている。CPUには先行する2シリーズのCoreプロセッサではなく、Celeron N4100(Gemini Lake、4コア/1.1~2.4GHz、ビデオ機能内蔵)というAtom系の流れを汲むCPUを採用している。
また、メモリも8GBではなく4GBとなっている。採用されていたのはSK HynixのLPDDR4メモリ「H9HKNNNCTUMUBR」。1チップで容量4GBとなっており、シングルチャネル駆動であることが伺える。CPU-Zで確認すると、2,133Mbps相当で駆動していることがわかる。
ストレージはM.2/SATA接続のものだ。本体を分解してみたところ、試作機に搭載されていたのはBIWIN製のもので、DRAMキャッシュメモリも搭載しているため高速である。規格は2242なので、SATA接続であれば換装はできそうである。
無線LANモジュールはIntelの「Intel Dual Band Wireless-AC 3165」だが、有線LANのチップは表面からは確認できず、おそらく裏面に実装されているのだろう。このほか表面で確認できるのはITEのSuperIOチップ「IT8987E」、MHPCのGigabit Ethernet対応トランスファー「M3295NL」などである。
バッテリは3,100mAhのものを2つ重ねて実装している。バッテリには7.6Vと書かれていることから、並列で接続している可能性は高い。ちなみにバッテリの横に少しスペースがあり、ユーザーの工夫でなにか追加で内蔵できそうではある。
LOOX U50WNにそっくりな外観だが二回りほど小さい
製品写真を見た第一印象は、UMPCという名前を世に知らしめた富士通の「LOOX U50WN」そのものだというのが感想だが、実機ではGPD Micro PCのほうが二回りほど小さい。LOOX U50WNは液晶が回転し、タッチやペンで入力できる2in1であったが、GPD Micro PCは液晶が回転せずで、タッチもペン入力もできない。
タッチパネルがない代わりに、パームレスト面の右奥に比較的広いタッチパッドを備えており、ポインタ操作はここで行なう。液晶が光沢でフラットなためタッチできそうだが、残念ながらできない。この点、LOOX U50WNやGPD WIN/GPD Pocketシリーズとはかなり使い勝手が異なる。
ただその代りというかなんというか、採用されているAU Optronics製の6型液晶は「横表示がデフォルト」である点が、GPD WINとGPD Pocketと異なる。ディスプレイドライバで90度回転された表示ではないため、フルスクリーンにしか対応しない古い3Dゲームでも表示が回転してしまうことはない。また、どのLinuxディストリビューションを入れてもそのまま動作しそうな雰囲気だ。
形状という意味ではLOOX U50WNそっくりだが、フットプリント的にはIBMの「Palm Top PC 110」とほぼ同じ。PC 110の液晶部を取っ払った程度の厚みとなっている。
特殊配列のキーボードは使い勝手への工夫も
キーボードは英字配列となっている。台形のキートップが特徴的で、一見パンタグラフのようだが、じつは金属ドームスイッチ式で、構造としてはGPD WIN 2のそれと同じだ。GPD WIN 2では、初代のGPD WINのキーボード(押下圧160g)から改良され軽くなって(130g~140g前後?)いたが、それでも親指で押すにはちょっと硬い印象で、ユーザー名パスワード入力程度ならまだしも、長文のタイピングには向かなかった。
一方、GPD Micro PCではかなり柔らく(おそらく100g前後)なっており、GPD WIN 2ほど力を入れなくても入力できる。面積が広くなったキートップと相まって、実用性はかなり高まった印象。短時間の試用では慣れることはできなかったが、1週間ぐらい練習して慣れれば、数千字入力してもストレスにならなさそうな完成度であった。
ただ、机に置いて、手全体をキーボードに置いてゆったり入力できるというわけではない。押下圧が一般的なキーボードと比べて高く、ストロークが浅い上に、キーピッチも11mm程度しかないため、タッチタイピングはかなりの窮屈を強いられる。GPD Micro PCのキーボードはあくまでも両手で本体を掴んで親指で使うものだと認識したほうがいいだろう。GPD Micro PCでは本体に3個のUSBポートを備えているため、ゆったりタイピングしたいときは別売りの外付けキーボードを接続して使うべきだろう。
キー配列については、数字キーを除けば標準に近く、比較的覚えやすい。ちなみに数字のキーは2段となってしまっているが、これによって左手の親指だけですべての数字が入力できるメリットにもつながっている。
ちなみにこのキーボードは、GPDシリーズではじめてホワイトLEDバックライトを採用した。そのオン/オフは、Fn+スペースキーで行なえる。これにより暗所での視認性は大きく高まり可用性が広がった。
数字キーが2段となったことで面積を確保したタッチパッドは、やや窮屈な印象もあるが完成度は悪くない。表面を軽くタップすればクリックとなるのはもちろん、2本指のスワイプでスクロール操作も行なえる。とは言え、先述のとおり本機は両手で掴んで使うスタイルが似合うのだが、2本指で操作するには右手を離さなければならず、ジェスチャ操作によって若干ホールド性を欠くことになる。
