山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

Googleの6.7型ハイエンドスマホ「Pixel 8 Pro」、電子書籍での使い勝手は従来モデルとどう変わった?

「Pixel 8 Pro」。実売価格は15万9,900円から

 「Pixel 8 Pro」は、Android 14を搭載した6.7型のスマートフォンだ。最新の「Pixel 8」シリーズの上位モデルにあたり、独自開発のSoC「Tensor G3」の採用で処理性能を高めつつ、AIを活用した機能を数多く搭載するのが大きな目玉だ。

 一方で、価格の上昇によって最低価格が15万円台からになるなど、従来までの特徴だったリーズナブルさは影を潜めつつある。今回は筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、従来の「Pixel 7 Pro」と比較しつつチェックする。

ディスプレイが湾曲から平面へ。最大輝度が大幅に向上

 まずは従来モデルにあたるPixel 7 Proとの比較から。

Pixel 8 ProPixel 7 ProPixel 6 Pro
発売年月2023年10月2022年10月2021年10月
サイズ(幅×奥行き×高さ)76.5×162.6×8.8mm76.6×162.9×8.9mm75.9×163.9×8.9mm
重量213g212g210g
CPUGoogle Tensor G3
Titan M2 セキュリティ コプロセッサ
Google Tensor G2
Titan M2 セキュリティ コプロセッサ
Google Tensor
Titan M2 セキュリティ コプロセッサ
メモリ12GB12GB12GB
ストレージ128/256/512GB128/256/512GB128/256/512GB
画面サイズ/解像度6.7型/2,992×1,344ドット(489ppi)6.7型/3,120×1,440ドット(512ppi)6.7型/3,120×1,440ドット(512ppi)
Wi-FiWi-Fi 6EWi-Fi 6Wi-Fi 6
コネクタUSB Type-CUSB Type-CUSB Type-C
防水防塵IP68IP68IP68
生体認証指紋認証(画面内)、顔認証指紋認証(画面内)、顔認証指紋認証(画面内)
駆動時間/バッテリ容量最小4,950mAh
標準5,050mAh
標準5,000mAh最小4,905mAh
標準5,003mAh

 ボディについては、サイズの差は小数点以下、さらに重量差もわずか1gだけと誤差レベルでしかないが、外見上で大きく変わった点として、湾曲ディスプレイが一般的な平面ディスプレイへと改められたことが挙げられる。

 従来はディスプレイが側面まで回り込んでいたせいで、画面をうっかりタッチしてしまうミスが起こりやすかったほか、ガラス製の保護シートを貼ると端が浮いてしまう問題があったが、本製品では解消されている。スタイリッシュさだけを追求せずに実用性に振ったのは好印象だ。

左が本製品、右が従来のPixel 7 Pro。見た目はそっくりだが、湾曲ディスプレイが廃止されフラットになっている。また画面が明るくなっているのも目につく
背面。デザインはほぼ同一だが、カメラ部の右端に温度センサー(2つ並んだ丸いくぼみの下)が追加されている

 またディスプレイまわりではもうひとつ、画面が明るくなったことにも要注目だ。従来は最大輝度1,000cd/平方m(HDR)、ピーク輝度1,500cd/平方mだったのが、本製品は最大輝度1,600cd/平方m(HDR)、ピーク輝度2,400cd/平方mにアップしたことで、屋外での視認性は劇的に向上している。電子書籍ユースで役立つかはともかく、嬉しい改善点だ。

 一方でスペックについては、SoCがTensor G2からG3に変わっているのが目立つが、メモリ容量およびストレージの構成は変わっていない。またWi-Fiは11ax、IP68対応の防水防塵対応と、基本的な仕様にも違いは見られない。バッテリの容量もほぼ同等のままだ。

ボタン類は右側面に集中している。従来モデルとはボタンの間隔などが若干異なる
底面。上が本製品、下がPixel 7 Pro。スピーカーの間隔が若干異なるほかは同一
従来のPixel 7 Pro(上)は湾曲ディスプレイを採用し、側面までディスプレイが回り込んでいたが、本製品(下)は一般的な平面ディスプレイへと改められた
重量はSIMカード込で214g。Pixel 7 Proは同じ条件で212gなので、ほぼ同等とみてよいだろう

