山田祥平のRe:config.sys

起きて半畳寝て一畳、それでも欲しい2階建ての15.6型

 大きな画面が1つがいいのか、そこそこのサイズの画面が複数あったほうがいいのか。ここは賛否両論あるにしても、PCの作業効率は作業エリアの物理的な面積に比例する。これについての異論は認めない。短時間で作業を終わらせたければ広い画面を確保する。それしかない。

クラムシェルのトランスフォーメーション

 秋葉原で生まれたアイデア家電メーカーとして知られるサンコーが興味深いデバイスを発売した。その名も「上下2画面拡張ポータブルモニター」。そのものズバリの名称でそれ以上でもそれ以下でもない。15.6型のフルHD液晶2画面をPCなどにケーブル1本で手軽に追加できる、3万9,800円のモバイルダブルモニターだ。

 発売されたばかりだが、現時点では注文殺到で再入荷待ちの状態になっているほどの人気商品らしい。気になったので使わせてもらうことにした。売り切れも納得だ。

 同社のモバイルモニター製品は、2020年2月にここで紹介したことがある。コロナ禍の緊急事態宣言が同年4月7日に7都道府県、そして4月16日に全国に拡大されたが、そのことによるリモートワークや在宅勤務などのニーズを想定して、各社から廉価なモバイルモニターが続々と登場していた時期だ。

 あれから4年以上が経った。モバイルモニター界隈も、いろいろと付加価値のある製品が加わり百花繚乱だ。

 この製品もその1つだ。特徴は非光沢で15.6型フルHDという、一般的なモバイルノートPCより一回り大きな画面を持っていること。さらには背部のキックスタンドで自立し、カバーやアタッチメントなどを使うことなく、本体だけで横置きの15.6型モニターを2階建てにしたレイアウトになることだ。そのトランスフォーメーションがユニークだ。スピーカーを内蔵しているのでサウンドの再生も可能だ。

 つまるところはノートPCと同様のクラムシェルフォームファクタだ。閉じたボディを開くと、ノートPCなら画面とキーボード面が出現するが、この製品は両方が画面だ。しかもヨガスタイルで360度無段階に折り返せる。一般には横表示2階建てで自立させて使うが、折り返し状態でこっち側と向こう側に同じ画面を出すこともできる。

 ただ、同社サイトの紹介ページには自動で天地反転できるという記載があるが、手元の環境ではうまく動作しなかった。だが、上画面用に画面反転ボタンが装備されているのでそれを押すだけで反転する。対面プレゼンや商談などでも便利なフォームファクタだ。

 下画面の左側面にUSB Type-Cポートが2つ、Mini HDMIポートが1つ装備されている。デバイスとの接続はこれらのポートを使う。2画面表示だが接続はケーブル1本だけでいい。おそらくはMST(Multi Stream Transport)を使ってDisplayPort Alt Modeの入力を内部でデイジーチェーンしているのだろう。

 ただし、Macではマルチディスプレイモードでの使用はできない。Windows PCなら複製と拡張のどちらでも設定できる。映像入力はUSB Type-C、Mini HDMIのどのポートを使ってもいいし、複数ポートの切り替えもできる。

 USB Type-CならPC側から電力が供給されるが、HDMIでは電力供給ができないので、付属のアダプタや汎用のUSB PD電源などを使ってUSB Type-Cポートから電力を供給する必要がある。その場合、余った電力は、PC側にパススルーされる。

 ただ、USB Type-Cケーブルを使っての接続の場合、電力不足で明るさと音量の設定に制限がかかり、明るさは70%以上、音量を50%以上に設定できない。その場合も空いているUSB Type-Cポートに電源を供給してやれば問題なく設定ができる。

2枚あわせて23型モニター1枚の実質1.3倍の面積

 23型のモニターに96dpi/100%表示がWindowsの想定GUIだ。15.6型のフルHD解像度というのは147%拡大したときに、Windowsの想定解像度である96dpiを確保できる。

 実際にWindowsで設定可能な拡大縮小率は25%刻みなので、ほぼ96dpi相当にするために、150%拡大することになり、そのときに確保できる実質的な面積としては23型モニターの66%だ。でも、それが2枚あるので132%相当になる。つまり、23型モニターを1枚スーツケースに入れることで確保できる作業領域の面積を100%とすると、その132%の面積を確保できることになる。

 重量は実測で1.68kg(仕様では約1.8kg)だった。これは持ち運び時に負担するストレートな重量そのものとなる。ほかに必要なのはケーブルくらいだ。

 一般的なモバイルモニターをむき出しで持ち運ぶのはためらわれる。液晶面を何らかの方法で保護しないと破損が心配だからだ。だが、そこがクラムシェルの強みで、液晶面を内側にして二つ折りにできるので、それを保護する必要がない。

 カバーの重量が数百gというのはめずらしくなく、本体と合わせた重量が嵩んでしまう可能性もある。今、手元にあるモバイルモニターだと15.6型の「RICOH Light Monitor 150」が560gだが、カバーは100gだった。少しサイズは小さくなるが14型の「VAIO Vision+ 14」は325gだが、その純正同梱カバーはそれだけで440gだ。

 これらの軽量モバイルモニター2枚を画面を内側にして重ね、ベルトで束ねれば同じことだと言われればその通りではある。これらの製品は両方ともキックスタンドを装備しているので、別途軽量カバーを用意すればいい。

 でも、サンコーの製品は2枚の画面が連結されているクラムシェル構造なので、2枚分の持ち運びも裸で大丈夫だ。それを考えれば、ズシリと重い1.68kgも軽く感じるというものだ。15.6型モニターが1枚あたり約800g相当となるが、キックスタンドやヨガスタイルのクラムシェル構造などを考えれば重すぎるとは感じない。あるとすれば、装備をしぼった別の製品だろう。それも使ってみたいと夢は拡がる。

 ちなみに、モニター単体の操作は、下画面の右側面にあるボタンで行なうが、上画面操作用のボタンもここに配置されており、本体上部のスリム化に貢献している。上部が少しでも軽い方が縦積みのレイアウトで安定するという配慮なのだろう。

変わるパーソナルコンピューティング

 モバイルモニターのバリエーションが豊富になり、シンプルな製品では差別化が難しい状況になってしまっている。これだけいろんなタイプのモニターがあれば、モバイルノートPCは、もっと小さな画面でもいいかもしれないとも思うようになった。

 Samsung DeXのように、外部にモニターをつないだときには、スマホの画面をミラーするだけでなく、まるでPCのように操作ができる環境もある。キーボードをワイヤレス接続すれば、ちょっとした作業をPC並みの効率でこなせる。残念ながら現時点では今回の製品のようなマルチモニター環境には対応できないし、解像度の対応も中途半端だが、新しい世代の飛び道具的なモニターが出てくることで、少しずつ様相が変わっていく可能性もある。

 AI対応もあって、今、半世紀変わらなかったパーソナルコンピューティングがドラスティックに変わろうとしている。まさか、こんなにわくわくすることがもう一度体験できるとは……。この先が実に楽しみだ。