山田祥平のRe:config.sys

ラップトップのシンとレガシー、タッチと、そのサイズ、アスペクト比

 例えモバイルからはほど遠かったとしても、持ち運びを想定したディスプレイ一体型PCは、これまでずっとラップトップPCと呼ばれ、クラムシェル形状を維持しながら愛されてきた。ノートPCのメインストリームでもある。今、PCシーンには、モバイルを想定しつつも、そのフォームファクタへの回帰が起こっている。ハイブリッドな働き方を支えるシン・ラップトップの時代だ。

最初からシン・ラップトップだったMicrosoft Surface Laptop 4

 この春に登場したMicrosoft Surface Laptop 4はタッチ対応液晶ディスプレイー一体型のクラムシェルノートPCだ。外装の違いで多少異なるもののの重量は1,250g前後の13.5型と1,500gを超える15型ディスプレイのモデルが用意されている。基本的なコンセプトは初代Surface Laptopから変わっていない。ずっとシンだった。

 タッチやペンには対応しているが、フォームファクタはあくまでもクラムシェルなので、ディスプレイ部分を裏側まで折り返すことはできない。いわゆるYOGAスタイルの2in1ではない。もっとも、このサイズ、この重量で折り返しによってタブレット形状にできたとしても、片手で支えて気軽にタッチ操作をするという気にはなれない。サイズはともかく重量は少なくとも半分以下であってほしい。でも机上や膝上で使うには、その重さが安定につながる。

 個人的には、Surfacesの中で、このMicrosoft Surface Laptopシリーズがもっとも好みだ。オーソドックスなラップトップをエレガントにした印象がある。Surface Proシリーズは、キックスタンドが使いやすくて魅力なのだが、やはりタイプカバーが中途半端で安定した打鍵が難しい。膝の上で使うのもたいへんだ。なにしろSurface Laptopは筐体を軽くしようとする意志が皆目感じられない。でも、それでいいのだ。

 ペンにもタッチにも対応する13.5型の液晶は光沢処理が施され、その縦横比は3:2だ。画素密度は201ppiとなり、例えば13.3型FHDの166ppiよりも高精細で十二分に美しい。

 ディスプレイの縦横比のトレンドは、一般的な16:9から16:10か3:2にシフトしようとしていて、どちらかといえば16:10が優勢だが、Surfaceシリーズの伝統的な3:2比率は一定の支持を得ているようだ。

 プロセッサは、第11世代Intel CoreかAMD Ryzenを選択できる。IntelならEvoプラットフォーム対応が期待されるところだが、そのロゴシールは貼り付けられていない。拡張用のポートはUSB Type-CとUSB Type-Aが1つずつで、そのほかに電源端子を兼用する汎用ポートとしてSurface Connect ポートがあるほかは、3.5mmヘッドフォンジャックを装備するだけだ。USBのポート仕様については技術仕様を確認しても記載がない。これはどうかと思う。Evoでは、USB Type-CのThunderbolt 4対応を要件としているが非対応だ。ただし、AltモードによるDisplayPort映像出力には対応しているし、USB PDによる給電も可能だ。

レガシーモバイルからの脱却を企むレッツノートFV

 直近では、パナソニックのレッツノートにも動きがあった。新シリーズとして、FVシリーズが発表されたのだ。こちらもクラムシェルPCで14型ディスプレイを搭載している。画面の縦横比は3:2でSurfaceシリーズと同じだ。同じ14型ディスプレイのLVシリーズは16:9なので、その方向性がちょっと違うことがわかる。

 第11世代Coreを搭載し、直販ではEvo対応のモデルも提供される。Evo非対応モデルは、タッチ対応がなく、キーボードのバックライト装備が実装されないモデルが存在するだけで、ハードウェア仕様としては実質Evoと考えてよさそうだ。ソフトウェアのデフォルト設定などで多少の違いがあるようだが、ハードウェアとしては違いを見出せない。Evoを名乗る条件は整っているようにも見える。

 だが、パナソニックとしてはタッチ対応はEvoに必須と認識しているようだ。タッチ対応はEvoではオプション扱いとされている。その一方で、公開されているEvoの要件では厚みが15mm以下とされているが、FVの厚みは18.2mmだ。どうにもEvoの要件は不可解だ。

 2つのThunderbolt 4ポートや有線LANポート、さらには標準サイズのSDメモリーカードスロットやVGAポートまで装備しながら最軽量モデルは1kgを切る。ただしEvoモデルはタッチ対応やLサイズバッテリ必須といった要素により1,234gとなってしまう。タッチ対応のペナルティは100gだ。タッチをあきらめれば1,134gとなり、Sサイズバッテリならさらに100g軽くなる。それでも脱着式のバッテリにこだわり続けているのはすごい。