 カメラは従来と同じく、光学5倍ズームおよび超解像による最大30倍のズームに対応。さらに12MPと50MPを切り換えるプロ設定での撮影をサポートしたほか、ベストテイク、音声消しゴムマジックなどAIによる支援機能が強化されており、Pixel 7 Proから大きく進化している。本稿では扱わないので、詳細は以下の関連記事を参照されたい。

 このほか新たに温度センサーを搭載したのも目玉だが、素材の種類をあらかじめ指定しておかなくてはいけなかったり、体温測定には非対応だったりと、いろいろとツッコミどころがある。最低価格が15万円からという値上げの一因になっていることは間違いなく、現時点ではマイナスに振れてしまっている印象だ。今後の展開に期待したい。

カメラ部の厚みが増加。ベンチマークは20%前後のアップ

 筆者は普段からPixel 7 Proを常用しているが、本製品を初めて見ての印象は「思ったよりもゴツい」。厚みは8.9mm→8.8mmへとむしろ薄くなっているので錯覚かと思ったが、実はカメラ部が収められた背面の突起は、11.2mmから11.8mmへと厚みが増しており、並べるとはっきりと分かる。

ボディは従来よりもやや厚みを感じる。湾曲ディスプレイでなくなったこともあり、側面を持ちやすくなっている

 さらに湾曲ディスプレイでなくなったために側面が広くなり、それらの相乗効果でゴツく見えるようになった、というのが真相のようだ。もっとも側面が広くなったことで、従来よりも側面をつかみやすくなったのは、本体を持ち上げる場合はもちろん、長時間保持する上ではプラスだろう。

左が本製品、右が従来のPixel 7 Pro。カメラ部はやや厚みを増している

 ボタン類の配置は従来と変わっておらず、音量ボタン、電源ボタンともに右側面に集中している。前述のように背面のカメラ部の段差はやや大きくなっているが、手に持った時、この段差をうまく指に引っかけるように保持すれば、手への負担を軽減できる。ケースなしで使っている人にはおすすめだ。

 指紋認証のセンサーは画面内に配置されており、見た目はスマートなのだが、押さえる場所を目視で確認しなくてはいけなかったりと、専用のセンサーを使ったモデルと比べると一長一短だ。とはいえ世代が2つ前、Pixel 6 Proの当時は、センサーの反応自体がおそろしく悪かったことを考えると、よくここまで使い勝手が改善されたものだと思う。

電源ボタンと音量ボタンはいずれも右側面にある
左側面はボタン類はなく、SIMカードスロットのみを備える

 ベンチマークについては、従来モデルのPixel 7 Proと比べると、平均して20%前後の伸びが見られた。CPUがTensor G2からG3に変わっている以外には大きな違いはないので、おおむねこんなものだろう。

 これらスコアは、iPhoneのフラグシップであるiPhone 15 Pro Maxと比べるとかなりの差はあるが(※以下の関連記事を参照)、カメラで連写をしていると処理が追いつかず次の一枚が撮れなくなる症状が現れにくくなっていたりと、従来モデル比では改善の跡が見られる。

Google Octaneでの比較は「50116」。従来モデルの「46408」に対して8%増
3DMark Wild Lifeでの比較は「8426」。従来モデルの「5895」に対して43%増
Geekbench 6(CPU)の比較は、シングルコアが「1765」、マルチコアが「4386」。従来モデルの「1426」「3572」に対してそれぞれ24%増、23%増
Geekbench 6(GPU)での比較は「5931」。従来モデルの「4505」に対して32%増

表示性能は変わらないものの、持ちやすさは従来より向上

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。

 解像度は従来の512ppiから489ppiと若干下がっているが、これはディスプレイサイズが変更になったことに伴うもので、実質的にはイーブンだ。実際にコンテンツを並べてみても、目視での判別はほぼ不可能であり、表現力は最高峰の部類に入ると言っていいだろう。

 また湾曲ディスプレイが廃止され、画面がフラットになったことで、うっかり画面をタッチしてしまうミスは起こりにくくなっている。画面サイズが大きいがゆえの現象だったが、それらが解消された格好だ。側面を持ちやすくなったのもプラスだろう。

 その一方で、湾曲ディスプレイの廃止によって画面サイズがわずかに小さくなった影響で、ページの表示サイズも若干小さくなっている。画面自体の横幅は71mmから70mmとなり、また今回使用しているサンプルのコミックのコマの横幅は、59.5mmあったのが58mmへと小さくなっている。目視で分かるのは2mm以上の差がついた時、という筆者の経験則からするとギリギリセーフだが、多少気になるのは事実だ。

