特集

手荒に扱える道具を目指し、組み込み利用も目論んだ「GPD MicroPC」

~「Pocket 2 Max」や「WIN Max」など、新製品が目白押しになる2019年

GPDのWade社長(右)と天空の山田社長(左)

 深センGPD Technologyの動きがこのところまた慌ただしくなった。まず最初に挙げられるのは、2018年末に発表し、今年(2019年)の5月末にも出荷が予定されている6型UMPC「GPD MicroPC」。そしてユーザーフォーラムとして使われているDiscordのチャンネルには、AMD APUの搭載が期待される「GPD WIN Max」という製品が登場。さらにロシアのIT展示会「SVIAZ」では、8.4型の新UMPC「GPD Pocket 2 Max」を急遽披露した。

 PC Watchでは、代理店である株式会社天空の協力のもと、中国・深センのGPD本社にて、Wade社長、および天空の山田拓郎社長にインタビューをする機会を得たので、「GPD Pocket 2」以降に登場した新製品についてまとめてお伺いした。

Celeronモデルも好調なGPD Pocket 2

--前回のGPD Pocket 2時のインタビューから半年以上が経ちました。あれからGPD Pocket 2の動きはいかがでしょうか。

Wade GPDの熱心なファンたちは高性能へのニーズが強いため、最初の出荷は好調でした。しかしGPD Pocket 2の購入を検討しているユーザーのなかで、GPD Pocket 2でコンテンツを制作はしないが閲覧したいという声も多く聞かれました。そうした層にリーチするために投入したのがCeleron 3965Y搭載の下位モデルです。実際、今出荷しているGPD Pocket 2の半数はCeleronモデルです。

山田 当社からもすでにGPD Pocket 2を数千台出荷しました。当初はGPDファンのあいだで話題になりましたが、発売から時間が経過してから普通のユーザーからも受け入れられるようになりました。

 弊社は直販のみならず、ジャストシステムとコラボレーションし、そちらでは一太郎ユーザーを対象にGPD Pocket 2を訴求してきましたが、売れ行きが好調です。そして、そちらは驚くことに主要顧客層は70代前後の高齢者でして、UMPCの潜在的な市場を垣間見ることができました。

 天空から出荷する分については、日本語マニュアルや日本語キーボードシールなどを添付していますので、より幅広いユーザーにも受け入れられます。今後は女性や一般的なサラリーマンなどにも食い込んでいければと思っております。

 また、FacebookではGPDのユーザーグループを立ち上げましたが、そちらは太田昌文氏(筆者注:日本Raspberry Piユーザーグループ主宰および公式サイトのモデレータの一人でもあり、弊誌に寄稿したこともあります)に管理を担当してもらい、ユーザー間で情報交換をしてもらったり、そちらで上がった声を吸い上げてGPDにフィードバックをしたりしています。

Celeron 3965Y搭載の下位モデル

--その間、競合のONE-NETBOOKも製品を投入してきましたね。そのあたりをどうお考えですか。

Wade 市場競争については体力勝負の持久戦だと思っております。そのなかでも自分自身の製品理念を貫き通すことが重要だと思ってます。

 われわれの製品理念は、製品の原点回帰です。何でもかんでも機能をプラスすればいい製品になるとは思ってはいません。これは実際に車を買うさいにも同じことが言えるでしょう。

 中国の国産車は、高機能なナビ、運転アシスト、バックモニターなど、たくさんのオプションがあり、それらを付加しても日本の輸入車よりは安価です。しかしこれらをプラスしたところで、実際に使うとは限りませんし、故障する可能性のパーツが増えることになります。そして実際に故障したりすると、ユーザーはもう使うことをやめてしまいます。だったら最初からなくシンプルで洗練されたものだけを実装したほうがいいと考えています。360度回転ヒンジや、2,048筆圧レベルのペンなどがそれに当たりますね。ユーザーが最終的に製品を手にしたときの満足感や所有感も大事にしたいと思っています。

--PCI Express(PCIe)のSSDの採用も、そのたぐいですか。

Wade 競合製品はPCIe SSDを採用していますが、このPCIe SSDはコントローラとNANDを1パッケージに統合しています。しかし、高度なパッケージング技術ではなく、非常に簡易的なものです。じつはGPD Pocket 2開発当初よりこのSSDの品質を評価したのですが、発熱量が高く、あまりにもリスクが高いので、採用を見送った経緯があります。

 しかもわれわれが評価したモデルは容量が128GBのものでした。(OneMix 2が採用している)256GBモデルではさらに発熱量が増えるため、リスクはさらに高まります。使ってすぐは問題ないかもしれませんが、半年後、1年後にユーザーデータがどうなるか、われわれは評価し難いです。それでもOneMix 2は採用しているので、チャレンジングだなぁと思います。

