山田祥平のRe:config.sys

あのパソコンが欲しいのに

 PCは欲しいときが買い時だ。何でもいいから適当にというものではない。各社が創意工夫をこらした製品からよりどりみどりで選ぶ。そのプロセスも楽しい。ところが、世界的な半導体不足が起こっている。今はまだ実感がないかもしれないが、この先、欲しいPCを気軽に入手できなくなる懸念もある。

あると邪魔だがなければ困るPC

 PCは生活必需品だ。手元で自由に使えなかったら、仕事はもちろん、日々の暮らしの中の様々な場面で不自由をする。スマホなどで代替できるかもしれないが、同じことをするにしても、PCの大画面やキーボードといった装備は操作ミスを抑制してくれる。

 PCを使うことの優位性を挙げていけばキリがないのだが、ここのところ、PC市場周辺にちょっとした異変が起こっている。望みのPCが手に入りにくくなっているのだ。今はまだ、それほど極端な印象を受けることはないかもしれないが、決していいとは言えない状況が見え隠れしている。

 新しいPCを手に入れようとするのは、たいていの場合、以前使っていたものが使いものにならなくなったときだろう。故障や破損などの物理的損傷はもちろん、ソフトウェアなどの論理的な不具合もある。後者は工場出荷状態へのリカバリなどで解消できる可能性が高いが、PCに不慣れなユーザーにとっては故障と同義に近い。

 また、久しぶりに使おうとしたら、モダンなコンテンツにスペックが足りず、Webを見るだけでも待たされ感があまりにも大きく、日常的に使っているスマホとの違いに失望してしまうようなケースもある。しょうがないから買い替えようという気持ちになるわけだ。

 そして、あると邪魔でもなければ困るから、新しいPCの入手の算段をする。前に使っていたものは処分前提だ。動かないような場合は背に腹は代えられないから妥協も求められる。仮によりどりみどりでも、選択の基準は使える予算と外観の好みであり、用途に応じたスペックから選定することができるリテラシーを持つユーザーはほんの一握りだ。

 PCの価格は安いものでは数万円からだ。そして上限は無限と言ってもいいが、2~30万円を確保できれば、かなりいいものが手に入る。そしていいものは長く使える。

 ところが、数万円のPCでも30万円のPCでもできることはほぼ同じだ。スマホで撮影したムービーを取り込み、AdobeのPremier Proで編集し、テロップやナレーションを入れて完パケにしたものをYouTubeにアップロードするという作業を誰もがするわけではないが、その作業は数万円のPCでも30万円のPCでもできることはできるのだ。

 ただ、快適にできるかどうかは別で、処理能力が高い高価なPCなら、そこが担保される。

カタチで選ばれるノートが主流の個人用PC

 PCの選択にさいしてはカタチから入るというパターンも多い。特に、使わないときには片付けておかなければならないというニーズは高い。だからこそ一度も外に持ち出されることがないノートPCが君臨してきたし、今後もそのトレンドは続くだろう。

 薄軽PCは高価だ。厚重をガマンすれば予算を抑えることができる。同じ性能を得ることだけが目的なら、デスクトップPCと外部ディスプレイの組み合わせの方が安上がりになる可能性もある。だが、そういう選び方をされることはあまりなく、あくまでも安くてかっこいいPCが好まれる。

 いずれにしても、よりどりみどりのPCの中から、予算に応じてピンときた製品を選び、そのPCを4~5年は使い続けることになる。それが、個人用PCの現在の立ち位置だ。

 ところが、そのよりどりみどりのPCが、決してよりどりみどりではなくなっている。危機感をあおるわけではないが、この先、当面の間はちょっとした不自由を強いられる可能性がありそうだ。

これもコロナ禍のせいなのか

 欲しいPCが買えない状況は、2021年になって少し顕著になっているようだ。原因は、やはり世界的な半導体不足だ。大手の通販サイトでPCを選んでも、納期が確定しないものが少なくない。もちろん「即納」の商品もたくさんあるのだが、ちょっとカスタマイズしようとすると、途端に納期が長くなってしまったりする。

 PCの心臓ともいえるプロセッサの供給不足はもちろんあるが、プロセッサを確保できても、各種メモリ、さらには周辺回路の半導体など最先端プロセスではないパーツが入手難で、完成品のPCを必要なだけ量産するのが難しいといった話も聞こえてくる。

 また、このトレンドは周辺機器にもおよんでいる。例えば、外部ディスプレイなどは液晶制御のためのドライバICが不足し、各社ともになかなか必要量が確保できないでいるそうだ。個人的には3月に某社の直販サイトで発注したディスプレイが今なお納期未定のままになっている。

 こうした状況が当面続くとなると、PCの価格はいったん上昇に転じることにもなりかねない。あるいは、メインメモリ4GBのPCがなくなりつつあることを喜んでいたのだが、見かけの価格を抑えるために再び4GBメモリのPCがメインストリームに戻ってくる可能性もある。悲惨だ。

 この悲しい状況の中で、PCや外部ディスプレイを購入しようという場合、いくつかのノウハウ的なアイディアがある。

 まず、できるだけ新しい製品を選ぶことだ。例えば今なら、Intelの第11世代Coreが旬だが、まだ世代の古いプロセッサ搭載の製品も現役で存在する。しかし、最新プロセッサの製品なら比較的容易に入手できる可能性は高い。ベンダーは、限られた数しか確保できない半導体を最新製品のために使うという方針をとるからだ。

 また、ディスプレイの場合なら、23~24型フルHDといったメインストリーム製品ではなく、4K対応製品やUSB Type-C、USB PD(Power Delivery)、高リフレッシュレート対応などの高付加価値製品を選ぶ。

 当然、高付加価値製品は高価だ。だが、価格のこなれた製品が今後倍額になったとしても、高付加価値製品は倍額にはならない。そして長く使える。いい物を見定め、長く使うという戦略をとらざるをえないのだ。ただ、高性能ビデオカードの入手難や価格高騰といった要素も入り交じって、状況は複雑化をたどっている。

 半導体の供給不足は、生産の現場が安い半導体を積極的に作りたがらないのも原因になっているそうだ。どうせ作るなら、比較的高価に取引される自動車用の半導体を作りたいといった意向もあるようだ。その点、高付加価値製品のための半導体はその影響を受けにくいという。

 いずれにしても、電子機器としてのPCを構成する要素のうち、一部の半導体の調達が制限されることで、完成品に仕上げることがかつてよりも難しくなっている。それがエンドユーザーにとっての最終製品価格の上昇や、その入手難につながっていくというのが今後の展開だ。

 この状況がPCの買い占めや品不足につながることは考えたくないが、当面の間はガマンを強いられる可能性は高い。危機感をあおるようだが、ちょっとした覚悟は必要だ。

 コロナ禍で、今後のハイブリッドな働き方のためにPC環境を見直し、新たな機材の入手を考えているユーザーも少なくないだろう。なのに売りたくても売れない、買いたくても買えないとは、まったくもって踏んだり蹴ったりだ。