コミックを表示した状態。天地に大きな余白が生じるが、これは昨今のスマホに共通する傾向だ
左が本製品、右が従来のPixel 7 Pro。見た目はほぼ同じだが、表示サイズは従来よりもわずかに小さくなっている
左が本製品、右が従来のPixel 7 Pro。解像度は数値上は若干低くなっているが目視では判別できない
画面幅は70mm。従来の71.5mmより小さくなっている。またこれに連動する形で、コマのサイズもひと回り小さくなっている
こちらはiPhone 15 Pro Max(右)との比較。表示サイズは本製品のほうがわずかに小さい。iPhone 15 Pro Maxについては同じ条件でのレビュー記事も参照されたい
テキストを表示した状態。コミックと違って天地に余白もできず、縦長の画面を活かした表示が可能

 ところで本製品のようなAndroidスマホは、Google Playストア経由ではなく、Amazonアプリストア経由でKindleアプリをインストールすることで、かつてのようにアプリ内で本を購入できる裏技が知られているが、このPixel 8 ProはAmazonアプリストアのインストールこそ可能なものの、Kindleアプリは検索しても表示されず、この裏技は使えない。
 そのため、純正であるGoogle Playブックスや、ストア内コンテンツを購入可能なアプリを自社サイトで配布しているBookLive!など一部のストアを除けば、必然的にブラウザ経由での購入になってしまう。購入も含めてシームレスに行ないたいユーザーにとっては、Androidの中でもややマイナスが多い製品ということになる。

Amazonアプリストア自体をインストールすることは可能だが、「Kindle」を検索してもKindleアプリは表示されない
そのためKindleアプリのインストールはAmazonアプリストア経由ではなく、通常通りGoogle Playストアから行なうしかない。ただしその場合アプリ内購入は行なえず、コンテンツの購入は別途ブラウザからアクセスする必要がある

 もうひとつ、生体認証の改善にも触れておこう。従来のPixel 7 Proは、生体認証として指紋認証/顔認証の両方に対応しながら、アプリ上の本人確認に利用できるのは指紋認証だけだった。そのためたとえばDMMブックスのように、ロック機能を持ったアプリを、生体認証で解除しようとした場合、顔認証は利用できず、指紋認証一択だった。

 しかし今回のPixel 8 Proでは、アプリの本人確認で、顔認証も利用できるようになったので、スマホ自体のロック解除の時と同様、顔認証と指紋認証、どちらも利用可能になった。前述のDMMブックスは本稿執筆時点ではまだ非対応だが、一般的なアプリではすでに顔認証に対応した例も見られる。これらがきちんと動作するようになれば、使い勝手はさらに向上するだろう。

画面内に指紋認証を搭載。このほか生体認証としては顔認証にも対応する
従来のPixel 7 Pro(右)は、「アプリ内での本人確認に(生体認証を)使う」の選択肢が指紋認証のみだったが、本製品(左)は指紋認証に加えて顔認証も利用できるようになった。今後のアプリ側の対応が待たれる

電子書籍ユースでは従来と大差なし。機能の実装予定を見極めたい

 以上のように、電子書籍ユースについては、従来モデルと大きな違いはないというのが、今回試した上での結論だ。

 前述のように、ロックの解除が顔認証で使えるようになれば、一部のアプリについては使い勝手が向上するだろうが、関連するのは一部のアプリだけで、なおかつアプリ側の対応待ち。画面の明るさが向上しているのはプラスだが、関係してくるのは主に屋外で利用する場合だけだ。表示性能そのものには特に変化はない。

 こうしたことから、従来のPixel 7 Proから移行する必要はなさそうだが、もっとも何らかの大きな欠点があるわけではないので、それ以外の機種から乗り換える場合の選択肢としてはありだ。カメラ機能やAIまわりの機能目当てで購入し、その流れで電子書籍も利用する、といったパターンになるだろう。あとは価格をどう見るかだ。

 余談だが、PixelシリーズはかつてのPixel 4におけるモーションセンスのように、ハードウェアを活かせないまま製品自体が終息してしまうことがあり、本製品の温度センサーも、そうした不安がないわけではない。また本製品で発表済みのAIを活用した機能の中にも、未実装だったり、日本でのリリース予定が不明瞭な機能がいくつかある。

 それらのどれかに大きな魅力に感じて本製品の購入を検討しているならば、きちんと実装される目処が立っているか、見極める必要はありそうだ。