山田祥平のRe:config.sys

行政サービスのデジタル化の狭間で

 多くの行政サービスがデジタル化されている。だが、その反面、ここは昭和か?といった状況のサービスも散見する。これらのサービスは、将来どうあるべきで、どう進化していくべきなのだろうか。

行政ネットワークがもたらす便利

 ここのところ家の事情で地方の実家と東京を行ったり来たりしている。実家は福井県小浜市にあるが、北陸新幹線が敦賀まで開業したことで往来がとても便利になった。東京からだと今なお東海道新幹線を使って米原を経由した方が少し短い時間ですむし、定価ならその料金も安いのだが、東京から敦賀まで、在来線を使わず、新幹線だけを使って乗り換えなしで行けるというのは大きい。今のところ気になるのは敦賀駅での乗り継ぎ時間と、ローカル線各駅停車ののんびりさだ。

 えきねっとなどのサービスを使えばチケットも駅で行列を作らず買える。そしていったん指定席を確保しても、直前まで何度でも変更することができる。このあたりはとても便利なのだが、紙でしか買えないチケットもあって、その場合、列車や席の変更の必要がある場合は大変だ。

 このままでは予定していた電車に乗れないとか、そういう切羽詰まったときに、インターネットを使って移動中に自在にチケットを変更できるのが電子チケットの便利なところだ。しかし、紙のチケットでは、いくらインターネットで購入していても、物理的な紙チケットを受け取る必要があるし、その変更には行列覚悟で窓口に並ぶ必要がある。紙のチケットを売っても、それで手間暇がかかって忙しくなるのは駅の窓口の係員なのにと思うと気の毒にもなる。現場で矢面に立たなければならないのはそんな窓口の職員だ。

 さらに、住民票や印鑑証明といった書類についても、全国どこにいてもコンビニで発行できるようになっている。これらのサービスのミソは、役所などでしか発行されなかった紙の書類を、コンビニで発行できるようになったという点だ。また、スマホ用の電子証明書を使えば、マイナンバーカードを持参していなくても、スマホを使って認証し、各種の書類を出力することができる。しかも、日本全国どこにいても、コンビニに行けば自分に関連する書類が入手できるのだ。

 ついこの間まで知らなかったのだが、今は住民基本台帳ネットワークがあって、相互に接続しているため、全国どこでも各種書類がとれる。かつては郵便で取り寄せる必要があったことを思うと実に便利になったものだ。

デジタルデータも紙に印刷すればシミと同じ?

 必要な書類が全国どこでも取得できるというのは便利は便利だ。だが、所詮手にすることができるのは紙だ。登録や申請はオンラインでできても、関連書類は郵送する必要があるため、オンラインのいいところは半減してしまう。ここは残念だ。

 役所が発行する書類が紙ではなく、電子署名付きのデジタルデータだったらどんなに便利かとも思うが、それが実現するまでには、まだそれなりの時間が必要だろう。ビニール盤やCDで購入してきた音楽が、配信に変わったように、ここもメディアに依存しないようになればいい。

 プライベートで一連の手続きなどのために、市役所、金融機関、保険会社、法務局などを訪問する必要があった。そんなことを自慢してどうすると言われそうだが、人口が3万人に満たない狭くて小さな街である。いろんな手続きで訪れなければならない窓口が、歩いて半径数分のエリアに集中している。

 レンタカー、レンタサイクルなどもあるが、その必要性はそれほどない。ただ、カーシェアについてはガソリン代がいらないこと、多くの施設の駐車場が短時間の利用では無料であることを考えると、この猛暑の日中の移動には役に立つと思った。

紙というメディアの信憑性

 これらの各種サービスを使い、役所と役所、役所と民間の機関などでネットワーク連携ができていればいいのにと思う場面はたくさんある。

 たとえば、法務局で手続きをするために必要な戸籍謄本類の書類、法務省サイト掲載のWordやPDFファイルの使いにくいことこの上ない書式などだ。

 これらをダウンロードするところまではいい。だが、情報を記入するために、同じ役所から別途情報が書かれた紙の登記簿などを入手しておく必要があったりする。そして、入手した書類を束ねて提出するなど、一時代前に近い作業が必要だ。これらがうまくデジタル的に連携できていればと思う。

 行政サービスの多くは、従来の紙というメディアの信憑性に依存し、そこに記載された情報が確かなものであるということを保証する。このあたりがうまく連携し、相互にサービス間でやりとりされるようになることを願いたい。そのUXデザインこそをがんばってほしい。

 そもそも、オンライン申請できるような各種の作業でも、生涯に一度とか二度しかやらないくらいの頻度でのものだから、何かと多くの疑問につきあたる。それを調べて研究して明らかにする時間が惜しくて、結局はサービス料を支払って弁護士や司法書士に頼ることになる。オカネはかかるが丸投げすればラクチンだということだ。

 司法書士にしかできないのが登記の申請作業だが、これは司法書士に依頼しなくても、本人なら自分でできる。そして、今回、これほどAIに向いている作業はないんじゃないかと思った。いったん分かれば簡単だからだ。法務省は全国にある法務局で、いったいどんなことが行なわれているのかを調べて、それらをAIに委ねることで、どれだけの生産性が得られるかを調べた方がいいんじゃないだろうか。

 同じ公務員の仕事であっても、法務局と市役所の職員の仕事の差には大きな違いを感じる。市役所や金融会社の職員にはプロフェッショナルを感じたが、残念ながら法務局の職員にそれは感じられなかった。相談しても二言目には、みなさん司法書士に依頼されるからという言葉がでてくるので、きっと、それが前提に業務が進んでいるからなのだろう。全員がそうであるとは思えないが、少なくともそういう経験をした。

 何百件、何千件と似たような事例の作業をしてきたであろう司法書士なら、何も説明しなくても、一発でミスなく書類を完成させることができる。それがサービスのプロフェッショナルだ。司法書士を相手にした方が法務局の職員はラクだろう。だが、そのプロフェッショナルを職員に求めたいと思うし、彼らが真摯に取り組めば、AIを使った優れたシステムが作れるのではないだろうか。