山田祥平のRe:config.sys

超高齢社会の不老チャート

 病気になってからは手厚くても、病気にならないようにすることには消極的な医療制度。そういったイメージが強い。そのデジタルトランスフォーメーション(DX)も着々と進んではいるようでいて課題も多い。医療制度改革には官民ともに懸命に取り組んでいる様子だが、それが国民の意を本当にくんだものであるのかどうか。

日本マイクロソフトのヘルスケアへの取り組み

 日本マイクロソフトがヘルスケア分野での最新の取り組みについて説明するブリーフィングを開催した。

 日本マイクロソフト株式会社執行役員 常務 パブリックセクター事業本部長の佐藤亮太氏は、日本の社会課題について言及し、その多さを指摘、Microsoftは誰一人取り残されない日本のデジタル社会の実現を通じ、より未来につながる「かけはし」となると宣言する。

 また、同社業務執行役員ヘルスケア統括本部長の大山訓弘は、ヘルスケア市場におけるDX案件増加に伴いクラウドビジネスが伸長していることに言及、医療における生成AI活用が浸透しつつあることから、健康・医療データの利活用のためには、標準化されたデータによる相互運用性のある統合基盤作りが重要だとアピールした。

 標準化対象の代表例としては電子カルテがある。大山氏は多くの電子カルテベンダーがあり、それぞれでデータの互換性がなく移行や参照等が難しいのが現状とし、医療情報の共有と相互運用のための次世代標準フレームワークとしてのFHIR形式でのやり取りなどで、生成AIを使った相互運用を支援していきたいとしている。

 また、Copilotを搭載したデータ分析ソリューションであるMicrosoft Fabricも、前述のFHIR、CT画像やMRI画像などを共有するための標準規格であるDICOM、また、臨床ノート分析などのヘルスケアに特化した機能を拡大中だという。

ITとヘルスケア

 日本のヘルスケア分野のITについては、2010年頃にNPO法人コンテニュア・ヘルス・アライアンスが立ち上がり、個人のヘルスケアのIT化を推進しようとしていた。

 インテル株式会社もその代表企業の一社だったが、同社はそのさらに以前の2008年、特定非営利法人日本医療政策機構と協業し、患者会活動に対してITによる支援を行なうことで合意し、ITで医療の現場を変えることに取り組んでいた。

 また、Bluetooth SIGは2007年にMedical Device Profile for Bluetooth wireless technology at Medicalを策定しているなど、大きな動きがあった。

 ところが、2010年代に入ってからは、こうした取り組みがIT業界側から声高にアピールされたことは寡聞にして知らない。

 2020年の2月にエー・アンド・デイとタニタが健康計測機器分野で業務提携し、相互に機器をOEM供給することを決めた。さらにタニタは体組成計測のタニタアルゴリズムをエー・アンド・デイに供給、両社の機器の相互連携を実現。市民の健康意識の高まりを背景に、ヘルスケア市場の拡大に対応するといったニュースがあったくらいだが、その後どうなったのか。

 体組成計の各社アルゴリズムは生体電気抵抗値から体組成を推定する。その計算式がメーカー独自なので、機器ごとに体脂肪率や筋肉量が異なる。これがデータヘルスにとって大きな障害だった。タニタとエー・アンド・デイの提携取組を契機に、両社は体組成計技術の標準化を推進するとしていたはずだ。
 その後、世の中はコロナ禍に見舞われた。今は2024年だ。あれから20年弱が経過している。

 「センサーが測定し、液晶ディスプレイに表示された血圧や心拍数を、電子カルテに手入力する。悲しいが、これが最新のITを活用する医療現場である。果たして10年先には別の未来があるのだろうか」と、2008年にこの連載で言及してから16年だ。

 残念ながら、同じようなことが今なお病院の現場では行なわれている。

期待されるAIの介入

 個人的には健康観察のために、オムロンの音波通信体温計MC-6800B けんおんくんを使って毎朝体温を測り、音波でスマホにデータを転送、上腕式血圧計HCR-7511T(販売終了、リンクは同等製品)を使って血圧と脈拍を測り、こちらはハードウェアがBluetoothでデータをスマホに自動転送、両データはOMRON connectに集約されるようになっている。

 スマホは一般に、iOSならApple ヘルスケア、AndroidならGoogleヘルスコネクトが、各健康アプリのデータを集約して断片的なデータを俯瞰的に眺めることができるようになっている。

 Appleヘルスケアはそこそこの連携機能を提供しているが、残念ながら常用しているAndroidでは体重データ以外は未対応だ。毎朝測っている体温と血圧についてはOMRON connectサービスに閉じてしまっている。CSVに出力してExcelで見るくらいしか方法はない。スマートウォッチから取得する睡眠時間や活動量との関連性などを知りたいのだが面倒くさくてやっていられない。

 冒頭に書いたように病気になってからは制度による手厚い医療サービスが受けられる日本だが、こと病気を予防するために努力することに対しては冷たい。それでも健康意識の高い高齢者は、自腹でせっせとジムに通い、毎日の活動量を記録し、体組成や体温、血圧などをチェックし続けている。

 人によっては、それらを手作業で統合しているかもしれない。もしそこにAIが介在して、各アプリからデータを収集してまとめてくれれば、身体情報を俯瞰できて、いろいろな兆しに早期に気が付くことができそうだ。そして、大ごとにならないうちに対処して大病を煩うのを未然に防ぐことができるかもしれない。すぐにそんな時代がやってくると思っていたが、そうはなっていない。生きているうちに、そんな時代がやってくるのだろうか。

 いろいろな立場から、いろいろな方法論でのアプローチが過去にあった。でも、そのそれぞれがうまくいっているようでそうでもない状況だ。Microsoftとしては、こうした連携については、同社が音頭をとって束ねてやるのではなく業界が提供するのを手伝いたいという考えのようだ。

 ヘルスケア人材不足についても心配だ。そして、病院DXは進んでいるようだが、医療DXは遅々として進んでいない。何しろ医療データが電子化されていないし、電子カルテの導入率も5割を切っているのだそうだ。システムをまたぐカルテデータの受け渡し媒体は紙が主流で、それが病院にとっては大きな負担となっている。

 AIの導入以前に解決しなければならないことは山積みだ。それでもなんとかしなければならない。だからこそ人力を淘汰するAIの有意義な介入に期待したいと思う。