--日本での動きはいかがでしょう。

山田 GPD WIN 2はやはり熱心なユーザーがすぐに飛びつくイメージですが、GPD Pocket 2はコンスタントに売れています。天空としては、より大容量なメモリの要望や、GPD WINシリーズでのボタンのサイズや十字キーの要望などをフィードバックしました。

 私自身は過去にデルや日本エイサーで働いていた経験があるので、日本語化のところで多くお手伝いしています。たとえばキーボードに全角/半角キーを追加する要望だったり、日本語のキートップシールを制作したりといったところです。

 修理はこのところ毎日3~4件ほどこなしている段階で、製品の保証期間内の自然故障は無償で対応しています。バッテリ、キーボード、液晶周りは不良が発生しがちなので、在庫を持って修理対応しています。ここ最近は3営業日で修理対応を終えていますね。

GPD Pocket 2(手前)
GPD WIN 2

組み込みやスマートインダストリーでの利用をも目論んだGPD MicroPC

--GPD MicroPCがもうすぐ出荷されますね。こちらはどういったコンセプトのもと開発されましたか。

Wade われわれの軸はニッチなUMPCです。そのニッチな市場ではあるものの、ニーズはさまざまです。GPD MicroPCはそのニッチな市場を細分化し、細分化後の市場に特化したものです。

 GPD WIN 2はゲーム機を目指しました。GPD Pocket 2はビジネス向けです。ではGPD MicroPCはというと、道具を目指したのです。道具なら、手荒に扱って傷がつくのは当然ですし、手荒に扱えるから実用的なのです。つまり、GPD製品群のなかで三本柱を確立させた製品です。

手のひらサイズのGPD MicroPC

--ターゲットはやはりネットワークエンジニアでしょうか。

Wade もちろんです。そういった意味では、個人向けのGPD WIN 2とGPD Pocket 2とは異なり、法人向けの色合いが強いです。

 いまはCPUの供給量不足の問題で数量限定となってしまっていますし、クラウドファンディングのため個人を対象としていますが、将来的にフィールドネットワークエンジニアを抱える会社に検討してもらい、法人からの受注を獲得できる製品だと思っています。

--ものすごくとんがっていてニッチですね。

Wade GPD MicroPCの可能性に賭けている部分もあります。いまのところ大きくは謳っていませんが、特殊な現場での利用と、工場においての機械制御などの組込み用です。

 GPD MicroPCでは底面に2つのネジ穴を用意しています。これはPC本体をどこかに固定するのではなく、周辺機器をGPD MicroPCとドッキングできるようにするための穴です。たとえば、バーコードリーダーを取り付ければ物流管理に使えますし、温度/湿度などのセンサーを取り付ければ環境調査に使えるでしょう。

 一方でシリアルポートの装備は、工場などにおいてさまざまな機器を制御できることを意味します。GPD MicroPCは高い耐久性を備えており、24時間/365日の連続稼働も可能な設計です。こうした場所で導入されることも期待できます。また、つねにログを取得するような用途では、高いストレージ性能が要求されます。こうした現場でもGPD MicroPCは適していますね。

 法人向けでは現在、こうしたUMPCは存在しません。GPDの製品ラインナップの個人から法人へのシフトは長いスパンを要すると考えていますが、その市場には期待しています。

Gigabit EthernetやHDMI、USBなど、充実したフルサイズのインターフェイスが特徴だ
底面に2つのネジ穴を用意しているが、ユーザーが好みの機器を取り付けられる

--GPD MicroPCは当初4GBでしたが、追加の出資で6GBにアップグレードとなりましたね(筆者注:このインタビューはメモリ6GBから8GBの無償アップグレードを行なうと発表する前に実施されました)。

Wade はい、じつはGPD MicroPCは当初から4GBと8GBの両方のプランで進められていて、どちらのメモリでも使える基板を開発しました。出資者への製品のお届けが最優先なので、2018年頭所はもっとも確実な4GBとして発表したのです。

 しかし当然、多くのユーザーから大容量を求める声が上がってきます。2019年に入ってから8GBチップ確保への道筋が確立しましたが、100%とは言えませんでした。そこで、8GBに次ぐ容量である6GBの在庫確保をまず行なったのです。4GBと6GB/8GBの価格差はあるので、まずユーザーに追加の出資を負担させていただきました。6GBから8GBへのアップグレードは、無償で行なう予定です。6GBにするか8GBにするかは16日に決定します。