タッチパッドの中央付近には物理的な左クリックスイッチがあり、パッド中央を押下することでクリック動作が行なえるのも特徴。さらに、タッチパッド右手前にも右クリックに相当するスイッチがあるのもユニークで、この辺りは玄人好みの仕上がりとなっている。
これとは別に、本体左側奥に左/中/右クリックのスイッチがあり、両手を使ってマウス操作することもできる。この辺りの思想はLOOX U50WNやバイオUに通じるものがあると感じた。
静粛性、堅牢性、そして接続性
キーボード中央の奥の部分に、ファンのオン/オフ切り替えスイッチを備えている点もユニーク。本機にはかなり小口径なファンが搭載されているため、ファンがオンの状態だと負荷時に甲高いノイズが出て気になるが、このスイッチですぐにオフにできるため、静かなところで作業するさいも心配なさそうだ。
ファンをオフにすると、それだけサーマルスロットリング発生の確率が上がるが、本機はかなり大きめの通風孔を備えているため、テキスト入力やWebブラウジングといった軽い作業程度なら問題なくこなせる。また、筐体には樹脂素材を採用しているため、手に熱が伝わりにくく、多少のCPUの熱なら受容できるレベルだ。
筐体にはストラップホールを備え、落下の可能性を下げている点は歓迎すべき仕様だろう。加えて、カバーは難燃性/耐熱性、そして26,000㎏/平方㎝の圧力に耐えるLG-DOW 121Hの耐衝撃合成樹脂が採用されている。今回は借用製品のため落下テストなどは行なえていないが、バックカバーはネジ止めに加え爪でも留められているほか、素材の剛性は高く、華奢な印象は一切なかった。
インターフェイスは、左側面にUSB 3.0とmicroSDカード、背面にUSB 3.0×3(うち1基はType-Cで電源入力兼用)、HDMI出力、Gigabit Ethernet(GbE)、シリアルポートを搭載。このサイズのPCとしては過剰とも言えるコネクタ群だが、ことGbEとシリアルポートに関してはネットワークエンジニア諸氏の利用を見越した搭載で、これこそ本製品の最大のアイデンティティであるといえる。
SSDで一部テストはGPD Pocket 2を超える
それでは最後に性能を検証していきたい。比較対象はAtom x7-Z8750を搭載した初代の「GPD Pocket」と、最近になって登場したCeleron 3965Yを搭載した廉価版「GPD Pocket 2」である。
ベンチマークはPCMark 10と3DMark、Cinebench R15およびCrystalDiskMarkを実施したが、GPD Micro PCは解像度が1,280×720ドットで、GPD Pocketシリーズとは異なるため、スコアが大幅に異なるドラゴンクエストX ベンチマークの結果は省いてある。
結果は見てもらえばわかるが、大まかな傾向としては「CPUのマルチスレッド性能はGPD Pcoket 2 3965Yモデルより優秀、グラフィックス性能はGPD Pocket並みでGPD Pocket 2の半分程度、ストレージはGPD Pocketシリーズより優秀」とまとめることができるだろう。
本機に採用されているSSDはSATA 6Gbps接続で、GPD Pocketシリーズに採用されているeMMCより性能が2~4倍程度高い。一般的なアプリケーションの性能を計測するPCMark 10において、ストレージ性能が問われる「App Start-up Score」でGPD Pocketシリーズを凌駕するスコアを叩き出しているのはそのためだ。
本機はメモリ4GBのため、大量なアプリを同時起動して切り替えて使うといった用途には向かないが、必要なときに必要なアプリを起動して作業する分には十分な性能を有していると言っていいだろう。もっとも、本製品の解像度や性格そのものを考えれば納得できるものである。
ちなみに、高パフォーマンスプロファイル/輝度20%/ファンオン/キーボードバックライトオフの状態でバッテリ駆動時間をBBench(キーストローク/Web巡回オン)で計測したところ、約7.65時間駆動したところでバッテリが5%となりシャットダウンした。実際の利用ではさらに短くなることが予想されるが、これだけ動作すれば十分だろう。
ごろ寝PCとしてもアリ? なGPD Micro PC
そもそもGPDはニッチな市場、ニッチなニーズに向け、ニッチな製品を安価に提供することを目標とした会社であり、GPD Micro PCもそのポートフォリオの一員だ。この共通の製品コンセプトを徹底的に踏襲していることは、PCのコモディティ化が進むなか、賞賛に値する。
さてGPD Micro PC自体だが、筆者個人的にはネットワークエンジニアが利用するPCとしてだけでなく、ごろ寝PCとしても最適ではないかと考えている。両手でホールドできる大きさなだけでなく、その姿勢のまま親指で打てるキーボード、そして暗所でも視認できるキーボードLEDバックライトの搭載は、この上なくごろ寝PCに最適な要素を詰め込んでいるのである。
もっとも、スマートフォンが普及しているいま、寝たままの姿勢でPCを操作する必要性があるのかと問われれば微妙だが、「いや、俺にはそういうPCが必要なんだ!」というマニアにとって、良いマシンが完成したのではないだろうか。