元麻布春男の週刊PCホットライン

IntelがIDFでモバイルCore i7を発表した理由



モバイルPC向けとしては初となるNehalmeマイクロアーキテクチャのプロセッサ、Core i7-920XMおよびCore i7-820/-720を発表したパルムッター主席副社長

 今回のIDFでIntelは、Nehalmeアーキテクチャによるモバイル向けのプロセッサの発表を行なった。これまでClarksfieldと呼ばれてきたプロセッサを、Core i7-920XM、Core i7-820QM、Core i7-720QMとして、正式にリリースした。

 意外なようだが、IntelがIDFのようなイベントの場で製品発表を行なうことは珍しい。ほかのニュースに新製品発表が埋もれてしまうことを恐れるからだ。今回、敢えてイベント中の発表を選んだ理由は定かではないが、今期はWindows 7のリリースを控えており、これ以上遅らせるわけにもいかない、という判断があったのかもしれない。Windows 7の発表にあまり近すぎるのは、IntelとしてもMicrosoftとしても避けたいのではないかと思う。

 もう1つ考えられるのは、今回発表されたCore i7プロセッサが、市場のメインストリームよりハイエンド寄りで、ボリュームゾーンの製品ではない、ということだ。おそらくノートPC市場の7割あるいはそれ以上が、統合型グラフィックスを用いた製品で占められている。しかし、先行して発売されたデスクトップPC向けのCore i7/Core i5プロセッサ(Lynnfield)同様、Clarksfieldもグラフィックスが外付け(スタンドアローン)となる。

 統合グラフィックスが占める割合は、バッテリ駆動を行なうノートPCの方がデスクトップPCよりも高いであろうことも、イベント中の発表という地味なリリースとなった理由かもしれない。単独イベントで発表される方が「お金のかかった」デビューには違いないからだ。今回発表された3製品がすべてHyper-ThreadingをサポートしたCore i7で、より低価格であるCore i5の設定がないのも、市場での位置づけがデスクトップPCとやや異なること(メインストリーム向けではないこと)を示している。

 デスクトップPC向けのLynnfieldと異なる点は、そのプロセッサナンバーにも見て取れる。LynnfieldがCore i7-870のように数字だけで構成されたプロセッサナンバーであるのに対し、ClarksfieldにはXMあるいはQMといったアルファベットが付与されている。末尾のMはモバイルを表すとして、おそらくXはeXtreme(Extreme Editionであること)、Qはクワッドコアを示しているものだろう。

 数字の方を見ても、Lynnfieldが870、860、750と、100の位に加え10の位でも序列化が行なわれているのに対し、Clarksfieldは920、820、720と100の位のみで序列化されている。こうした命名則の不一致は、先日取り上げたIntelの組織改革(すべてのx86事業をIA事業本部にまとめる)が事前の周到な準備に基づいて行なわれたものではなかった(急であった)こと、Clarksfieldのマーケティングプランが組織改革前に決定していたことを示している。組織の融合とマーケティングプランの統一は、まだこれからなのだ。

 また、プロセッサナンバーにわざわざQがつくというのも、モバイルPCならではの事情がありそうだ。デスクトップPC向けのプロセッサがローエンド(Celeron)までデュアルコア化が進み、メインストリームはクワッドコアが当たり前になりつつあるのに対し、モバイルPCでクワッドコアはまだまだ珍しい。実際、クワッドコアであるClarksfieldに、持ち運び用の薄型軽量PC向けの超低電圧版の提供予定はないという。そういう意味でも、今回発表されたClarksfieldは、デスクトップPCにおけるCore i7-900番台(Bloomfield)に近い存在のようだ。

 Nehalemマイクロアーキテクチャがモバイルのメインストリームに降りてくるのは、次のArrandaleからとなる。32nmプロセスによるデュアルコアプロセッサのダイと、45nmプロセスによるグラフィックス/メモリコントローラのダイを1つのパッケージに封入したArrandale(デスクトップPC向けはClarkdale)は、年内にOEM向け出荷を開始する(言い換えればユーザー向け出荷はおそらく2010年)予定だ。

Arrandaleプロセッサを手にするムーリー・エデン副社長32nmプロセスのプロセッサコア(Westmere)と45nmプロセスのグラフィックス/統合メモリコントローラを1つのパッケージに封入したArrandale会場コンコースでデモされていたArrandaleのプロトタイプ
会場コンコースでデモされていたGulftownのプロトタイプ

 IDF会場では、キーノートでArrandale/Clarkdaleのデモが行なわれたほか、コンコース等ですでにArrandale/Clarkdaleを搭載した試作機が展示され、ゲーム等がデモされていた。Arrandale/Clarkdaleに搭載されるWestmereコアは、32nmプロセスによる最初のプロセッサコア、Tickのプロセッサであり、基本的にはNehalemの縮小版である。デュアルコアのArrandale/Clarkdaleに加え、デスクトップPCとデュアルソケットサーバー向けに6コア版がそれぞれGulftown、Westmere-EPとしてリリースされることになっている。

 こちらもすでに動作可能なサンプルが稼働状態で展示されており、すでに32nmプロセスのプロセッサが生産ライン上にあるというIntelの発言に偽りはないようだ。オッテリーニCEOのキーノートでは、32nmプロセスによる2世代目のプロセッサ(Tockのプロセッサ)になるSandy Bridgeのデモも行なわれており、おそらくは2011年であろうデビューに向けて、順調にステップを踏んでいることをうかがわせた。