 ただメモリの在庫はある程度確保できているのですが、Celeron N4100の生産量は相変わらず少ないので、出荷できる数には限りがあります。

--キーボードはGPD WIN 2からかなり改善しましたね。

Wade とあるユーザーによると、旅行先でGPD WIN 2のキーボードで8,000文字のレポートを作成したといいます。これにはさすがに私も驚きましたが、GPD MicroPCでは押下圧をさらに軽くしたり、キーの形状を工夫したりして、さらに入力しやすくなっています。

 じつは、当初はLenovoの「YOGA BOOK C930」に似たタッチキーボードを採用することも視野に入れていました。C930のサイズですと机に置いてタイピングするため、キーを押下しない指をつねに浮かさなければならないという人間工学的な問題を抱えていますが、GPD MicroPCのように親指だけで打つような製品には適しているのだと思っています。

--C930のキーボードは、ユーザーの誤入力やクセなどをソフトウェアで学習する仕組みがあり、それであの完成度なのですが、GPDが採用するさいも同じような仕組みを取り入れますか。

Wade なるほど、それは考えていませんでしたね。GPD MicroPCで実現するにしても、次世代で実現するにしても、まずはそのような仕組みを載せないと思います。技術は一歩一歩着実に進化して実装していきたいと思っています。こうしたソフトウェア面でのキーボードのノウハウは、次に活かしたいですね。

GPD WIN 2と比較して押しやすくなったGPD MicroPCのキーボード

大型化してより使いやすくなったGPD Pocket 2 Max

--GPD WIN Maxについて、すでにDiscordチャンネルでスレッドができていて、コミュニティは盛り上がっていますね。

Wade はい、そちらはまだテスト機がこれからでき上がる段階なのでお見せできませんが、スペックはご想像のとおりです。その代わり、「GPD Pocket 2 Max」が先に完成しました。

--それはまた突然の発表ですね。

Wade GPD WIN MaxもGPD Pocket 2 Maxも大型化していますが、方向性が異なります。GPD WIN Maxは“高性能化のために大型化せざる得なかった”製品であるのに対し、GPD Pocket 2 Maxは“大型化したかった”製品です。

 まず、ディスプレイが2,560×1,600ドットの8.4型へと進化しました。キーボードはiPad mini向けに提供されている型と同等のものとなり、サイズもタイピング感もキー配列もより万人受けできるものとなっています。新たにタッチパッドが加わったことで操作感も高まり、指紋センサーやWebカメラなども取り入れました。より多くの人に使ってもらえる製品を目指したのです。

--GPD Pocket 2 Maxの液晶は横表示がネイティブなのでしょうか。

Wade いいえ、縦表示がネイティブです。じつはGPD MicroPCも縦表示がネイティブです。しかしGPD MicroPCの世代で、ローレベルのレイヤーから液晶が横表示になるよう改修を施しました。だからBIOS画面も横表示となっていて、ソフトウェアからも横表示の液晶だと認識されます。

 検証はしていないのですが、これで古いゲームの画面が切れる問題は解消する可能性はあります。ちなみにGPD WIN Maxでは横がネイティブの液晶になります。

--GPD Pocket 2 MaxとWIN Maxの投入となると、2019年は新製品が目白押しですね。

Wade 新製品の投入も重要ですが、引き続き品質の向上に努めたいと思っています。今年(2019年)はより深いところ、より内部的なところから改善を図っていきたいと思っています。

 1つの製品は、うわべのスペックや短期間の使用だけで評価されるべきではないと考えています。たとえば私の自宅にはスペックがほぼ一緒の日本製の空調と中国製の空調が両方あるのですが、日本製の空調が吹き付けてくる風に心地よさが感じられる一方で、中国製には感じられないのです。また数年利用していると、日本製の室外機は問題がないのですが、中国製の室外機の塗装が剥がれてしまうことがありました。スペックに見えないところや、長期利用ではじめてわかる差異こそ、製品の善し悪しを決めるものだと思ってます。

 こうした目に見えないところ、長期利用していてわかる製品の良さは、日本企業の製品が牽引しています。いわゆる匠の技とか匠の精神ですね。こうした“匠”の製品は、16歳から60歳まで同じものを作り続けているからこそ実現する。GPDもこうした“匠”を目指していきたいですね。

 製品に低付加価値のものをつけて応用的な製品を作ったりするのは容易ですが、それに伴う必然的な利益の結果も伴います。表面的なものはいくらでも作り変えられると思います。GPDではより高付加価値、よりディープな製品にチャレンジしていきたいです。

--本日はありがとうございました。