山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

ライバルはFire Max 11?実売3万円台の11型Androidタブレット「Galaxy Tab A9+」

「Galaxy Tab A9+」。実売価格は3万5,799円

 サムスンの「Galaxy Tab A9+」は、11型のAndroidタブレットだ。実売価格3万円台半ばと、Galaxy Tabシリーズとしてはリーズナブルな価格が特徴だ。

 サムスンからは同じ11型クラスで「Galaxy Tab S9 FE」というモデルが先日発売になっているが、本製品はその下位にあたるエントリークラスの製品だ。最近の10型クラスのタブレットは10万円に近いプライスも当たり前になりつつあるだけに、3万円台というリーズナブルな価格は非常に魅力だ。

 特に電子書籍ユースであれば、Fireタブレットの最上位モデル「Fire Max 11」と同じ画面サイズで、価格もほぼ同等ということで、汎用性の高い本製品に魅力を感じる人も少なくないだろう。今回は筆者が購入した個体について、Fire Max 11と比較しながら、電子書籍ユースにおける使い勝手をチェックしていく。

スペックはFire Max 11に酷似

 まずはそのFire Max 11との比較から。

Galaxy Tab A9+Fire Max 11(第13世代)
発売日2023年10月2023年6月
サイズ257.1×168.7×6.9mm259.1×163.7×7.50mm
重量480g490g
OSAndroid 13Fire OS
CPU8コア 2.2GHz, 1.8GHz8コアプロセッサ - 2x Arm Cortex-A78 (最大2.2GHz)、6x Arm Cortex A55 (最大2GHz)
メモリ4GB4GB
画面サイズ/解像度11.0型/1,920×1,200ドット (206ppi)11型/2,000×1,200ドット(213ppi)
通信方式Wi-Fi 5(802.11ac)Wi-Fi 6(802.11ax)
生体認証顔認証指紋認証
バッテリ持続時間(メーカー公称値)7040mAh14時間/7,500mAh
コネクタUSB Type-CUSB Type-C
メモリカード○(最大1TB)○(最大1TB)
イヤフォンジャック-
価格(発売時)3万5,799円(64GB)3万4,980円(64GB)
3万9,980円(128GB)

 こうして見てみると、11型という画面サイズをはじめ、各種スペックはFire Max 11と酷似していることが分かる。

 OSはAndroid 13ベース。CPUについては「2.2GHz, 1.8GHz」とだけ公表されているが、GeekBenchで見ると、2.21GHz×2、 1.80GHz×6ということで、8コア構成だ。ベンチマークは後述するが、Fire Max 11よりも若干上で、エントリークラスとしては善戦している。

 一方で、メモリは4GBと決して多くなく、ストレージは64GBのみ。またWi-Fiは11acまでしか対応しなかったり、防水防塵は非対応だったりと、うまくコストダウンを図っている。その一方で、生体認証として顔認証を搭載していたり、最大1TBのメモリカードに対応する(ただしアプリのインストールには非対応)など、押さえるべきところはしっかりと押さえている印象だ。

 ちなみに本製品から見て上位モデルにあたる「Galaxy Tab S9 FE」は、スタイラス(Sペン)に対応するほか、さらに専用のキーボードも用意されているが、本製品はそうしたオプションはない(リリースでは純正キーボードの存在が仄めかされているが、現状で該当する製品は同社ストアに見当たらない)。こうした部分が、差別化要因になっていると考えられる。

筐体は横向きを前提としたデザインで、上部に前面カメラを搭載する
ベゼル幅は上下左右ともに均等なので縦向きの利用でも違和感はない
筐体はアルミを採用。背面のデザインからも横向きでの利用を前提としていることが分かる
背面カメラは背面右上に搭載。その上の面に電源ボタンと音量ボタンを備える
右側面。USB Type-Cポートとスピーカーを備える。また左端にイヤフォンジャックがある
左側面。スピーカーを備える。スピーカーはDolby Atmos対応だ
底面は拡張用のポゴピンとカードスロットを備える
カードスロット。最大1TBまで対応する
実測は473g。10~11型のタブレットととしては標準的だ