 FVシリーズを見たときに、真っ先に思い浮かんだのがSurface Laptopだったのだが、パナソニックによれば、レッツノートとSurfaceは、もうまさに異空間に存在するPCだということだ。いい意味なのか、悪い意味なのかはわからないが、製品を作る発想が大きく異なるということなのだろう。でも、エンドユーザーとして見たときには似ている感が強い。

 ディスプレイの解像度は2,160×1,440ドットで、アスペクト比は3:2とSurface Laptopと共通。ちなみにタッチ対応のEvoモデルと、5G対応モデルが排他となっているため、タッチができるEvo 5G PCはかなわないが、LTEなら組み合わせられる。

 このあたりの方針を見ると、タッチ対応による重量ペナルティ、5G通信対応によるバッテリ駆動時間ペナルティを、レッツノートとしてはとても重要な要素として考えていることが想像できる。価格も大きな要素だ。そのためにはEvoを捨てることも厭わない。実に頑固だが真面目だ。

 あくまでもFVはクラムシェルフォームファクタであり、タッチに対応しているモデルでもSurface Laptopと同様にディスプレイを折り返せない。その理由として、折り返せるようにするためには、しっかりしたストロークを確保できないアイソレーション(浮き石型)キーボードが求められ、それを嫌ったという経緯もあったようだ。

アプリ次第で画面の縦横比はどうでもよくなる

 3:2のアスペクト比は、16:9よりも縦方向の作業領域が確保しやすいとされている。それは事実だが、実際の使い勝手を考えると、縦方向のスクロールというのは、それほど作業の負担にはならない。むしろ、文章を書くにせよ、読むにせよ。横方向のスクロールが発生することの方がめんどうだ。文章の行頭から行末が横スクロールしないと確認できない状態で読み書きすることを想像してみてほしい。

 PCで参照される場合、ある程度のウィンドウ幅を決め打ちで要求するWebサイトが相変わらず多いことも、使いにくさの一因となっている。残念ながら今ご覧いただいているPC Watchも、そんなサイトの1つだ。

 つまるところ、横長長方形のデスクトップを1つのウィンドウを最大化して占有させたときに、どのくらいの使いやすさが得られるのかが基準になっている。だが、複数のウィンドウを並べて表示するのであれば横長イメージの強い16:9のデスクトップでも絶望的に使いにくいわけではない。要するに、やはり画面の絶対的な面積がものをいう。据え置いて使う上では、画面が大きい方が作業しやすいのは当たり前だ。ただし機動性ということを考えると話は違ってくる。

 レッツノートはRZシリーズのような特殊な製品を除き、デタッチャブルのXZシリーズやQVシリーズなどの2-in-1では3:2、クラムシェルでは16:10で通してきたが、今回はクラムシェルで3:2と、Surface Laptop路線側に舵を切った。

 Surfaceが3:2にこだわったのは、タブレットとして使う時に縦でも横でも使いやすいこと、そして、デスクトップにウィンドウを最大化して独占させ、イマーシブに使うことが想定されているのだと思う。Surface Laptopは縦位置で使うことを想定していないが、イマーシブに全画面を使うという考え方を踏襲して3:2を採用しているのだろう。

 3:2は、35mmフィルム(135フィルム)の縦横比でもある。いわゆるライカ判と同じ縦横比で、写真というメディアとして人類が過去に慣れ親しんできた縦横比でもある。そうはいってもエディトリアルデザインにおいて写真が3:2で使われることは、それほど多くない。むしろマレだ。さらに、テレビ放送が長い間4:3を維持、さらにそれが16:9となった歴史がある。その延長線上にある16:10に舵を切るベンダーが多い中で、両極端を地で行くレッツノートとSurfaceが3:2の路線でいくのは実に興味深い。

 ディスプレイの狭額縁化によって、ノートPC筐体のフットプリントの縦横比はディスプレイのそれに近いものになっている。カバンへの収まりのよさ、取り回しのよさと機動性、眺めたときの安定感なら3:2、TV画面のような横据置に近いイメージを求めるなら16:10と選択肢が拡がっている。ハイブリッドになっていく今後の働き方の中で、何が求められていくのかを各ベンダーは模索している。

 映画やドラマなどをのぞき、一般的なWebコンテンツが16:9に最適化されることはもうないだろうとは思うが、YouTubeのような16:9コンテンツがフルスクリーンで視聴される時間がどんどん増えていることもあわせて考える必要がある。

 実は、本当に変わらなければならないのはアプリであり、コンテンツだ。フルスクリーンを占有しない新しい当たり前を見つけ出してほしい。ZoomとTeams、きみたちののことだ。

 シン・ラップトップ見参。コロナ禍と無関係ではなさそうだ。