パフォーマンスはFire Max 11の約23%増し

 このようにスペックではFire Max 11に酷似した本製品だが、実機を手に取った時の第一印象もまた「Fire Max 11とそっくり」。ボタンやカメラの配置は異なっているなど、設計自体はまったく別物なのだが、直線を基調としたデザインや、アルミを用いた背面などは、ロゴなどがなければ見分けるのに苦労するほどだ。手に持った時の体感的な重さも変わらない。

 電源ボタンや音量ボタンは、Fire Max 11は側面に配置されているのに対して、本製品は上面に配置されており、かわりにスピーカーが両側面に配置されている。本製品のほうがより自然な配置と言えばそうなのだが、本体を横から保持する時に、スピーカーを塞いでしまいやすいのもまた事実で、一長一短だ。

Fire Max 11(右)との比較。同じ11型で、ベゼル幅も含めて外見は酷似している
背面の比較。カメラの配置こそ違うが、素材も含めてこちらも共通点が多い
上が本製品、下がFire Max 11。本製品のほうが辺が若干長い
上が本製品、下がFire Max 11。横幅はほぼ同じ。ポゴピンの配置なども似ている
上が本製品、下がFire Max 11。Fireは電源ボタンと音量ボタンが側面にあるためスピーカーはこの面にあるのが本製品との大きな違いだ
カードスロットも、配置こそ異なるがトレイの仕様もよく似ている

 インストールの手順は一般的なAndroidのそれと変わらないが、後述する電子書籍ユースの関係でGalaxyストアを利用する場合は、Googleアカウントの登録とは別に、サムスンのアカウントを登録しておく必要がある。ちなみにアプリはGoogle製、Microsoft製、サムスン製のアプリがそれぞれフォルダにまとまっており、全体的な数は控えめだ。

 インターフェイスは、ホーム画面の右下にホームボタンや戻るボタン、アプリボタンが表示されるという、Galaxy特有のデザイン。また並び順も一般的なAndroidのそれとは異なっているので、Galaxyに慣れていないと違和感がある。並び順自体を変更することもできるが、UI自体をスワイプジェスチャに変更してしまうのも1つの手だろう。

 実際に使っていて気になったのは顔認証だ。使い勝手自体に問題はないのだが、前回のロックから4時間、あるいはタブレット自体を24時間使用していないと、PINまたはパスワードでのログインが必須となるため、製品の利用頻度が低いと、毎回のようにPINやパスワードの入力を求められる。指紋認証は非搭載なので、そちらでカバーすることもできない。この点はややマイナスだ。

ホーム画面。デフォルトでは右下にホーム、戻るなどのボタンが配置されている
アプリ一覧。サムスン、Google、Microsoftのアプリが中心で数は控えめ
サムスンのアプリ
Googleのアプリ。Google Playブックスは含まれない
Microsoftのアプリ
クイック設定パネル。DeXもここから起動できる
ナビゲーションバーはデフォルトでは「ボタン」になっている。ボタンの順序は変更できる
一般的なAndroidの操作に慣れていれば「スワイプジェスチャー」に変更しておいたほうが使いやすいかもしれない

 ベンチマークについては、Google Octane 2.0で調べたところ、Fire Max 11の約23%増し。第10世代iPadには大差をつけられているが、3万円台という価格帯を考慮すると、極めて優秀と言っていいだろう。

 もっとも決してハイエンドではないことは、実際に使っていて端々に感じられる。たとえばホーム画面上部の検索フォームをタップした時に、単語入力のためのソフトウェアキーボードがポップアップするという挙動は、多くの製品では瞬時に行なわれるが、本製品は表示までにワンテンポ待たされる。このように、やはり価格相応と感じられる箇所はちょくちょくある。

Google Octane 2.0による比較。左から、本製品が「27462」、Fire Max 11が「22294」、第10世代iPadが「62282」。iPadには及ばないがFire Max 11よりは上となる

Galaxyストア版「Kindle」が利用できるのが最大の強み

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最新号を使用している。

 解像度は206ppiと決して高くはない。ギリギリ最低限という表現が適切だろう。現行の電子書籍向けのデバイスでこれより解像度が低い製品となると、Fire HD 8(189ppi)くらいだ。

 ただし本製品は画面サイズが11型と大きいため、実際の表示を見る限りはそう粗くは見えない。注釈などの細かい文字はやや不得手というだけだ。なにより比較対象がFire Max 11やFire HD 10であれば解像度はほぼイーブンなので、特にネックにはならない。

 画面のアスペクト比の関係で、左右に大きな余白ができるのは、昨今のタブレットに共通の傾向だが、縦向きだとこの余白はかなり目立つ。雑誌コンテンツの表示においては、アスペクト比が4:3に近いiPadなどと比べると余白は明らかに大きく、なおかつページサイズはかなり縮小されてしまう。雑誌中心の利用を考えているならば、やや考えものだ。

コミックを見開きで表示したところ。サイズ的には十分だが、アスペクト比の関係で左右に大きな余白ができる
上が本製品、下がFire Max 11。ほぼそっくりといっていい
上が本製品、下が第10世代iPad。アスペクト比の関係で、表示サイズは本製品のほうが2回りほど小さくなる
表示クオリティの比較。左から本製品(206ppi)、Fire Max 11(213ppi)、第10世代iPad(264ppi)。髪の部分など、細い線の描写に解像度の違いが出ている
左が本製品、右がFire Max 11。コミックと同様、こちらもほぼそっくりだ
左が本製品、右が第10世代iPad。コミック以上に余白の存在が目立つ
表示クオリティの比較。左から本製品(206ppi)、Fire Max 11(213ppi)、第10世代iPad(264ppi)。第10世代iPadと比べると細い線の表現に解像度の低さを感じるが、それほど目立つわけではない

 さて電子書籍ユースで便利な機能として知っておきたいのは、画面右側から呼び出せるパネルだ。ここに利用頻度の高いアプリを登録しておけば、すばやい呼び出しが可能になる。20個を超えるアプリが登録可能なので、電子書籍アプリに限らず、有効に活用したいところだ。

 そしてもう1つ見逃せない点として、サムスン製である本製品は、Galaxyストア版のKindleアプリが利用できるという大きなメリットがある。というのもGalaxyストア版のKindleアプリは、現行のGoogle Playストア版と異なり、アプリ内で本が購入が可能なバージョンだからだ。

 これがあれば、サンプルを読み終えたあとブラウザに移動せずにそのまま続きを購入したり、コミックを読み終えたあとに続刊を購入したりと、シームレスな利用が可能になる。これならばFireでのKindleアプリの使い勝手と遜色ないというわけだ。

 将来的にこの仕様がGalaxyストア版で継続されるかは定かではないが、今さまざまなAndroidタブレットの中でGalaxyを選ぶのは、これが最大の理由と言っていいだろう。

画面右から引き出せるパネルに任意のアプリを登録しておくことで、すばやく呼び出せるようになる
Galaxyストアで配布されているKindleアプリは、Google Playストア版とは仕様が異なる
Galaxy Store版は、下段に「ストア」ボタンがあり、ブラウザに移動しなくともKindleストアから本を購入できる
ストアで本を表示したところ。アプリ内でも購入ボタンが利用できることが分かる

ただ安価なだけのAndroidタブレットとは一線を画する

 以上のように本製品は、読書用に見開き表示ができるタブレットが欲しい、ただしiPadを買うほどの予算はなく、一方で汎用性の観点からもFireは候補外というユーザーのニーズにピタリとはまる製品だ。

 中でも前述のように、アプリ内での購入が可能なKindleアプリが使えることに加えて、Fireでは不可能な、Kindle以外の電子書籍ストアアプリも、Google Playストア経由で導入できることは見逃せない。

 さらに今回は取り上げていないが、画面を3分割で表示できるモードのほか、外部ディスプレイに接続してデスクトップのように利用できるDeXモードも搭載するなど、多彩な使い方が可能なことにおいては、ただ安価なだけのAndroidタブレットとは一線を画している。GPSセンサーを搭載しているのも、Fire Max 11と比べた場合の強みとなるだろう。

DeXモード。外部ディスプレイと接続してのデスクトップライクな利用が可能。DeX上ではアプリはウィンドウ表示になる

 一方で、パフォーマンスに関しては、Androidタブレットの中では決して高くない。たとえばドック付で7万円台のGoogleのPixel Tabletは、Google Octane 2.0のスコアは4万台と、本製品の2倍弱である。こうした点は差し引く必要はある。

 もっとも4万円以下という予算ありきで考えるのであれば、コスパは抜群で、完成度も高い。パフォーマンスの高さが求められる用途では少々厳しいが、電子書籍をはじめとしたライトな使い方であれば、極めて満足度の高い製品と言えそうだ。